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シンガポールにおける整理解雇についての法改正

2020年10月27日(火)

シンガポールにおける整理解雇に関する法改正についてニュースレターを発行いたしました。 

PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール整理解雇についての法改正

 


                                   2020 年10 月号
          シンガポール:整理解雇についての法改正
余剰人員管理および責任ある整理解雇に関する三者機関のアドバイザリーの再更新
1、イントロダクション
2020 年10 月、シンガポール人事省(Ministry of Manpower、MOM)、 シンガポール全国労働組
合会議(National Trades Union Congress、NTUC) およびシンガポール全国雇用者連盟(Singapore National Employers Federation、SNEF)により、2020 年3 月に更新された余剰人員管理および責任ある整理解雇に関する三者機関のアドバイザリー(Tripartite Advisory on Managing Excess Manpower and Responsible Retrenchment 、アドバイザリー)が2020 年10 月に再更新されました。
3 月の更新は、コロナウイルスの蔓延により企業にマイナスの影響が発生したことが理由でした。
政府により多くの支援制度・資金援助1が打ち出されたにも関わらず、今もなお雇用者が従業員を解雇せざるを得ない場合もあるため、三者機関のパートナー(Tripartite Partners) により2020年10 月にアドバイザリーが再更新されました。これにより、雇用者は責任ある整理解雇2を実施しなければならず、これが望ましい結果となるよう確実にしなければなりません。整理解雇は、雇用を継続するための経費節減策を検討した上で実施する最終的な手段であるべきです3
2、三者機関のアドバイザリーに関する主な変更
(1) 「Strong Singaporean Core」の維持
解雇対象従業員は、年齢、人種、性別、宗教、配偶者の有無、家庭での責任や障害に基づくのではなく、従業員の長所や事業の持続可能性を確保するためのスキルといった客観的な基準に基づいて選定されるべきです。MOM は、差別的な雇用慣行についての苦情を調査し、正当な苦情に対しては、雇用者のワークパス(就労ビザ)の特権を制限するなどの強制措置を取ります。


1 SGUnited Jobs and Skills Package(https://www.wsg.gov.sg/SGUnited.html)に登録することで、トレーニング支援スキームや再就職プログラムを利用することができます。
2 整理解雇とは、すぐに欠員補充をする予定がなく雇用者を解雇することを指します。
3 詳細は次のウェブサイトをご参照ください。
https://www.mom.gov.sg/-/media/mom/documents/employment-practices/guidelines/tripartite-advisory-on-managingexcess-
manpower-and-responsible-retrenchment.pdf?la=en&hash=FED5FC78385A29DE079C113C4DBB0871

また、雇用者は、Strong Singaporean Core を維持する必要性など、長期的な視点で労働力需要を
見極める必要があります。整理解雇によって現地従業員の割合が減るようなことがあってはなりません。これは、整理解雇を行う際に、現地従業員の雇用比率が多くなるようにすることで達成可能です。同時に、企業と現地従業員はともに、長期的には、新しい能力を獲得し、外国人従業員から現地従業員への専門的な、ニッチな4、あるいはビジネスに不可欠なスキルの移転がなされるよう努力すべきです。
(2) 責任ある整理解雇の実施
解雇が実施される前の早期に、雇用者は従業員と明確にコミュニケーションを取り、従業員が万一に備えて精神的な準備ができるようにしなければなりません。雇用者は、会社の経営状況を説明し、解雇の実施方法についての概要を説明し、解雇決定の背景にある要因を伝え、提供される支援の内容を明確にする必要があり、これらすべてを従業員の気持ちに配慮して行わなければなりません。
更新されたアドバイザリーでは、次の項目を優れた慣行として推奨しています。
① 可能な限り、契約上または法定の要件5を超えて、より長い通知期間を設けること。これは、組合との労働協約もしくは覚書の中で対処するか、従業員との雇用契約書または会社の就業規則の中で成文化することができます。
② 従業員への解雇通知を担当する管理者は、本人に個別に通知する(そうすることが難しい場合を除く)など、配慮した方法で通知させること。
③ 解雇された従業員からの問い合わせに対応するよう、人事担当者と組合の代表者を現場に配置し、解雇された従業員とのオープンなコミュニケーションチャネルを維持し続けること。
④ 解雇された従業員に職場からの退去を求める前に、通知に適応するための時間と空間を与えること。
⑤ カウンセリング支援の提供など、解雇された従業員の感情的なニーズに敏感に対応すること。
労働組合のある会社の場合は、関連する組合に早めに通知し、組合と雇用者の双方が合意に至るまでフォローし、適宜従業員を支援する必要があります。また、この時点で注目すべきは、雇用者は雇用法上の「整理解雇の報告義務」に従わなければならないという
点です。詳細は下記(3)に記載します。


4 雇用者は、グローバルな能力の移転を加速させるために、能力移転プログラムを利用することができます。
5 勤続 26 週未満の社員の場合、予告期間は 1日となります。
勤続 26 週以上 2 年未満の社員の場合、予告期間は 1 週間となります。
勤続 2 年以上 5 年未満の社員の場合、予告期間は 2 週間となります。
勤続 5 年以上の社員の場合、予告期間は 4 週間となります。

最終的な確認事項として、雇用者が整理解雇を実施する際には、以下の点を考慮することを求められます。
① 現在の経営状況下で整理解雇は正当な手段であるのか。
② 会社は政府の支援を利用し、可能な限り従業員の再教育と戦略的配置に努めてから、整理解雇を実施したか。
③ 会社は整理解雇を実施する前に、他の代替案を実施したか。例としては、柔軟な勤務スケジュール、労働時間短縮、無給休暇などが挙げられます。
④ 会社は、解雇される従業員を選考するために客観的な基準を使用し、その基準が年齢、人種、性別、宗教、配偶者の有無、家庭での責任または障害を理由に従業員を差別するものではないことを確認したか。
⑤ 会社は、整理解雇の実施後、現地従業員の割合が低くならないようにしているか。
⑥ 会社に労働組合がある場合、事前に組合と選考基準および整理解雇手当・給付金について話し合いのうえ合意したか。
⑦ 会社は、経営状況や解雇計画を明確かつ配慮した方法で従業員に伝えていたか。
⑧ 雇用契約、労働協約、雇用法に基づく解雇予告期間を遵守したか。
⑨ 会社は、余剰人員管理および責任ある整理解雇に関する三者機関のアドバイザリーに基づき、整理解雇手当・給付金を支給したか。
⑩ 会社は、雇用促進のためにWSG やe2i を活用するなど、解雇された従業員の転職を支援するための施策を実施したか。
(3) 解雇された従業員への支援 ― ジョブサポート(就労支援)・整理解雇手当 / 給付金

 

整理解雇手当 / 給付金
雇用者は、解雇された従業員が新たな雇用機会を得ることができるように、合理的な手当・給付金を支払うべきです。原則として、勤続年数が2 年以上の従業員が整理解雇手当・給付金の対象となるとされています。勤続年数が 2 年未満の従業員には、給付金の支給が認められています。
整理解雇手当・給付金の金額は、労働協約または雇用契約に規定されている内容で決定されます。規定がない場合は、その金額を、従業員(組合のある会社の場合はその組合を介して)と関係する雇用者間の交渉により決定することになります。現行の基準では、会社の財務状況に応じ、そして業界の標準を考慮し、勤続1年につき2 週間から 1 カ月の給与を支払うのが一般的です。しかし、労働協約で整理解雇手当の額が規定されている、組合のある会社では、通常勤続1年につき1 カ月分6の給与が支払われます。


6役員については、「役員のための組合代表の範囲拡大に関する三者機関ガイドライン」、「役員のための限定的な代表の範囲拡大に関する三者機関ガイドライン」をご参照ください。

さらに、整理解雇が給与カットから短期間で実施される場合、給与カットの目的が整理解雇手当・給与金の支払を減らすことのみとならないよう、解雇前の給与に基づき整理解雇手当・給付を計算すべきです。
また、整理解雇の際には、次のとおり雇用者は政府に通知する義務があることにもご注意ください。
① 雇用者は、雇用法の下で義務付けられている整理解雇の報告を遵守しなければなりません。
② 整理解雇の通知を行うことで、三者機関のパートナーまたは他の関連機関が、解雇された現地従業員が別の就業先を見つけ、就業能力を高めるために関連するトレーニングを見つけることを支援できるようにします。
③ 整理解雇から労働問題が発生した場合、三者機関のパートナーは問題を友好的に解決するために関係者に働きかけることができます。


ジョブサポート(就労支援)
責任ある雇用者は、解雇された従業員が、関連会社や他社での仕事、または再就職支援プログラムを通じて他の仕事を探す手助けをすべきです。雇用者は、雇用/再就職支援機関などの仲介業者を通じて従業員を支援し、可能な限り申し込みに有利な裏付けとなる書類も提供すべきです。雇用者は、労働組合、シンガポール全国雇用者連盟(SNEF)、シンガポールビジネス連盟( Singapore Business Federation 、SBF ) 、ワークフォース・シンガポール( Workforce Singapore)、シンガポール全国労働組合会議の雇用・就業能力向上研究所(NTUC’s Employment and Employability Institute、e2i)、雇用保障評議会(Job Security Council)、U PME センター(UPME Centre)などの労働組合や機関と協力し、解雇された従業員に雇用促進サービス(求職者の就業能力を向上させ、求職者の雇用確保を支援する活動)を提供することができます。
解雇された現地従業員が関連スキルを維持・向上させるために、雇用者は解雇後に従業員に研修パッケージを提供することも検討すべきです。そうするための支援を必要とする雇用者は、SNEF、SBF、他の労働組合・商工会議所、労働組合、NTUC Learning Hub といった研修機関に支援を求めることができます。最後に、解雇を実施したものの後に業績が回復した雇用者は、再び現地の労働力を強化するために現地人員を雇用するよう努力すべきです。
3、まとめ
最新のアドバイザリーは、雇用者が余剰人員を管理し、雇用を継続・保護し、責任ある方法で解雇を実施するための指針となることを目的としています。解雇が早期に通知されることで、三者機関のパートナーが解雇された従業員のために、特に雇用促進の面でより多くのことを実施することが可能となり、これが雇用者、従業員、そしてより広い社会にとってより良い結果を導くことができるようになります。全体として、雇用者は、コア能力を保持し、従業員の忠誠心を鼓舞し、景気回復時においてその強みを発揮できるよう、十分な態勢を整えるように努力すべきです。
                                                                                                                                                        以上

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