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グローバルビジネスと人権:OECD外国公務員贈賄防止条約 国境を越えた反汚職法執行:法制度移植と各国の共鳴現象

2024年04月09日(火)

グローバルビジネスと人権に関し、OECD外国公務員贈賄防止条約 国境を越えた反汚職法執行:法制度移植と各国の共鳴現象についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

グローバルビジネスと人権:OECD外国公務員贈賄防止条約 国境を越えた反汚職法執行:法制度移植と各国の共鳴現象

 

グローバルビジネスと人権:
OECD外国公務員贈賄防止条約 国境を越えた反汚職法執行:
法制度移植と各国の共鳴現象

2024年4月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアSDGs/ESGプラクティスグループ

はじめに

今回のニューズレターでは、日本における腐敗防止への法制度的な取り組みの遅れが、海外へと事業を展開する日系企業にとってますます危険なものとなっていることを説明いたします。何よりも企業にとって注意喚起が必要なのは、最近において特に国際ビジネスに関する様々なソフトローや一般原則的な取り決めが公共政策的な問題を扱い、その執行に対して厳しい国際的な圧力が強まっていることです。それは日本でも見られるようなメディアや世論の圧力だけではありません。OECDや国連といった政府間組織がその下で正式に組織したワーキンググループを通じてのモニタリングを行うことにより強力な圧力をかける方法が成功しつつあります。海外での贈収賄防止に関しては、日本も加盟しているOECD外国公務員贈賄防止条約[1]の履行状況に関して日本は極めて厳しい評価[2]を受けており、その改善を強く促されています。それにもかかわらず、日本政府の動きは緩慢であり、法律関係者もそうした認識が共有されない状況が続いています。しかしそれはすでに待ったなしの状況になっており[3]、それを怠れば日本は腐敗認識指数等の評価において厳しい状況に置かれ、日系企業が海外でビジネスを展開する上で深刻な足かせとなる可能性があります。

本稿の基本的な情報は、この分野の豊富な実務経験を有するフレッド・アインビンダー(Fred Einbinder)氏[4]の最近のいくつかの論文を中心にまとめたものですが、意見は執筆者によるものです。

贈収賄防止に向けた国際的な動向

過去10年間、各国の国内法の整備により、国際的な汚職との戦いに進展が見られました。特に、フランスの「透明性、汚職との闘い及び経済の近代化に関する法律2016-1691」(サパン2法)や英国の贈収賄防止法が著名です。これらの法律が効果的に運用され、刑事・民事制裁の増加や腐敗防止プログラムの広範な採用が促進されました。

これらの国内法の採用を促したのは、米国の制裁やメディア・NGOの批判、OECDの贈収賄審査プロセスへの圧力、ビジネス環境の変化などです。この進展は、国際法、国内法、比較法の相互作用が国境を越えた汚職法の制定に貢献したことを示しています。

以下では、国境を越えた汚職法の比較を通じて、各国が国内制度に外国の概念を統合する可能性について欧州の経験を中心に分析します。これはそれぞれの国の法文化の歴史的、政治的、制度的特徴に基づく慎重な法制度の移植を伴うものです。

具体的には、米国の「司法取引」の慣行が国際協力の機会を提供し、各国での「内部告発」保護の採用が共鳴プロセスの一環として特に注目すべきものです。

多国間企業法の緩慢な発展

A. シーメンス事件(2008年)以前の法律と実務

1977年の海外腐敗行為防止法(FCPA)から始まり、OECDの贈収賄禁止条約まで、最初の20年間は米国が孤軍奮闘した期間であったと言えるでしょう。

最初の域外汚職を取り締まる法律は1977年のFCPAであり、それは米国の多国籍企業による国際的な贈収賄スキャンダルの影響から生まれました。しかし、1998年にOECD贈収賄禁止条約が採択されたことで、米国の努力が国際的な腐敗防止法の柱として結実しました。この条約は先進国のほとんどで採択され、国内法への移植が比較的迅速に行われましたが、しばらくは実務的には変化が見られませんでした。1977年から1997年の間、米国以外ではほとんど強制捜査が行われず、米国企業に対する数件の訴訟が起こされましたが、厳しい制裁には至りませんでした。

OECDの贈収賄防止条約の実施と執行を担当する政府間機関であるWGBは、国際的な腐敗防止の法的枠組みの確立に中心的な役割を果たしてきました。この個別のモニタリング・プロセスが受け入れられるようになり、国際的な「ソフト・ロー」メカニズムが国内法の改正に影響を与える好例として機能しました。国家間条約の形をとっていますが、その内容は各国に対しておおまかな義務を課すものであり、具体的な対応は各国の国内法政に委ねられていました。2000年代半ばまでに、政府や多国籍企業を啓蒙するための努力が成功し、企業行動規範の普及が増加しました。教育、分析、法改正の面では豊かなものでした。しかし、条約の最初の10年間は、執行の面では「失われた10年」と言えるものでした。

B. シーメンス事件とエンフォースメントの活性化

シーメンスが米国司法省(DOJ)および証券取引委員会(SEC)と交渉した「司法取引」は、国際的な汚職の取締りにおける画期的な出来事となり、国際的な汚職への闘いが単なる言葉では済まされず、企業や政府に対して厳しい制裁が必要であることを強力に示しました。

2008年当時、ドイツの巨大産業シーメンスは、ヨーロッパ最大の民間雇用主であり、象徴的な「ナショナル・チャンピオン」でした。シーメンスは、組織的な贈収賄を行い、適切な内部統制や会計上の安全策を欠いており、国際的な贈収賄事件が米国ではなくドイツで初めて摘発されたことも注目すべき点でした。

シーメンス事件はゲームチェンジ的側面をも有していました。シーメンス事件は、企業の収益に直接的かつ重大な具体的コストをもたらし、多国籍の世界戦略の遂行を妨げ、企業の存続そのものを脅かす可能性があることを示しました。しかし事件を取り巻く国際的な法的・協力的枠組みが機能することにより、捜査対象の多国籍企業が自らの危険に拘泥せずに汚職捜査に協力すると言う行動パターンを生み出しました。

シーメンス事件では、イタリアの捜査当局によって最初に摘発され、その後米国とドイツの当局が協力して捜査が行われました。米国当局の行動は企業やその母国政府に恐れを与え、国境を越えた汚職の取り締まりにおいて重要な役割を果たしました。

シーメンスがドイツの「ナショナル・チャンピオン」であることを考慮すると、シーメンスの汚職撲滅に向けた努力はドイツ政府の支援なしには成功しなかったでしょう。政治的な意思は、国境を越えた腐敗防止の努力にとって不可欠な条件であり、成功への鍵となります。

驚くべきことに、こうした国境を越えた腐敗防止執行の成功には、統一された執行実務の採用は必要ではないことも明らかとなりました。シーメンスの事件は、ドイツと米国の当局が別々の道をたどりながらも同じレベルの制裁金に到達したことを示しました。各国の法的伝統やビジネス文化の違いから生じる差異があっても、国境を越えた汚職の取り締まりには成功することが可能です。

シーメンス(2008年)後の展開

A. 自発的なエンフォースメントの失敗事例

2008年のシーメンス事件は、長い間停滞していた国境を越えた反汚職取締りの急速な発展の始まりでした。しかし、英BAE事件や仏アルストム事件が示すように、ドイツが示した模範は、他の主要輸出国には当初は踏襲されませんでした。

英国のナショナル・チャンピオン企業であるBAEシステムズの事件では、国家安全保障や政治的影響が執行を阻む要因となりました。英国政府はSFOの捜査を打ち切り、従来通りのビジネスを優先し、国家安全保障を理由に捜査の妨げとなりました。これにより、英国の刑事司法制度の信頼性や汚職撲滅へのコミットメントに対する評判が揺らぎ、英国の腐敗認識指数は低下しました。

一方でアルストム事件では、フランスの反贈収賄取締りと国境を越えた協力が不十分でした。サパン2法が成立した後も、捜査の遅延や中断、政治的干渉などがあり、十分な効果が得られませんでした。アルストムは米国当局との協力に消極的であり、フランスの企業文化や政治的意思が影響しました。その結果、アルストムは米国当局からの制裁を受け、フランスの国際的評判が低下しました。

B. オデブレヒト事件とエアバス事件:国境を越えた腐敗防止執行の成熟

2010年に英国贈収賄法の成立を契機に、腐敗取り締まりの国際的な動きが活発化しました。この法律の導入は、世界各国での取り組みを促進し、腐敗に対する圧力が増大しました。世界銀行の制裁や準国家機関、NGOなどの活動も、企業の説明責任を高める助けとなりました。

オデブレヒト事件は、2016年に発覚したブラジルの建設業界最大手の一つであるオデブレヒトによる巨額の汚職事件です。この事件では、オデブレヒトが南米全域で行った贈収賄活動が明るみに出ました。スイス当局とブラジルの検察当局の協力により、オデブレヒトの捜査が進展し、2016年12月の司法取引でオデブレヒトは45億ドルの罰金を支払うことで合意しました。この罰金の大部分はブラジルに配分され、スイスと米国にも支払われました。

エアバス事件は、2020年に発覚したフランスの大手航空会社エアバスによる腐敗事件です。この事件では、エアバスが数十億ドル規模の贈収賄活動を行っていたことが明らかになりました。和解案には39億ドル以上の罰金が含まれており、史上最大のグローバルな海外贈収賄事件となりました。この罰金は、フランスのPNF、英国のSFO、米国の司法省との協力によって適切に分配されました。

両事件は、国境を越えた腐敗取り締まりの成熟を示すものであり、国際的な捜査機関の協力や企業の内部調査、適切な罰金の配分などが実現されたことで、国際社会における腐敗対策が強化されたことを示しています。

C. 成功事例の特徴

シーメンス、オーデブレヒト、エアバスの事件は、国際的な汚職の取り締まりにおける成功事例として広く認識されています。これらの事件は、国内法、地域法、国際法、実務における協力の向上をもたらし、多国籍企業に違法行為のリスクを考慮させる重要な要因となりました。

まず、シーメンス事件では、起訴された重大汚職事件が増加し、国際的な汚職防止の重要性が浸透しました。次に、オーデブレヒト事件では、西ヨーロッパを超えた汚職への認識と取り締まりが広まり、南米全域での汚職捜査が進行しました。そして、エアバス事件では、内部調査と自己申告が増加し、企業の透明性と責任の重要性が強調されました。

これらの事件では、本国当局が積極的な役割を果たし、政治的支援の隠蔽が抑制されました。経営幹部の交代や有罪判決、自主的な退職などにより、協力を阻止することができませんでした。このような状況は、企業が違法行為に対処し、責任を取ることを促進しました。

各事件では、集中的な協調と協力が、統一された法的枠組みや執行メカニズムがなくても達成されました。これらの成功事例は、国境を越えた腐敗防止の取り組みが進化し、国際的なビジネス環境における透明性と誠実さの重要性を強調しました。

行動における共鳴司法取引と内部告発

司法取引や内部告発のような米国の反汚職取締りの実務で用いられているメカニズムの統合は、国境を越えた反汚職取締りの発展を促進した可能性があります。しかし、馴染みのない法慣行を外国の法土壌に植え付けようとする試みは、特に、提案された慣行が、既に広く浸透している文化的モラルや基本的な法原則に反すると思われる場合、しばしば抵抗を招きます。そのため、移植が外国の土壌で成功するためには、繊細で知識豊富な「庭師」による法的移植のプロセスに細心の注意を払わなければなりません。継続的な進歩は約束されたものではなく、後に拒絶されたり、成長が阻害されたりするリスクは現実のものとなります。この拒絶と適応のプロセスは、国境を越えた腐敗防止の執行において進行中であり、比較的な分析を必要とします。

A. 司法取引

一部の米国の法曹関係者や海外のオブザーバーは、司法取引が比較的最近の現象であり、企業のFCPA事案の主要な解決手段であることに驚いています。2004年に初めて採用された司法取引は、米国の検察当局や企業クライアントの代理人である法律事務所に広く受け入れられていますが、学界では徹底的に批判されてきました。また、DPA(起訴猶予合意)の普及により、検察官の濫用や利益相反、実践的な裁判スキルの喪失が問題視されています。米国の外国贈賄企業事件でDPAが急速に採用されたことは、司法取引が爆発的に拡大したことを反映しています。

他の法制度とは異なり、ヨーロッパの大陸法制度は刑事事件における交渉による解決に敵対的でした。しかしOECD条約の締約国においては、司法取引メカニズムの利用が主流となっています。そして、フランス、英国、ブラジルなどでDPAのようなメカニズムが認められたことは注目に値します。

フランスでは、CJIP(フランス版起訴猶予合意)をフランス版導入した経験がありますが、外国の概念の導入は本質的に危険であることが示されています。ボロレ事件では、CJIPに期待された利益が裁判官によって拒否されるなど、問題が浮き彫りになりました。このような外国の法概念の導入は、国際法エリートの常識がすべての法曹関係者や市民社会と共有されるとは限らず、逆にその変化を敵視する可能性もあることを示しています。

B. 内部告発制度

内部告発の利用をめぐる国内的な議論は、米国が長年にわたって金銭的インセンティブを利用してきたという認識を中心に結晶化しています。司法取引に関する議論とは異なり、内部告発の採用をめぐる論争は、その移植が歴史的な社会的・企業文化的規範に反するのではないかという懸念が中心です。フランスやドイツなどの国々では、内部告発の慣行に対する反感が広がっていますが、内部告発は限定的で規制された範囲ではあるものの、多くの分野で受け入れられつつあります。

内部告発は、国境を越えた腐敗防止執行のための基準や仕組みが異なることから、比較法研究や実証研究に値する実験の機会として前向きに捉えるべきです。国際的な一般原則は文化的変化を促進し、執行を強化する可能性がありますが、厳格な規範の押し付けは効果的な実施を危うくする可能性があることに留意する必要があります。

法制度の移植に伴う反作用:米国への影響

米国がFCPAを施行した当初、その取締りには疑問が残りましたが、米国当局と米国を拠点とする多国籍企業はFCPAの法的枠組みに慣れ親しみ、外国からの贈収賄は違法であり、「通常通り」のビジネスを続けることは危険であると認識しました。このような実質的な先行性、米国経済の優位性、米国の刑事手続の特殊性により、米国は国境を越えた反汚職取締りの発展に影響を与える立場にありました。

本稿では、米国の腐敗防止の実践が、他国の腐敗防止の経験から得られるインスピレーションから恩恵を受ける可能性があるとの見解を支持します。あらゆる法律の移植と同様に、アメリカの法律と実務に有用なメカニズムを移植するには、細心の注意を払わなければなりません。被害者のFCPAにおける私的権利と、DPAの実質的な司法審査という2つの提案は、アメリカ法の基本原則に抵触しないように思われるため、潜在的な「反作用」の対象として適切であると考えられます。

A. 海外贈賄の被害者に対する私的訴権の創設-フランスの経験

FCPAは私的訴権を規定しておらず、被害者に補償を求める訴えを認めるようFCPAを改正しようとする試みも失敗に終わっています。フランスでは、外国人贈収賄事件において、不当利得を回復するための私的訴訟を特権的に認めています。このような仕組みを設けることは、被害者がフランスの刑事手続きに完全に組み込まれることを保証し、汚職被害者の代表が汚職公務員を裁くことができるようになりました。

フランスにおけるこの成功は、米国の執行当局、政治家、実務家、学者が注意深く研究すべきものであり、外国贈収賄の被害者のための正義の獲得が支援される可能性があります。

B. 司法取引の合意内容と司法審査の導入-英国モデル

アメリカの司法取引、特にDPAの交渉は、学者や一部の裁判官によって厳しく批判されてきました。しかし、検察官と弁護人は、この慣行に慣れてしまっているように見えます。DPA締結の前提条件である内部調査を引き受ける国際法律事務所には莫大な金銭的機会が与えられており、米国の実務家や、この分野への参入を希望する外国人弁護士による推進が拡大しています。

米国における司法審査の導入は難しい課題ですが、英国の例は綿密に研究されるべきであり、司法取引の潜在的なリスクを懸念する司法省の法律家や弁護人は、その将来的な価値に注目すべきです。英国の法律では、被告人が司法取引を交渉した場合に科される最高刑の「表示」が知られており、裁判官はDPAの予備的承認を求めるのが一般的です。

国際的な腐敗防止執行に関する法律と実務が、国際的な「ソフトな」法規範へと結晶化することで、国内の変化に対する強い抵抗に打ち勝つことができることがわかります。

結論

シーメンス事件、オデブレヒト事件、エアバス事件は、国境を越えた腐敗防止執行協力の発展を通じて実質的な進展があったことを示しています。これらの画期的な事例は、国境を越えた腐敗防止執行協力の進化における飛躍的な進歩を表しています。これらの事例は、シーメンスにおける国境を越えた協力の実態、オーデブレヒトにおける欧州の国境を越えた協力の拡大、および取締当局間の調整と協力の強化を通じて成熟度を増していることを示し、国際的に共鳴しています。

このような国際的な法制度移植の共鳴プロセスは、2016年のフランスのサパン2法や2010年の英国の贈収賄防止法が最も影響力のある革新的な腐敗防止法の制定によっても示されています。これらの法的枠組みや執行メカニズムの採用は、従来の国内慣行とはしばしば大きく異なりますが、これは国際法、国内法、比較法のダイナミックな相互作用の結果です。このプロセスは、「国境を越えた腐敗防止協力」において一定の成熟を達成したと言えるかもしれませんが、反発が再発のリスクを排除することはできません。

外国の法概念の移植に成功した場合、常に導入国の法文化の基本的な歴史的、政治的、制度的特徴を考慮に入れる必要があります。この段階的な法制度移植のプロセスの正確な性質は、法律家だけでなく社会科学者にとっても価値ある研究対象であると言えます。

本稿では、OECD加盟国の多くでDPAのような執行メカニズムが広く採用されていること、また、内部告発者保護の枠組みが広くはないが、いずれもアメリカの法律と実務から生まれたものであることを検討することで、国際的な共鳴の顕在化に焦点を当てました。

現時点において、OECDが日本政府に対して条約の履行に向けた大きな圧力をかけていることから、日本法もこうした法制度の国際的な協調のプロセスに積極的に加わっていくことが強く求められています。(以上)

 

〈注記〉本資料に関し、以下の点をご了承ください。
・ 本ニューズレターは2024年4月時点の情報に基づいて作成されています。
・ 今後の政府による発表や解釈の明確化、実務上の運用の変更等に伴い、その内容は変更される可能性がございます。
・ 本ニューズレターの内容によって生じたいかなる損害についても弊所は責任を負いません。

 

[1] OECDは本条約の目的を次のようにまとめている。本条約は「贈賄取引の「供給側」、すなわち賄賂を提供、約束、贈与する個人または団体に焦点を当てた最初で唯一の国際的な腐敗防止制度である。法的拘束力のある国際協定として、この条約の締約国は、外国公務員に対する贈収賄を自国の法律で犯罪として確立し、この犯罪を捜査、起訴、制裁することに合意している。」
さらに汚職の弊害を次のように説明している。「汚職には、どの国も許容できないコストがかかる。例えば、道路建設、水インフラ、医薬品、電力などの分野で外国企業に契約を発注する際、公務員が賄賂を受け取った場合、深刻な被害が生じる。劣悪な製品やサービスによる人的被害に加えて、贈収賄は市場の機能を狂わせ、経済発展を損なう。OECD贈収賄防止作業部会は、各国の贈収賄防止条約の履行を監視し、その義務の遵守を確認することにより、国際貿易・投資における外国公務員に対する贈収賄と闘うための世界的な取り組みを主導している。外国公務員贈収賄との闘いは、贈収賄防止条約の全締約国45カ国を結束させる中核的な共有価値である。この闘いに対する締約国のコミットメントは、いかなる政府も市場経済も、贈収賄にまみれていては効果的に機能しないという認識に基づいている。」
https://www.oecd.org/corruption-integrity/explore/oecd-standards/anti-bribery-convention/

[2] こうした各国のモニタリングによる評価は次のようなシステムによって行われる。
https://www.oecd.org/daf/anti-bribery/countrymonitoringoftheoecdanti-briberyconvention.htm
「各国のOECD贈収賄防止条約の履行と執行は、OECD贈収賄作業部会が厳格なピアレビュー・モニタリング・システムを通じて監視している。条約締約国は、異なる贈収賄作業部会加盟国の専門家が各評価国の審査官となり、同業者による審査を受ける。トランスペアレンシー・インターナショナルは、この監視メカニズムを監視の「ゴールドスタンダード」と位置づけている。」
プロセス:
モニタリング・プロセスは、特定の合意された評価手続きに従う。モニタリング・プロセスはすべての締約国に義務付けられており、非政府関係者との会合も含まれる。被評価国には最終報告書と勧告に対する拒否権はなく、すべての評価報告書はOECDのウェブサイトで公開される。
国別モニタリング報告書国別モニタリングはいくつかのフェーズに分けて行われる:
フェーズ1では、外国贈収賄と闘い条約を実施するためのその国の法的枠組みが適切かどうかを評価する。
フェーズ2では、その国が実際にこの法律を適用しているかどうかを評価する。
フェーズ3では、執行と分野横断的な問題、およびフェーズ2からの未実施の勧告に焦点を当てる。
フェーズ4では、特定の国のニーズに合わせた執行と分野横断的な問題、およびフェーズ3の未実施勧告に焦点を当てる。
評価報告書の採択後、OECD贈収賄ワーキング・グループは、被評価国がワーキング・グループの勧告を実施するための努力を監視する。被評価国がこれらの勧告を効果的に実施するための行動をとらなかった場合、OECD贈収賄作業部会は、被評価国のOECD贈収賄防止条約の不十分な実施又は継続的な不履行に対処するための追加的措置を採用することができる。
OECD 贈収賄防止条約の不十分な履行:
OECD贈収賄防止条約が十分に実施されていない、あるいは継続的に適切に実施されていない国の場合、以下のような更なる措置が検討される:
Bisの評価: ある国が条約を十分に履行していない場合、または初回評価において満足のいく現地訪問を手配していない場合、作業部会は、通常「bis評価」として知られる再評価の実施を決定することができる。
被評価国による迅速な追加報告: 被評価国に対し、条約および2021年贈収賄防止勧告の実施状況について、迅速ベースで定期的な報告を求める。従って、被評価国は、作業部会の各会合でその進捗状況を報告するよう求められる可能性があり、一定の期間内に大幅に遵守されることが期待される。報告書には、進捗状況の簡単な分析を添付することができ、事務局がこれを作成し、作業部会での承認を経て、オンラインで公表することができる。
モニタリング・サブグループの結成: 本会議で選出された作業部会メンバーから成るグループが、事務局と協力して、当該国との直接会談の開催を含め、進捗状況をレビューし、次に取るべき措置について作業部会に提案する責任を負うことができる。
被評価国の関係大臣に書簡を送る: 作業部会議長から被評価国の関係大臣に書簡を送り、条約および2021年贈収賄防止勧告が適切に実施されていないことに注意を喚起することができる。
被評価国への技術使節団の組織: 被評価国への技術使節団を手配し、条約及び関連勧告の実施及び執行に関する懸念について議論することができる。
被評価国へのハイレベル・ミッションの開催: このメッセージを強化するため、被評価国へのハイレベル・ミッション(作業部会議長、腐敗防止課長、作業部会メンバーの代表団長数名で構成)を手配することができる。ミッションは閣僚や高官と面会する。
OECD ウェブサイトでの正式な公式声明の発表:参加国が条約および2021年贈収賄防止勧告を十分に遵守していないとの公式声明を発表し、条約の迅速な実施を要請する。
行動計画の要求:作業部会は、評価国に対し、作業部会が特定した条約実施上の特定の欠陥に対処するための措置案を作成するよう求めることができる。
デューデリジェンス警告の発行:作業部会は、被評価国の不十分な条約履行がその国の企業に対するデューデリジェンス強化の適用を正当化する可能性があることを強調する公的声明を発表することができる。
外交的関与の要請:作業部会は、被評価国に対し、作業部会の懸念事項や、被評価国の政治状況に照らして条約を実施するための潜在的な解決策を議論するため、大使またはその他の外交代表が次回の本会議に出席するよう手配するよう求めることができる。
優先度の高い未実施勧告の公表:作業部会は、被評価国に対して出された重要な勧告や長期にわたる未実施勧告に、「優先度の高い未実施勧告」というラベルを付けることができる。このようにラベル付けされた勧告は、OECDのウェブサイトで公表される。
被評価国の次のモニタリング段階への進級停止:作業部会は、被評価国の次のモニタリング段階への進出を一時停止することを決定できる。作業部会は、2年ごと、またはそれ以前に作業部会メンバーからの要請があれば、一時停止の決定を見直す。評価対象国が一時停止された場合、その国は「非準拠」作業部会メンバーとして特定される。

[3] 日本に対する上記作業部会の評価レポート等はすべて次のウェブサイトから閲覧できる。(https://www.oecd.org/daf/anti-bribery/japan-oecdanti-briberyconvention.htm
直近のレポート(2021 Phase 4 two-year follow-up report)の冒頭部分では次のような厳しい評価がなされており、現在も改正に向けた作業が進行中であると思われる。
「1.2021年10月、日本はOECD贈収賄作業部会(「作業部会」又は「WGB」)に対し、51の勧告を実施し、2019年6月のフェーズ4報告書に含まれるフォローアップ課題に対処するために取られた措置を概説する、書面による2年間のフォローアップ報告書を提出した。日本のフォローアップ報告書に基づき、作業部会は、日本が7つの勧告を完全に実施し、23の勧告を部分的に実施し、21の勧告を実施していないと結論付けた。
2. 全体として、フォローアップ報告書は、OECD贈収賄防止条約の履行が引き続き不十分であることを浮き彫りにしている。一部の勧告はフェーズ2以降に作業部会が提起した問題を反映しているにも関わらず、である。特に、作業部会は、日本の海外贈収賄罪の執行が弱いことを懸念している。フェーズ4報告書では、日本の執行率が、日本の経済規模や輸出志向の性質、あるいは日本企業が事業展開するリスクの高い地域や部門に見合っていないこと、特にこれまでに制裁を受けた法人の数がごくわずかであることに関して、大きな懸念が提起された。こうした懸念は、本報告書の時点でも有効である。フェーズ4以降、制裁を受けたのは、比較的軽微なケースで2名のみである。1999年以降、2021年7月現在までの合計で、6件の外国贈収賄事件で有罪判決を受けたのは、14人の個人と2人の法人のみである。制裁に至った2件を除き、日本は、2020年7月の日本の追加的1年文書フォローアップ報告書の後に関係閣僚に送られた書簡を含め、作業部会がこの点に関して繰り返し要請したにもかかわらず、フェーズ4以降の外国贈収賄の調査および訴追に関する情報を提供しなかった。(以下省略)

[4] 同氏は米国弁護士でフランスのアルストム社に1998年から14年間勤務しジェネラルカウンセル及びCLO経験されている。当然ながら本稿が含む誤りはすべて執筆者の責任によるものである。本稿が最も多く参照したのは次の論文である。
Fred Einbinder, BORROWINGS AND BOOMERANGS: A COMPARATIVE LAW PERSPECTIVE ON RESONANCE IN TRANSNATIONAL ANTI-CORRUPTION LAW ENFORCEMENT, 21 J. Int’l Bus. & L. 137 (2022)