シンガポール法律コラム:第3回 シンガポールの弁護士制度と日本の弁護士制度の違いについて
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シンガポール法律コラム
第3回 シンガポールの弁護士制度と日本の弁護士制度の違いについて
2023年10月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎
みなさん、こんにちは、One Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。今回はシンガポールと日本の弁護士制度の違いについて紹介します。
2022年における登録弁護士数は、シンガポール弁護士会によると6,273人とされており、2018年と比べると約1000人増加しています。これはシンガポールにおける人口の約1.1パーセントもの人数であり、日本の約31倍となっています(日本の登録弁護士数は44,101名であり、人口に占める弁護士の割合は0.035パーセント)。
シンガポールにおいては弁護士になるための制度は、日本と大きく異なっています。日本では、予備試験に合格、もしくは法科大学院を卒業した後、司法試験に合格した上でおよそ1年間の司法修習を完了すれば、弁護士資格を得ることができます。そのため、予備試験の場合は早ければ3年、通常の場合はロースクール3年+司法修習1年の合計4年ほどで弁護士になることが可能です。なお、2022年の予備試験の合格率は3.6%、ロースクールの場合の合格率は37.7%でした。
他方、シンガポールで弁護士になるための道のりは日本よりも長いと言われています。前述した通り、日本では、予備試験さえ合格していれば、大学を卒業することなく司法試験を受験することができますが、シンガポールにおいては、指定大学である”National University of Singapore(シンガポール国立大学)”・”Singapore Mangement University(シンガポール経営大学)”・”Singapore University of Social Sciences(シンガポール社会科学大学)”を卒業した上で、司法試験に合格しなければなりません。そして、実際の司法試験ですが、Part Bと呼ばれる筆記試験の「弁護士倫理(Ethics&Professional Responsibility)・企業法実務(Corporate&Commercial Practice)・紛争解決実務(Dispute Resolution Practice)・個人案件実務(Private Client Practice)・近代法務知識(Contemporary Legal Practice & Knowledge)・実務技術(Professional Skills)」に合格しなければなりません。また、シンガポール国外の大学を卒業した人は、Part Bだけではなく、口頭試験のPart Aの「刑法(Criminal Law)・シンガポール司法制度(Singapore Legal System)・会社法(Company Law)・証拠法(Evidence Law)・土地法(Land Law)」に合格しなければなりません。また、上記の試験、合格後もトレーニーとして6ヶ月間(2024年から12ヶ月間に延長する予定)、法律事務所で実務研修に参加する必要があります。そうすると、一般的な場合、シンガポールの大学卒業まで4年+司法試験合格まで1年+実務研修1年で、5年以上かかることとなります。なお、合格率でいうと、Part Bは43.7%となっています。
日本のロースクールに比べるとPart Bの合格率は高いですが、弁護士になるためにかかる期間が日本よりも長いことに加え、上記の一定の指定校を卒業する必要があるため、弁護士になるため長い受験戦争を勝ち抜いてくる必要があるのです。また、弁護士になった後も、人口に占める弁護士の割合が高いため、競争は続きます。他方、シンガポールにおいては、日本のような行政書士、司法書士、社労士などと言われる司法隣接業務と言われる資格はありません。このため、これらの数も含めると、日本における法律に関する専門家の数は必ずしも少なくないとも評価されています。
今回は日本とシンガポールにおける弁護士資格についてご紹介しました。なお、シンガポールはシンガポール指定大学以外の外国の大学を卒業している場合においても、資格を解放していますが、その詳細は別の回でご説明したいと思います。
※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。