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シンガポール法律コラム :第5回 シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法案(2)(Lease Agreements for Retail Premises Bill)

2024年01月15日(月)

「シンガポール法律コラム:第5回 シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法(2)(Lease Agreements for Retail Premises Bill)」と題したニュースレターを発行いたしました。シンガポール法律コラムは、今後も引き続き連載の予定となります。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

シンガポール法律コラム:第5回 シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法(2)(Lease Agreements for Retail Premises Bill)

 

シンガポール法律コラム
第5回 シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法案(2)
(Lease Agreements for Retail Premises Bill)

2024年1月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

 みなさん、こんにちはOne Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。前回ご紹介したシンガポールの新しい法案、「小売店舗用賃貸借契約法案(Lease Agreement for Retail Premises Bill)」について、今回はその具体的な適用例についてご紹介いたします。当該法案は2024年2月から施行される予定です。

 小売店舗用賃貸借契約法案(Lease Agreement for Retail Premises Bill)は「小売店舗の賃貸借契約に関する行動規範」(Code of Conduct of Leasing of Retail Premises in Singapore、以下「本規範」)の遵守を義務づけています。本規範には大きく4つのパート(Part A: Conduct and Sprit of Negotiations、Part B: Leasing Principles for Key Tenancy Terms、Part C: Data Transparency、Part D: Dispute Resolution & Enforcement of Code of Conduct)がありますが、みなさんのビジネスに関連する多くの内容が定められているのがPart B(主要なテナント契約条件のリースに関する原則)となっており、排他的権利や、契約・広告宣伝などの付随する費用、契約の事前終了、販売実績、保証金、賃料計算式など多岐にわたる事項について定めています。今回は、その中から3つの具体例をご説明いたします。

<具体例1>

 Part Bの2. Costs to Prepare the Lease Agreement and Third Party Costsでは、リース契約に付随する費用の負担について定めています。例えば2.3ではリース契約の準備費用について、「オーナーは、リース契約をビジネス運営の一環として、自身の費用で準備しなければならない」と定めています。さらに、「オーナーは、リース契約の準備で発生した法的料金や行政手数料の支払いを、テナントに要求してはならない」としています。そのため、テナント側が、リース契約を進める中でこういった料金の負担を請求されたとしても、このPart B 2.3が適応されるため、原則として支払う義務はありません。これは以前はオーナー側の弁護士費用などの契約書に関する費用についてもテナント側の負担とされることが多く、テナントとしては過大な請求がされることが多かったため、これを是正する規定となっています。
 しかし、オーナーの標準リーステンプレートが 本規範に準拠したものであり、その上でテナント側が自らリーステンプレートの修正を要求した場合は、テナントが弁護士費用または事務手数料(ただし両方ではない)を負担する必要があるとされているため注意が必要です。このため、オーナー側もテナント側も標準リーステンプレートが本規則に準拠しているかを把握することが重要になります。

<具体例2>

 Part Bの4. Pre-termination by Landlord due to Landlord’s Redevelopment Worksでは、再開発事業に伴うオーナー側のリースを事前に終了する権利について定められています。再開発事業の理由でリースを事前に終了したい場合、オーナーはテナントに対して少なくとも6か月前の書面による通知をする必要があります。また、リースが契約期間より事前に終了された場合、オーナーはテナントに対して補償金を支払わなければならないとされています。そのため、オーナー側から再開発作業の理由によって一方的に契約を終了させられた場合は、本規範に基づいて契約終了に伴う補償金を請求できる場合があります。補償金の計算方法についても本規範に記載されています。これは以前は、再開発事業を理由として、オーナーから補償金なく速やかに立ち退きを要求できていたため、テナントを保護する規定となっています。

<具体例3>

 Part Bの7. Pre-Termination by Tenantsでは、テナントによる契約の事前解約について定められています。テナントは、テナントの商品やサービスの提供を認めている経営主体が倒産した場合や、(テナントの契約違反に起因せずに)販売権やフランチャイズ権を喪失した場合などの特別なケースにおいて、賃貸契約を事前に解約することが認められています。その場合、6か月前の事前通知が必要になりますが、この事前通知期間を待たずして契約を終了したい場合は、代わりに未履行の通知期間に相当する賃料を支払うことで解約することが可能です。例えば、通知後すぐに解約を行いたい場合は6か月の総賃料に相当する金額を支払うことができます。またこの支払う金額は6か月の総賃料を上限としているため、解約に伴いオーナーからそれを超える額が要求されても、原則として支払う義務はありません。これは特別な事情で賃貸借契約を解除せざるを得なくなったテナントの違約金の上限を6か月に限定することでテナントを保護するための規定です。

※上記具体例すべてにおいて、説明した内容が例外的に適用されない場合も存在するため、実際のケースにおいては、本規範の要件を満たしているかどうか専門家に慎重に確認する必要があります。

 

※本稿は、シンガポールの週刊SingaLife(シンガライフ)において掲載中の「シンガポール法律コラム」のために著者が執筆した記事を、ニューズレターの形式にまとめたものとなります。