• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

日本:改正有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の概要

2024年10月15日(火)

日本の改正有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の概要についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

改正有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の概要

 

改正有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の概要

2024年10月15日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 松宮浩典

 「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令[1]」(以下「本改正府令」といいます)及び本改正府令に対する「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方[2]」が2024年9月27日に金融庁より公布・公表され、「インサイダー取引規制に関するQ&A【応用編】(問7)[3]」の改訂と併せて、令和7年4月1日から施行・適用される予定です。
 今月のニューズレターでは、本改正府令について解説いたします。

1 概要

 本改正以前は、上場会社等の業務の執行決定機関による株式発行・自己株式処分・新株予約権発行(以下「株式発行等」といいます)に係る決定がインサイダー取引規制上の「重要事実」から除外される基準は、払込金額の総額が1億円未満であると見込まれることとされていました。
 本改正では、上場会社等の業務執行決定機関による株式報酬としての株式発行等に係る決定がインサイダー取引規制上の「重要事実」から除外される基準について、次のいずれか該当すること、に改正されました(改正法第49条第1項第1号ハ)。

① 希薄化率が1%未満と見込まれること
② 価額(時価)の総額が1億円未満と見込まれること
<該当条文の抜粋>
(上場会社等の機関決定に係る重要事実の軽微基準) 
第49条 法第166条第2項に規定する投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準のうち同項第一号に掲げる事実に係るものは、次の各号に掲げる事項の区分に応じ、当該各号に定めることとする。
1 法第166条第2項第1号イに掲げる事項 次に掲げるもののいずれかに該当すること。
(中略)
ハ 当該上場会社等又はその子会社若しくは関連会社に対する役務の提供の対価として個人に対して株式又は新株予約権((1)において「株式等」という。)を割り当てる場合においては、次のいずれかに該当すること。
(1) 当該株式及び当該新株予約権の目的である株式の総数が当該株式等を割り当てる日((2)において「割当日」という。)の属する事業年度の直前の事業年度の末日又は株式の併合、株式の分割若しくは株式無償割当てがその効力を生ずる日のうち最も遅い日における発行済株式(自己株式を除く。)総数の100分の1未満であると見込まれること。
(2) 割当日における当該株式及び当該新株予約権の目的である株式の価額の総額が1億円未満であると見込まれること。

2 改正内容

 本改正府令に関する「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」では、①上場会社等又はその子会社若しくは関連会社に対する「役務の提供の対価」として「個人」に対して付与される株式等の具体的な適用範囲、②複数の種類の株式報酬が想定される場合等における希薄化率の計算方法、③1億円の算定方法等の解釈が示されており、主な内容は以下のとおりとなります。

(1) 「上場会社等又はその子会社若しくは関連会社に対する役務の提供の対価として個人に対して株式等を割り当てる場合」の要件について

  • ① 形式的には信託受託者又は持株会に対して株式等を割り当てる場合であっても、上場会社等又はその子会社若しくは関連会社に対する役務の提供の対価として個人に対して株式等を割り当てる場合と実質的に同一であれば、該当する。
  • ② 上場会社等の従業員に株式・新株予約権を割り当てる場合においては、当該株式・新株予約権が労働基準法11条の「賃金」に該当するか否かとは無関係に、上場会社等が当該株式・新株予約権の割り当てを受ける従業員から役務の提供を受けているという事実があれば足りる。
  • ③ 「個人」には、上場会社等との間で、委任、業務委託その他の契約に基づき上場会社等に対し役務を提供する上場会社等の役職員以外の個人も含まれる。
  • ④ 事後交付型の株式報酬制度のように、当該個人の在職中の役務の提供の対価として、当該個人の退職後に株式等を割り当てる場合も含まれる。
  • ⑤ 株式等を付与する際の法的構成として、(1)報酬債権を付与し、それを現物出資させてそれと引き換えに交付する構成(現物出資構成)、(2)報酬債権と払込債務を相殺する構成(相殺構成)、及び(3)払込金額を無償として付与する構成(無償構成)が考えられ、いずれの構成も要件を満たす。

(2)「希薄化率が1%未満と見込まれること」について

  • ① 複数の株式報酬(株式発行・自己株式処分・新株予約権発行)が想定される場合、算定上合算すべきかどうかについては個別具体的な事案に即して実質的に判断される。同一の募集の決定と評価できるのであれば、新株発行・自己株式処分・新株予約権発行の別、内容、付与対象者、発行時期等を問わずに合算される一方、別個の募集の決定と評価されるのであれば、事後的に他の募集の決定と通算されることはない。但し、目的や内容次第では、別個の募集の決定ではなく単に当初の募集の決定内容の変更(付与数、付与対象者、付与時期等の変更)の決定(すなわち新たな(同一の)募集の決定)にすぎないと評価される場合があると考えられる。
  • ② 株式報酬を数ではなく金額により決定している上場会社においては、直近の株価を参考として、見込みの希薄化率を算出し、当該希薄化率が1%未満であると見込まれなくなった時点で株式発行等の決定を重要事実に該当するものとして扱えば良い。
  • ③ 割当日の属する事業年度の直前の事業年度の末日より前に事前交付型の譲渡制限付株式報酬制度(いわゆるRS)の募集を決定した場合であっても、合理的に見込まれる当該末日の発行済株式(自己株式を除く。)を基準に、「発行済株式の総数の100分の1未満」かを判断する。

(3)「価額(時価)の総額が1億円未満と見込まれること」について

  • ① 複数回に分けた株式報酬が想定される場合、1億円未満か否かは、前述(2)の①と同様に判断される。
  • ② 割当日における「株式の価額」(株式の時価)は、株式発行等の決定の日の直前の株価(終値)を参考として割当日における「株式の価額」の見込みの金額を計算した上で、当初は1億円未満であると見込まれていたものの、割当日までの株価の上昇により1億円以上となった場合には、基本的にはその時点から重要事実として認識することとし、当初は1億円未満であると見込まれていなかったものの、割当日までの株価の下落により1億円未満となった場合には、基本的にはその時点から重要事実に該当しないものとして認識する。 但し、割当日までの株価の上昇・下落によって1億円以上となったり1億円未満となったりすることが繰り返されるような場合には、割当日における「株式の価額」が1億円未満であると見込まれないものとして重要事実として認識する必要がある。
  • ③ 「割当日における当該株式及び当該新株予約権の目的である株式の価額の総額」の「価額」とは、株式が割り当てられる場合も、新株予約権が割り当てられる場合も、いずれも、当該株式又は当該新株予約権の目的である株式の割当日における時価、すなわち、基本的には金融商品取引所における割当日又はその直前取引日での当該株式の株価(終値)である。
  • ④ 「割当日における当該株式及び当該新株予約権の目的である株式の価額の総額」に関して、役務提供の対価として無償で株式又は新株予約権を割り当てる場合にも、当該株式及び当該新株予約権の目的である株式の価額を計算する必要がある。


 本改正法の施行日前に、本改正の軽微基準に該当する重要事実が発生していた場合、本改正の施行日から軽微基準に該当するため、当該重要事実については本改正法の施行日からインサイダー取引規制の適用対象外となります。

以上

—–

[1] 金融庁「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令
[2] 金融庁「「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの結果等について
[3] 金融庁「インサイダー取引規制に関するQ&A【応用編】(問7)