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グローバルビジネスと人権: 国連「ビジネスと人権」作業部会による訪日調査報告書 (その3完)

2024年09月13日(金)

グローバルビジネスと人権に関し、国連「ビジネスと人権」作業部会による訪日調査報告書 (その3完)と題するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

グローバルビジネスと人権: 国連「ビジネスと人権」作業部会による訪日調査報告書 (その3完)

なお、本ニューズレターは3回にわたって掲載しております。各回は、以下のリンクより閲覧いただけます。
その1(前々回)https://oneasia.legal/13305
その2(前回) https://oneasia.legal/13400

グローバルビジネスと人権:
国連「ビジネスと人権」作業部会による訪日調査報告書 (その3)

2024年9月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアESG/SDGsプラクティスグループ

[資料の解説]

今回は 標記報告書の 結論部分の全訳を掲載します。 (当初は2回に分けての掲載予定でしたが、報告書が長文にわたるため3回に分けて掲載することにしました。

昨年夏に行われた国連ビジネスと人権作業部会の訪日調査では、ジャニー喜多川氏による性加害問題が特に取り上げられ、日本国内で広く注目を集めました。今年7月に国連人権理事会でこの訪日調査の最終報告が行われ、この事件に言及した部分が再び内外のマスメディアで注目されています。しかし、「ビジネスと人権」作業部会の調査は、日本におけるビジネスと人権に関する指導原則の実施状況全般に関するものであり、その最終報告書はこの事件を超えた広範な問題を扱っています。

ビジネスと人権に関する指導原則自体は、ソフトローであり法的拘束力を持たないとされています。しかし最近では、そうしたソフトローの国際的な実施を促進するために設置された作業部会が厳密なピアレビューに基づいて勧告を行う方法が取られるようになってきました。こうした方法が注目を集めるようになったのは、OECDによる外国公務員贈賄防止条約(1997年)の実施がこの方法によって大きな成果を上げた結果といえます。その意味では比較的最近に現れた方法ですが、これ以降ますます頻繁に用いられるようになるでしょう。したがって、本報告書のような文章に注意を払うことの意義はますます増してくると考えられます。

本報告書の結論部分では、日本に対して極めて幅広い改善勧告が行われています。それは決してジャニーズ問題に限られたものではありません。作業部会の日本の現状に対する全体的な結論は、「日本における体系的な人権の課題が、ビジネスと人権の分野における国や民間部門のイニシアティブの一環として十分に取り組まれていないことを懸念している」という厳しいものです。また、例えば現在注目を集めている兵庫県知事のパワハラ関連の事件に関して問題となった公益通報者保護法の実施に関連した改善勧告も含まれています。

国連「ビジネスと人権」作業部会による訪日調査報告書 (A/HRC/56/55/Add.1 )
18 June–12 July 2024 )【全文試訳・ その3完】

Ⅰ  序論
Ⅱ 背景
(以上7月号)
Ⅲ 危険下にある集団
Ⅳ テーマごとの懸念分野
(以上8月号)
Ⅴ 結論と勧告
(以上本号)

V.  結論と提言

  1. 日本における指導原則の実施を促進することは、地域的・世界的にビジネスと人権のアジェンダを推進するリーダーとしての日本の評判を確固たるものにするだけでなく、国内外における日本企業の人権に与えるプラスの影響と競争力を強化するためにも極めて重要である。作業部会は、政府、企業、市民社会が指導原則と国別行動計画に関する能力を構築し、認識を高めるために継続的に行っている努力を称賛する。

 

  1. しかしながら、当作業部会は、日本における体系的な人権の課題が、ビジネスと人権の分野における国や民間部門のイニシアティブの一環として十分に取り組まれていないことを懸念している。女性、高齢者、子ども、障がい者、先住民族、部落を含むマイノリティ・グループ、技能実習生、移住労働者、LGBTQI+など、リスクのあるグループに対する不平等と差別の構造を完全に解体することが緊急に必要である。包括的で率直なマルチステークホルダー対話を通じて、指導原則の実現を加速させる必要があることは明らかである。

 

  1. OHCHRおよび他の国連人権メカニズムがこれまでに発表した勧告およびガイダンスに加え、作業部会は政府に対し、以下を勧告する。


(a) 国別行動計画の見直しに際し、政府に対し、以下を勧告する。

(i) リスクのあるコミュニティが経験するビジネス関連の人権侵害に特別な注意を払うこと
(ii) 作業部会の以前のガイダンスに沿って、救済へのアクセスと企業の説明責任を強化すること[1]
(iii) ビジネスと人権政策のギャップ分析を含めること
(iv) 明確な責任、期間、進捗状況を監視・評価するための人権指標の特定を含む、実施方法の明確化
(v) 実施中の進捗状況の監視と評価において、被害者や市民社会関係者を含む関係者の有意義な参加を確保するための効果的なメカニズムを開発すること

(b) 指導原則および国別行動計画に関する研修および啓発活動を継続すること

(c) ガイドラインに関連して

(i) 公的資金で支援される事業を含め、最終使用段階におけるリスクと影響を明示すること
(ii) 「人権」の定義を拡大し、環境影響と国際文書を包含すること
(iii) 人権デューディリジェンスの一側面として、環境と気候変動への影響を明示的に考慮すること

(d) 関係するステークホルダーと協議の上、人権デューディリジェンスを義務付ける国内法を採択すること

(e) 人権基準に関する体系的で有意義な報告を求め、特に、司法および非司法的な苦情処理メカニズムに対する企業の全面的な協力と立証責任の逆転を求めることによって、被害者の救済へのアクセスを確保すること

(f) ビジネスに関連した人権侵害を保護し、調査し、罰し、救済するそれぞれの義務を果たす能力を構築するために、公務員、司法関係者、立法者を含む社会のすべての関係者の間で指導原則に関する認識を高め、能力を構築する。そのために十分な資源を配分すること

(g) 本報告書で特定された障壁を取り除くことにより、司法および非司法的救済へのアクセスを改善し、ビジネス関連の人権侵害のすべての被害者に対する効果的な保護と支援を確保すること

(i) 日本司法支援センターの認知度を高めること
(ii) 実効的な救済へのアクセスと企業の説明責任をより促進するため、人権の促進と保護のための国内機関の地位に関する原則(パリ原則)に沿った、堅固で独立した国内人権機関を一日も早く設置すること。この機関は、民事救済の提供、意識の向上、ビジネスと人権に関する能力の構築、人権擁護者の保護など、人権侵害に対処するための明確な任務と資源を備えるべきである。また、他国の国内人権機関やOECDナショナル・コンタクト・ポイントとの緊密な協力関係を構築すべきである。
(iii) 人権オンブズパースを設置し、救済へのアクセスを促進すること
(iv) 海外の司法管轄区において影響を受ける利害関係者に対するコンタクト・ポ イントの権能と手続についての認識を高めることを含め、有意義な救済結果を提供するため、 OECD国内コンタクト・ポイントの可視性、制度的能力、専門性を高めること
(v) 責任ある包括的な社会を目指す移住労働者のための日本プラットフォームの可視性を高め、日本における移住労働者コミュニティ間の信頼を構築するための努力を継続すること
(vi) 公益通報者保護法の次回見直しにおいて、自営業者、請負業者、サプライヤー、労働者の家族、弁護士への適用、公益通報者に報復する企業への制裁の確立、公益通報者への金銭的インセンティブまたは同様の報奨制度の提供など、公益通報者保護をさらに強化すること

(h) 1958年のILO差別(雇用及び職業)条約(No.111)を批准すること。1981年の労働安全衛生条約(No.155)、1930年の強制労働条約2014年議定書(No.29)、1989年の先住民族及び種族民条約(No.169)を批准すること。「すべての移住労働者及びその家族の権利の保護に関する国際条約」、「女性差別撤廃条約」、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、「障害者の権利に関する条約」の選択議定書を遵守すること

(i) 同一価値労働同一賃金の原則を実施するための措置を強化し、男女間の賃金格差を是正し、民間部門における女性代表のための強制割当イニシアチブの採用を含め、指導的地位における女性の平等な代表を促進すること

(j) 既存の差別禁止法を改正し、その包括性と実効性を高めるとともに、明確かつ包括的な差別の定義を盛り込むことを含め、差別を公式に禁止し、制裁する。また、国際基準に沿って、職場やオンラインにおけるセクシュアル・ハラスメントや暴力への取り組みを強化すること

(k) 雇用主に対し、障害者に対する個別支援と合理的配慮の尊重と実施に関する包括的な研修を実施すること

(l) 障害者の社会への完全な包摂と参加を促進するため、国家行動計画などの公式文書において、障害者のアクセシビリティを確保すること

(m) 国際人権基準に基づく技能実習生研修プログラムの改訂に、採用手数料の廃止、技能実習生を雇用する事業所における強制的な現場での人権研修の実施、応募制度の簡素化、転職の柔軟性の向上、安全な労働条件および適正な生活条件の確保、日本語学習および職業訓練の機会の提供、日本の法律で義務付けられている同一価値労働同一賃金の実施の保証など、明確な人権保護を盛り込むこと

(n) 労働検査を強化し、強制労働および人身売買の被害者の特定を強化すること

(o) 職場におけるヘイトスピーチや雇用機会に影響を及ぼす可能性のあるヘイトスピーチなどの問題に対処するため、ヘイトスピーチ解消法の適用範囲を拡大し、出身や在留資格にかかわらずすべての人を含めること

(p) 政府機関と民間部門が、先住民族の権利に関する国連宣言などの国際基準に従って、先住民族の自由で事前の、十分な情報に基づく同意の権利を守るようにすること

(q) 部落差別に関する調査及び、アイヌ民族の現状に関する包括的な調査を定期的に実施し、関連するプログラムや政策をそれに合わせて適応させること

(r) 差別のない雇用機会への平等なアクセス、適正な賃金、安全な労働条件を保証することを含め、移住の有無にかかわらず、すべての労働者に労働法が適用されることへの認識を高めること

(s) 適正な移行のための人権への配慮を念頭に置き、気候変動への取り組みを強化すること

(t) 福島第一原子力発電所事故の後始末に携わった人々の英雄的な努力を認識し、多重下請け構造を削減するための措置を講じ、労働者に適切かつ遡及的に補償することを保証し、労働者の健康上の懸念を業務上の疾病として認識し、安全な労働条件と正確な被曝記録を確保し、被曝した労働者の継続的な健康診断とケアを保証すること

(u) 福島第一原子力発電所から放出された水の処理に関するすべての情報を引き続き公開すること

(v) PFASの暫定目標値が最新の科学的証拠に基づき、環境基準に適合していることを保証することを含め、水供給におけるPFASの存在と人々への影響に対処すること

(w) 開発協力憲章および関連する政府開発援助政策に、指導原則、国内行動計画およびガイドラインへの明確な言及を組み込むこと

(x) 人権デュー・ディリジェンスのために、「子どもの権利とビジネス原則」の利用を促進すること

(y) 指導原則に沿って、責任ある撤退に関するガイダンスを企業に提供すること

 

  1. 作業部会は、企業および業界団体に対し、以下を勧告する。

(a) 指導原則に従い、業務レベルの苦情処理メカニズムを確立し、効果的な非司法的苦情処理メカニズムのためのすべての基準がジェンダーに配慮した方法で解釈されることを確保すること[2]

(b)個人とコミュニティが被った損害に対して効果的な救済を提供すること

(c) 企業の意思決定機関における女性の代表を増やすこと

(d) 適正な移行のための人権への配慮を念頭に置き、気候変動への取り組みを強化すること

(e) 指導原則と「汚染者負担」の原則の下で要求されているように、事業活動に起因する水供給におけるPFASの存在に責任を持ち、この問題に対処すること

(f) 職務選考において差別につながる可能性のある質問を排除し、職場におけるあらゆる種類の差別、搾取、ハラスメント、権力乱用、その他の形態の暴力に対処すること

(g) 人権デューディリジェンスを実施する際、「子どもの権利とビジネス原則」を取り入れること

(h) 紛争の影響を受けた地域やリスクの高い分野で事業を行う場合、人権デューディリジェンスを強化すること

(i) 結社の自由、団結権、労働者の団体交渉権を促進し、特に国際的に事業を展開する場合を含め、弱い立場にある人々との有意義なステークホルダーの関与を促進すること

(j) 職場のセクシャルハラスメントを従業員やタレントが報復を恐れずに報告できるよう、透明で利用しやすいコミュニケーションチャネルと安全な環境を提供すること

 

  1. 作業部会は、市民社会の関係者が以下を継続するよう勧告する。

(a) 国家と企業のそれぞれの義務と責任に関する認識を高め、能力を構築すること

指導原則の下での国と企業のそれぞれの義務と責任についての認識を高め、能力を構築すること

(b) 人権侵害の事例、特に危険な状況にある個人およびコミュニティに対して行われた事例を文書化し、業務レベルの苦情処理メカニズムを含む、司法的および非司法的な救済メカニズムへのアクセスの促進を支援すること

(c) ビジネスと人権に関する既存の法的・政策的枠組みの強化を目指すイニシアティブに貢献し、そのようなイニシアティブへのすべての利害関係者の参加を促進すること

 (結)

〈注記〉本資料に関し、以下の点をご了承ください。
・ 本ニューズレターは2024年9月時点の情報に基づいて作成されています。
・ 今後の政府による発表や解釈の明確化、実務上の運用の変更等に伴い、その内容は変更される可能性がございます。
・ 本ニューズレターの内容によって生じたいかなる損害についても弊所は責任を負いません。

—–

[1] A/69/263.
[2] A/HRC/41/43.