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グローバルビジネスと人権: EU 企業の持続可能性デュー・ディリジェンスに関する指令の採択

2024年06月11日(火)

グローバルビジネスと人権に関し、「EU 企業の持続可能性デュー・ディリジェンスに関する指令の採択」と題するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

グローバルビジネスと人権: EU 企業の持続可能性デュー・ディリジェンスに関する指令の採択

 

グローバルビジネスと人権:
EU 企業の持続可能性デュー・ディリジェンスに関する指令の採択

2024年6月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアESG/SDGsプラクティスグループ

1 はじめに

 2024年5月24日、欧州連合理事会は、企業の持続可能性デュー・ディリジェンスに関する指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)を採択しました。この指令の目的は、企業の事業活動およびそのグローバルバリューチェーン全体において、持続可能で責任ある企業行動を促進することにあります。

 本稿では、現在EU公式サイト[1]で公表されている情報を基に、本指令の要点をお伝えいたします。後記のとおり、約3年後から段階的な導入が始まりますので、適用可能性のある企業は、早めに対応を進める必要があります。

2 本指令のもたらす利益

(1) 市民にとっての利益

  • 労働権を含む人権のより良い保護
  • 気候変動への適応を含む現世代および将来世代のための健康的な環境
  • 企業への信頼の向上
  • 情報に基づいた選択を可能にする透明性の向上
  • 被害者の司法アクセスの向上

(2) 企業にとっての利益

  • EUにおける統一された法的枠組みによる法的確実性と公平な競争環境の創出
  • 顧客の信頼と従業員のコミットメントの向上
  • 企業の人権および環境への悪影響に対する認識を向上させ、責任リスクを軽減する
  • リスク管理の向上、強靭性の強化、競争力の向上
  • 人材、持続可能性志向の投資家および公共部門に対する魅力の増加
  • イノベーションのインセンティブの増加
  • 資金調達能力の向上

(3) 発展途上国にとっての利益

  • 人権および環境保護の向上
  • 持続可能な投資、能力構築、バリューチェーン企業への支援
  • 持続可能性に関する実務の改善
  • 国際基準の普及の促進
  • 住民の生活条件の改善

 企業の義務

(1) 企業の義務

 この指令は企業に対して、デューデリジェンスの実施を義務づけるものです。この義務の核心要素は、企業自身の事業活動、子会社、およびバリューチェーンに関連する場合にはビジネスパートナーの事業活動における潜在的および実際の人権および環境への悪影響を特定し、対処することにあります。さらに、この指令は、大企業に対して、パリ協定の2050年気候ニュートラル目標および欧州気候法の中間目標に沿った気候変動緩和のための移行計画を最善の努力をもって採用し、実施する義務を定めています。

(2) 対象企業

 (i) EUの大規模な有限責任会社およびパートナーシップ

 従業員1,000人以上および世界全体で450百万ユーロ以上の売上高(純額)

 (ii)非EUの大規模な企業

 EUで450百万ユーロ以上の売上高(純額)

 本指令には、対象範囲およびバリューチェーン内での負担軽減が含む、企業が遵守しやすくするための規定と、企業の負担を軽減するための規定が含まれています。

 (iii)中小企業

 中小零細企業は規則の対象外とされています。ただし、この指令は、バリューチェーンにおけるビジネスパートナーとして間接的に影響を受ける可能性のある中小企業に対する支援および保護措置を提供しています。

(3) 対応コスト

 企業が負担すべき費用は以下のとおりです。

  • デューデリジェンスプロセスを確立し運営するための費用
  • 必要に応じて、自社の事業活動やバリューチェーンをデューデリジェンス義務に適応させるための支出および投資を含む移行費用

 本指令の執行方法

 新しい規則は次の方法で執行されます。

(1) 行政監督

 加盟国は、規則を監督および執行するための権限を持つ当局を指定します。各当局は、差止命令や有効で適切かつ抑止力のある罰則(特に罰金)を通じて規則を執行します。欧州レベルでは、監督当局の欧州ネットワークを設立し、欧州委員会が各国の代表者を招集のうえ、協調的なアプローチを確保します。

(2) 民事責任

 加盟国は、故意または過失によるデューデリジェンスの不履行により発生した損害について、被害者が補償を受けられるようにします。

 今後の流れ

 本指令は欧州連合官報に掲載されてから20日後に発効します。加盟国は、2年間の猶予期間内に本指令を国内法に転換し、関連する文書を欧州委員会に通知することとされています。その1年後から発行し、発効後3年から5年間の段階的導入を経て、各規則が企業に適用されます。

 また、欧州委員会から関連するガイドラインが発行される予定です。

(以上)

 

〈注記〉本資料に関し、以下の点をご了承ください。

  • 本ニューズレターは2024年6月時点の情報に基づいて作成されています。
  • 今後の政府による発表や解釈の明確化、実務上の運用の変更等に伴い、その内容は変更される可能性がございます。
  • 本ニューズレターの内容によって生じたいかなる損害についても弊所は責任を負いません。

 

[1] https://commission.europa.eu/business-economy-euro/doing-business-eu/corporate-sustainability-due-diligence_ena