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外国ローンの実施条件に関するCircular No.08/2023/TT-NHNNの概要

2023年08月16日(水)

ベトナム国家銀行が2023年6月30日に発出した外国ローンの実施条件に関するCircular No.08/2023/TT-NHNNの概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

外国ローンの実施条件に関するCircular No.08/2023/TT-NHNNの概要

 

外国ローンの実施条件に関するCircular No.08/2023/TT-NHNNの概要

2023年8月16日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

概要

 ベトナム国家銀行(State Bank of Vietnam:SBV)は2023年6月30日、企業が政府保証なく外国ローンを受けるための条件を規定するCircular No. 08/2023/TT-NHNN(以下「新通達」)を発出しました。新通達は2023年8月15日に発効し、これにより2014年Circular No. 12/2014/TT-NHNN(以下「旧通達」)は失効します。

 新通達の改定作業は2022年に始まり、日系企業が多く利用するクロスボーダーの親子ローンに大きな影響を与えるため注目されてきました。2022年5月にパブリックコメントに付された第一草案は、外国ローンを大きく制約する内容であったため、外国投資家をはじめとする経済界から大きな反発を受けました。2023年2月に公表された第二草案では、第一草案にあった外国ローンに対する制約の多くが削除されました。このような経緯を経て発出された新通達は、上記草案にあった外国ローンに対する制約のほとんどを削除しています。ただし、SBVによる外国ローンの管理は従前よりも強化されており、今後の新通達の運用に注目する必要があります。

 新通達において注目される新たな規制としては、外国ローンの借入条件が明確化された点、借入前に外国ローンの使用計画または債務再編計画を詳細に作成する義務が導入された点などが挙げられます。

以下、新通達の概要を紹介いたします。

1.外国ローンの実施条件の明確化

 外国ローンが、短期ローン(借入期間1年以下)と中長期ローン(借入期間1年超)に区分されるのは従来通りですが、それぞれの融資条件は、新通達において以下のように整理されました。

・短期ローン:

 短期ローンの使途は、借入人の外国ローンの再編と短期債務(国内ローン元本を除く)の返済に限定されています。

短期債務とは、投資プロジェクト、事業計画、その他のプロジェクトを実施する過程で借入人に発生する債務を指します。国内ローン元本の借換えに使用することができない点に留意が必要です[1]

・中長期ローン:

 中長期ローンの使途は、a)借入人の投資プロジェクトの実施、b)事業計画またはその他のプロジェクトの実施、c)外国ローンの再編に限定されています。

 なお、上記の外国ローンの再編というのは、新たな外国ローンの資金を用いて既存の外国ローンを返済すること(借換え)を意味します。

(新通達の変更点)

 短期ローンについて、旧通達では、生産・事業計画または投資プロジェクトが融資対象とされていたのに対して、新通達では、これらに加えて、「その他のプロジェクト」が融資対象として認められました。

 中長期ローンについても、同様に「その他のプロジェクト」が融資対象として認められました。その反面、旧通達で定められていた「借入人の直接投資先企業の事業・生産計画または投資プロジェクト」は、融資対象から削除されています。

 ただし、新たに導入された「その他のプロジェクト」については、「投資プロジェクト以外のプロジェクト」と定義するのみです。その他のプロジェクトに、新通達で削除された「借入人の直接投資先企業の事業・生産計画または投資プロジェクト」を含むのか、さらにはそれ以外のプロジェクトまでも含むのかは明白ではありません。SBVによる今後の運用に注意が必要です。

2.外国ローン使用計画または外国ローン再編計画の作成義務

 旧通達では、外国ローンの借入れに際して、借入人に生産・事業計画書の作成を義務付けていました。新通達は、これに代えて、外国ローン使用計画または外国ローン再編計画の作成義務を新たに課します(新通達17条、18条)。

 外国ローン使用計画の記載内容は、a)借入人に関する情報、b)外国ローンに関する情報、c)外国ローンの目的と規模、d)ローンリスクの管理措置などです。とくに、ローンの目的(使途)に関しては、短期ローンと中長期ローンについて、下記の情報を記載しなければなりません。

・短期ローン:

 外国ローンを短期債務の返済に用いる場合、借入人は、資金ニーズ申告書の作成を要します(新通達7条4項)。資金ニーズ申告書には、借入期間内に履行すべき支払債務について、請求書や契約書などの徴憑に基づいて作成した見積もりを記載しなければなりません。

・中長期ローン:

 外国ローンの目的と規模について、事業活動資金の総額、資本構成、外国ローンの規模、外国ローンの支出項目について記載します(新通達7条3項)。

・外国ローン再編計画:

 外国ローン再編計画には、a)債務者の情報、b)既存の外国ローンに関する情報、c)新規外国ローンに関する情報などを記載します(新通達8条2項)。

・借入人の責任:

 借入人は、外国ローンの目的を証明する書類の正確性と真実性に対して法的責任を負い、上記の書類に定められた目的のために外国ローン借入金を使用しなければなりません(新通達17条4項、19条3項)。

・所轄機関の承認:

 外国ローン使用計画と外国ローン再編計画については、所轄官庁の承認が必要です(新通達7条1項、8条1項)。

3.借入限度額の明確化

 新通達は、外国ローンの目的ごとに借入限度額を定めています。

・投資プロジェクトの実施(181項):

 外国ローンの目的が投資プロジェクトの実施の場合、中長期の国内ローン及び外国ローンの元本合計残高が、投資登録証明書(Investment Registration Certificate=IRC)に記載された投資総額と払込済定款資本の差額をこえないこととされます。新通達において、中長期債務の元本のみが上限額に算入され、利子と手数料は除外されることが明記されました。

・事業計画またはその他のプロジェクトの実施(182項):

 所轄機関が承認した外国ローン使用計画に定められた借入必要総額を超えないことが必要です。

・外国ローンの再編(183項):

 海外ローンの元本、未払い利息、関連費用、および海外債務のリストラクチャリング時に決定された新規借入に関連する費用の合計額を超えないことが必要です。

・短期ローン(184項):

 短期ローンは、外国ローン借入限度額の制限を受けません。

4.その他の改正事項

 上記以外の改正事項としては、外国ローンの融資費用の明確化、VND建て外国ローンの明確化、外国ローンに用いられる為替レートの明確化、未使用ローンの預金などが挙げられます。

 新通達は、旧通達と比較して多くの点で規制内容が明確化されています。外国ローンを実施する際に、企業は外国ローン使用計画および債務再編計画の作成に注意を払う必要があります。

 上記の情報は、外国ローンに関する新通達の法的枠組みについてまとめたものです。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

[1] 外国ローンを目的外に違反した場合、6,000万から1億VNDの範囲で罰金が科される可能性があります(Decree No.88/2019/ND-CP第23.4(g)(Decree No.143/2021/ND-CPにより修正))。