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日本:令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組の概要

2024年09月17日(火)

令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組の概要に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組の概要

 

令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた
取組の概要

2024年9月17日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」が、2024年6月5日公正取引委員会より公表されました(以下「本公表」といいます)[1]。今月のニューズレターでは、本公表について解説いたします。

1 下請法の運用状況

(1)下請法違反行為に対する勧告・指導件数等

 令和5年度は13件の勧告、8268件の指導が行われ、勧告件数は直近10年度で過去最高となりました。勧告の対象となった違反行為類型の内訳は、下請代金の減額が6件、返品が2件、買いたたきが1件、購入等強制が3件、不当な経済上の利益の提供要請が4件、やり直し等が1件となっています[2]

【勧告件数及び自発的申出件数(勧告相当案件)の推移】

(出典:公正取引委員会「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」(令和6年6月5日)4項)

【指導件数の推移】

(出典:公正取引委員会「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」(令和6年6月5日)4項)

 公正取引委員会は、親事業者が下請事業者の給付の受領を拒む、下請代金を支払わない等の違反行為をしている場合、当該行為是正やその他必要な措置をとるべきことを勧告することができ(下請法第7条)、勧告した場合は、企業名、違反内容、勧告内容等が公表されます。

(2)令和5年度における勧告事案

 令和5年度における主な下請法違反事案として、日産自動車株式会社が、自社が販売する自動車の部品等の製造を下請事業者に委託しているところ、令和3年1月から令和5年4月までの間、「割戻金」を下請代金額から減じていた事案が挙げられます[3]。下請法第4条第1項第3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反するとして、勧告が行われ、下請事業者36名に対し、減額した金額の総額30億2367万6843円が支払われました。

(3)下請事業者が被った不利益の原状回復の状況

 下請事業者が被った不利益について、親事業者174名から下請事業者6122名に対し、下請代金の減額分の返還等、総額37億2789万円相当の原状回復が行われました。

【原状回復額の推移】

(出典:公正取引委員会「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」(令和6年6月5日)14頁)

【原状回復を行った親事業者数・原状回復を受けた下請事業者数の推移】

(出典:公正取引委員会「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」(令和6年6月5日)14頁)

(4)下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者に係る事案

 公正取引委員会は、親事業者の自発的な改善措置が下請事業者の受けた不利益の早期回復に資することに鑑み、調査着手前に、違反行為を自発的に申し出、かつ、下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置等、自発的な改善措置を採っているなどの事由が認められる事案については、親事業者の法令遵守を促す観点から、下請事業者の利益を保護するために必要な措置を採ることを勧告するまでの必要はないものとして取り扱うこととされています[4]

 令和5年度において、親事業者からの違反行為の自発的な申出は39件であり、当該申出により、下請事業者2158名に対し、下請代金の減額分の返還等、総額7770万円相当の原状回復が行われました。

【自発的な申出の件数等】

(出典:公正取引委員会「令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」(令和6年6月5日)4項)

2 中小事業者等の取引公正化に向けた取組

 公正取引委員会は、適切な価格転嫁の実現に向けて、①独占禁止法の執行強化、②下請法の執行強化等、③独占禁止法及び下請法の考え方の周知徹底等を実施しています。令和5年度における主な具体的な取組内容及び今後の取組は、以下のとおりになります。

(1)労務費の適切な転嫁のための価格転嫁に関する指針

 現下の急激な物価上昇に対応する持続的な構造的賃上げを実現するため、中小企業がその原資を確保できるような取引環境の整備が重要であるとされています。その整備の一環として、内閣官房及び公正取引委員会は、令和5年11月29日、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定・公表しました[5]
 公正取引委員会は、令和6年6月7日、上記指針の取組状況についてのフォローアップを目的として、「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」を開始しました。

(2)重点業種における立入調査の実施

 公正取引委員会は、令和5年5月30日、令和5年度における下請法上の重点立入業種として、①情報サービス業、②道路貨物運送業、③金属製品製造業、④生産用機械器具製造業、⑤輸送用機械器具製造業の5業種を選定しました[6]。また、同委員会は、これらの業種の事業者に対し、187件の重点的な立入調査を実施しました。

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[1] (令和6年6月5日)令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[2] 1件の勧告事件において複数の違反行為類型について勧告を行っている場合があるので、違反行為類型の内訳の合計数と勧告件数とは一致しません。
[3] (令和6年3月7日)日産自動車株式会社に対する勧告について | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[4] 下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[5] 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
[6] (令和5年5月30日)令和5年度における重点立入業種の選定について | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)