• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

マレーシア雇用法が企業にもたらす利益

2023年07月13日(木)

マレーシア雇用法が企業にもたらす利益についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

マレーシア雇用法が企業にもたらす利益

 

マレーシア雇用法が企業にもたらす利益

2023年7月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Najad Zulkipli

1. はじめに
 マレーシアの雇用の枠組みを規定する主要な法律である1955年雇用法(Act 265。以下、単に「雇用法」)が最近改正され、2023年1月1日から施行されたにもかかわらず、雇用法全体は依然として企業に有利であると認識されている。
 今般の改正により、雇用法は、従業員に対する保護や福利厚生に関してはグローバル・スタンダードに沿ったものとなったが、依然法律に残る制限は、マレーシアで事業を行う投資家にとって魅力的なビジネス環境に貢献している。
 このニュースレターでは、マレーシアが企業にとって魅力的な目的地となる具体的な要因を掘り下げていく。

2. 雇用の枠組み
(1)法律の内容
 マレーシアは、他国に比べ、雇用の枠組みを規定する法律の数が比較的限定されている点に特色がある。以前は、基本的には、1955年雇用法、1971年労使関係法、1959年労働組合法という3つの主要な法律があるだけであり、最近になってようやく、最低賃金法や最低定年法といった重要な法律が導入・施行されたにとどまる。こうした動きは、マレーシアの雇用の枠組みを改善しようとする継続的な努力を示しているといえるが、他方でマレーシアの雇用の枠組みがまだ発展途上であることも示唆している。

(2)雇用主が知っておくべき主な従業員に対する保護と福利厚生
 2023年1月1日以前は、1955年雇用法は月額賃金が2,000リンギット(日本円で約6万円)以下の低賃金労働者のみを対象としていた。改正を踏まえた現在では、賃金水準に関係なく、すべての従業員が、年次休暇、出産・育児休暇、病気休暇、最低額の超過勤務手当など、いくつかの手当を受ける権利を有する。しかし、この改正では、月給4,000リンギ以下の従業員に対してのみ、残業手当、休日・祝日出勤手当、解雇手当などの特定の手当が必須とされるなど、雇用者に有利な制限も残っている。
 前述の福利厚生に加え、マレーシアの従業員は、不当解雇に関して重要な保護を享受している。1971年労使関係法(Industrial Relations Act 1971)に従い、給与水準に関係なく、全ての従業員は正当な理由なく解雇された場合、労働裁判所に訴える権利を有する。

3. マレーシアでビジネスを行うメリット
(1)保守的な最低賃金法。
 最近の最低賃金令(Minimum Wage Order 2022)は、雇用場所に関係なく、従来の最低賃金を月額1,200リンギから1,500リンギに改定した。ただし、2023年7月1日までは一定の適用除外が認められており、従業員5人未満の小規模事業主が新最低賃金を遵守するための時間的余裕が認められている。この調整にもかかわらず、マレーシアの最低賃金は、マレーシアの一般的な経済状況を考慮すると、シンガポールのような近隣諸国と比較すると、依然として比較的低いと考えられている。
 使用者側の視点に立てば、最低賃金の低さは、特に低技能労働者への依存度が高い企業にとって、主に人件費の削減という点で企業にメリットをもたらす。さらに、雇用主は人件費を管理しながら、従業員を追加雇用したり、より多くの労働力を維持したりする柔軟性から利益を得ることができる。その結果、最低賃金の低さは全体的なコスト削減に貢献し、企業の利益率を改善する可能性がある。

(2)労働組合の動きが制限されている。
 マレーシアは経済の安定を海外からの直接投資に依存している。そのため、労働組合の設立は1959年の労働組合法によって規定されているが、他国とは異なり、ストライキなどの労働組合運動の主要かつ強力な手段は一般的に禁止されており、厳格な規約が満たされた後にのみ許可される。これはストライキが経済に悪影響を及ぼしかねないという理由によるものである。
 その結果、マレーシアの雇用主は、従業員の労働組合が社内に存在する場合でも、この禁止令の恩恵を受けることができる。

(3)差別に関する特別な法律はない
 マレーシアは、様々な人種、民族、宗教からなる多様な国民性にもかかわらず、他のいくつかの国とは異なり、マレーシアには性別、人種、性的嗜好による雇用差別を特に禁止する法律がない。最近、職場における差別撤廃と平等が提唱されているが、マレーシアの雇用主は依然として雇用慣行における裁量権を有しており、言語要件(例えば、北京語能力)のような必要と思われる特定の基準に基づいて雇用決定を行うことができ、特定の法律の侵害にさらされることはない。さらに、雇用主が従業員を募集・採用する際に多様性枠を遵守する法的義務もない。

(4)その他の要因-友好的な移民基準
 マレーシアは、専門職レベルから低スキル労働者まで、外国人を歓迎している。より多くの外国人がマレーシアでビジネスを始められるよう、入国管理基準を常に改善している。雇用ビザは短期出張には必要なく、外国人投資家がマレーシアに来て、ビジネスの実現可能性調査、ビジネス契約の締結、またはその他のビジネス目的を制限なく行うことができる。上記に加えて、マレーシアには、外国人の長期滞在を奨励する「マレーシア・マイ・セカンド・ホーム」(MM2H)プログラムという既存のプログラムもある。これはマレーシア政府が2002年に導入したもので、外国人が居住、就労、引退するのに適した目的地としてマレーシアを促進することを目的としている。

4. 結論
 マレーシアの雇用法は、特にパンデミックや新たなテクノロジーによってもたらされた労働環境の変化に対応して、継続的に発展している。とはいえ、マレーシアの現在の雇用の枠組みは、従業員保護がより厳格な国に比べて、ビジネス・フレンドリーな環境を好む傾向にあることは注目に値する。

 マレーシアの当事務所のチームは、様々な雇用問題に関するアドバイスに精通しており、お客様の日々の雇用に関するお悩みを積極的にサポートいたします。当事務所のサービスをご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。