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シンガポール法律コラム:第1回 シンガポールの法律と日本の法律の最も大きな違いについて

2023年08月18日(金)

「シンガポール法律コラム:第1回 シンガポールの法律と日本の法律の最も大きな違いについて」と題したニュースレターを発行いたしました。シンガポール法律コラムは、今後も連載の予定となります。
PDF版は以下のリンクからご確認ください。

シンガポール法律コラム:第1回 シンガポールの法律と日本の法律の最も大きな違いについて

 

シンガポール法律コラム
第1回 シンガポールの法律と日本の法律の最も大きな違いについて

2023年8月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

みなさん、こんにちは。One Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。これから、このコラムでは、シンガポールの生活に密着した法律について、日本の法律と比較しながら説明していきたいと思います。第1回となる今回は、シンガポール法と日本法が根本的に異なる制度になっていること、それに基づく注意点について解説いたします。

まず、シンガポールと日本では法律の成立の歴史・根本となる制度が全く異なっています。シンガポールの法制度は、コモン・ロー(判例法・不文法主義)の仕組みに基づいています。コモン・ローは英米法とも呼ばれ、名前の通りイギリスで発展し、アメリカなどに継受された法体系です。シンガポールはかつてイギリスの植民地であったことから、1993年イギリス法受継法(Application of English Law Act 1993)という法律があるなど、1993年以前のイギリス法が有効に適用されることとなっています。もちろん成文法もあるのですが、コモン・ローでは裁判所による判例や過去の慣習が第一の法源であるとされており、そして当事者同士の契約が重要とされています。

他方、日本は、シビル・ロー(大陸法・成文法主義)の仕組みに基づいています。シビル・ローはローマ法などを起源としており、フランスやドイツで発展しました。そして日本はフランスを参考に民法を作成したため、このシビル・ローが日本民法の基礎となっています。シビル・ローの特徴は、予め法律で定められていることにあり、「制定法主義」とも呼ばれています。

このようなコモン・ローとシビル・ローの最も大きな違いがでる場面が、「民法」の有無です。例えば、私たちが、知人に車を販売するとして、その知人が約束の期日にお金を払ってくれない場面を想定してください。日本ではたとえ契約書が作成されなかったとしても、民法が存在するため、民法404条・419条に基づき、法定利率3パーセントの遅延損害金を請求することができます。しかし、シンガポールにおいてはこの民法が存在しないため、遅延損害金を請求したくても、契約書に記載がない限り、請求することができないということになります。つまり、日本における生活・ビジネスにおいては、契約書に書いていなくても、民法の定めにより様々な権利・義務を主張することができる一方、シンガポールにおける生活・ビジネスにおいては民法がないため、契約書に書いていないと、様々な権利・義務の主張ができないという全く逆の結果となるのです。

このため、シンガポールにおいては、(民法がある日本とは異なり)契約書にきちんと権利・義務を記載しないと権利・義務が発生しにくく、契約書のボリュームがどうしても厚くなってしまうのです。このため、日本の常識をシンガポールにそのままもちこんで、契約書なしで取引などを行おうとすると思わぬトラブルに巻き込まれることがありますので、注意が必要です。

 

※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。