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シンガポールにおける株式譲渡契約とStamp Duties Actの改正について

2017年06月30日(金)

シンガポールにおける株式譲渡契約とStamp Duties Actの改正について解説致します。

シンガポールにおける株式譲渡契約とStamp Duties Actの改正について

 

シンガポールにおける株式譲渡契約と Stamp Duties Act の改正について

2017 年 6 月 30 日
One Asia Lawyers シンガポール;JLC Advisors LLP

1、シンガポールStamp Duties Act の改正

 従前、シンガポールのStamp Duties Act (Cp.312、以下「SDA」)第22条(1)においては、印紙税(Stamp Duty)の課税対象として、不動産その他の資産の譲渡文書が含まれていたものの、株式の譲渡文書については除外されていました。そこで株式譲渡においては、株式譲渡契約書(Share Purchase Agreement、以下「SPA」)そのものではなく、SDAのSchedule第3条(c)に基づき、株式譲渡実行の際に別途作成される株式譲渡文書(Share Transfer Form)を課税対象文書とする取扱いがなされてきました。すなわち、SPA締結時には課税はなされず、株式譲渡実行時(クロージング時)に課税がなされることとされてきました。

 しかし、2017年3月11日にSDAが改正され、SPAが印紙税の除外対象から除外されました。これにより、SPAが課税文書としての扱いを受けつけることとなりました。

 シンガポール内国歳入庁(Inland Revenue Authority of Singapore、IRAS)によると、この改正は、株式についても資産の一種であることから、株式譲渡契約についても、不動産等の譲渡契約と同一の取扱いとの一貫性を保つためであるとされています。

2、株式譲渡契約及びその取引に対する影響

 今回のSDAの改正がもたらす株式譲渡契約、及びそれに基づく取引への影響は、概ね次の通りであるとされています。

株券不発行の株式 株券が発行される株式

従前の取り扱い:

●印紙税の支払いは不要

改正後の取り扱い:

●SPAが課税文書となる
●株式の公開買付(General Offer、GO)のケースも対象となり得る
●株式譲渡にあたり、何らの文書も締結されない場合には、印紙税は課税されない。

IRASの説明:

●IRASは、印紙税の不払いに対しては強制執行その他の追及を行わない(ただし、印紙税未払いのSPAのみでは、株式譲渡の事実の証明力が弱く、株主変更登録時の証憑とすることが困難となる等の弊害は考えられる。)。
●将来的に、下位法令によって詳細が定められる可能性がある。
●株式譲渡当事者において懸念がある場合には、IRASに対する書面による照会を行うことが望ましい。

従前の取り扱い:

●株式譲渡文書(Share transfer form)に対する課税

改正後の取り扱い:

●SPA又は株式譲渡文書のうち、いずれか先に締結(作成)される方に対する課税
●上記取り扱いは、次を満たすか否かにかかわらず行われる。
 ・SPAの実行が条件付きであるか否か
 ・前提条件が満たされるか否か
 ・取引の実行の有無
●SPA締結後、何らかの理由で株式譲渡取引が実行されなかった場合には支払済みの印紙税は返還されうるが、100%返還が保証されるか否かは定かではない。

IRASの説明:

●IRASは、現在受領したフィードバックを検討している最中である。
●SDAの更なる改正がなかった場合でも、IRASにおいて、株式譲渡取引が実行されなかった場合の支払い済み印紙税の返還について、更なる説明を行う。

主な実務上のポイント:

●印紙税の支払いに関する文書が、取引実行時ではなく契約締結時に求められることになる。
●印紙税の支払い責任について、取引実行条件ではなく締結時を基準とすべきことになる。
●株式譲渡に関する取締役会決議文書の文言を、今回の改正を前提としたものに修正する必要がある。
●定款において、株式譲渡文書に対する印紙税の支払いが定められている場合には、修正の必要がある。

3、留意点

 実務上は株式譲渡案件において、従前、そのSPAのクロージング時に初めて印紙税を支払えばよかったのが、前提条件が全て満たされるか否かが未確定な時点であるSPAの締結時に支払うべきこととなり、本件改正の実務上の影響は少なくないと思われます。SPAの交渉においても、クロージングがなされなかった場合の印紙税の取り扱いなどについての記載が必要となるなどの影響もあると思われます。

 なお、日本においては一般に、株式譲渡契約は課税対象文書となっておらず印紙税の対象ではないため、シンガポールにおける取り扱いが日本と異なることになるため注意が必要です。

以上