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日本:募集新株予約権の機動的な発行(ストックオプション・プール)の概要

2025年01月21日(火)

日本における募集新株予約権の機動的な発行(ストックオプション・プール)の概要についてのニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

募集新株予約権の機動的な発行(ストックオプション・プール)の概要

 

募集新株予約権の機動的な発行(ストックオプション・プール)の概要

2025年1月20日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 松宮浩典

 「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」が改正され(以下「本改正」といいます)、2024年9月2日に本改正の一部が施行されました。
 今月のニューズレターでは、本改正のうち産業競争力強化法関連の「募集新株予約権の機動的な発行に関する制度」[1](以下「本制度」といいます)について解説いたします。

1 背景

 従前、ストックオプションは、特にスタートアップにおいて、人材確保の観点から重要であるものの、スタートアップを含む非公開会社においては、株主総会の特別決議でストックオプションの内容を定めることが必要でした(会社法第238条第2項、第309条第2項第6号)。また、取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会。以下において同じ。)に決定を委任できる範囲や期間が限定されており(会社法第239条)、柔軟性や機動性に欠ける状態にありました。スタートアップの人材確保をより後押しするため、本改正により会社法の特例を措置し、スタートアップによるストックオプションの柔軟かつ機動的な発行を可能とするため、本制度が創設されました(産業競争力強化法[2]第21条の19)。

2 本制度の内容

(1)改正内容について

 本制度は、所定の適用要件を満たし、経済産業大臣及び法務大臣の確認を得たスタートアップを対象に、予め自社において一定の範囲でストックオプションの発行枠を定め、役員や従業員に対して柔軟かつ機動的にストックオプションの発行を可能とする制度です。
 これまで、募集新株予約権の募集事項の決定を取締役に委任する場合において、権利行使価額や権利行使期間は取締役に委任することができず、取締役に委任可能な期間に制限がありました。そこで本制度では、募集新株予約権の募集事項に関して、①株主総会から取締役へ委任できる事項として権利行使価額及び権利行使期間の追加、②委任の有効期間(株主総会決議の日から1年間)の延長が可能となります。

改正内容について(経済産業省「募集新株予約権の機動的な発行に関する制度の創設」より抜粋)

(2)適用要件について

 本制度の適用を受けるためには、以下の適用要件1及び2を満たす必要があります。

【適用要件1】
 次の①~③のいずれにも該当すること(産業競争力強化法第21条の19第1項)。

① 設立の日以後の期間が15年未満の株式会社であること
② 募集新株予約権の発行に関し、株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当すること
③ 経済産業省令・法務省令で定めるところにより、経済産業省及び法務大臣の確認を受けていること

【適用要件2】
 次の(a)~(d)のいずれにも該当すること(産業競争力強化法に基づく募集新株予約権の機動的な発行に関する省令[3]第1条)。

 (a) 株式会社が以下の①~③のいずれかに該当すること。

① 株主間契約で上場又は事業譲渡若しくは当該株式会社以外の者が、当該株式会社の株式を取得することにより、当該株式会社の総株主の議決権の過半数を有することのいずれかに関する書面又は電磁的記録による合意があること
② 株式会社の発行する株式又は新株予約権が、投資事業有限責任組合契約において営むことを約する事業において保有されていること
③ 残余財産の分配又は取得条項についての定めがある種類株式を現に発行していること

 (b) 以下の①~③のいずれかの者に対して募集新株予約権を割り当てる対象者としていること。

①当該株式会社又はその子会社の役員
②当該株式会社又はその子会社の使用人
③当該株式会社に対して役務を提供する者

 (c) 当該株式会社の株主と当該株式会社との間又は当該株式会社の株主の間に、当該株式会社が募集新株予約権を発行する条件その他の当該株式会社が募集新株予約権を発行する場合の取扱いに関する書面又は電磁的記録による合意があること。

 (d) 募集事項の決定を取締役会に委任するときは、株主総会において、取締役がその旨を説明することとしていること。

 本制度を導入する際、募集事項の決定を取締役に委任する決議があった場合には、株主になろうとする者及び新株予約権者となろうとする者に速やかに通知しなければなりません。また、取締役が募集新株予約権の募集事項を定めたときは、株式会社は、その募集新株予約権を割り当てる日の2週間前までに、株主に当該募集事項を通知することが義務付けられています。
 さらに、募集新株予約権について、金銭の払込みを要しないこととすること又は払込金額が当該募集新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件又は金額であるときは、株主総会決議によって、以下の事項を定める必要があります。

① 当該募集新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
② 当該募集新株予約権を行使することができる期間
③ 当該募集新株予約権の数の上限
④ 当該募集新株予約権の割当日を当該決議の日から1年以内とする旨

 この場合、取締役は株主総会にて、当該条件又は金額で当該募集新株予約権を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由の説明義務が課されている点に留意が必要です。

—–

[1] 経済産業省「募集新株予約権の機動的な発行(ストックオプション・プール)に関する制度
[2] 産業競争力強化法(抜粋)
[3] 産業競争力強化法に基づき募集新株予約権の機動的な発行に関する省令


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