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マレーシアにおける成績不良を理由とする降格・減給処分の実践について

2021年08月16日(月)

マレーシアにおける成績不良を理由とする降格・減給処分の実践についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける成績不良を理由とする降格・減給処分の実践

 

マレーシアにおける成績不良を理由とする降格・減給処分の実践

2021年8月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当<
日本法弁護士 橋本 有輝 

 本稿では、マレーシアにおいて事業を行う企業が成績不良の従業員を降格・減給処分する場合のあるべき実践について概説する。マレーシアにおいては、本稿執筆時点において、COVID-19の感染が蔓延する状況しており、ロックダウン等の影響で事業に重大な支障が出ている企業も多いため、給与の減額についての要請は大きいものがあると思われる。しかしながら、以下の通り、従業員の減給に関しては慎重な対応が求められるのが実情であり、本稿ではあくまで降格処分に伴う減給に焦点を当てて説明を試みる。

1 関連法規

 マレーシアにおいて、雇用及び降格・減給に関連する法規としては、Employment Act 1955(以下「雇用法」)、Industrial Relations Act 1967(以下「労使関係法」)が存在する。

 雇用法は、雇用契約の条件等使用者と労働者の関係を規律する法律である。ただし、マレーシアの雇用法の特徴として、月給が2,000リンギットを超えない労働者または肉体労働に従事している者等にしか適用されないため、雇用法の適用されない労働者との関係では、当事者間の雇用契約において定められた条件が、当事者間の労働問題を判断するうえで重要な意味を持つ。

 また、労使関係法は、労使間の関係の他、労働組合や労働争議の手続きについて定める法律であり、同法の20条(1)が雇用法の適用に関わらず、労働者は、使用者から正当な理由なく解雇されたと考える場合には、労使関係局に職場への復帰を申し立てることが出来る旨規定している。

2 そもそも使用者には労働者を降格させる権利があるのか

 まず、雇用法14条(1)は、労働者が雇用契約に違反する非行を行った場合には、適切な調査を行った上、降格処分が出来ると規定する。また、裁判例においても、適切な調査に基づく非行行為の認定を行った上で降格を行うことは使用者の固有の権利であると指摘する。

 したがって、使用者は、適切な調査と非行行為の認定の後に行うことを前提に、労働者に対して降格処分を行うことをなし得る。

 なお、実際の対応としては、使用者の上記権限を明確にするため、就業規則において、降格処分がなされ得ること、その際の手続きについて事前に定めておくことが推奨されている。

3 違法な降格・減給があった場合、どのような事態となり得るか

 上記の通り、降格を行うには一定の要件があるところ、降格・減給処分に納得しない労働者は、当該降格・減給処分が上記要件に違反していると考える場合、労使関係法20条(1)に基づき、この処分によって会社での雇用を維持できなくなった、つまりこの降格・減給処分は解雇に他ならないとして(これを「みなし解雇」”constructive dismissal”という)、労使関係局に救済を求めて申立を行うことが出来る。

 また、労使関係局やそれに続く人的資源大臣がこの紛争を解決できなかった場合には、労働裁判所(“Industrial Court”)が事件の審査を行うことになる。つまり、この問題は、最終的には、マレーシア裁判所で判断される問題となる。

4 使用者は成績不良の労働者を降格・減給できるか

 マレーシアの裁判例では、成績不良を理由とする降格及びこれに伴う減給が問題となったケースについて、労働者の成績不良が長期にわたって繰り返され、改善の機会を与えたにも関わらずこれが改善しなかったという使用者の主張を認め、労働者への降格・減給処分を肯定したものが多数存在する。

 つまり、使用者は、成績不良の労働者を降格・減給されることが出来ると考えられている。

5 成績不良を理由とする降格・減給を行う際の推奨される実践

 まず、マレーシアの法律における降格・減給の適法違法についての明確なルールは存在せず、結局は、ケースバイケースで判断されているのが実情である。

 したがって、基本的には、使用者が降格・減給を考える場合には、適宜専門家に相談することが推奨される。

一般論として、検討すべき事項を挙げるとすると、以下の通りである。

① 当該労働者へのカウンセリング(要改善事項の指摘、下記②についての検討)の実施

② 当該労働者へのトレーニング(要改善事項を改善する機会の提供)の実施

上記①②を欠いている降格処分は違法と判断される可能性が高いと言える。

③ 労働者の業績・成績の評価プロセス

一般的には、当該労働者の実際の勤務状況を見ている直属の上司による評価が望ましい。また、社内体制に応じ、評価は年1回とは限らずより頻回な評価が要求されることもある。

④ 他の労働者との均衡

同様の評価の他の労働者にも同様の処分を行っているか、という点も使用者の降格処分の真摯性を基礎づける事情となる。

 以上の通り、本稿では成績不良者に対する降格・減給処分に焦点を当てて説明を試みたものの、実際の事案における適切な措置は、まさにケースバイケースで検討されるものである。また、降格・減給処分を行う前提として、適切な就業規則・雇用契約書がそもそも整備されているか、という点も重要であるため、いざという際に当惑しないよう事前の準備が肝要である。