シンガポール法律コラム:第6回 シンガポールと日本のLGBTの権利について
「シンガポール法律コラム:第6回 シンガポールと日本のLGBTの権利について」と題したニュースレターを発行いたしました。シンガポール法律コラムは、今後も引き続き連載の予定となります。
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シンガポール法律コラム
第6回 シンガポールと日本のLGBTの権利について
2024年2月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎
みなさん、こんにちは、One Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。今回はシンガポールにおけるLGBT (Lesbian・Gay・Bisexual・Transgender )の権利について、日本と比較しながらご紹介いたします。
近年、世界では多様性のある社会を求める声が急速に広がっています。日本やシンガポールもその例外ではなく、最近、LGBTの権利や同性婚に関するニュースを目にする機会も多くなってきたかと存じます。
日本では同性婚自体は法律で認められていませんが、パートナーシップ制度を認めている自治体も徐々に増加しています。例えば、東京都は、2021年に「東京都パートナーシップ制度導入自治体ネットワーク」を結成しました。パートナーシップ制度とは、戸籍上の性が同じカップルなどが法的に婚姻関係を認められた人と同等のサービスを受けられるようにする制度です。
また、大阪市でも、「大阪市LGBTリーディングカンパニー認証制度」を導入し、LGBTの方々が直面している課題の解消に向けた取組を積極的に推進する事業者等を認証する仕組みを作っています。さらに2021年には札幌地裁によって、同性婚を認めないことは憲法違反であるとした判断がなされており、LGBTの権利に対する理解は徐々に進みつつある状況です。
シンガポールにおいては、そもそも同性婚は法律上認められておらず、2022年の法改正まで男性間の性交渉も法律上、明確に禁止されていました(Panel Code 377A)。さらに、2021年にはシンガポール教育省の前でLGBTの権利を訴えるデモ参加者3名が逮捕された事案がありました。また、シンガポールではLGBT関連のニュースやテレビ番組の放送も制限され、「同性愛を促進すると見られるコンテンツ」も放映が禁止されているのが原則です。
他方、保守的なシンガポールにおいても、LGBTの権利を求める声が増えつつあると言われており、コンサルティング会社Ipsosの調査では、シンガポール国民のうち「同性カップルは同性婚もしくはそれに準ずる法的承認を得られるべきだ」と回答した人は全体の55パーセントとされており、特に若い世代の間ではこの結果を支持する声が大きくなっているとの報告もあります。
実際、LGBTの権利を訴える「ピンクドット」によるシンガポールにおけるイベントは毎年数万人を集めるなど、その注目度の高さが伺えます。ピンクドットはシンガポールで2009年から始まったLGBTのコミュニティの支援を目的とする団体で、国内外に向けて多様性を認める社会の必要性を訴えています。
このような動きを受けてシンガポールの法制度も変容しつつあり、2022年には前述の通り男性間性交渉を禁止する法律の廃止案が可決されています。また、同時に憲法も改正され、「結婚の定義は国会が決定する」という内容に改められ、結婚、同性婚、LGBTの権利などは、国民の意見を踏まえて国会で決定することとされています。
今回はシンガポールにおけるLGBTの現状をご紹介しました。LGBTは多様性のある社会を作り上げる上で、絶対に避けては通れない問題ですが、各国の文化・慣習・思想などを影響を色濃く受けるため、容易には決着がつかない問題と言えるでしょう。
※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。