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マレーシアにおける担保制度について

2022年11月14日(月)

マレーシアにおける担保制度についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける担保制度(1) ~チャージ(Charge)とは何か~

 

マレーシアにおける担保制度(1)
~チャージ(Charge)とは何か~

2022年11月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Clarence Chua Min Shieh

1.はじめに

 マレーシアにおいてビジネスを行うにあたり、自社が銀行から融資を受ける場合や、他社とパートナー関係を構築する等に際して当該他社に資金提供を行う場合、その債務につき担保を設定することがある。

 この場合における、最も一般的な担保設定の方法が、相手方会社財産に対するChargeの設定である。

 本稿では、Chargeとは何か、さらに日本において馴染みのないFloating Chargeについて説明を試みたい。

2.Chargeとは何か?

(1)大まかなイメージ

 Chargeとは、基本的には、個人又は会社の資産をある債務の担保とするものである。Chargeを供与する側の担保権設定者を“chargor”、Chargeの設定を受ける債権者側の当事者を“chargee”と呼ぶ。

 National Provincial Bank of England v Charnley[1]という事例における判例法に拠れば、Chargeを設定する際の条件は以下の通りである。

 ・当事者の現在又は将来の財産を担保に供する意思

 ・債務の支払のための担保であること 及び

 ・債権者は、当該財産につき占有権を有していない場合であっても、当該財産を利用可能とする権利を有していること

(2)Chargeの法的位置づけ

 このChargeについては、the National Land Code(国家土地法)やthe Companies Act 2016(会社法)に若干の規定があるものの、統一的な法典は存在しない。

不動産にChargeを設定する場合については国家土地法が規定を置いており、“every charge created under this Act (ie: the National Land Code) shall take effect upon registration so as to render the land or lease in question liable as security in accordance with the provisions thereof, express or implied[2]と規定され、不動産に設定されたChargeは登記されて初めて効力を有するとされている。

 また、chargorが会社である場合には、会社法のSections 352-364が適用される。会社法の下では、Chargeは、不動産以外においても、株式、機械設備のような動産、その他無形資産に設定することが出来る旨明記されている[3]。また、Chargeを設定した場合、会社は30日以内にこれをSSMという登記所に登記申請を行わないといけない[4]

 なお、明文はないものの、個人においてもChargeの設定を行うことは可能である。

(3)イギリスのモーゲージ(mortgage)との違い

 通常の会話では、Chargeはモーゲージと呼ばれることがあり、この2つの言葉は時として同じように使われることがある。Chargeもチャージも同じく担保の一種であるものの、その背景にある原理は異なっている。

 Chargeの場合、一種の担保権(interest)だけがchargeeに譲渡され、所有権はchargorに残る。他方モーゲージの場合、担保権も所有権も抵当権者に帰属し、担保権設定者は債務全額を支払った場合に目的物を取り戻す権利だけを有する。

 上記のような誤解は、マレーシアの国家土地法のもとでのChargeの概念が、イギリスの土地法ではなく、オーストラリアの法制度に由来しているから生じているものと考えられる。

3.Floating ChargeFixed Chargeの違い

 次は、Chargeの種類に目を向けてみる。

(1)Floating Charge

 マレーシアにおいて、法人の登記を取り寄せたことがあれば、一度はFloating Chargeという文字を見たことがあると思われる。Floating Chargeとは、一般的には、chargorの有形資産及び無形資産全体を対象とするものである。この有形無形の資産は、現金、機械設備、原材料、債権等、Chargorの事業全体が対象として含まれ得る。このようなFloating Chargeの性質から、Floating Chargeは、設定時点では存在しない将来の財産も対象としうる。そして、債務不履行等一定の事由が生じた際に初めて何が担保の対象になるのかが確定する[5]。このプロセスを“crystallization”と呼ぶ(後述)。なお、取引安全のため、crystallizationの前であるFloating Charge設定時点において登記が要求されている[6]

 以上の通りFloating Chargeは、日本には存在しない担保の態様であり、敢えて言うなら集合動産譲渡担保がこれに近いと言えるが、こちらがあくまで特定の倉庫内の動産類などと一定の限界づけがなされているのに対し、上記Floating Chargeにはこのような限界設定が必要とされない点が大きく異なる。

(2)Fixed Charge

 他方、Fixed Chargeは、上記とは反対に、特定の会社財産を対象とする担保である。

(3)両社の選択

 当事者が上記いずれのChargeを選択するかは、どのような融資がなされようよしているか、chargorのビジネスモデルは何であるか等に依拠して決せられる。例えば、chargorが製造業者であれば将来設置するものも含めた機械設備を担保対象物に含めたFloating Chargeを設定することが考えられる。他方、既に担保の対象となる資産が多数あるとか不動産のように資産的価値が大きい物がある場合には、Fixed Chargeが適切となる(その理由は(4)を参照)。

(4)Floating ChargeとFixed Chargeの優先順位

 次に、ある会社が別々の債権者に対しFloating ChargeとFixed Chargeの両方を設定している場合、Fixed Chargeの対象物については、2つのChargeが重畳的に設定されているという場合が当然想定される。この場合の両社の優先関係は、「設定日に関わらず、原則として、Fixed Chargeが優先する」というものである。

 なぜならFloating Chargeは、担保が現実化(crystallization)するまではあくまで未確定のものであるのに対し、Fixed Chargeは、確定的に特定の財産を担保とするものであり、その意味で設定当初から当該特定の財産に対する法的な効力を有しているからである[7]

4.Crystallization of a Floating Charge

 上記の通り、Floating Chargeは、一定の事由が発生して初めて実現化するものであるため、設定契約には、どのような事象が生じた場合に担保が現実化しFixed Chargeとなるか(crystallizeするか)を定めることになる。 Floating ChargeがCrystallizeすることで、Chargeeはこれを実行することが可能となる。

 このように、当事者は、どのような事由が生じた際にcrystallizeするのかを契約において自由に決定することが出来る点に留意が必要である。

5.担保の実行

(1)不動産上のChargeについて

 債務不履行が生じた場合、Chargeが不動産に設定されている場合、国家土地法256条により、高等裁判所(又は国家土地法260条によるLand Officeの所有に属する場合[8]はLand Administrator)による売却命令によって、担保の実行がなされる。

 さらに、chargeeは、該当物件が賃貸物件でありその賃料から債務の支払を受けたい場合には、「Form 16K: Notice Of Entry Into Possession」と呼ばれるフォームをchargorに送付し、裁判所から占有移転の命令(order for possession)[9]を取得することで、賃料を受けることが出来る。この方法はあくまで占有権やそれに伴う債権を取得することが目的であり、物件の所有権に変更をもたらすものではない。

(2)その他のChargeについて

 不動産以外に設定されたChargeの場合は、裁判所又は所定の書面に基づいて任命された管財人(receiver)または管財人兼管理人(receiver and manager)によって強制執行が可能である[10]。彼らの権限は、会社法の別表6に記載があり、①当該財産の占有を取得し管理したり[11]、②当該財産を賃貸したり処分をする[12]、といった権限がある。

 なお、銀行口座や定期預金の担保に関しては、貸し手は関連する担保書類に基づき相殺の権利を行使し、預金から貸し手に支払うべき債務を相殺することができる。また、株式が関係している場合、chargorからchargeeへの必要な譲渡手続きが必要である。譲渡が実現されなかった場合、chargeeは、これを訴因として、chargorに対して譲渡を強制する判決を求めることができる。

 以上の通り、担保権実現の方法は、設定契約の内容や担保に供された財産に大きく依存することになる。少なくとも担保設定契約書の作成は、曖昧さを排除して正しく行われる必要がある。

6.結論

 以上の通り、マレーシアには、日本にない担保の手段が用意されており、マレーシアの企業と取引を開始したり、貸付を行う場合には、Chargeに対する基本的な理解が必須であると思料されます。

[1] [1923] All ER Rep Ext 820

[2] Section 243 National Land Code

[3] Section 252 Companies Act 2016

[4] Section 352 (1) Companies Act 2016 これに違反した場合、当該Chargeは他の債権者等との関係では無効となる(Section 352 (2))

[5] [1904] AC 355 at p 358

[6] Section 353 (g) of Companies Act 2016

[7] 以上の説明は、あくまで双方のChargeの担保実行事由が同様である場合の話である。

[8] “Land Office Title” is defined as a plot of country land that shall not exceed 4 hectares in area or size (Section 77(3)(b) National Land Code)

[9] Section 272(3) National Land Code

[10] Section 374 (a) to (c) of Companies Act

[11] Item 2(a) Sixth Schedule of the Companies Act 2016

[12] Item 2(b) Sixth Schedule of the Companies Act 2016