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シンガポールにおける実質的所有者・名義取締役の登録義務

2017年05月29日(月)

シンガポールにおける実質的所有者・名義取締役の登録義務について解説いたします。

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シンガポールにおける実質的所有者・名義取締役の登録義務

2017 年 5 月 29 日
One Asia Lawyers シンガポール事務所
JLC Advisors LLP

1. 新規制の概要
 今般のシンガポールの会社法改正によると、2017 年 3 月 31 日より、全てのシンガポール法人(以下、単に「会社」という場合にはシンガポール法人の会社のことを指します。)、有限責任事業組合(Limited Liability Partnership(“LLP”))、およびシンガポールでビジネス登録している外国会社(以下総称して「シンガポール法人等」)は、①コントローラ(実質的所有者)の名簿作成(Registration、ここでは、「情報の記録」といった意味、以下同じ)およびその維持が義務付けられることとなりました。また、シンガポール法人の会社と LLP はさらに、②ノミニー 取締役(名義貸取締役)の名簿作成も必要となりました。
 以下の記載の義務については、全ての既存のシンガポール法人等は、2017 年 3 月 31 日新法の施行から 60 日以内(すなわち 2017 年 5 月 31 日まで)に同法律を遵守することが必要とされます。
 上記のシンガポール法人等の①コントローラ、および②ノミニー取締役の名簿情報は、シンガポール法人の内部で保管されることとされ、原則、公共に開示されることはありません。しかし、シンガポール会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority、ACRA)や他の公共機関からのリクエストがあった場合には、シンガポール法人等は、それらの情報を開示しなければなりません。またこれらの名簿情報は会社登記のある住所のオフィスに保管されるか、企業が任命した登録代理店業者の登記されたオフィスで保管することが必須となります。その上、シンガポール法人が毎年Annual Return、または決算報告(Financial Statement)の登録時、そのコントローラ、およびノミニー取締役の名簿がどこで保管されているかを開示しなければなりません。
 シンガポール法人等においては、外国法人が実質的所有者、実質的な取締役であるにもかかわらず、シンガポール人などが名義上の株主・取締役として登録されている事案が多いことに鑑み、シンガポール政府としては実質上の株主・取締役を正確に把握したいというニーズがあるものと思われます。
 かように実質上の株主・取締役を把握することによって、シンガポール法人が資金洗浄・脱税目的などに使われることを防ぎ、シンガポールの国際的な透明性・クリーンなビジネスハブとしての評価を高めることが目的であると考えられます。
 シンガポールにおいては、1 名の居住取締役が必須であるところ、多くの日本企業はシンガポール人を名義取締役として任命しているのが実例です。今後は、名義株主・取締役が(一般には公開されないものの)政府に把握されることになることから、より綿密に名義株主・取締役と連携をとることが必要となります。

2 コントローラの名簿作成義務
 シンガポール法人等は、コントローラ名簿を作成する必要があり、その際の確認を関係者に行う必要があります。また、その確認の通知は、(a) そのシンガポール法人等が認識する、コントローラ名簿に記載させる必要があると合理的に判断される人物や、(b)そのシンガポール法人等が合理的に知りうる範囲にてそのコントローラ名簿に記載させる必要があると判断される人物を把握している者、またはそのコントローラ名簿に記載させる必要があると合理的に判断される知識を持っていると思われる人物へ送付されるべきとされます。
 「コントローラ」とは、個人または法人であり、会社や有限責任事業組合(LLP)にとって「重要な利害関係」(Significant Interest)または、「重要な支配権」 (Significant Control)を有する人物であるとされています。

会社の場合
(1)重要な利害関係(Significant Interest)のあるコントローラ
 会社と重要な利害関係のあるコントローラは以下を含みます。

株式資本を有する会社 株式資本を有しない会社

個人でいずれかに当てはまる者:

・25%以上の会社の株式について利害を有する人物

・25%以上の議決権のある株式を保有する者

個人で以下に当てはまる者:

・その会社の資本、または利益の25%以上に対する分配を受ける権利を有している者

(2)重要な支配権(Significant Control)のある人物
 会社と重要な支配権のある人物は以下を含みます。
 ・その会社の取締役会において過半数の議決権を有する取締役やそれと同等の人物、また全て若しくは実質的に全ての事項において同等と判断される人物の任命権または解任権を直接的に、または間接的に保持する者
 ・ 株式総会で決議すべき事項に関する議決権の 25%以上を直接的に、または間接的に保持する者、または会社の同等レベルの人物
 ・ 会社の重要な支配権を保持し、その権利を実行できる者、または会社に重要な影響を与える権利のある人物
(3)名簿に記載されるべき情報
 コントローラの名簿に記載されるべき情報は以下のとおりです。

ノミニ―指名者が個人の場合 指名者が法人の場合

・フルネーム(通称を含む)

・住所

・国籍

・身分証明書番号、またはパスポート番号

・生年月日

・コントローラの指名日、退任日

・名称

・UEN番号か、その他の類似の証明番号(もしあれば)

・登記されたオフィスの住所

・その法人の法的形態

・その法人が組成または設立された管轄地および根拠となる法律

・その法人が組成または設立された管轄地の法人登録簿の名称(もしあれば)

・その法人が組成または設立された管轄地におけるその法人の証明番号、または登録番号(もしあれば)

・コントローラの指名日、退任日

 

3 ノミニー取締役の名簿の作成義務
 シンガポール法人の会社と有限責任事業組合(Limited Liability Partnership)はさらに、ノミニー取締役(名義貸取締役)の作成・管理も必要となります。
 まず、ノミニー取締役の定義については、取締役のうち、公式または不公式に、他人の指示や意向等に従って活動することを習慣づけられ、またはその義務がある場合と定義づけられました。
 そして、2017 年 3 月 31 日またはその日以後に設立された会社においては、ノミニー取締役として就任した者は、会社の設立から 30 日以内に、その就任の事実と必要な詳細を会社に通知しなければなりません。一方、2017 年 3 月 31 日以前に設立された企業においては、ノミニー取締役はその就任の事実と必要な詳細をノミニー取締役の就任から 60 日以内に提供しなければなりません。
 ノミニー取締役は、次のような情報をそれぞれの会社に提供する必要があります。

4 更新・免除
(1)更新
 シンガポール法人等が、そのコントローラの名簿に記載されている情報が変更されたことを知り、または知り得る場合には、そのシンガポール法人等は、該当するコントローラに対して、そのような変更が生じているか否かについて確認の通知をし、変更が生じていた場合には、その変更の日付と詳細の内容を提供しなければなりません。また、シンガポール法人等が、そのコントローラの名簿に記載されている情報の詳細に間違いがあることを知り、または知り得る場合には、そのシンガポール法人等は、該当するコントローラに対して、その情報が正しいかどうかの確認の通知をし、正確でない場合には、正確な情報を提供しなければなりません。
(2)免除される会社
 シンガポール法人等であっても、それぞれの類型に応じ、次のような場合には同法の適用を免除されます(すなわち、コントローラ、およびノミニー取締役の名簿が不要とされます)。


外国会社の場合
 (a) シンガポールの金融機関である外国会社
 (b) シンガポールの金融機関である外国会社により完全所有されている子会社
 (c) シンガポール国外で上場し、株の取引が行われている会社で以下を満たすもの
 I. 情報開示のルールに従っている会社
 II. 証券取引所のルールやその他の法律、または実効性のある法令に基づいてその実質的所有者につき適度な透明性の制度が求められている会社


会社の場合
 (a) シンガポールにて承認された取引所に上場している公開会社。
 (b) シンガポールの金融機関である会社
 (c) 政府に完全所有されている会社
 (d) 公共目的のために公共法の元に設立された法定機関が完全所有する会社
 (e) 上記に述べた(a)から(d)までの会社に完全所有されている子会社
 (f) シンガポール国外で上場し、株の取引が行われている会社で以下を満たすもの
  I. 情報開示のルールに従っている会社
  II. 証券取引所のルールやその他の法律、または実効性のある法令に基づいてその実質的所有者につき適度な透明性の制度が求められている会社


有限責任事業組合(LLP)の場合
 (a) シンガポールの金融機関である LLP
 (b) LLP のパートナーが以下のみで成り立っている場合
  I. シンガポールにて承認された取引所に上場している公開会社
  II. シンガポールの金融機関である会社または外国会社
  III. 政府に完全所有されている会社 
  IV. 公共目的のために公共法の元に設立された法定機関が完全所有する会社
  V. 上記に述べた I.から IV.までの会社に完全所有されている会社
  VI. 上記 II.の金融機関である外国会社に完全所有されている外国会社
  VII. シンガポール国外で上場し、株の取引が行われている会社または外国会社で以下を満たすもの
  a. 情報開示のルールに従っている会社
  b. 証券取引所のルールやその他の法律、または実効性のある法令に基づいてその実質的所有者につき適度な透明性の制度が求められている会社