グローバルビジネスと人権: UNGPsにおける事業レベルでの苦情処理メカニズム
グローバルビジネスと人権に関し、「UNGPsにおける事業レベルでの苦情処理メカニズム」と題するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
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グローバルビジネスと人権:
UNGPsにおける事業レベルでの苦情処理メカニズム
2024年6月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアSDGs/ESGプラクティスグループ
1 はじめに
本稿では、コンプライアンスやビジネスと人権の視点から、内部通報制度や苦情処理メカニズムについて説明します。今年6月から施行された公益通報者保護法の実務に関する具体的な説明は別途行いますが、企業レベルで設定される内部通報窓口と、より公益的な視点から設定される通報制度との関係についても触れます。
まず、「ビジネスと人権」に関するルールの理解は現代の企業経営において不可欠です。国連が主導する国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、企業に対して人権を尊重する責任を明確に定義しています。この責任は企業が事業を行う地域にかかわらず期待されるグローバルな行動基準であり、国家の人権義務とは独立して存在します。国家の義務を軽減するものではなく、人権を保護する国内法や規則を超えて、その上位に位置します(指導原則11・解説)。
企業がこの責任を果たすためには、適切な苦情処理メカニズムの設置が重要です。これにより企業は人権への影響を特定し、防止し、是正するプロセスを確立できます。また、内部通報制度との関連を考慮し、継続的な学習を通じて内部統制やリスクマネジメントを強化することも必要です。
以下では、 まず企業が「ビジネスと人権」に関する責任を果たすための具体的なポイントについ見ていきます。 そしてそれとの関連で苦情処理メカニズムについて説明を行います。
2 UNGPs (「ビジネスと人権」に関する指導原則)の基本的な理解
1) UNGPsの3つの柱
UNGPs(国連ビジネスと人権に関する指導原則 2011)の3つの柱は以下の通りです:
国家の人権保護義務: 国家は国際人権体制の中核に位置し、人権を保護する義務を負います。
企業の人権尊重責任: 社会がビジネスに対して有する基本的な期待に基づき、企業は人権を尊重する責任があります。
救済の提供: すべての人権侵害を完全に防止することは不可能であるため、救済の途が開かれています。これは司法的なものだけでなく、非司法的なものも含まれます。
これらの柱は、防止および救済の手段として相互に連関し、動的な体系を構成する重要な要素です。
2) 国家と企業の既存の基準と慣行の体系化
指導原則の規範的な貢献は、新たな国際法上の義務を創設することではなく、既存の基準と慣行の影響を詳細に検討し、それらを論理的に一貫した包括的なひな型にまとめることにあります。これにより、現在の体制の不足部分を明確にし、改善策を示すことが目的です。指導原則は、棚から取り出してすぐに使えるツール・キットではありません。原則自体は普遍的に適用可能ですが、その実現手段は多様な現実に対応する必要があります。192の国連加盟国、80,000の多国籍企業とその10倍の子会社、さらには数え切れない中小企業が存在する世界では、一つのひな型ですべてに適合することはありません。
3) 企業のグローバルな人権尊重責任
企業が人権を尊重する責任は、事業を行う地域にかかわらず、グローバルな行動基準として期待されるものです。この責任は、国家がその人権義務を果たす能力や意思に依存せず、国家の義務を軽減するものではありません。また、この責任は国内法および規則の遵守を超えるもので、それらの上位に位置します。企業がこの責任を果たすためには、規模および状況に適した方針およびプロセスを設ける必要があります(指導原則15)。これには以下が含まれます:
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- 方針へのコミットメント: 人権を尊重する責任を果たすという方針を明確にすること。
- 人権デュー・ディリジェンス・プロセス: 人権への影響を特定し、防止し、軽減し、どのように対処するかについての責任を持つプロセス。
- 是正プロセス: 企業が引き起こし、または助長する人権への負の影響からの是正を可能とするプロセス。
以上の要素を理解し、適切に実施することで、企業はビジネスと人権に関するルールを遵守し、社会的責任を果たすことができます。
3 企業による苦情処理メカニズムの重要性
企業は、事業レベルの苦情処理メカニズムを設置する責任を負っています。これは、負の影響を受けた個人や地域社会のために、実効的な苦情処理メカニズムを確立し、それに参加することを意味します。このメカニズムにより、苦情への早期対応が可能となり、直接的な救済を提供することが目指されます。
事業レベルの苦情処理メカニズムは、企業による負の影響を受ける個人および地域社会が直接アクセスできるものであり、企業単独または関連ステークホルダーとの協力のもとで運営されます。このメカニズムは、当事者双方に受け入れられる外部専門家や機関を介して提供され、申し立てを行う者に他の訴求手段を義務付けるものではありません。また、企業は問題点を整理し、評価し、損害に対する救済に努めることが求められます(指導原則29)。
事業レベルの苦情処理メカニズムの主な目的は、悪影響が拡大したり、危害につながったりする前に、影響を受ける利害関係者の懸念を特定し、対処するための早期の手段を提供することにあります。これにより、業務レベルの苦情処理メカニズムは早期警戒システムとして機能し、影響を受けるステークホルダーが問題が複雑化し、大きな紛争や人権侵害にエスカレートする前に企業の注意を喚起することができます。これは、すべての当事者にとって、より強固で持続可能な関係の構築に役立ちます。
ただし、このような仕組みは、有意義な利害関係者の関与や団体協約に代わるものではなく、裁判所を通じた司法的救済へのアクセスを損なうような形で運営されるべきではありません。業務レベルの苦情処理メカニズムは、人権への悪影響に対する企業の対応の有効性を追跡する上でも重要な役割を果たします。このメカニズムは、影響を受けたステークホルダーの視点から、人権への影響が効果的に対処されているかどうかについてのフィードバックチャネルを提供します。
4 苦情処理メカニズムの設置において特に気をつけるべき点
UNGPs 31 が苦情処理メカニズムの要件として定めるのは次の8項目です。
- 正当性: 利用者から信頼され、苦情プロセスが公正に遂行されることが求められます。
- アクセス可能性: 利用者がメカニズムを認知し、特別な障壁に直面する人々に対しても適切な支援を提供することが重要です。
- 予見可能性: 各段階における所要期間を示した明確で周知の手続きを設け、利用可能なプロセスや結果のタイプについて明確に説明し、履行を監視する手段を持つことが必要です。
- 公平性: 被害を受けた当事者が、公平で、情報に通じ、互いに敬意を保持できる条件のもとで苦情処理プロセスに参加するために必要な情報源、助言および専門知識への正当なアクセスができるようにすることが求められます。
- 透明性: 苦情当事者にその進捗情報を継続的に知らせ、メカニズムの実効性について信頼を築き、公共の利益を守るために十分な情報を提供することが求められます。
- 人権との適合性: 結果および救済が国際的に認められた人権に適合していることを確保することが重要です。
- 継続的学習の資源: メカニズムを改善し、今後の苦情や被害を防止するための教訓を明確にする手段を活用することが求められます。
- エンゲージメントおよび対話の基盤: 利用者とメカニズムの設計やパフォーマンスについて協議し、対話に焦点を当てることが重要です。
是正措置および苦情解決の工程表: 苦情処理の仕組みを設置する際には、是正措置および苦情解決の工程表、苦情解決のタイムライン、合意に達しない場合や影響が特に深刻な場合の対応、メカニズムの権限の範囲の確定、文化的に適切で利用しやすい苦情解決方法についてのステークホルダーとの協議、スタッフ配置およびリソース提供、実績の追跡調査と監視等を策定することが必要です。
ステークホルダーとの有意義なエンゲージメント: ステークホルダーとのエンゲージメントとは、関係するステークホルダーと関与する相互作用のプロセスです。それは、会合、ヒアリング、協議手続き等によって行われ、企業とステークホルダーが相互理解に達するために自由に意見を表明し、視点を共有し、他の見解にも耳を傾けることが求められます。
脆弱な立場にある利用者とのエンゲージメント: ステークホルダーとのエンゲージメントの効果を確実なものとするためには、潜在的な障壁(例えば、言語、文化、ジェンダー、力の不均衡、共同体内部の分離等)を特定し、これらの除去に努めることが重要です。特に、識字能力が低い共同体においては、情報を口頭で共有するなどの配慮が必要です。また、女性、子ども、社会的に疎外された共同体など、最も脆弱なステークホルダーとのエンゲージメントにおいて一層の配慮が求められます。
報復からの保護: 職場からの報復が、ステークホルダーが苦情処理メカニズムを利用する際の最大の懸念事項です。社内の人事部などに窓口を置くことにはリスクがあり、利用者が懸念して躊躇することで早期対応のチャンスを逸し、行政・司法やマスコミに苦情が持ち込まれる事態を招く可能性があります。
報告と情報共有: どのような是正措置を取ったのかをしっかりと報告し、その後も追跡調査によるフォローアップを行います。守秘義務等に注意しながら、関係者間で情報共有を行い、組織の知見とすることが求められます。企業は、負の影響を受けたステークホルダーに対して、関連する情報を時宜を得た方法で、文化に配慮し、アクセスしやすい形で伝えることが求められます。
5 内部通報制度等との関係をどう考えれば良いか?
1) 関連するすべての基準を充足するように対応する
内部通報・苦情処理メカニズムは、アメリカ合衆国の連邦法と国連指導原則を基盤としており、その他の動向もこれらを反映しているため、基本的な考え方に大きな差異はありません。
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- UNGPs(2011): 2023年8月にビジネスと人権作業部会が訪日調査を終了し、報告書で「公益通報者保護法」の設置が正しい方向への大きな一歩と評価されました。 しかし、性差別や強制労働などの問題点も指摘されています。
- OECD多国籍企業行動基準およびOECD-DDガイダンス: 日本政府は、NCPの設置(2000年設立)や、改正公益通報者保護法(2022年6月施行)、人権デュー・ディリジェンスガイドライン(2022年9月)などを通じて、企業の責任を強化しています。
- その他の法律とガイドライン: 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(2022年12月)や、不正競争防止法の改正(2023年)なども、企業の透明性と倫理的行動を促進するために導入されています。
2) 苦情処理メカニズムの重複よりも空白に注意する
事業レベルでの苦情処理メカニズムが複数存在し、その担当範囲がある程度重複することは避けられません(社内・外部と協力・業界団体レベルなど)。それぞれの特徴と利用方法を整理し、適切に情報提供することが重要です。
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- 重複の管理: 各メカニズムは相互にたらい回しにせずに、責任を持って対応することが必要です。利用者が複数のメカニズムを重複して利用することに干渉せず、特に行政窓口や司法制度などの公的な救済を求めることを妨害してはなりません。
- 具体的な対応策: 情報提供: 各メカニズムの特徴と利用方法を明確にし、利用者に対して適切に情報提供を行うことが重要です。
3) 責任の明確化: 各メカニズムが相互に責任を持って対応し、利用者をたらい回しにしないようにすることが必要です。
4) 公的救済の保障: 行政窓口や司法制度などの公的な救済を求めることを妨げず、利用者が適切に救済を受けられるようにすることが求められます。
5) まとめ
内部通報制度や苦情処理メカニズムは、各種基準やガイドラインを遵守しつつ、複数のメカニズムが存在することによる混乱を避けるための情報提供と責任の明確化が重要です。また、公的な救済手段へのアクセスを妨げないことが、信頼性の高い苦情処理メカニズムを構築する上で不可欠です。
6 企業にとっての人権に関する継続学習とは何か?
UNGPs(ビジネスと人権に関する指導原則) においては、苦情処理メカニズム を通じて得た情報を、企業の継続学習に 役立てるべきことが強調されています。それは特に人権デューデリジェンスとの関係で重要です。
1) 人権デューデリジェンス (DD) の解説
指導原則17は、人権デューデリジェンスのパラメータを定義し、原則18から21はその本質的な構成要素を詳述しています。人権リスクとは、企業が潜在的に人権に悪影響を及ぼすことです。潜在的な影響は予防または緩和を通じて対処されるべきであり、実際の影響(既に発生した影響)は是正の対象とされるべきです(原則22)。
人権デューデリジェンスの範囲: 人権デューデリジェンスは、企業自身の重大なリスクだけでなく、権利保有者に対するリスクも含めて、企業のリスクマネジメントシステムに組み込むことが求められます。
契約や合併における人権リスク: 人権リスクは契約やその他の合意の段階で増加または軽減される可能性があり、合併や買収を通じて継承されることもあります。新しい活動や関係の発展において、できるだけ早期に人権デューデリジェンスを開始することが重要です。
バリューチェーンの広範さ: バリューチェーンに多数の事業体がある場合、それらすべてにわたって人権への悪影響についてデューデリジェンスを実施することは困難です。企業はリスクが最も大きい分野を特定し、優先順位をつける必要があります。
2) 企業によるリスク対応能力の違い
すべてのビジネスにとってリスクは避けがたいものです。COSOのERMフレームワークなどでも強調されているように、リスクはビジネスを差別化し高収益へと結びつける重要な要素として、企業経営において統合的に管理することの重要性が注目されています。リスクを機会として捉えることの重要性について、 問えば次のような例があります。
【設例】東南アジアの甲国のケーススタディ
東南アジアの甲国には、勤勉で優秀な若い労働者が多く、賃金水準も日本に比べてかなり低いという特徴があります。しかし、伝統的に女性の社会的地位が低い傾向がありました。ここ数年、国際的な人権NGOの進出により女性の権利意識が急速に高まり、少し過激な社会運動も発生しています。このような背景の中、職場における女性の労働環境が問題視され、複数の多国籍企業が海外で訴訟を提起される事態が起こっています。
A社の取り組み:
A社は、甲国に海外子会社を設立し、15年間事業を続けています。日本での製造コスト上昇に伴い、甲国での事業規模を1.5倍に拡大する計画を立てています。駐在員は、甲国に関心を持ち家族で赴任を希望する従業員の中から選び、地元の有力大学に寄附講座を開設して日本文化を伝えるなど、現地の人々との交流を大切にしてきました。また、これまでに生じたトラブルについては、事実関係と対応結果を定期的に見直し、経営陣や関係者と情報共有を行っています。さらに、3年前には職場で女性が不満を感じる状況について聞き取り調査を実施し、いくつかの点で改善を図っています。
B社の取り組み:
一方、同業のB社は日本での製造コストの急激な上昇に対応するため、過去に事業を行ったことのない甲国に進出することを決めました。日系の新聞記事やJETROの情報を調べ、ビジネスコンサルタントを雇って進出準備を進めています。
このように、甲国における企業活動は、現地の社会状況や人権意識の変化に対応することが求められます。A社のように既存の関係を活用しながら現地での信頼を築く企業と、B社のように新たな進出を計画する企業が直面する課題はそれぞれ異なります。企業によって同じリスクでも対応能力には大きな差が生じるのです。
7 おわりに: コンプライアンス」から「リスクマネジメント」へ
企業は一定の目的を実現するために組織され、その目的に基づいてビジネス活動を構築する必要があります。そのための枠組みとして、COSOの内部統制の統合的フレームワークが策定されました。このフレームワークは、企業監査の専門家たちの知見を活用して作られました。
このフレームワークの背景には、米国の多国籍企業が海外で行った贈収賄に関与する裏金問題を発端とする、米国史上最大の企業不祥事であるウォーターゲート事件があります。この事件を受けて制定されたFCPA(海外腐敗行為防止法)は、米国の上場企業に内部統制プログラムの実施を義務付けました。COSOのフレームワークは、米国におけるコンプライアンス文化の出発点となりました。
コンプライアンスは、不祥事を起こしてからでは手遅れとなるため、企業が自主的に予防するための方策といえます。政府は企業に対して実効的なコンプライアンスプログラムが実施されているかどうかを確認するため、監査報告等を要求し、これは直接の政府による規制に代替するものです。この監査の結果はビジネスにおける日常的な経営行動の一環として用いられ、企業の組織内部に健全性を内在化させる方策として理解できます。
FCPAは米国証券取引所法を改正する形で制定された連邦法ですが、その後の企業不祥事に対応するため、さらなる制定法が作られました。特に証券取引所法との関係で、これらの制定法には証券取引委員会に対する公益通報に関する規定が整備され、COSOのフレームワークとの関係においても事業レベルでの通報窓口が重要な位置づけを得るようになりました。その中で、コンプライアンスプログラムの改定が行われ、それがCOSOのフレームワークにも反映されてきました。
ハーバード大学ケネディスクールの教授であったジョン・ラギーが2011年にまとめ上げたUNGPsの中心概念である人権デューデリジェンスの構築にも、内部統制の統合的フレームワークやコンプライアンスプログラムの実務上の進展が大きな影響を与えています。2011年にはCOSOがERM(エンタープライズリスクマネジメント)という用語を公表しており、ラギーもリスクマネジメントの考え方に依拠しながら人権デューデリジェンスという実務の存在を明確化しました。既存の国家法の枠組みが事後的救済を中心とするのに対し、人権デューデリジェンスが特に予防を重視するのは、このような背景に基づくものです。
ERMの考え方は、その後も進化を続けており、健全なビジネス活動を展開するための積極的なツールとして用いられるようになってきました。戦略策定や実行から日常活動に至るまで、事業体がリスクをどのように考慮するかを示す共有された信念と姿勢の組み合わせです。これらの信念や姿勢は、事業体全体の文化や事業形態に影響を与え、その価値を反映します。具体的には、どのリスクを認識し、どのリスクを受け入れ、どのように管理するかに関する方針がERMの各構成要素にどのように適用されるかに影響を与えます。
リスクマネジメントの重要性は、変化が危機の可能性だけでなく機会を生み出すことを理解し、組織がリスクを的確に予測し、リスクに先手を打てるようにする点にあります。すべての組織は、常に変化し続ける価値創造の機会と、その価値を追求するために発生する課題を意識しながら戦略を設定し、それを定期的に調整する必要があります。このために、 戦略とパフォーマンスを最適化するためのフレームワークが必要です。
ERMを全社的に統合した組織は、多くのメリットを享受できます。まず、機会の幅が広がります。リスクの肯定的側面と否定的側面の両方を検討することで、新たな機会や現在の機会に関連する課題を特定できます。また、全社的なリスクの特定と管理が可能になります。組織の多くの部分に影響を及ぼす無数のリスクに直面する中で、ERMはパフォーマンスを維持・向上させるために必要なリスク管理を支援します。さらに、ERMによりポジティブな成果と優位性を高めつつ、ネガティブなサプライズを低減することができます。企業はリスクを特定し、適切な対応を確立する能力を向上させることで、サプライズや関連するコストや損失を削減し、有利な展開から利益を得ることができます。このように、ERMは企業の価値を創造し、保持するための重要なフレームワークとなります。
事業レベルにおける苦情処理メカニズムや通報制度を早期警戒装置として積極的に用いることで、企業はリスクマネジメントにおいてより有利な立場に立つことができる可能性が増大します。米国ではすでに公益通報の長い運用実績があり、例えば証券取引委員会に対する公益通報者に一定の報奨金が支払われる制度が運用されています。しかし、経験的な調査において、企業の従業員はまず企業内の窓口に情報を持ち込んで相談しようとする強い傾向があることが示されています。そうした窓口の信頼性や安全性が欠如する場合には、外部の通報窓口を用いることになります。これらの経験的データを考慮すれば、各企業が事業レベルにおける健全な苦情処理メカニズムを設置することには大きなメリットが存在すると言えるでしょう。(結)
〈注記〉本資料に関し、以下の点をご了承ください。
- 本ニューズレターは2024年5月時点の情報に基づいて作成されています。
- 今後の政府による発表や解釈の明確化、実務上の運用の変更等に伴い、その内容は変更される可能性がございます。
- 本ニューズレターの内容によって生じたいかなる損害についても弊所は責任を負いません。