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マレーシアにおける上場会社買収規制について

2018年10月05日(金)

マレーシアにおける上場会社買収規制について報告致します。

2018年 マレーシアにおける上場会社買収規制

 

マレーシアにおける上場会社買収規制

2018 年 10 月 5 日
One Asia Lawyers

1. イントロダクション

 マレーシアにおいて買収および合併を規制する法令の中心となるのは、Capital Market and Services Act 2007(以下「CMSA」)、Malaysian Code on Take-Overs and Mergers 2016(以下「2016 年買収コード」)、Rules on Take-Overs, Mergers and Compulsory Acquisition 2016(以下「2016 Rules」)です。
 2016 年買収コードおよび 2016 Rules は 2016 年 8 月 15 日に制定され、それまでの Malaysian Code on Take-Overs and Mergers 2010(以下「2010 年買収コード」)が廃止されました。2016 年買収コードは、買収手続きに関する詳細な規定を定めていた 2010 年買収コードとは異なり、買収の際に遵守すべき行為基準を定めています。また、2010 年買収コードにおける買収の具体的な規定である Practice Notes と同等の位置づけとして 2016 Rules が規定されています。この変更によって企業買収が容易になった一方で、情報開示の強化や独立アドバイザーの役割・義務の強化によって、対象会社の株主のより手厚い保護が図られています。以下では、CMSA、2016 年買収コード、2016 Rules における上場会社買収規制について説明させていただきます。

2.強制的公開買付け

 下記の場合を含む一定の事由に該当した場合は例外事由(2016 Rules 4.02 条等)に該当しない限り、買収者には対象会社のすべての株式を取得するための強制的公開買付けの義務が生じます。

 a. 会社の支配権(Control)を獲得した場合(2016Rules 4.01 条(a)):会社の支配権(Control)を獲得した場合とは、会社の議決権付株式の 33%超を取得した場合(CMSA 216 条 1 項)を意味しています。
 b. Creeping threshold となった場合(2016 Rules 4.01 条(b)):Creeping threshold となった場合とは議決権付株式の 33% 超 50% 以下を保有しており、かつ 6 カ月間に議決権付株式の 2% 超を取得した場合(2016 Rules 2.01 条)を意味しています。
 なお、下記 c、d に該当する場合も強制公開買付の義務が生じ得ると規定されています。
 c. ある買収コード適用会社における株主の株式保有割合が、当該会社の新株発行により希釈化されたことにより 33% 以下となった場合において、当該株主が追加で株式を取得して 33% 超の株式を取得するような場合(2016 Rules, Notes to Paragraph 4.01, 8 条(a))
 d. ある買収コード適用会社(downstream entity)又は downstream entity を直接又は間接に支配する買収コードが適用されない会社(upstream entity)の株式の 50%超を取得するような場合(2016Rules, Notes to Paragraph 4.01, 3 条)であって(i) upstream entity に関連して downstream entity の支配権獲得が重要である場合、つまり downstream entity の価値が、upstream entity の資産、純資産、純固定資産、資本、売上または利益の 50%以上を構成する場合(2016 Rules, Notes to Paragraph4.01, 3 条後段 (a))と (ii) upstream entity の支配権の獲得の重要な目的の1つが、downstream entityを支配することである場合(2016 Rules, Notes to Paragraph 4.01, 3 条後段 (b))。

3.任意的公開買付け

 任意的公開買付けとは、強制的公開買付け以外の公開買付けを意味し、会社の株式の保有に関わらず買収者が株式のすべてまたは一部を取得する手段として行われます(2016 Rules 5.01 条参照)。任意的公開買付けの場合、買付けの成立は、買収者が対象会社の 50% 超の議決権を保有することとなる数の株式の応募を受けたということが条件となります(2016 Rules 6.01 条 2 項)。ただし、法規定を下回らない範囲で任意的公開買付けが成立する下限を引き上げることができます(2016 Rules, Notes to Paragraph 6.01, 5 条)。任意的公開買付けでは、買収者がその他の条件を付すこともできます。ただし、条件の成就が買収者の主観的な解釈または判断に依拠したり、買収者が操作できる特定の事象に依拠したりするような条件を付すことはできません(2016 Rules 6.02 条 1 項)。

4.部分的公開買付け

 部分的公開買付けとは、任意的公開買付けのうち、買収対象会社の株式の 100 %未満の株式取得を目的に行われるものです。部分的公開買付けは、Securities Commission Malaysia の事前の承認を得る必要があります(2016 Rules 5.02 条)。通常、部分的公開買付けによって保有されることになる議決権が 33% を超えない場合に承認されます。  

5.株式売渡請求権

 買収者は、対象会社の支配権を獲得した場合、2016 年買収コードおよび、CMSA に基づく規制に従わない限り対象会社の議決権付株式を取得することはできません(CMSA 218 条 3 項)。詳細については、以下の「スクイーズ・アウト(完全子会社化)」を参照してください。

6.共同保有者(Person Acting in Concert)

 共同保有者(Person Acting in Concert)は、買収者(Acquirer)に含まれると定義されています(CMSA 216 条 1 項)。そのため、共同保有者がいるような場合は、各要件に影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要となります。

7.スクイーズ・アウト

 買収者は一定の要件を満たせば、少数株主から強制的に株式を取得することができます(株式売渡請求権)。株式の取得は公開買付を実施した日から 4 カ月以内に行わなければならず、株主売渡請求権を行使するためには、買収者は①全株主に対する公開買付けを実施し、②買収者または共同保有者がすでに保有している株式を除く対象株式会社の 90% 以上の株式の保有者が受諾した場合(CMSA222 条 1 項)であって、①・②を満たした日から 2 カ月以内に当該買収に反対する株主に 2016 Rulesの Schedule 5 所定の書面で通知をすることが必要となります(CMSA 222 条)。
 なお、通知を受け取った株主は売渡請求に対する異議を裁判所に申し立てることができ、裁判所の判断によって、株式売渡請求権の行使の可否及び条件が決定されます(CMSA 224 条)。また、株主は、買収者が対象会社株式の 90% 以上を取得した場合、一定の要件を満たせば、その保有する株式の買い取りを買収者に請求することができ、買収者は原則としてすでに取得した株式と同一の条件で株式を取得しなければなりません(CMSA 223 条 1 項)。

8.その他

 対象会社の協力が前提となるスキーム・オブ・アレンジメント、事業譲渡等の手続が存在します。

以 上