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オーストラリアの公益通報者保護法改正

2023年09月11日(月)

オーストラリアの公益通報者保護法の改正についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下のリンクからご確認ください。

オーストラリアの公益通報者保護法改正

オーストラリアの公益通報者保護法改正

2023年8月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

 1.はじめに

 2013年公益情報開示法(Public Interest Disclosure Act 2013(Cth))(以下「PID法」)の最近の改正は、連邦の高潔性を強化し、公共部門における高潔性に関連する継続的な懸念に対処するための、オーストラリア政府による広範な取り組みの一環です。

 2023年公益情報開示改正(見直し)法(Public Interest Disclosure Amendment (Review) Act 2023 (Cth))は、国家汚職防止委員会(NACC:National Anti-Corruption Commission)の開始と合わせて、オーストラリアにおける公益情報開示の状況に大きな変化をもたらすものです。これらの改正は、NACCの設立を補完するだけでなく、PID法を評価した2016年に実施されたモス・レビュー(Moss Review)[1]に由来する勧告に対処することも目的としています。

 本稿では、かような最近のPID法の改正の概要と民間企業への影響について解説します。

2.開示可能な行為と個人の職務に関する行為

 PID法に対する主な批判のひとつは、内部不正行為手続きにより適切に対処できるはずの苦情を報告するために、従業員が頻繁にPID法を使用することでした。この問題に対処するため、改正法は「開示対象行為(Disclosable Conduct)」の定義を改正し、個人的な職務に関連する行為を明示的に除外しました。

 PID法第29A条に定められる新規定においては、個人的な職務に関連する行為には、人間関係の対立、いじめ、ハラスメント、懲戒処分や従業員の異動・昇格に関連する決定事項などが含まれます。このような事柄は、一般的に、報復行為に関わるか、または政府機関に重大な影響を及ぼし、かかる政府機関に対する社会的信頼を損なう可能性がない限り、PID法の開示可能行為には該当しません。この基準が実際に適用されるかどうかは未知数であり、政府機関はこれらの基準に該当する行為かどうかを判断する際に慎重に判断する必要があります。

3.開示対象行為:厳格化された重大性の要件

 改正法は、業務上の行為がPID法の開示対象行為に分類されるための基準を引き上げました。対象となるには、その行為が、職員の解雇を合理的に正当化しうるほど重大でなければならなくなりました。この変更は、関連行為が懲戒処分を受ける可能性があることだけを要求していた以前の基準と比べて、基準が引き上げられたことを意味します。

 個人的な職務に関連する行為に対する適用除外と同様に、開示対象行為の定義に対するこの例外は、特にAPS行動規範(APS Code of Conduct)の違反が1999年公務員法(Public Service Act 1999 (Cth))に基づく解雇の正当な理由であることを考慮すると、解雇を正当化する行為かどうかを評価する際に、各省庁が慎重に判断する必要があるといえます。政府機関、特に公益情報開示(PID:Public Interest Disclosures)を決定する権限を持つ職員は、この基準の実施に備えるべきです。

4.証人の保護措置の拡大

 改正法の第3部は、PIDに関与する証人には認められるが、当初の開示者には認められない保護を明確化し、拡大するものです。これには以下が含まれます:

(a) 「公益情報開示に関連して援助を提供する」個人に免責規定を拡大し、民事、刑事、行政上の責任から保護する。

(b) 証人に対する報復措置からの保護を明示的に拡大し、PID法における従来の空白に対処する。

(c) 報復行為の非網羅的な定義を拡大し、行為の事例を特定することで、さらなる明確性を提供する。  

 新12B条は、証人が故意に虚偽または誤解を招く供述を行った場合を含む、証人の免責に対する例外を導入しています。特筆すべきは、自らの行為に関連する証拠を提供する証人は免責されないことであり、PID調査中にその行為が疑われた場合、政府機関は当該証人に対して懲戒処分を下すことができます。

5.主要役員、認定役員、監督者に課される義務の拡大

 主要役員(Principal Officers)、認定役員(Authorised Officers)および監督者(Supervisors)は、改正法の下、以下を含む追加義務を負います:

(a) PID実施の支援と奨励を確保すること。

(b) 公務員を報復措置から保護すること。

(c) PIDの実施および関連する保護について、公務員、認定役員、および監督者に継続的な研修と教育を提供すること。

 これらの研修要件は、「任命後合理的な期間内」に履行されなければなりません。これらの変更は、各省庁がその職員に上記義務を理解させ、確実に履行させることの重要性を強調しています。

6.NACCの要件と相互作用

 改正法は、2022年国家汚職防止委員会法(National Anti-Corruption Commission Act 2022 (Cth))(以下「NACC法」)に定義される「NACC開示」という新たなカテゴリーの PID を導入します。これは、汚職問題に関する情報が、NACC 法に基づく照会や情報・証拠の提供によって 国家汚職防止委員会(以下「NACC」) に提示された場合を対象とするものです。

 特に、NACC による情報開示は、NACC 法に定義される「汚職問題(Corruption Issue)」に関する情報に限定されます。これには、公務員の公平な権限行使に不利な影響を及ぼす可能性のある行為、公信義違反、職権乱用、公務員による情報の悪用などが含まれます。これらの要素の一部は、PID法における開示対象行為の定義と重複しているため、両カテゴリーに該当する苦情をどのように配分するのかという疑問が生じていました。

 NACC法は、現職員または元職員による「重大または組織的な(Serious or Systemic)」汚職行為をNACCに照会するよう、各省庁の長に義務づけています。このNACCと各省庁の連携により、調査の重複を防ぎ、汚職問題への合理的な対応プロセスが確保されます。

7.民間セクターへの影響

 かような最近の改正は、ほとんどが公共部門に関するものですが、外国企業に実質的に支配されているオーストラリア企業を含む、公共部門と取引する民間企業にも根本的な影響を及ぼすものです。以下に、これらの影響のいくつかを概説いたします。

 公共部門と契約する民間企業

 連邦政府と契約したり、政府機関に代わってサービスを提供したりする民間企業は、PID法の要件に拘束される可能性があります。言い換えれば、政府との契約に携わる民間企業の従業員は、PID法に基づき、業務中に目撃した不正行為を報告する義務を負う可能性があるということです。

 追加の内部告発者保護

 民間セクターの従業員が政府との契約に関連する業務に従事し、または公益サービスを提供している場合は、それらの契約またはサービスの範囲内で発生した不正行為または違法行為の報告について、PID法に基づく内部告発者保護に関する権利が与えられる可能性があります。

 評判とコンプライアンス

 政府との契約やサービスに従事する民間企業は、間接的にPID法の規定の影響を受ける可能性があります。これらの企業は、コンプライアンスを確保し、市場における評判を守るために、これらの規定を認識しておく必要があるといえます。これには、内部告発者保護方針および手順の実施が含まれます。

 調査の可能性

 PID法に基づき、民間企業が関与する政府との契約やサービスの範囲内での不正行為の開示が行われた場合、民間企業を巻き込んだ調査や照会が行われる可能性があり、当該企業の業務や評判に影響を与える可能性があります。

 周知・トレーニング

 連邦政府との取引や公共サービスを提供する民間企業は、特に特定の状況下で内部告発者になる可能性がある場合、PID法の存在と影響について従業員への教育を実施すべきといえます。

8.おわりに

 上述の改正は、公益情報開示の状況に大きな変化が生じたことを意味し、オーストラリアの公共部門と契約してい全ての事業体も、これらの変化に対応するため、引き続き警戒し、積極的に行動する必要性があることを強く示しています。これらの改正が貴社にどのような影響を与えるかについてご質問がある場合、または詳細の説明をご要望の場合は、お気軽に弊所のオーストラリア・ニュージーランドチームまでご連絡ください。

 

[1] https://www.ag.gov.au/sites/default/files/2020-06/Moss%20Review.PDF