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日本:改訂中小M&Aガイドラインの概要

2024年11月13日(水)

日本における改訂中小M&Aガイドラインの概要に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

改訂中小M&Aガイドラインの概要

 

改訂中小M&Aガイドラインの概要

2024年11月13日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 松宮浩典

 「中小M&Aガイドライン[1]」の改訂版(以下「本ガイドライン」といいます)が2024年8月30日に中小企業庁より公表されました。
 今月のニューズレターでは、本ガイドラインについて解説いたします。

1 概要

 不適切な譲り受け側の存在や経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者が実施する過剰な営業・広告等の課題に対応し、中小M&A市場における健全な環境整備と支援機関における支援の質の向上を図る観点から、中小企業向けのガイダンス及び仲介者・FA(ファイナンシャル・プランナー)向けの留意事項等を拡充した本ガイドラインが公表されました。

2 改訂内容

 本ガイドラインでは、①仲介者・FAの手数料・提供義務に関する事項、②広告・営業の禁止事項の明記、③利益相反に係る禁止事項の具体化、④ネームクリア・テール条項に関する規律、⑤最終契約後の当事者間のリスク事項について、⑥譲り渡し側の経営者保証の扱いについて、⑦不適切な事業者の排除について示されています。
 主な内容は以下のとおりとなります。

(1) 仲介者・FAの手数料・提供義務に関する事項について

 提供する業務の内容・質とその対価となる手数料の額(相手方の手数料を含む。)について、中小企業向けに確認すべき事項を解説するとともに、仲介者・FAに対して求められる説明について示されています。

【中小企業向け】
 仲介者・FAの選定における考慮要素である、手数料や業務内容・質等の確認の重要性を示し、納得できない場合にはセカンドオピニオン(他の仲介者やFAへの依頼、手数料の交渉)を検討するよう促しています。

【仲介者・FA向け】
 仲介契約・FA契約締結前に、手数料(仲介者の場合、相手方の手数料を含む。)の詳細説明、プロセスごとの提供業務の具体的説明、担当者の保有資格や経験年数・成約実績の説明等を求めています。

(2) 広告・営業の禁止事項の明記について

 M&A専門業者の支援の質を確保する観点から、仲介者・FAが実施する営業・広告に係る規律が明記されています。

【仲介者・FA向け】
 M&Aの手続きを進めるという意思決定を適切に支援する必要があるため、広告・営業先を希望しない等の意思表示を受けた場合の広告・営業の停止を求めるとともに、M&Aの成立可能性や条件等について、虚偽若しくは事実に相違する又は誤解を与えるような広告・営業等を禁止しています。

(3) 利益相反に係る禁止事項の具体化について

 仲介者は、売り手側及び買い手側の両当事者から依頼を受ける以上、中立・公平でなければならず、仲介者において禁止される利益相反事項の具体化を図っています。

【仲介者・FA向け】
 追加で手数料を支払う者やリピーターへの優遇の禁止、情報の扱いにかかる禁止事項(伝達せずに秘匿する行為の禁止等)を明確化するとともに、これらの禁止事項を行わない旨を仲介者の義務として仲介契約書に定めることを義務化しています。

(4) ネームクリア・テール条項に関する規律について

【仲介者・FA向け】

 通常のマッチングにおいては、仲介者・FAが売り手側の名称を伏せたノンネーム・シートを用い、候補先に対して打診した後、関心を示した候補先に売り手側の名称を含む企業概要書等の詳細資料の開示(ネームクリア)を行うという流れで進みます。秘密保持を徹底する観点から、ネームクリアは、興味を示した候補先に対して、売り手側からの同意を取得し、候補先との秘密保持契約を締結した上で実施されることが求められています。

 また、テール条項(仲介契約・FA契約において、契約終了後一定期間内に、売り手側が買い手側との間でM&Aを行った場合、M&A専門業者が手数料を請求できる条項)の対象の限定範囲の明確化が行われました。具体的には、ロングリスト/ショートリストやトやノンネーム・シートにとどまる場合はテール条項の対象とすべきでなく、少なくともネームクリアが行われ、売り手側に対して紹介された買い手側に限定すべきとされています。

 さらに、専任条項が設けられていない場合の扱いについての限定も行われました。依頼者が複数のM&A専門業者から支援を受け、結果として複数のM&A専門業者から同一の候補先の紹介を受ける可能性があり、この場合、成約に向けて支援を受けるM&A専門業者として依頼者から選択されなかった者がテール条項を根拠として手数料を請求すべきではないと明記されました。

(5) 最終契約後の当事者間のリスク事項について

 最終契約(株式譲渡契約等)において当事者間でトラブルに発展する可能性があるリスク、その対応策について解説するとともに、仲介者・FA に対して求める対応について追記されています。

【中小企業向け】
 最終契約・クロージング後に当事者間でのトラブルとなりうるリスク事項として下記①から⑦を掲げ、各事項について解説されています。

① 売り手側の経営者保証の扱い
② デュー・ディリジェンスの非実施
③ 表明保証の内容
④ クロージング後の支払い・手続き
⑤ 最終契約後の状況に応じた支払いの変動
⑥ 売り手側資産・負債等の最終契約後の整理
⑦ 最終契約からクロージングまでの期間

【仲介者・FA向け】
 リスクの認識時、最終契約締結前等に、当事者間での上記①から⑦のリスク事項について、その重要度に応じた対応方法、具体的説明を行うこと等を求めています。

(6) 売り手側の経営者保証の扱いについて

【中小企業向け】
 M&Aを通じた経営者保証の解除や、士業等専門家、事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関等への相談など、買い手側への移行を確実に実施するための適切な対応等について明記されています。

【仲介者・FA向け】
 売り手側に対し、保証の提供先である金融機関等に対するM&A成立前の相談等が選択肢である旨の説明等の対応や、最終契約における経営者保証の扱いの調整を行うことを求めています。

【金融機関向け】
 M&A成立前又は成立後に経営者保証の解除又は移行について相談を受けた場合には、秘密保持の徹底とともに、「経営者保証に関するガイドライン」及び「経営者保証に関するガイドラインの特則」に留意し、適切な対応を検討することを求めています。

(7) 不適切な事業者の排除について

【仲介者・FA・M&Aプラットフォーマー向け】
 不適切な事業者(買い手側)を中小M&A市場から排除する必要があることから、買い手側に対する調査の実施、調査の概要・結果の依頼者(売り手側)への報告、不適切な行為にかかる情報を取得した際の慎重な対応の検討を行うよう求めています。

以上

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[1] 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)―第三者への円滑な事業引継ぎに向けて―