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日本におけるインフラによる日照権侵害に対する事業者責任について

2021年04月18日(日)

日本におけるインフラによる日照権侵害に対する事業者責任についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本におけるインフラによる日照権侵害に対する事業者責任について

 

日本:インフラによる日照権侵害に対する事業者責任

2021年4月13日
One Asia Lawyers
弁護士法人One Asia大阪オフィス
代表パートナー弁護士 江副 哲

1.事案の概要

 新東名高速道路の豊田東ジャンクションの高架橋を巡り、近隣住民が中日本高速道路会社に対して、日照侵害を理由に損害賠償を求める裁判を起こし、一審の名古屋地裁岡崎支部の判決(2020年2月)では、冬至の日影時間を基準に補償は不要と判断しました。一方、名古屋高裁の控訴審判決(20年7月)では、日陰になる時間が最も長い時期を基準に日照権侵害を認めました。その後、中日本高速が上告しなかったため、この判決は確定しています。

 被害を受けた住民の住む建物では、冬至の日影時間は1時間程度に過ぎなかったのですが、春分や秋分の頃には建物が高架道路の橋桁の影に入るため、日影時間が午前8時30分ごろから午後4時ごろまでの7時間程度に及ぶという状態でした(写真は本件とは関係ありません)。

2.国土交通省の通知の法的効力

 国土交通省が各地方整備局などに宛てた通知「公共施設の設置に起因する日陰により生ずる損害等に係る費用負担について」(03年7月11日改正)では、冬至の日影時間が3 〜5時間に及ぶ住宅の住民を補償の対象と定められています。中日本高速はこの通知に則り、住民を補償の対象から外していました。

 一審判決では、国交省の通知内容に基づく中日本高速の主張を認め、住民の賠償請求を棄却しましたが、名古屋高裁は、国交省の通知は法令ではないため裁判所の判断を拘束するものではないと指摘し,通知の基準を満たさない場合でも、受忍限度を超える日照被害が認められることはあり得るとの判断を示しています。

 建築物で生じる日影の場合、冬至の時に最も時間が長くなるのが普通ですが、本件のように橋桁が上空を横断する高架道路の場合、住宅との位置関係によって日影時間が最長となる時期が大きく異なるケースも出てきます。このような場合、「冬至の時が最も日影時間が長くなる」という大前提は当てはまらず、控訴審では、冬至のみを基準とするのは必ずしも合理性がないとして、年間を通じた日照被害の状況も考慮して受忍限度を判断しています。

 地域性については、当該地域が都市計画法上の市街化調整区域内にあり、用途指定がない点に言及し、周囲に高層建築物などのない郊外に位置しているところ、高速道路のような幹線道路は郊外に建設されるのが一般的であるとして、特段、地域性を考慮する必要はないと評価しました。

 結論として、判決では、慰謝料として住民1人につき50万円、弁護士費用として損害額の1割に当たる5万円の計55万円を支払うよう中日本高速に命じています。

 この控訴審判決のポイントとなる国交省通知に対する名古屋高裁の考え方は、以下の通りと考えられます。国交省の通知は、あくまでも憲法29条3項に基づく損失補償の観点から、公共事業によって損失を被る住民に対して、適法か違法かを問わず一律に補償する基準を定めています。また、通知は行政機関が自治体や業界団体などに出す連絡事項をまとめたもので、事業執行上参考とされる行政の一判断にすぎず、国会で制定される法律とは異なり法的拘束力がないため、最終的に受忍限度、つまり違法性を判断するのは裁判所の役割であるという考えです。

3.受忍限度論

 それでは、裁判所による受忍限度の判断は何を基準としているのか、について以下で説明します。日照侵害を受忍限度によって判断する考え方は、以下の最高裁判決(1994年3月)が示した「受忍限度論」に基づくものです。「(日照侵害が)通常人が一般社会生活上受忍すべき限度を超えていると認められる場合には、違法な権利侵害ないし利益侵害となる」受忍限度論は、日照侵害だけでなく、騒音や振動などによる被害も含めた工事の違法性を判断する基準として定まっている考え方です。

 日照侵害に関して受忍限度内かどうかを判断する際に考慮する要素としては、まず被害の程度が挙げられ、基本的には冬至において被害建物がどの程度日照を奪われるかという点が問題になります。これについては、建築基準法56条の2で示されている冬至の午前8時から午後4時までの時間帯が参考とされます。日照時間の長さ、時間帯、各建物の位置、大きさなどを考慮し、春秋分における日照状況も判断の参考にされます。さらに、地域性も考慮に入れられ、例えば、住宅系の地域か、低層建物中心の地域か、商工業系の地域か、建築物の中高層化が進んでいる地域か、都市計画法上の規制があるか、といった点になります。その他、加害回避可能性、被害回避可能性といった要素もあり、これは、加害者側と被害者側で、それぞれ日照侵害を少なくする手段があるかという事情になります。例えば、建物の高さを低くするなど、被害を生じさせないような形に計画を変更できるか、ということが考えられます。

4.事業者の留意点

 今回取り上げた新東名の裁判は、構造物の完成後に賠償請求された事案ですが、工事中に近隣住民から日照権侵害を理由に工事続行禁止の仮処分が申し立てられるケースもあり、万が一、裁判所が仮処分を認めた場合、工事を中断せざるを得ないという重大な事態が生じることになりますので、注意が必要です。

 そこで、事業者としては工事着手前に、受忍限度論の考慮要素である地域性や、建設する構造物による周辺の日照への影響について十分に調査、検討し、前述の裁判例で指摘したように、形式的な基準だけで判断するのではなく、実質的に住民の受忍限度を超えるかどうかを慎重に調べる必要があります。調査や検討の結果、近隣建物の日照への影響が大きいと判断した場合は、建設予定の構造物の構造や位置などの変更で対応できないか再検討すべきです。他方、事前の調査や検討の結果、日照権侵害がないと判断できる場合は、近隣住民への特段の対応は不要かもしれませんが、それでも近隣への工事説明の際、日照には問題がないことを事前に説明しておけば無用なトラブルの防止につながります。

以上