ラオスにおける村レベルの紛争解決について
ラオスにおける村レベルの紛争解決についてのニュースレターを発行しました。
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ラオスにおける村レベルの紛争解決について
2021年11月30日
One Asia Lawyers ラオス事務所
1.背景
ラオスにおいては、紛争が生じたとき、裁判所での訴訟提起の前に、必ず当事者の管轄下にある村又は経済紛争解決センター(Economic Dispute Resolution Center)で調停手続を行う必要があります。調停において、和解合意に至らなかったことを証明しなければ、裁判所は事件を取り扱わない仕組みとなっています(民事訴訟法第170条)。
これまで村レベルの紛争解決方法について具体的に定めた法令はなく、ラオス政府は、2021年10月22日付で「村レベルの紛争解決に関する首相令」を発行し、11月26日に官報に掲載、15日後に施行されます。
今回は、村レベルの紛争解決方法の概要を実務と照らし合わせながら解説いたします。
2.取り扱う紛争の種類(第15条から22条)
村レベルの調停で取り扱うことができる紛争は以下の通りです。
ア)民事関係
家畜問題、相続問題、境界問題、土地使用権、商事関連以外の契約違反、村の運営に関する紛争、その他法律が定める私人間の問題など
イ)商事関係
小規模で解決が困難ではない商事に関連する問題。紛争金額が高額であっても、当事者が合意し、調停人に紛争解決の能力がある場合は扱うことが可能
ウ)家族関係
離婚以外の家族間の問題、夫婦の財産、家族内の借金、養育・扶養・養育・扶養費の問題、親子関係の問題など。ただし、ドメスティックバイオレンスについては、民法の規定に従う。
エ)環境関係
家畜の糞尿問題、ごみ問題、汚水の垂れ流しなど小規模で被害額が高くない紛争
オ)労働関係
事業体の中ではなく、家族内の労務問題。事業体の中の労働紛争については、村レベルの労働社会福祉支局がその解決を担う。ただし、村レベルに同支局がない場合は、村レベルの紛争解決チームが扱うことが可能
カ)刑事関係
財産の被害額が1,000,000キープ(約100ドル)以下の事件。ただし、強奪、強盗、常習的な犯罪又は累犯は除く。
身近な人からの傷害事件。ただし、女性と子供への暴力行為、60歳以上の人への被害、身体障害、常習的な行為、累犯は除く。
その他、名誉棄損、誹謗、侮辱、過失致死、姦通、身近な人による人権侵害、プライバシー侵害、住居侵入、個人情報の漏洩など
キ)青少年犯罪
15歳未満の重犯罪、常習的又はグループ犯罪又は軽犯罪
15歳以上18歳未満で禁固刑3年以下の軽犯罪及び中犯罪
15歳以上18歳未満で刑事事件の要件を満たす、被害額が1,000,000キープ以下の犯罪。ただし、強奪、強盗、常習的な犯罪又は累犯は除く。
3. 調停に関与する者(第23条から27条)
調停に参加する関係者は以下の通り構成されています。
①当事者(当事者がラオス語を理解することができない場合は、通訳者が同席することも可能)
②第三者(紛争に関与する第三者で自身の権利と利益を守るために出席)
③当事者の家族や親せき
④招聘された者(ラオス国家建設戦線、女性同盟、青年同盟、有識者、少数民族の代表など)
4.調停の手続きについて(第28条から33条)
ア)訴状の提出
申立者が居住している村又は紛争が生じている村の紛争解決チームに対して訴状を提出します。訴状を書くことができない場合は、口頭で訴えることも可能です。口頭の場合は、紛争解決チームが内容を聞き取り、記録をとります。記録した内容を申立者に聞いてもらい、署名又は/及び拇印により、証拠とします。
イ)訴状の受け取り
紛争解決チームは、訴状を受け取った後、3日以内に相手方対して紛争の内容を説明します。相手方は、通知を受けて4日以内に自身の意見書を紛争解決チームへ送ります。この場合、ア)で述べたように、口頭でも構いません。その場合は、同様の手続きを行います。
ウ)訴状の検討
当事者からの訴えを受けてから3日以内に紛争解決チームは、生じている紛争に関する覚書を用意します。必要に応じて、村長や司法省支局の専門家など関連する機関から意見を求めます。精査の結果、調停が可能であると判断した場合、当事者へ伝え、調停の準備(期日、場所、召喚状、招聘状の作成など)をします。
実務的には、期日の前日に知らされることもあり、ラオス国内に当事者が居住していない場合は、日程を延長し、再設定してもらう必要があります。なお、延長申請自体は比較的、容易に認められています(第35条)。また、代理出席も認められています。
エ)調停
調停が始まると、はじめに申立者、次に相手方の順に意見を聞きます。その後、第三者、家族・親せきの順に意見を聞きます。そして、最後に招聘された者の意見を聞き、紛争解決チームは、法的な見解、常識的なアドバイス等をすることで、平和的な手段で和解、合意する方法を検討します。
オ)調停の効果
紛争解決の解決が、どのような結果であっても、調停調書を作成し、参加者全員の前で読み上げます。内容に間違いがないか確認をした後、参加者全員が署名・拇印をして証拠書類とします。調停調書は、ラオス語で作成されなければならず、当事者がコピーを1部ずつ保管します。
実務においては 調停調書は、手書きで作成されることがほとんどであり、内容が誤っていることもあるため、必ず署名前に弁護士等に確認してもらう必要があります。また、通常、調停が開かれる村の管理事務所には、コピー機などのIT機器は備えていない場合が多く、全員が署名済みの書面のコピーを受け取るだけでも、1時間以上待たされることがよくあります。
調停で当事者が合意したにも関わらず、紛争当事者が、この調停調書の条項にすべて従わない場合、調停チームが意見を調停調書にまとめ、当事者に対して紛争解決のために自身の権利を使用することをアドバイスします。また、調停で合意に至らなかった場合も、同様のアドバイスをします(第38条)。
5.調停チームについて(第41条)
調停チームは、村に常設しているチームではなく、村民により選出され、村レベルの司法省の事務所を通して村長の推薦により郡長や市長/都庁により承認を受けます。
調停チームは、調停人5人から成り、チーム長1人、副チーム長1人、メンバー3人より構成されます。必要であれば、調停時に、補助人をつけることも可能です。
調停人となれる要件は以下の通りです。
ア)ラオス国籍であること、その村に住所があり居住していること
イ)25歳以上であり、身心ともに健康であること
ウ)犯罪歴がないこと
エ)一定レベルの法律の知識を持っていること
オ)村民の見本となるような人であり、尊敬されていること。
調停人は、退職、移転、解任、死亡した場合に、その役目が終了となります。
なお、調停にかかる費用は1回につき、200,000キープ(約20ドル)を超えない額で、当事者が折半することと規定されています(第39条、40条)。
以 上
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