• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

最新の労働法改正:労働者福祉基金、給付支援及び最低賃金

2025年01月21日(火)

最新の労働法改正:労働者福祉基金、給付支援及び最低賃金についてニュースレターを発行いたしました。
こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。

最新の労働法改正:労働者福祉基金、給付支援及び最低賃金

 

最新の労働法改正:労働者福祉基金、給付支援及び最低賃金

2025年1月20日
One Asia Lawyersタイ事務所
藤原 正樹(弁護士・日本法)
千葉 広康(弁護士・日本法)

はじめに

2024年11月及び12月に労働法に関わる以下の省令及び告示が発行されました。

  1. 2024年11月22日付け労働者の雇用が終了した場合又は労働者が死亡した場合における労働者を給付支援するための基準及び手続きに関する省令E.2567(以下「本省令1」といいます。)
  2. 2024年11月22日付け労働者福祉基金の拠出金及び補助拠出金の拠出率の決定に関する省令E.2567(以下「本省令2」といいます。)
  3. 2024年12月27日付け最低賃金に関する賃金委員会の告示(以下「本告示」といいます。)


これらは、今後、企業の労務管理に影響を及ぼす可能性のある事項ですので、以下ではこれらの内容及び企業が対応すべき事項について説明させていただきます。

1. 本省令1

労働者の雇用が終了した場合又は労働者が死亡した場合における労働者を給付支援するための基準及び手続きに関する省令
https://ratchakitcha.soc.go.th/documents/51630.pdf

企業は、労働者保護法B.E.2541(1998年)(以下「LPA」といいます。)第130条第1項に基づき、10人以上の労働者を雇用する事業所において、労働者福祉基金を導入する義務があります(労働者福祉基金については、後述の本省令2で取り上げております。)。もっとも、雇用主が、①プロビデントファンド又は②本省令1に基づく労働者の雇用が終了した場合若しくは死亡した場合の給付支援(以下「給付支援」といいます。)の制度を設けている場合、LPA第13章で規定される労働者福祉基金に労働者を加入させる義務が免除されます(LPA第130条第2項)。

本省令1が公布される以前には、給付支援の基準及び手続きは定められておりませんでしたが、本省令1により、雇用主と労働者の双方における給付支援に関する基準及び手続きが明確にされましたので、以下のとおりご説明いたします。本省令1は、2025年10月1日に施行されます。

1.1. 給付支援における労働者の権利義務

1)労働者は、賃金が支払われるたびに賃金の一部を拠出することが義務付けられています。雇用主は、これらの拠出金を、給付支援のために開設された特定の銀行口座(以下「給付支援口座」といいます。)に入金する必要があります。
2)労働者又は下記の受益者は、労働者の雇用が終了した場合又は労働者が死亡した場合、拠出金、雇用主からの補助拠出金(以下2.に記載のものです。)及び利息(総称して「給付」といいます。)を給付支援口座から受け取ることができます。

本省令1では、受益者は以下のとおり定義されています。

  1. 遺言書又はその他の書類を雇用主に通知することにより、給付を受けるために労働者が指定した人
  2. 上記(1)に基づく指定された人物がいない場合又は上記(1)に基づく指定された人物が労働者よりも先に死亡し、又は裁判所が当該指定された人物に失踪宣告を下した場合には、民商法典第1629条に基づく労働者の相続人

1.2. 給付支援における雇用者の義務

1)雇用主は、労働者に賃金を支払う都度、労働者の賃金から拠出金を差し引き、各労働者の給付支援口座に入金することが義務付けられています。
2)雇用主は、労働者に賃金を支払う都度、給付支援口座に補助拠出金の支払いを行わなければならず、当該拠出率はプロビデントファンドに設定された利率よりも低いものであってはなりません。
3)雇用主は、労働者の負担する拠出金と雇用主が負担する補助拠出金の双方に関連する以下の事項を書面で決定しなければなりません。
●拠出金及び補助拠出金の利率(プロビデントファンドに設定された利率よりも低いものであってはなりません。)
●拠出金及び補助拠出金の収集手続き
●拠出金及び補助拠出金の内容を確認するための手続き
●労働者が受給することができる拠出金及び補助拠出金から得られる利息を計算する方法
●労働者又はその受益者が給付支援を受ける方法及び時期
●受益者は、労働者が死亡した場合又は裁判所が労働者の失踪宣告を下した場合、労給付支援を受給できること
4)雇用主は、最初の拠出金控除日から7日以内に、銀行又は金融機関の名前、口座番号、口座名義等の給付支援口座の詳細を労働者に通知する必要があります。
5)雇用主は、拠出金及び補助拠出金の内容を確認するシステムを導入するか又は労働者の要求から15日以内に給付支援口座の記録及び関連文書を労働者に提供しなければなりません。
6)解雇、辞職、定年退職、合意退職等により雇用が終了した場合、雇用主は、労働者の雇用の終了日から30日以内に、労働者に給付支援口座を譲渡し、雇用終了を確認する書面を発行しなければなりません。
7)労働者が死亡した場合又は裁判所が労働者の失踪宣告を下した場合、雇用主は、受益者が給付支援口座から給付を受けるための支援をしなければなりません。

<企業は何をすべきか>

企業は、10人以上の労働者を雇用する事業所において、プロビデントファンド、本省令1に基づく給付支援又は労働者福祉基金のいずれかの制度を導入する必要があります。現在、プロビデンドファンドを導入している企業は相当数あると考えられますが、未導入の企業は、上記3つのいずれかの制度を導入しなければなりません。企業が給付支援を選択する場合、2025年10月1日より、本省令1に準拠した給付支援を導入しなければなりません。この場合、LPA第13章で規定される労働者福祉基金に労働者を加入させる義務は免除されます。

2. 本省令2

労働者福祉基金の拠出金及び補助拠出金の拠出率の決定に関する省令
https://ratchakitcha.soc.go.th/documents/51627.pdf

LPA第13章において、労働者福祉基金(以下「基金」といいます。)について定められております。本省令2が公布される以前には、基金に関して労働者が負担する拠出金及び雇用主が負担する補助拠出金の拠出率に関する詳細の規定はありませんでした。本省令2により、拠出金及び補助拠出金の拠出率が明確になりましたので、以下のとおりご説明いたします。本省令2は、2025年10月1日に施行されます。

2.1. 労働者福祉基金

労働者福祉基金 LPA第130条第1項に基づき、企業は、原則として10人以上の労働者を雇用する事業所において、労働者を基金に加入させる必要があります。もっとも、上述のとおり、雇用主がプロビデントファンド又は本省令1に基づく給付支援の制度を設けている場合には、労働者を基金に加入させる義務は免除されます。

基金は労働保護福祉省によって管理されており、労働者の雇用が終了する場合、労働者が死亡する場合又は労働者福祉基金委員会が別途決定した事由が発生した場合に、基金から労働者に給付が提供されます。

企業が基金の制度を導入する場合、雇用主と労働者の双方が基金に拠出することが義務付けられます。雇用主は、LPA第131条第1項及び本省令2に基づき、労働者に賃金を支払う都度、以下の義務を履行しなければなりません。

  1. 労働者の拠出金を賃金から差し引き、労働者に代わって基金に拠出する。
  2. 基金に対して補助拠出金を支払う

2.2. 拠出率と補助拠出金

雇用主は、本省令2に規定された拠出率に従って、控除が行われた月の翌月15日までに、雇用主負担の補助拠出金と労働者負担の拠出金の双方を基金に支払う要があります。拠出率は、以下のとおりとなります。

  1. 2025年10月1日から2030年)9月30日まで 拠出金及び追加拠出金の双方について、労働者の月給の25%
  2. 2030年10月1日以降:拠出金と追加拠出金の双方について、労働者の月給の5%

2.3. 雇用主が労働者に代わって拠出金又は補助拠出金を支払わなかった場合の罰則

LPA第131条第3項に基づき、雇用主が労働者に代わって拠出若しくは補助拠出金を支払わなかった場合又は所定の期間内にそれらを支払わなかった場合、雇用主は基金に追徴金を支払う必要があります。この追徴金は、未払い又は過少払いの拠出金に対して、支払いが延滞した日から月額5%の割合で計算されます。

<企業は何をすべきか>

上述のとおり、企業は、10人以上の労働者を雇用する事業所において、プロビデントファンド、本省令1に基づく給付支援又は労働者福祉基金のいずれかの制度を導入する必要があります。現在、プロビデンドファンドを導入している企業は、基金に労働者を加入させる義務が免除されます。
企業は、プロビデントファンド又は本省令1に基づく給付支援の制度のいずれも導入しない場合、労働者を基金に加入させる義務があります。この場合、企業は、2025年10月1日より、本省令2に従い労働者に賃金を支払う都度、労働者が負担する拠出金及び企業が負担する補助拠出金を基金に支払わなければなりません。

3. 本告示

最低賃金に関する賃金委員会の告示(第13号)
https://ratchakitcha.soc.go.th/documents/55781.pdf

賃金委員会は、2024年12月27日、本告示を発行し、タイの一日の最低賃金を引き上げました。2025年1月1日から、改定された最低賃金が適用されております。本告示以前においては、最低賃金はTHB330-370でしたが、本告示により、以下のとおり、地域に応じ最低賃金は337-400タイバーツに引き上げられました。

都・県 1日当たりの
最低賃金

THB
プーケット、チャチュンサオ、チョンブリ、ラヨーン、スラタニ(サムイ島) 400
チェンマイ(チェンマイ市)、ソンクラー(ハトヤイ市) 380
バンコク、ナコンパトム、ノンタブリ、パトゥムタニ、サムットプラカン、サムットサコーン 372
ナコンラチャシマ 359
サムットソンクラーム 358
コンケン、チェンマイ(チェンマイ市以外)、プラチンブリ、アユタヤ、サラブリー 357
ロッブリー 356
ナコーンナヨック、スパンブリー、ノンカイ 355
クラビ、トラート 354
カンチャナブリ、チャンタブリ、チェンライ、ターク、ナコーンパノム、ブリーラム、プラチュワップキリカーン、パンガー、ピサヌローク、ムクダハン、サコンナコーン、ソンクラー(ハトヤイ市以外)、サケオ、スラタニ(サムイ島以外)、ウボンラチャターニ 352
チュンポン、ペッチャブリー、スリン 351
ナコンサワン、ヤソートーン、ランプン 350
ガラシン、ナコンシータマラート、ブンカン、ペッチャブン、ロイエット 349
チャイナート、チャイヤプーム、パッタルン、シンブリ、アントン 348
カンペーンペット、ピチット、マハサラカム、メーホンソン、ラノーン、ラチャブリー、ランパン、ルーイ、シーサケット、サトゥン、スコータイ、ノンブアラムプー、アムナートチャルーン、ウドンタニー、ウッタラディット、ウタイターニー 347
トラン、ナーン、パヤオ、プレー 345
ナラティワート、パタニ、ヤラー 337


なお、法定の労働時間未満に労働時間が短縮された場合(労働者の健康と安全を脅かす可能性のある業務については1日7時間未満、それ以外の業務について1日8時間未満)でも、使用者は、労働者に対し、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。

<企業は何をすべきか>

タイで事業を行う企業は、各都県における最低賃金を確認した上で、これに応じた最低賃金以上の賃金を労働者に支払う必要があります。