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ニュージーランドの外資規制法について

2021年06月15日(火)

ニュージーランドの外資規制法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ニュージーランドの外資規制法について

 

ニュージーランドの外資規制法

One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド担当
加藤 美紀

1.はじめに 

 ニュージーランドの主要な外資規制法は、Overseas Investment Act 2005およびその下位規則であるOverseas Investment Regulations 2005です(以下、「海外投資法」という)。海外投資法は2018年に法改正が始動し、当初は2つのフェーズに分けた法改正が予定されていましたが、第1フェーズが完了した後、コロナの影響を受け昨年に暫定改正法(Overseas Investment (Urgent Measures) Amendment Act)が発令され、急遽政府への通知が必要となる投資基準額が0ドルとなる等の措置(Emergency Notification Regime)が取られました。

 2021年5月に第2フェーズを完了させる改正法案(Overseas Investment Amendment Bill (No.3))が可決され、大部分の改正が来月5日(2021年7月5日)より発効されます。また、それに先立ち、今月7日(2021年6月7日)にはEmergency Notification Regimeが終了し、新基準を設けたNational Security and Public Order Notification Regimeへと移行しています。

 本ニュースレターでは、改正法を踏まえた海外投資法の概要をご紹介します。

2.海外投資法の適用対象

 ニュージーランド政府は、自国の保護が必要なセンシティブな資産の所有・支配を維持しながら、ニュージーランドに高い利益をもたらす外国投資を受け入れることポリシーとし、海外投資法において、(1)保護が必要なセンシティブな土地(Sensitive Land)、(2)重要な事業資産(Significant Business Assets)、漁業・林業等への投資を規制しています。これらの投資を行う場合、海外投資家(Overseas Person)は、管轄当局であるOverseas Investment Officeへ申請を行い、その所属政府機関であるLand Information New Zealandおよびその他関連する政府機関からの承認を得る必要があります。

 (1)まず、センシティブな土地(Sensitive Land)とは、居住用地、5ヘクタールを超える非都市地域の土地(農地など)、および国立公園、遺産、浜辺など所定の土地[1]に隣接する土地を指します。海外投資家が所有権または一定期間以上の賃貸権を獲得する場合に、政府機関からの承認が必要です。現行では承認取得が必要となる賃貸権の期間が3年となっているところ、改正法施行後は10年(ただし、過去および更新後のリース期間を含む)に延長されます。なおこの規制は間接的な投資が行われる場合も適用対象となるため、例えば、上記の権益を保有する事業体の25%を超える証券の取得(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合)についても、当局への申請が必要です。

 (2)次に、重要な事業資産(Significant Business Assets)への投資とは、①ニュージーランドの事業体の25%を超える所有権もしくは支配権を取得し(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合[2])、かつ、対価または事業体の資産価値(のれんや知財などの無形資産の価値を含む)が基準額を超える場合②ニュージーランドにおいて所定の基準額を超える資本投資をして新事業を設立する場合③ニュージーランドにおける事業に使用される資産を所定の基準額を超える対価にて取得する場合、のいずれかを指します。なお、所定の基準額とは、一般的に1憶NZドルですが、日本を含む自由貿易協定国の投資家の場合、優遇措置として2億NZドルが適用されます。

 コロナの影響を受け発令されたEmergency Notification Regimeにおいては、主に、事業体またはその資産の25%を超える所有権または支配権を取得する場合(または、既に25%を超えて保有する証券を50%、75%、100%の各基準値を超えて引き上げる場合[3])に、事業分野や資産の性質にかかわらず、一律0ドル以上の投資について事前承認の取得が必要でした。2021年6月7日をもって当該暫定措置は終了しましたが、それ以前に締結した契約に基づく投資については、投資実行前にEmergency Notification Regimeに基づく承認の取得が必要となるため、留意が必要です。なお、Emergency Notification Regimeは担当大臣の判断により復活させることが可能であり、今後のコロナの影響を含む経済情勢によっては、0ドルの基準額が再度発令される可能性もあります。

 その他の留意点として、上述の取得率(主に25%)以下の金額における取得についても、不均衡に多大な権利(議決権など)が付随するとみなされる場合は規制の対象となるため、基準額・率を下回る投資の場合でも、契約内容に基づく専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

 また、海外投資家(Overseas Person)とは広範に定義されており、ニュージーランドの市民権をもたない個人・ニュージーランド国外で設立された法人等の他に、ニュージーランド法人であっても海外投資家が25%を超える所有権または支配力を有する場合はこれに該当します[4]。さらに、海外投資家の関連者(Associates)が投資する場合も、一体の投資家とみなされ、投資額・率が合計で所定の基準値に達する場合に規制の対象となります。Associatesとは広範に定義されており、直接的または間接的に協調して行動することが合意されている場合なども含むため、留意が必要です。

3.国益および国家安全に関わる審査

 第2フェーズの改正において、新たに(1)「National Interest Test」および(2)「National Security and Public Order Call-In Power」が導入されました。これらは、オーストラリアおよび諸外国の近年の国益・国家安全を保護する外資規制改正の動きに従う法改正といえます。

 (1)National Interest Testは、政府がニュージーランドの国益(National Interest)[5]に基づき外国投資を審査する制度であり、既存制度において承認の取得が必要である投資案件のうち、外国政府投資家(Non-New Zealand Government Investor)[6]またはその関連者(Associates)がセンシティブな土地もしくはニュージーランド事業の10%以上の権利を取得する場合、および戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)が関連する投資の場合に、既存の審査制度に上乗せして適用されます。それ以外の投資についても、国益へのリスクが懸念される場合や、市場の支配に繋がる場合等においても、例外的に政府当局の判断で適用される可能性があります。National Interest Testの対象となる戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)には、港湾・空港、電気・水、電気通信、メディア、軍用または軍民両用技術、その他軍、国家諜報機関または国家安全機関への供給、金融など多岐に渡る重要インフラ事業およびその関連物品・サービス供給事業が含まれます。これに加え、一定の機微な情報を扱う事業体への投資も審査対象となります。

 (2)一方、National Security and Public Order Call-In Powerとは、既存の承認制度の対象とならない案件について、国家安全(National Security)または公の秩序(Public Order)に対するリスクを審査する制度であり、上述の戦略的に重要な事業(Strategically Important Business)に関連する投資は、原則として、投資の結果取得する所有権の割合および金額に拘わらず[7]、全てが適用対象となります。昨年発令されたEmergency Notification Regimeに取って代わる制度で、2021年6月7日以降に合意される案件に適用されます。軍用または軍民両用技術、およびStrategically Important Business の重要直接供給者(Critical Direct Suppliers)に関連する投資は当局への事前通知が義務となっていますが、その他の事業に関する投資行為について通知義務はありません。ただし、適用対象となる案件は当局からの審査要請(Call-In)を受ける可能性がり、審査の結果、重大なリスクがあると判断された場合、取得した事業の売却などの対応を命令される可能性があります。国家安全・公の秩序に対するリスクを根拠とした投資の中止・売却命令等の発令は、それ以外に是正手段がない場合に行使することが可能であり、実務上限定的であることが予想されますが、リスクが疑われる場合は、投資実行前に、自主的に当局へ通知して承認を受けておくことが推奨されます。

4.その他の改正(現行の審査制度、罰則)

 上述の新制度導入の他に、改正前より存在した(1)Investor Test、および保護が必要なセンシティブな土地の取得の審査の適用される(2)Benefits Test等の審査基準が改正されます。

 (1)Investor Testとは、投資家の個人およびビジネス上の適格性を審査する制度で、承認申請にあたり全ての海外投資家(法人の場合は、その支配権を持つ代表者)が対象となるものです。改正前は良い人格を持つこと(Good Character)、商才など多岐に渡り不確実な事項を証明する必要がありますが、改正後は過去の犯罪歴、民事制裁、脱税行為など不正行為の有無に限定されます。

 (2)一方でBenefits Testについては現行法上、センシティブな土地の取得に際し、当該投資が海外投資法に定められた経済、文化、環境など多岐に渡る事項についてニュージーランドへ恩恵をもたらすことを証明する必要があり、一定以上の広さの土地についてはより厳格な基準が設けられていますが、改正後は、これらの基準を限定または撤廃することで、よりフレキシブルに、土地および投資の性質に見合った審査することが可能となります。特に、「ニュージーランドへの恩恵」を図るに、現行法では「(仮想的な)現地投資家が取得する場合」との比較証明が必要ですが、改正後は単純に、投資がされた場合とされない場合との比較となるため、投資家にとっては確実性が上がると想定されます。

 罰則も大幅な改定があり、現行では300,000NZドルの科料上限が規定されていますが、改正法施行後は、最高罰則が、個人の場合は12か月以下の禁固刑または500,000NZドルの罰金、法人の場合は1000万NZドルの罰金に上昇します。

5.おわりに

 ニュージーランドの外資規制は、上記以外にも複雑な規定が存在し、今後も零細規則(例外規定、申請費用など)の改定審議が続きます。また、承認が必要となる案件については、当局の判断で他の関連する政府機関(財務省、遺産・環境の専門機関等)へ審査にまわされることがあり、複雑な案件の場合、各分野の政府機関の判断に数か月以上を要する場合もあります。ニュージーランドへの進出を検討されている企業は今後の動向を注視するとともに、早い段階から専門家のアドバイスを求めることが推奨されます。

以 上

[1] 今回の改正により当該対象地域が限定され、さらに土地の登記簿などで確認が可能となるため、投資家にとって不確定要素が減った形となります。 [2] 改正前は承認の再取得を不要とする所有率の増加は極めて限定的でしたが、第2フェーズの改正にて大幅に規制が緩められ、当該各基準を超えない限り、承認の再取得は不要となっています。 [3] 上記注釈2と同様。 [4] 法改正により、ニュージーランド証券取引所(NZX)に上場するニュージーランド企業、およびニュージーランドのファンド(Managed Investment Scheme)の場合は、別途の優遇基準が適用されます。 [5] 国益(National Interest)はオーストラリアの外資規制と同様に法令上の定義はなく、個々の事情に応じて判断されます。 [6] 外国政府、その下位機関、および1国の外国政府関連投資家が合計で25%を超える所有権または支配権を有する事業体を指します。なお、オーストラリアと同様に、受動的投資ファンドについては、政府系であっても適用が免除される制度の施行が予定されています。 [7] ただし、一部の事業資産、ニュージーランドの上場企業、メディア部門など一部の事業の取得については、優遇基準値が設けられています。また、既に保有する権利の追加取得の場合は、25%、50%、75%といった一定の基準値を超える場合にのみ審査対象となります。