• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

改正特定商取引法の概要

2023年07月14日(金)

改正特定商取引法の概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

改正特定商取引法の概要

改正特定商取引法の概要

2023年7月14日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2021年6月16日、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律[1]」(令和3年法律第72号)が公布されました。この法律により「特定商取引に関する法律[2]」(昭和51年法律第57号。以下「改正法」といいます)が改正され、通信販売の詐欺的な定期購入商法の対策強化、送り付け商法の対策強化、消費者利益の擁護増進のための規定の整備が主に行われました。
 本ニューズレターでは、改正法のうち、2023年6月1日より施行された契約書面等の電子化に係る規定に関して解説いたします[3][4]。

1 概要

 改正前の特定商取引法では、訪問販売等の一定の取引を行う場合、事業者は、次の書面(以下総称して「契約書面等」といいます)を紙にて交付する義務がありました。

① これから勧誘しようとする取引等の概要について記載した書面(概要書面)
② 申込みの内容を記載した書面(申込書面)
③ 契約内容を明らかにする書面(契約書面)

 改正法では、これらの契約書面等について、紙での交付を原則としながら、消費者の承諾を得た上で、当該契約に関する事項を記載した契約書面等を電磁的方法により提供することが可能になりました(改正法第4条2項、第13条2項、第18条2項、第20条2項、第37条3項、第42条4項、第55条3項、第58条の7第2項)。
 以下では、具体的な電磁的方法の種類等、事業者が消費者から電子化の承諾を得る際の定められた手続き、契約書面等を電子化する際の留意点について解説します。

2 電磁的方法の種類及び内容の提示

 事業者は、あらかじめ、消費者に対し電磁的方法による提供に用いる電磁的方法の種類及び内容を示した上で、契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供を行うに当たっての承諾を得る必要があります(改正法施行令 第4条1項)。
 具体的な電磁的方法の種類及び内容は、次のとおりです(改正法施行規則 第9条)。

① 改正法施行規則第8条1項に掲げる方法のうち、事業者が実際に使用するもの(消費者が複数の電磁的方法の中から選択できる場合には、その選択できる電磁的方法の全て)
② 電磁的方法により提供される書面に記載すべき事項が消費者に係る電子計算機に備えられたファイルへ記録される方式(使用されるファイルの規格や要求されるバージョンを指す)

3 契約書面等を電磁的方法により提供する手続き

 事業者が、消費者から、契約書面等を電磁的方法による提供する際には、改正法令で定められた手続きを踏まえて行う必要があります(改正法施行令第4条、第9条、第10条、第21条、第26条、第32条、第35条)。

図 1 契約書面等に記載すべき事項を電磁的方法により提供する際の流れ
(消費者庁取引対策課作成)

(1) 承諾の取得に当たっての説明
 事業者は消費者に対し、以下の事項を説明する必要があります(改正法施行規則第10条1項)

① 電磁的方法による交付の承諾をしなければ、原則どおり書面が交付されること
② 電磁的方法により提供される事項は、書面に記載すべき事項であり、かつ、消費者にとって重要なものであること
③ 書面に記載すべき事項をCD-R等の電磁的記録媒体を交付する以外の電磁的方法で提供する場合においては、消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に消費者に到達したものとみなされ、かつ、到達した時から起算して8日を経過した場合、クーリング・オフができなくなること
④ 電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な電子計算機(映像面の最大径が4.5インチ以上であるもの)を通常使用し、かつ、当該提供を受けるために電子計算機を自ら操作(当該提供が完結するまでの操作)することができる消費者に限り、電磁的方法による提供を受けることができること

 上記の事項を説明する際は、消費者が理解できるように平易な表現を用いなければなりません(改正法施行規則第10条2項)。

(2) 承諾の取得に当たっての適合性等の確認
 事業者は消費者に対して、以下の事項を確認する必要があります(改正法施行規則第10条3項)。

① 消費者が電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な操作を自ら行うことができ、かつ、当該閲覧のために必要な電子計算機及び電子メールにより契約書面等に記載すべき事項を提供する場合には電子メールアドレスを日常的に使用していること
② 消費者が閲覧のために使用する必要な電子計算機に係るサイバーセキュリティを確保していること
③ 消費者があらかじめ指定する者に対しても契約書面等に記載すべき事項を電子メールにより送信することを求める意志の有無及び(消費者が当該送信を求める場合においては)消費者が指定する者の電子メールアドレスを確認すること

 上記の事項を確認するときは、消費者が日常的に使用する電子計算機を自ら操作し、事業者の設けるウェブサイト等を利用する方法により行わなければなりません(改正法施行規則第10条4項)。

(3) 承諾の手続
 消費者から書面又は電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって改正法施行規則第11条で定めるものによって、承諾を得るものと定められています(改正法施行令第4条1項)。情報通信の技術を利用した場合の承諾の取得方法は、次の3つの方法が掲げられています(改正法施行規則第11条1項)。

① 電子メール等によって承諾する旨の送信する方法
② 事業者のウェブサイト等を利用する方法
③ 消費者が電磁的記録媒体に承諾する旨を記録して、当該媒体を事業者に交付する方法

 なお、これらの方法は、事業者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成できるものである必要があります(改正法施行規則第11条2項)。
 さらに、 消費者が真意に基づき承諾したことを確実に担保するために、承諾に当たっては、消費者に氏名等の記入を求め、消費者に一切の必要事項の具体的記入すら求めないチェックボックスやボタン押下による承諾は、政令が定める方式に基づく承諾とはならないことに留意する必要があります(改正法施行規則第10条5項)。

(4) 承諾を得たことを証する書面の交付
 消費者より承諾を得たときは、事業者は消費者に対し、電磁的方法による提供を行うまでに、当該承諾を得たことを証する書面(当該承諾を書面によって得た場合においては、当該書面の写しを含む)を交付する義務があります(改正法施行規則第10条7項)。
 「当該承諾を得たことを証する書面」の記載事項としては、消費者が契約書面等の交付に代えて当該記載事項を具体的にどのような電磁的方法により提供を受けることについて承諾したのかを明らかにされた書面であることなどが典型例として考えられます。ただし、この承諾を得たことを証する書面について、(ア)特定継続的役務提供、連鎖販売取引及び業務提供誘引販売取引において交付される概要書面、(イ)取引全体をオンラインで完結させることが可能な特定継続的役務提供契約及び特定権利販売契約を締結した場合の契約書面に限り、電磁的方法により提供することが認められています(改正法施行規則第99条8項)。

(5) 電磁的方法による提供
 事業者が契約書面等を電磁的方法により提供する方法は、以下の3つの方法が定められています(改正法施行規則第8条1項)。

① 電子メール等によって契約書面等に記載すべき事項を送信する方法
② 事業者のウェブサイトを利用する方法
③ 事業者が記録媒体に契約書面等に記載すべき事項を記録して、当該記録媒体を消費者交付する方法

 さらに、次のとおり上記の電磁的方法として満たすべき基準も規定されています(改正法施行規則第8条2項)。

① 消費者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成できるものであること
② ファイルに記録された書面に記載すべき事項について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置が講じられていること
③ ダウンロードによる方法の場合、ファイルに記録された書面に記載すべき事項を事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する旨又は記録した旨を消費者に対し通知するものであること

 なお、契約書面等に記載すべき事項を電磁的方法により提供するに当たり、事業者は、消費者が当該事項を明瞭に読むことができるように表示する必要があります(改正法施行規則第8条3項)。

(6) 第三者への契約書面等に記載すべき事項の送信
 事業者は、消費者が希望する場合には、契約書面等に記載すべき事項を消費者が指定する者に電子メールにより送信する必要があります(改正法施行規則第10条6項)。
例として、消費者に電子メールで契約書面等に記載すべき事項を提供する場合、消費者が指定する者のメールアドレスも宛先などに加えて電子メールを送信する方法が考えられます。

(7) 到達の確認
 事業者は、契約書面等に記載すべき事項を電磁的方法により消費者に提供したときは、消費者に対し、契約書面等に記載すべき事項が消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録されたか否か及び契約書面等に記載すべき事項の閲覧に支障があるか否かを改正法施行規則第12条で定める方法により確認する必要があります(改正法施行令第4条3項)。
 具体的な確認方法について、消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録され、かつ、消費者が閲覧することができる状態に置かれたことを確認することにより行うこととされています(改正法施行規則第12条)。

4 留意点

 改正法では、一定の行為を契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係る事業者の禁止行為として、行政処分の対象と定められています(改正法第7条、改正法施行規則第18条等)。例えば、契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供を希望しない旨の意思を表示した消費者に対し、電磁的方法による提供に係る手続を進める行為や、契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供を受けるように威迫し困惑させる行為などが禁止されています。
 また、事業者が改正法令上の手続き等に違反した場合、消費者庁より消費者の利益保護等の観点から当該違反行為の是正のための措置、2年以内の業務停止処分、役員等に対する業務禁止処分が行われる可能性があります(改正法第8条、第8条の2)。

 

[1] 消費者庁「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」新旧対照条文
[2] 「特定商取引に関する法律」
[3] 消費者庁「令和3年特定商取引法・預託法改正に係る令和5年6月1日施行に向けた事業者説明会について」
[4] 消費者庁「契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン」
[5] 「特定商取引に関する法律施行令」
[6] 「特定商取引に関する法律施行規則」