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ベトナムにおける労働、社会保険、ベトナム人労働者の送り出し分野に関する罰則を定める新規定について

2020年06月18日(木)

労働、社会保険、ベトナム人労働者の送り出し分野に関する罰則を定める新規定が2020年4月15日に発効しました。本政令についていくつか例を挙げてご説明致しております。

労働、社会保険、ベトナム人労働者の送り出し分野に関する罰則について

 

労働、社会保険、ベトナム人労働者の送り出し分野に関する罰則を定める新規定

2020年6月9日

One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 概要  2020 年 3 月 1 日、労働、社会保険、契約に基づき外国で就労するベトナム人労働者の送り出し分野の行政違反の処罰について定めた政令 28/2020/ND-CP 号(以下、「本政令」といいます)が公布され、2020 年 4 月 15 日に発効しました。これにともない、従前の政令 95/2013/ND-CP 号、88/2015/ND-CP 号は失効しています。  ベトナムで活動する日系企業の皆様におかれましては、日々、労務管理に苦労され、実務上やむを得ないという判断、あるいは、過去事例や他社事例を精査せずに踏襲することで結果として法令に違反する例があろうかと思います。本ニュースレター末尾に参考資料として本政令で定められている罰則条項の見出しを全掲載しておりますので、自社の労務管理等に違反が無いか確認するためにご利用いただけますと幸いです。  何かお困りのことがございましたら、是非、弊所までご相談いただけますと幸いです。

2 本政令の対象  本政令では、就職サービスや労働派遣サービスなどの労働関連サービス業、採用から労働契約解除までの一般労務、労働安全衛生、女性の雇用、外国人の雇用、未成年者の雇用、お手伝いさんの雇用、労働紛争、労働組合、社会保険など多岐にわたる場面での違反行為の罰則が定められています。  以下、従業員の採用から解雇までのいくつかの罰則について、ケーススタディ形式で簡単にご紹介いたします。  なお、本政令で規定している罰金額は原則として個人に対するものであり、法人(組織)に対しては倍額となりますので注意が必要です(第 5 条)。また、罰金額に関する VND の円換算は200VND=1 円としています。

3 採用の場面

≪事例≫  X 社は、求人に際して、“遊び”感覚の応募者が多いため、本気度をはかるために面接に参加する 条件として応募者に 20 万ドン(約 1,000 円)支払わせることにした。

 

 採用や労務管理における、使用者の次の a)から dd)の行為については、100 万ドンから 300 万 ドン(約 5,000 円から 1 万 5,000 円)の罰金が科され、d)のように金銭を徴収した場合には、その 金銭を応募者に返還しなければなりません(第 7 条 1 項、3 項)。X 社の行為は、第 7 条 1 項 d)に 該当し、X 社は、罰金の支払い、及び応募者に対して金銭の返還義務を負う可能性があります。

[第 7 条 1 項]

  1. a) 採用結果を公開通知しない、採用結果が出てから 5 営業日より後に通知する。
  2. b) 労働者の使用について、本社(あるいは支店、代表事務所)を設置している地域の労働傷病 兵社会福祉室(あるいは労働傷病兵社会福祉局)に届け出ない。
  3. c) 労働者の変更の状況を、本社(あるいは支店、代表事務所)を設置している地域の労働傷病 兵社会福祉室(あるいは労働傷病兵社会福祉局)に報告しない。
  4. d) 応募者から金銭を徴収する。
  5. dd) 労働管理簿を作成しない、期限通りに作成しない、法定の基本的な内容が網羅されていな い、労働契約が有効になった際に労働管理簿に労働者の情報を十分に記載しない、労働管理簿 に情報の変更を反映しない。

4 労働契約の締結場面

≪事例 1≫ X 社は、自社の事業に必要な資格を保有し、将来有望なベトナム人 A を採用した。A が自社だけ に貢献するよう、A との労働契約の締結に当たって、A の保有する資格の証明書の原本を会社で 預かると定め、実際に証明書を保管している。
≪事例 2≫ Y 社は、業務のために必要な高額な機器をベトナム人 B に貸与している。Y 社は、当該機器を B に大事に扱ってもらうため、退職時に返金するという条件で、B から一定額の金銭を預かっている。

 労働契約の締結や履行にあたって、労働者の身分証明書の原本や証明書類の原本を預かったり、 金銭を差し出させたりする行為には、2,000 万 VND から 2,500 万 VND(約 10 万円から 12 万 5,000 円)の罰金が科されます(第 8 条 2 項)。X 社の行為は第 8 条 2 項 a)に該当するものとして、X 社 は、罰金の支払い義務を負う可能性があります。また、Y 社の行為は同項 b)に該当するものとして、 Y 社は、罰金の支払い義務を負う可能性があります。

[第 8 条 2 項]

  1. a) 労働契約の締結あるいは履行にあたって、労働者の身分証明書や学歴、資格証書類の原本を預かる。
  2. b) 労働契約の履行にあたって、労働者に金銭や何らかの資産を担保として差し出させる。
  3. c) 満 15 歳以上 18 歳未満の労働者について、労働者の法的代理人の書面での同意無しに労働契 約を締結する。

 また預かった身分証や金銭、資産等は本人に返還することはもちろん、金銭については預かって いた期間について、国営商業銀行が設定している最も高い無期限の預金金利分も加算しなければな りません(第 8 条 3 項 a),b))。したがって、Y 社は、当該金利分についても支払う義務を負う可 能性があります。

5 試用

≪事例≫

X 社は、ベトナム人 A を試用していたが、法定の試用期間では本採用すべきかどうか判断ができ なかったため、法定の試用期間を超えて試用を継続した。その間の待遇は、A が正社員の半分も 仕事ができないという理由で、正社員の半分の給料としていた。

 法定の期間を超過して試用したり、試用期間中に法定の水準を下回る給料を支払った場合には、 使用者に 200 万 VND から 500 万 VND(約 1 万円から 2 万 5,000 円)の罰金が科されます。X 社の 行為は、第 9 条 2 項 b)及び c)に違反しているものとして、X 社は、罰金の支払い義務及び本来の支払うべき給与(その業務で設定されている給料の 85%を下回らない水準のもの)の支払い義務を負う可能性があります。また、第 9 条 2 項 d)にも違反しているとされた場合、労働契約の締結義務を 負う可能性もあります(第 9 条 2 項、3 項)。

[第 9 条 2 項]

  1. ひとつの業務について何度も試用する。
  2. b) 法定の期間を超過して試用する。
  3. c) 試用中の労働者に、その業務で設定されている給料の 85%を下回る水準で給料を支払った。
  4. d) 試用期間が満了し引き続き業務に従事させたものの、労働契約を労働者と締結しない。

6 労働契約履行の場面

≪事例≫  X 社は、ベトナム人 A を営業職として採用し労働契約を締結した。その後、納品部門で人員が不足しているため、労働契約で記載している業務とは違うが、ある日 A が出勤した際、納品部門に異動させる旨伝えたうえ、納品部門で勤務させた。なお、納品部門の勤務地は、労働契約で記載している営業部門のオフィスとは異なるオフィスである。

                                                                             

 労働法第 31 条 2 項に定める「3営業日前までに通知せずに労働契約で合意した業務とは異なる業務に労働者を一時的に異動させた、または一時的に従事させる期間を明示しなかった、または労働者の健康や性別に不適当な業務に配置する」行為には、100 万 VND から 300 万 VND(約 5,000~ 1 万 5,000 円)の罰金が使用者に科されます(10 条 1 項)。X社の行為は、通知なく労働契約で合 意した業務と異なる業務に異動させたものに該当し、罰金の支払い義務を負う可能性があります。  また「労働契約書で合意した職場の場所と異なる場所に従業員を配置する(労働法第 31 条のケースを除く)」行為には 300 万 VND から 700 万 VND(約 1 万 5,000~3 万 5,000 円)の罰金が科さ れます(第 10 条 2 項 a))。X 社の行為が労働法第 31 条に定めるケースに該当しない場合、X 社 は、罰金の支払い義務を負う可能性があります。

7 労働契約の変更・解除 

≪事例 1≫ X 社は、有期で雇用しているベトナム人 A を無期限の雇用としたくないため、有期労働契約の期限を「付録」を使って何度も更新している。

 「労働契約書の期限を、付録(phụ lục)を使って 2 度以上更新する、または労働契約の期限を労働契約の付録を使って変更した際に、締結した労働契約の種類を変更する」行為については、違反した労働者の数に応じて 100 万 VND から 2,000 万 VND(約 5,000 円から 10 万円)の罰金が科さ れます(第 11 条 1 項)。X 社の行為は上記に該当し、X 社は、罰金の支払い義務を負う可能性があります。

≪事例 2≫  Y 社は、組織再編を行うため従業員の一部を解雇することにしたが、解雇対象者が 5 名のみであったため本人との面談のみで、面談の 1 週間後に労働契約を解除した。

 「組織、技術の変更または経済的理由により、労働者 2 人以上を解雇するにあたって、労働者集団代表組織(労働組合)と協議しない、または省級の労働管理機関に 30 日前までに書面で通知しない」行為、「法定の労働者使用計画を作成しない」行為については、500万VNDから1,000万VNDの罰金が科されます(第 11 条 2 項 a),b))。Y 社は、上記義務を順守していないとして、罰金の支払い義務を負う可能性があります。

以 上

本記事に関するご照会は以下までお願い致します。
fubito.yamamoto@oneasia.legal
ryo.matsutani@oneasia.legal