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改正電気通信事業法の概要

2023年08月16日(水)

改正電気通信事業法の概要についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

改正電気通信事業法の概要

改正電気通信事業法の概要

2023年8月16日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 電気通信事業を取り巻く環境変化を踏まえ、電気通信サービスの円滑な提供及びその利用者の利益の保護を図るため、「電気通信事業法の一部を改正する法律[1]」(令和4年法律第70号)が2023年6月16日に施行されました(以下「改正法」といいます)。

1 概要

  改正法における改正点[2]は、主に以下の3点になります。

 (1) 情報通信インフラの提供確保
 (2) 安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保
 (3) 電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備

 (1)情報通信インフラの提供確保は、ブロードバンドサービスの契約数が年々伸び、整備に加えて維持の重要性も高まっていることから、一定のブロードバンドサービスを基礎的電気通信役務(ユニバーサルサービス)に位置付け、ブロードバンドサービスの安定した提供を確保するための交付金制度が創設されました。

 次に、(2)安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保に関しては、情報通信技術を活用したサービスの多様化やグローバル化に伴い、情報の漏えい・不適正な取扱い等のリスクが高まるなか、事業者が保有するデータの適正な取扱いが必要不可欠として、大規模な事業者が取得する利用者情報について適正な取扱いを義務付け、事業者が利用者に関する情報を第三者に送信させようとする場合、利用者に確認の機会を付与することが義務付けられました。

 さらに、(3)電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備は、携帯大手3社・NTT東・西の指定設備を用いた卸役務が他事業者に広く提供される一方、卸料金が高額であると指摘されていたため、MVNO等との協議の適正化を図るため、卸役務の提供義務及び料金算定方法などの提示義務が課されました。

 本ニューズレターでは、上記改正点のうち、届出事業者の範囲の拡大[3][4]及び外部送信規律[5]について解説いたします。

 2 届出事業者の範囲の拡大

 電気通信事業を営もうとする者は、電気通信事業法第164条第1項の適用除外を除き、電気通信事業を営むことについて第9条の規定による登録を受け、又は第16条第1項の規定による届出を行う必要があります。

図 1 電気通信事業法の規律対象について
(総務省総合通信基盤局作成)

 改正前は、以下の電気通信事業は、電気通信事業法に基づく登録及び届出が不要とされていました(改正前法第164条第1項)。

① 専ら一の者のみに電気通信役務(当該一の者が電気通信事業者であるときは、当該一の者の電気通信事業の用に供する電気通信役務を除く)を提供する電気通信事業(第1号)
② その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(これに準ずる区域内を含む)又は同一の建物内である電気通信設備により電気通信役務を提供する電気通信事業(第2号)
③ 線路のこう長の総延長が5キロメートルに満たない規模の電気通信設備により電気通信役務を提供する電気通信事業(第2号)
④ 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務(ドメイン名電気通信役務を除く)を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業(第3号。以下「第三号事業」といいます。)

 改正法では、上記④に関し、ドメイン名電気通信役務に加えて、①「検索情報電気通信役務」及び②「媒介相当電気通信役務」についても第三号事業から除外され、新たに届出が必要な対象となりました(改正法第164条第1項第3号ロ・ハ)。①はオンライン検索サービス、②はSNS・掲示板が該当すると考えられ、届出対象となるのは、いずれもその内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして総務省令で定めるものとされており、具体的にはそれぞれ以下のとおりです。

① 検索情報電気通信役務(改正法第164条第2項第4号、改正法施行規則第59条の3第4項)
 「検索情報電気通信役務」とは、利用者が入力した検索情報(検索ワード等)に対応して当該検索情報が記録されたウェブページのドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を電気通信役務のうち、(ア)前年度の月間アクティブ利用者数の平均が1000万以上、(イ)分野横断的な検索サービスを提供するものを指します。

② 媒介相当電気通信役務(改正法第164条第2項第5号、改正法施行規則第59条の3第5項)
 「媒介相当電気通信役務」とは、不特定の者から受信した情報をサーバ等の記録媒体に記録し、当該記録された情報を不特定の者に送信するなどの電気通信役務(不特定者間の情報の送受信を実質的に媒介するサービス)のうち、(ア)前年度の月間アクティブ利用者数の平均が1000万以上、(イ)主として不特定の利用者間の交流を目的としたものを指します。

 なお、検索情報電気通信役務又は媒介相当電気通信役務を提供する事業者は、総務大臣による指定を受けた後に届出が必要となります(改正法施行規則第59条の2)。

3 外部送信規律について

 電気通信事業者又は第三号事業を営む者が、利用者に関する情報を外部に送信を行おうとするときは、あらかじめ、送信される内容等について当該利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならないとする外部送信規律が新たに定められました(改正法第27条の12)。

 外部送信規律の対象となる事業者、利用者に関する情報、事業者が講じるべき措置は、下記のとおりです。

(1) 対象事業者(改正法施行規則第22条の2の27)
電気通信事業者又は第三号事業のうち、ブラウザその他のソフトウェアを通じて、内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少ないものとして、以下の①から④のいずれかに該当する電気通信役務を提供する者とされています。
① 他人の通信を媒介する電気通信役務
(例)利用者間のメッセージ媒介等
② その記録媒体に情報を記録し、又はその送信装置に情報を入力する電気通信を利用者から受信し、これにより当該記録媒体に記録され、又は当該送信装置に入力された情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
(例)SNS、電子掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール等
③ 入力された検索情報に対応して、当該検索情報が記録された全てのウェブページのドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
(例)オンライン検索サービス
④ 上記①から③のほか、不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であって、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの
(例)ニュース配信、気象情報配信、動画配信、地図等の各種情報のオンライン提供
(2) 利用者に関する情報(改正法施行規則第22条の2の30)
「利用者に関する情報」とは、利用者の端末に記録されている情報のことをいい、具体的には、Cookieや広告ID等の識別符号、利用者の氏名等、利用者以外の者の連絡先情報等の幅広い情報が含まれます。ただし、当該電気通信事業者のサービスの提供のために真に必要な情報や、当該電気通信事業者が利用者に送信した識別符号は、外部送信規律における通知・公表等の措置の対象外とされています。
(3) 事業者が講じるべき措置(改正法施行規則22条の2の28~31)

外部送信規律の適用を受ける電気通信事業者は、以下の3つの所定事項について利用者に通知又は公表しなければなりません。
① 当該利用者に関する情報の内容
② ①に規定する情報の送信先となる電気通信設備を用いて当該情報を取り扱うこととなる者の氏名又は名称
③ ①に規定する情報の利用目的

また、通知等又は公表の方法についても規定されており、以下のいずれにも該当する方法により行う必要があります。
(a) 日本語を用い、専門用語を避け、及び平易な表現を用いること
(b) 操作を行うことなく文字が適切な大きさで利用者の電気通信設備の映像面に表示されるようにすること
(c) 上記(a)(b)に掲げるもののほか、利用者が所定事項について容易に確認できるようにすること

なお、通知又は公表に代わって利用者の同意を取得する方法又はオプトアウト措置により外部送信規律への対応を行うことも可能としています。この場合においても、利用者に対し、事前に利用者に関する情報等を通知しなければならない点に留意する必要があります。

 改正法では、事業者が利用者への通知又は公表を行わなかった場合、総務省による業務改善命令の措置をとることができると定められており(改正法第29条第2項)、業務改善命令に違反した場合には、200万円以下の罰金が科されます(改正法第186条第3号)。

 また、総務省による報告徴収及び検査の対象として第三号事業者が追加され、報告徴収及び検査に対する報告を実施しない、又は虚偽の報告をした場合には、30万円以下の罰金が科されるとしています(改正法第166条、第188条第17号)。

 

[1] 総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律」新旧対照条文
[2] 総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律」概要
[3] 総務省「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」
[4] 総務省「電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック」
[5] 総務省HP「外部送信規律FAQ」