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日本における消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正について

2022年04月14日(木)

日本における消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正

 

日本:消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正

2022年4月13日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

1. はじめに

 政府は本年3月1日,成人年齢を18歳に引き下げる民法の改正等を踏まえて,より一層の消費者保護・救済に資するため,消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正案を閣議決定しました。

2.消費者契約法の改正概要

  本改正では,平成30年消費者契約法改正時の附帯決議[1]に対応し,消費者の安心・安全な取引のセーフティネットを更に整備するため,以下のような改正が組み込まれました。

 ① 契約の取消権の追加

   消費者は,以下の場合に契約を取り消すことができるようになり,困惑類型(当該行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときに取消しが認められることとなる類型)の適用場面が追加されます。

ⅰ 事業者が勧誘をすることを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘した場合

  従前は,事業者が退去しなかった場合(消費者契約法第4条3項1号),消費者の退去を妨害した場合(同項2号)に取消権の行使を認めていましたが,本改正によって,退去困難な場所に同行して勧誘したことのみをもって,取消権が行使できることとなりました。そのため,具体的な退去妨害行為を行わなかったとしても,勧誘することを告げずに消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら,同所に同行すれば,取消権行使が認められることとなります。

ⅱ 威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害した場合

  本改正では新たに,消費者が契約を締結するか否かの相談を電話等で行おうとした際,事業者がこれを威迫する言動も交えて妨げた場合に,取消権行使が認められることとなります。

ⅲ 契約前に目的物の現状を変更し原状回復を著しく困難とした場合

  従前は,契約によって負うこととなる義務の全部又は一部を実施することによって,実施前の原状回復を困難とした場合には,当該契約の締結を事実上強制することなり消費者の適切な意思表示が期待できないことから,取消権行使を認めていました。本改正では新たに,義務の実施によって原状回復が困難となる場合のみならず,目的物の現状を変更することで原状回復が困難となった場合(例えばリフォーム工事で物件の現状を変更する場合等)にも,取消権行使を認めることとなります。

 ② 解約料説明の努力義務

   事業者は,消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定(違約金)条項を定める場合,消費者からの要請があった際には,当該予定額の算定根拠の概要を説明すべき努力義務を負うものとされます。また,適格消費者団体との関係では,事業者は,当該予定額が同種の消費者契約の解除に伴い生ずる平均的な損害の額を超えると疑うに足りる相当の理由がある場合には,当該団体からの要請に応じて,予定額の算定根拠を説明すべき努力義務を負うとされます。

 ③ 免責の範囲が不明確な条項の無効

   損害賠償請求を困難にする不明確な一部免責条項(軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていない条項)については無効となります。具体的な条項としては,以下例示されています。

  (無効となる条項例)「法令に反しない限り,1万円を上限として賠償します。」

            ⇒軽過失による行為のみ適用されることが明示されていません。

  (有効となる条項例)「軽過失の場合は1万円を上限として賠償します。」

 ④ 事業者の努力義務の拡充

   事業者に対して,解除時に解除権行使に必要な情報提供等を行うことを内容とする努力義務を課すとともに,成人年齢が18歳に引き下げられたことを踏まえ,勧誘時の情報提供として,消費者の知識・経験に加えて,年齢・心身の状態も総合的に考慮した情報提供を行うことを求めています。その他にも,適格消費者団体からの開示性要請等に対応すること等を事業者に求める改正も行われました。

3.消費者裁判手続特例法の改正概要

 ⑴ 消費者裁判手続特例法とは

   消費者裁判手続特例法(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律)は,多くの消費者事件で課題となる消費者と事業者間の情報の質・量・交渉力の格差,訴訟に関する費用や労力のために消費者による被害回復が困難となっていることをうけ,消費者被害を回復しやすい訴訟手続(被害回復制度)と,事前予防として不特定多数の消費者の利益を擁護するために差し止めを求めることができる手続(差止請求制度)を新設することを内容とする法令です。

   同法によって新設された各手続は,以下の2段階型の手続により構成されます。個々の消費者は,特定適格消費者団体に授権することにより,下記手続に参加することとなります。

  Ⅰ 特定適格消費者団体が原告となり,事業者を被告として,消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害に対し,共通する原因に基づき金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴え(共有義務確認訴訟)を提起する。

  Ⅱ Ⅰの訴えにて原告(特定適格消費者団体)が勝訴した場合,事業者が誰にいくら支払わなければならないかを迅速に確定する(簡易確定決定)。

   上記手続の創設によって,消費者は,多くの消費者被害回復を一つの手続で行うことによる費用低減,消費者団体の専門的知識・交渉力を活用することができ,消費者被害が回復されやすくなりました。

 ⑵ 改正概要

   消費者裁判手続特例法は,端緒情報の質・量が不十分であること,対象としうる事案が限られること,特定適格消費者団体が現実的に対応可能な範囲が限られることから,上記手続の活用が広がらない現状にありました。そこで本改正では,これらの課題に対応するため,概要以下の改正が行われることとなりました。

  ① 対象範囲の拡大

    従前は財産的損害のみを手続の対象としていましたが,対象となる損害に一定の慰謝料(ⅰ財産的損害と併せての請求であり,ⅱ故意によって発生した損害に限る)が追加されます。また,被告に事業者以外の個人(悪徳商法に関与した事業監督者・被用者が想定されています)に対しても,同手続による責任追及を可能となります。

    財産的損害と併せての請求を求められることから,例えば個人情報漏洩に伴う慰謝料請求のみを根拠とした手続利用は本改正でも認められていませんが,従前は財産的損害が少額であったために訴訟提起には至らなかった場合であっても,慰謝料請求と併せて訴訟提起に踏み切るケースも増えてくるのではないかと考えられます。

  ② 和解の早期柔軟化

    現行法では,事業者の責任の有無を判断することを対象とした手続でしたが,本改正により,解決金を支払う和解や,それ以外の和解等が可能となります。

  ③ 事業者への情報提供方法の充実

    本改正では,事業者に対して手続の対象となる消費者への個別通知を義務付けるほか,消費者の氏名等の情報開示を早期に可能とし,行政が公表する情報を拡充することを内容とし,消費者に対する情報提供方法を充実させることで,消費者救済に向けた一層の環境整備を行うこととなります。

  ④ 特定適格消費者団体の負担軽減

    特定適格消費者団体における負担を軽減するため,同団体を支援する法人(消費者団体訴訟等支援法人)を認定する制度を導入されます。同法人は,特定適格消費者団体の委託を受けて,対象消費者等に対する情報の提供や金銭の管理,通知等の事務を行うことができます。

 4.おわりに

   特に今回の改正では,消費者契約における契約取消権の行使場面が広がるとともに,損害賠償の予定額についての説明義務(努力義務)が追加されることとなりますので,従前にも増して,契約締結に当たっての対応,契約内容の策定に当たっては注意いただきたいところです。また,消費者裁判手続特例法の改正によって,集団訴訟が提起される場面が広がりましたので,従前は損害額が低額のために訴訟にまでは至らなかったケースについても,訴訟リスクが生じることとなります。当然,訴訟に至らなかったとしても,各事業者において適切な対応を求められるところではありますが,本改正を機会に,顧客対応の見直しを検討されてはいかがでしょうか。

 

[1] 議決された法案等に関して付される,施行についての意見や希望等を表明する決議であるが,法的拘束力はない。