グローバルビジネスと人権: モデル契約条項2.0 (4) サプライヤーの人権尊重規範策定の留意点
グローバルビジネスと人権に関し、モデル契約条項2.0 (4) サプライヤーの人権尊重規範策定の留意点と題するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
→グローバルビジネスと人権: モデル契約条項2.0 (4) サプライヤーの人権尊重規範策定の留意点
なお、本ニューズレターは全4回にわたって掲載しております。各回は、以下のリンクより閲覧いただけます。
第1回 https://oneasia.legal/12958
第2回 https://oneasia.legal/13295
第3回 https://oneasia.legal/13420
グローバルビジネスと人権: モデル契約条項2.0 (4)
サプライヤーの人権尊重規範策定の留意点
2024年9月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアESG/SDGsプラクティスグループ
1 はじめに
ビジネスと人権に関する問題を契約の観点から読み解く本シリーズ第4回(最終回)では、いよいよモデル条項案本体を取り上げ、ビジネスと人権に対応するための契約条項を概観する。
モデル条項案はあくまで参考であり、個々の企業や取引の実情に即した条項案を策定することが想定されている。各企業としては、その実情を踏まえ、ビジネスと人権に対応するための契約上の基盤を整えることが求められる。
2 モデル条項案の基本的な構成
モデル条項案の基本的な構成は以下のとおりである。
1 サプライチェーンにおける人権侵害排除のための双方の責務
1.1 人権デューデリジェンス
1.2 サプライチェーン全体での別紙P遵守
1.3 発注企業の別紙P遵守の支援に対するコミットメント
1.4 事業レベルの苦情処理メカニズム
2 契約活動に関連する人権侵害の是正
2.1 潜在的又は実際の違反の通知
2.2 調査
2.3 是正計画
2.4 是正の権利
2.5 即時終了の権利
3 商品の拒否及び契約の解除又は取消し
4 承認の撤回
5 別紙Pに関連する事項の変更不可
6 発注企業の救済措置
6.1 違反及び違反の通知
6.2 救済措置の行使
6.3 損害賠償
6.4 商品の返品、破棄又は寄付;商品の不受理
6.5 損失補償、過失割合
7 免責事項
8 紛争解決
3 主要条項の概説
(1) サプライチェーンにおける人権侵害排除のための双方の責務
モデル条項は、国連指導原則及びOECD「責任ある企業行動のためのOECDデューデリジェンスガイダンス」に準拠し、発注企業及び供給者が、ともに「人権デューデリジェンス」(以下、「人権DD」)プロセスを確立し、実施する義務を、その中心に据えている(MCC 1.1)。
人権DDの目的としては、本シリーズ第3回で紹介した「サプライヤー規範」(MCC上は別紙Pと呼ばれる)へのコンプライアンスの確保を目的としている(MCC 1.2)。したがって、人権DDの目的や評価基準などの人権DDに関する義務の内容を定めるうえで、サプライヤー規範は極めて重要である。発注企業側としても、サプライヤーに人権DDとして何を求めるのか、それをどのように評価していくのかを予め可視化し、言語化する必要がある。
次に、発注企業側が、サプライヤーによるサプライヤー規範遵守のための支援を契約上、誓約している点が特徴的である(MCC 1.3)。そのための発注企業側の行動規範は、本シリーズ第2回をご参照いただきたい。具体的には、サプライヤー規範遵守のためのキャパシティービルディング、価格設定における配慮、契約内容手政治の考慮、一定の場合の契約不履行への免責、責任ある撤退である。
そして、指導原則で提示された要素を踏まえた、苦情処理メカニズムの設置についても定めている(MCC 1.4)。
(2) 人権侵害の是正
モデル条項では、人権侵害が生じた場合の是正対応について、その手続を定めている。
1) 人権侵害(のおそれ)の通知(MCC 2.1)
人権侵害の発生又はそのおそれが判明した場合、サプライヤーは発注企業に対してその旨を通知する。この際、発注企業側による行動規範違反が人権侵害を引き起こし又は寄与したと合理的に疑われ、発注企業側の関与が必要であると判断した場合、サプライヤーは、発注企業側による是正措置への参加を求めることができる。
2) 調査(MCC 2.2)
通知を受けた場合、発注企業及び供給者は、互いに全面的に協力し、調査に当たる。調査結果は互いに提供する。
3) 是正計画(MCC 2.3)
人権侵害(のおそれ)が効果的に是正されていないと発注企業が判断する場合、発注企業は、法的に適切な限りにおいて、サプライヤーに是正計画の策定を求める。是正計画は、影響を受けた個人を人権侵害が発生しなかったはずの状態に回復させることを目的とし、是正のためのタイムライン及び客観的な中間指標・目標を定め、是正が完了し、違反が解消されたと判断されるための客観的な基準を定める。
ここにおいて、モデル条項では、単に是正計画の実施結果の提供だけでなく、ステークホルダーの関与を示すことも求めている。
(3) 救済措置
人権侵害が生じた場合に発注企業側が取りうる手段は、上記是正計画の策定・実行のほか、以下のとおりである。
発注企業としては、以下の規定を参考に、実際に人権侵害が生じた場合に、まずはどのような影響力を行使できるかを考え、契約解除、損害賠償に至る前の段階で取りうる契約上の選択肢を確保しておくことが望まれる。
1) 救済措置(MCC 6.2)
モデル条項案は、サプライヤーによる違反行為に対する救済措置として、まずは契約関係の維持を前提とした以下の選択肢を提供している。
①サプライヤーによるサプライヤー規範に従った履行保証を求めること
②サプライヤー規範の違反に対する差止命令を取得すること
③特定の工場や提携先、又は下請け関係の終了、従業員や代表者の解雇をサプライヤーに求めること
④是正措置の完了までの支払い停止
2) 不適合品の拒否(MCC 3.2)
発注企業は、サプライヤーによるサプライヤー規範違反が原因で商品が不適合品となった場合、これを拒否する権利を有する。この場合、発注企業は、サプライヤーに対してその旨を通知したうえで(MCC 3.4、4.1)、返品、破棄、又は寄付等をすることができる(MCC 6.4)。
3) 契約の解除又は取消し(MCC 3.3)
サプライヤーが是正計画に基づく義務を適時に履行しなかった場合、発注企業は契約を解除又は取り消すことができる。この場合、発注企業としては、責任ある撤退のための取組みを講じる。
4) 損害賠償(MCC 6.3、5)
発注企業は、サプライヤーに対して、損害賠償を請求することができる。ただし、サプライヤーによるサプライヤー規範違反、又は人権侵害によって利益を享受することを許容するものではないことも規定されている。したがって、サプライヤーによる違反なしに履行された場合よりも有利な立場に置かれることは許容されない。
(以上)
〈注記〉本資料に関し、以下の点をご了承ください。
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