マレーシアにおける電子契約・電子署名の取扱いについて

2021年05月10日(月)

マレーシアにおける電子契約・電子署名の取扱いについてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける電子契約・電子署名の取扱い

 

マレーシアにおける電子契約・電子署名の取扱い

2021年5月
One Asia Lawyers マレーシア
日本法弁護士
橋本 有輝 

 今日のグローバル化した世界では、契約当事者が常に同じ場所にいるとは限らず、電子機器・電子メールを使用する等して電子契約を成立させたり、電子文書にリモートで署名することが出来ればスムーズに取引を成立されることが可能となる。

 そこで、本稿ではマレーシアにおける電子契約及び電子署名の有効性、その要件等について解説する。

1 電子署名に関する法律

 マレーシアにおける電子署名は、Digital Signature Act 1997(以下、「デジタル署名法」)及びElectronic Commerce Act 2006(以下、「電子商取引法」)において、その有効性や要件が定められている。

 本稿では、このうち広く取引に一般的に適当されている電子商取引法に焦点をあてて解説をしている。

2 電子署名とは何か

(1)定義

電子署名とは、電子商取引法において「電子的に作成された文字、記号、数字、音、その他の符合、又はそれらの組み合わせで、人が署名として採用するもの」と定義されている[1]

 その上で、同法は、電子文書に署名が求められる場面において、以下のすべての要件を満たす電子署名がなされれば、当該電子署名は有効なものと規定している[2]

①電子文書に添付されているか、これに論理的に関連付けられていること。 ②署名者個人を適切に識別し、署名に関連する情報に対する個人の承認を適切に示していること。 ③署名が必要な目的と状況に鑑みて、適切な信頼性があること。

 さらに、上記③について、電子商取引法は、以下のいずれかの場合に「適切な信頼性がある」ものと認められると規定している[3]

 ア 当該電子的署名を作成する手段が、その個人にのみリンクされ、かつ、その人の管理下にある場合。
  イ 署名後に電子署名に加えられた変更が検出可能である場合。
 ウ 署名後にその文書に加えられた変更が検出可能である場合。

(2)要件充足性の不透明さ

 上記要件③の充足性については、果たして電子文書にJPEGやPDFの署名を添付するだけでこの要件を満たすと考えてよいのか、より厳格な手段が必要とされているのかについては法令上は明確ではない。

 この点に関し、過去の裁判例はほとんど存在しないものの、ショートメッセージの送信という形式でも個人の電話番号が表示されていることによって電子署名の要件を満たすと判断したマレーシアにおける裁判例がある。この解釈を前提とすれば、電子署名要件は大きなハードルではないと理解できるものの、あくまで事例判断に基づくケースに過ぎないため、今後の裁判例の集積を待つ必要があり、現時点では事案に応じて、個別に判断をしていく必要があるといえる。

(3)例外文書その他考慮すべき事項

 また、電子商取引法は、①委任状、②遺言の作成、③信託の組成、④約束手形、小切手等の特定の金員の支払を保証する文書については、同法の適用範囲から排除しているため注意が必要である。

 また、印紙税納付のスタンプが求められる不動産譲渡証書や株式譲渡証書においては、実務上オリジナル文書への署名が要求されている。

3 電子契約の有効性

 上記2では電子署名の有効性について解説した。しかし、法律上、あらゆる書面に署名が求められているわけではない。そこで、例えば電子メール等を通じたやりとりや「同意する/同意しない」といったボタンのクリックのみによって契約が成立するのか否かが別途問題となる場合がある(この場合、署名は存在しないため)。

 この点に関し、電子商取引法7条は、電子的な手段によって契約の申込、申込の承諾及び拒絶、申込及び承諾の撤回その他やり取りが可能であること、そのように成立した契約は法的に有効であることを認めている。

(1)電子契約の成立:当事者が同意している場合にのみ適用

 電子商取引法は、当事者間が電子的な手段を用いて契約を成立させることに同意している場合に適用される[4]。ただし、この同意は明示的なものでなくてもよく、同時者の行動から推定されるものであるため、電子的な手段で申込を行い、相手方が同意ボタンを押す等すれば、その行為をもって電子的な手段による契約成立への同意があったと推定されるものと考えられる。

(2)電子通信の発送と受領

 電子商取引法は、当事者間で別段合意ない限り、電子通信は、それが送信者の管理外の情報システムに入った時点で発送されたとみなされる、と規定している[5]

 他方で、受領については、受領者が受領するための情報処理システムを指定した場合は電子通信が当該情報処理システムに入った時点で、又は、受領者がそのような指定を指定していない場合は受領者が電子通信を認識するに至った時点で、受領したとみなされる[6]

 上記の電子契約の成立、電子通信の発送と受領があったとされるかについても、マレーシアにおける判例の集積などが待たれるが、個別具体的にビジネスの内容、契約の内容、契約の実態などに鑑み、個別に判断していくことが重要である。

[1] 電子商取引法5. [2] 電子商取引法9. (1)  “an electronic signature which— (a) is attached to or is logically associated with the electronic message; (b) adequately identifies the person and adequately indicates the person’s approval of the information to which the signature relates; and (c) is as reliable as is appropriate given the purpose for which, and the circumstances in which, the signature is required” [3] 電子商取引法9. (2)  “an electronic signature is as reliable as is appropriate if— (a) the means of creating the electronic signature is linked to and under the control of that person only; (b) any alteration made to the electronic signature after the time of signing is detectable; and (c) any alteration made to that document after the time of signing is detectable“ [4] 電子商取引法3. [5] 電子商取引法20. [6] 電子商取引法21.