日本:インボイス制度の実施に関連した下請法等の考え方及び注意事例
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日本:インボイス制度の実施に関連した下請法等の考え方及び注意事例
2023年11月6日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副 哲
弁護士 黒 﨑 裕 樹
1. はじめに
2023年10月4日、公正取引委員会事務総長による定例会見が開催されるとともに、「インボイス制度の実施に関連した公正取引委員会の取組」が公正取引委員会より公表されました[1][2](以下、会見について「2023年10月4日付け定例会見」といい、配布資料について「2023年10月4日付け配布資料」といいます)。
そこで、本ニューズレターにおいて、インボイス制度の実施に関連した下請法等の考え方や注意事例について、解説いたします。
2.背景
公正取引委員会は、従来、中小企業に不当に不利益を与える行為が独占禁止法や下請法に抵触し得ることを前提に、そういった行為を未然に防ぐために、毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と設定するなどして、下請法の普及・啓発に関わる取組を集中的に行っているところです。
また、2023年10月1日には、従前、公正取引委員会が下請法等との関係で啓蒙してきた、インボイス制度が開始されました。
2023年10月4日付け定例会見が行われて同日付け配布資料が配布された背景には、こういった、インボイス制度の動きや下請法の啓蒙活動が背景にあるものと思われます。
3.経緯
インボイス制度における下請法等の考え方に関する公正取引委員会の公表資料を遡ると、主として、以下の資料が挙げられます。
・「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」[3]
(2022年1月19日公表、同年3月8日改正)
・2023年5月17日付け公正取引委員会事務総長による定例会見記録[4]
・「インボイス制度の実施に関連した注意事例について」[5]
(2023年5月17日公表)
以下、概要をご説明いたします。
⑴「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」
公正取引委員会は、2022年1月19日付けで公表し、同年3月8日付けで改正した「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(以下「Q&A」といいます)において、インボイス制度の概要を説明するとともに、仕入れ等の取引において、取引条件を見直す際には独占禁止法や下請法上の問題が生じうることを注意喚起しています。
具体的には、以下のとおり述べた上、いくつかのパターンに分けて、独占禁止法や下請法上の問題が生じうる場合を説明しています。
Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。
A 事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者との間で取引条件について情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。
自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありませんが、見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要です。
⑵ 2023年5月17日付け定例会見記録及び同日付配布資料
また、公正取引委員会は、前掲Q&Aの公表後、インボイス制度の実施に関連して、独占禁止法違反のおそれのある複数の事例が確認されたことを受けて、違反行為を未然に防止する趣旨で、2023年5月17日付け定例会見において、当該事例について言及するとともに、「インボイス制度の実施に関連した注意事例」を公表しました。
かかる定例会見及び配布資料は、インボイス制度と下請法等との関係性に関する公正取引委員会による啓蒙活動の一環であると思われます。
かかる定例会見及び配布資料の内容は、基本的に、前掲Q&Aを踏襲するものであり、2023年10月1日のインボイス制度開始に向けて、各事業者に対してインボイス制度への対応の準備を求めるとともに、その際に、独占禁止法や下請法等に違反する行為を行わないよう、注意事例を提示したうえで改めて注意喚起していたものと思われます。
4.現状と課題
このようにして、公正取引委員会はこれまでインボイス制度と下請法等との関係性について周知し、違反行為を未然に防止するための啓蒙活動を行ってまいりました。
それでも、インボイス制度が開始される2023年10月1日までの間に、独占禁止法や下請法等の違反事例や相談事例の件数が増加していたことから、改めて、2023年10月4日付け定例会見及び同日付け配布資料を公表するに至ったものと思われます。
この点、2023年10月4日付け定例会見及び同日付け配布資料の内容も、基本的に前掲Q&Aを踏襲するものですが、前掲Q&Aや2023年5月17日付け定例会見及び同日付配布資料には無かった情報として、以下のような内容が整理して掲載されています。
●公表済みの相談事例として以下の3例を再掲しています。
①協同組合が、組合委員と免税取引先との取引において、組合員が消費税相当額を負担しないことを決定すること。
②協同組合の行うチケット事業において、免税組合員に対して従来のチケット換金手数料に加え消費税相当額として仕入れ税額控除に係る経過措置を考慮しない金額を徴収すること。
③協同組合が委託を受けた運送業務を消費税の免税事業者である組合員に再委託を行う場合に、当該再委託の代金について消費税相当額を差し引いて支払うこと。
●実施済みの書面調査を周知するとともに今後も同様の調査を行う旨を宣言しています。
・独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査について
→令和5年5月に11万名の発注者及び受注者に対し、調査票を発送済み。
→令和5年8月に上記受注者からの回答結果を踏まえ、上記以外で調査すべき発注者に対し、追加で調査票を発送済み。
・下請法の定期書面調査
→令和5年6月、8万名の親事業者に対し、調査票を発送済み。
→令和5年11月、30万名以上の下請事業者に対し、調査票を発送予定
・荷主と物流事業者との取引に関する調査
→令和5年9月、3万名の荷主に対し、調査票を発送済み。
→今冬、4万名の物流事業者に対し、調査票を発送予定。
このように、公正取引委員会は、各種調査や啓もう活動を通じて、インボイス制度の実施に伴う取引見直しに際して独占禁止法や下請法違反が無いか、注意して観察しているところです。
発注者や親事業者、荷主としては、インボイス制度をよく理解した上で、取引見直しを行う際には、独占禁止法や下請法に違反することのないよう、慎重な対応が求められています。
[1] 令和5年10月4日付 事務総長定例会見記録 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[2] invoice_souchouteirei_231004.pdf (jftc.go.jp)
[3] 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[4] 令和5年5月17日付 事務総長定例会見記録 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[5] invoice_chuijirei.pdf (jftc.go.jp)