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マレーシアにおける“Play to Earn”モデルとNFT

2024年02月21日(水)

マレーシアにおける“Play to Earn”モデルとNFTに関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

マレーシアにおける“Play to Earn”モデルとNFT

 

マレーシアにおける“Play to Earn”モデルとNFT

2024年2月
One Asia Lawyers Group Malaysia Team
日本法弁護士 橋本 有輝
アソシエイト Heng Zhenhung

1.はじめに

日本ではここ数年で急激にNFTや“Play to Earn”(遊んで稼ぐ)という言葉を耳にするようになった。また、コロナ禍以降のWeb会議の普及により、どこにいても仕事が出来る環境が整い、海外において研究開発を行うことへのハードルも大いに低下した。

本稿では、上記の状況に照らし、マレーシアにおいて、NFTをはじめとするデジタル資産を用いたビジネスがどのように捉えられるかについて概説し、企業がマレーシアを拠点とする事業展開の可能性について考える一助となることを企図したものである。

2.マレーシアにおける関連法

日本においてNFTを活用したゲーム・アプリ等を開発する際には、何よりそれが「賭博」に該当しないのか?という点が問題となっている。

この点、マレーシアでは、賭博=ギャンブルは、主に1953年マレーシア賭博場法(the Malaysian Common Gaming Houses Act 1953。以下CGHA)と1952年ロト法(the Lotteries Act 1952。以下LA)によって管理されている。そして、ある事業・行為が「賭博」と解釈される場合、財務省のライセンスが必要となる。

CGHAは「賭博」を、金銭または金銭の価値のために偶然のゲーム、または偶然と技能の混合ゲームを行うことと定義している。同様に、「宝くじ」はLAによって定義され、金銭または金銭の価値が偶然または抽選に依存する方法で配当または割り当てられるあらゆるゲーム、方法とされている。

つまり、偶然に左右されるゲームや偶然と技能が混在するゲームは、財務省が発行する必要なライセンスがない限り禁止されているのである。

3.罰則

ギャンブル関連法の違反は、厳しい処罰につながる可能性がある。例えば、CGHA第4条に基づく一般的な賭博場の営業は、重大な犯罪とみなされる。有罪判決を受けた場合、個人には5,000リンギット以上50,000リンギット以下の罰金が科される。これらの金銭的罰則に加え、3年以下の禁錮も科される可能性がある。

さらに、CGHAのセクション4Bに記載されているゲーミングマシンの売買で有罪判決を受けた個人は、押収したゲーミングマシン1台につき1万リンギット以上10万リンギット以下の罰金を支払うことになる。さらに、5年以下の禁錮に処せられることもある。

4.マレーシアにおける“Play to Earn”モデル

以上のような関連法を踏まえると、人気が高まりつつある“Play to Earn”モデルをマレーシアにおいて実施するには、関連する法律を理解した上、法的リスクを軽減する方法を見つける必要がある。

すなわち、Play to Earnモデルでは、ゲームをする者は、ゲームを通じてトークンやNFTを獲得する等して現実世界の価値を得ることができることを企図しているため、マレーシアの賭博の法的定義に該当しないようにするために、ゲームに含まれる偶然性の要素を最小限に抑えることが鍵となる。

例えば“Stepn”のような、偶然のゲームではなく、運動や身体活動を通じて報酬を得るモデルは、興味深いモデルを提供していると思われる。この枠組みは、報酬を得る可能性をランダムな結果から切り離し、代わりにユーザーの活動レベルに直接結びつけている。それによって、偶然性の要素を大幅に減らし、オンラインゲームが「賭博」と解釈されるリスクを回避できる可能性を示している。

5.NFTに対する規制概要

(1) NFTはどのように規制されているのか?

上記説明に関連し、デジタル通貨・トークンがマレーシアにおいてどのように整理されているのかも概観する。

Capital Markets and Services (Prescription of Securities) (Digital Currency and Digital Token) Order 2019(以下Order2019)は、マレーシア法の下で「デジタル通貨」と「デジタルトークン」の両方を同一に分類している。

Order2019によれば、デジタル通貨はデジタル台帳に記録される証券の一種であり、中央当局の裏付けがないことを除けば、物理的な貨幣と同様に商品やサービスの購入に使用できるものを指す[1]

一方、デジタルトークンは、暗号的に保護されているか否かを問わず、分散型デジタル台帳に記録されるデジタル表現を意味しまを意味する[2]。しかし、デジタル通貨とは異なり、デジタルトークンは必ずしも従来の通貨と同じように交換媒体として機能するとは限らない。

この点、NFTは分散型デジタル台帳の一種であるブロックチェーン上にその所有権と詳細が安全に記録されるユニークなデジタルアイテムであるため、上記「デジタルトークン」の定義に当てはまる。

その結果、NFTは2007年資本市場・サービス法の適用を受け、有価証券(securities)としての規制下に置かれることになり(Order2019第3条)、その売買に具体的な規制が課されるほか、証券委員会がNFTの取引を精査する権限が与えられ、トレーダーは利害関係を有するNFTの登録簿を保持することが義務付けられる。

しかし、この有価証券としての分類には、特にOrder2019第3条(2)(d)との関係で曖昧な部分があります。同条項は、NFTが(他のデジタルトークンやデジタル通貨とともに)有価証券に分類されるためには、その取引、転換、償還、または値上がりによるリターンが期待されなければならないと定めています[3]。そのため、NFTが、金銭的な利益を期待せずに取引されることが企図されている場合、有価証券としての分類には疑問が生じる。

例えば、オンラインゲームでは、NFTはデジタル資産として機能し、専用スキン、キャラクター、武器、仮想土地など、さまざまなゲーム内アイテムを表すことができるところ、この場合のNFTを購入する主な目的は、ゲーム体験の向上、ユニークなコンテンツへのアクセス、ゲーム内での自分の存在のパーソナライズなどと考えられる。このような動機は、伝統的な証券取引を特徴づける投資主導の考え方とは異なると評価することが可能である。例えば、プレイヤーがゲーム内の仮想土地の所有権を付与するNFTに投資するのは、土地の価値上昇を期待するためではなく、ゲーム環境の構築、カスタマイズ、制御を可能にすることで、個人的なゲーム体験や楽しみを向上させるためかもしれない。また、NFTが限定イベントへの参加やトーナメントへの出場を結びついていたり、あるいは単にゲーム内の仲間に自分のコレクションを披露するために取得される場合場合もある。このような行動は、金銭的な見返りを期待するよりも、社会的認知や競争上の優位性、個人的な満足感を得たいという欲求に駆られるものと評価することが可能である。

このように、オンラインゲームにおけるNFTは、結果としてその価値が上がる可能性もあるものの、その主な目的と取得・使用される背景から、従来の証券モデルとは異なることが示唆されている。

(2)NFTの利用は賭博法に違反するか?

オンラインゲームシーンにNFTが導入されたことで、上記2に記載した賭博法の観点でも新たな課題が浮上している。この中で重要な概念は、NFTガチャとNFTミント/ブリードの2つである。

NFTガチャモデルは、ゲーム内通貨を消費してランダムなアイテムを受け取るガチャゲームの仕組みを反映したものである。これをNFTに適用した場合、ユーザーはお金を使うことで、希少性や価値が異なるランダムなNFTを受け取ることができる。このような偶然性とランダム性の要素により、「ガチャ」と呼ばれるようになりました。しかし、特にレアリティによって獲得可能額に大きな差がある場合、ギャンブル性の懸念が生じる可能性がある。このため、NFTを購入する行為は、ユーザーが購入したNFTの希少性に基づいて「得か損か」の結果を推測する、偶然のゲームに近くなる可能性があります。

一方、NFTミント/ブリードモデルとは、新たなNFTを創出(「ミント」)するプロセス、または既存のNFTを組み合わせて新たな独自のNFTを創出(「ブリード」)するプロセスを指します。このプロセスには、特に新しいNFTの形質を決定する際に、偶然の要素も含まれる可能性があります。伝統的な「勝つか負けるか」の条件はないものの、偶然性の要素はマレーシア法の下で規制当局の監視を受ける可能性があります。

6.結論

結論として、マレーシアにおけるNFTを巡るの法的状況は、流動的です。オンラインゲーム業界の企業は、法的な落とし穴を回避し、楽しいゲーム体験を提供し続けるために、既存のすべての法律と規制、特に賭博法を確実に遵守する必要があります。

 

[1]  “digital currency” means a digital representation of value which is recorded on a distributed digital ledger whether cryptographically-secured or otherwise, that functions as a medium of exchange and is interchangeable with any money, including through the crediting or debiting of an account
[2]  “digital token” means a digital representation which is recorded on a distributed digital ledger whether cryptographically-secured or otherwise.
[3] (2) A digital token which represents a right or interest of a person in any arrangement made for the purpose of, or having the effect of, providing facilities for the person, where—
(d) the person expects a return in any form from the trading, conversion or redemption of the digital token or the appreciation in the value of the digital token;
is prescribed as securities for the purposes of the securities laws.