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スリランカの投資環境及び進出法務

2017年07月12日(水)

 スリランカの投資環境及び進出法務について解説致します。

スリランカの投資環境及び進出法務

 

スリランカの投資環境及び外資規制(特別連載第1回)

2017 年 7 月 12 日
One Asia Lawyers タイ事務所
藪本 雄登

1.スリランカの投資環境

 スリランカ民主社会主義共和国(以下、「スリランカ」)は、2009年の内戦終結に伴うコックない情勢安定化を背景に、投資が拡大している。特に、戦後のインフラ関連投資が増加している(例えば、コロンボ港のコンテナターミナル拡張工事等)。他方、スリランカ国内には8つの世界遺産が存在しており、外国人観光客も急増しているため、ホテル、リゾート施設等の建設ラッシュが生じている。

 経済成長率は、2011年8%台、2012年9%台、2013年3%台、2014年、2015年4%台となっており、堅調に推移している。さらに、コロンボ市内・近郊では、外資によるオフィス、住宅開発、供給コンドミニアム、複合商業施設等の建設ラッシュが生じており、コロンボの街並みは日々変化している。また、日系企業数は約130社となっており、業種としては、建設会社、商社やIT業者等のPDA関連事業者が多い。

 ODA関連事業者を除けば、後述するスリランカの地理的優位性に着目した製造業、物流業者、造船業社等の進出やスリランカ独自の強みを活かした事業者(例えば、スリランカ人の手先の器用さを活かした食器等の製造を行う会社やスリランカの天然ヤシを利用する事業者)による投資が行われている。筆者がスリランカ日本人商工会議所にオブザーバーとして参加した感想としては、シンガポールやバンコクのように登録企業数がまだ多くないため、日系企業のコミュニティとして、非常にアットホームで、温かい雰囲気であった。

 最近のニュースとしては、ラニル・ウィクラマシンハ首相は2017年1月4日、「力強いスリランカ(an empowered Sri Lanka)」と題した国家経済開発計画を発表している。

 包括的な経済政策が文書として発表されるのは今回が初めてであり、大規模な経済回廊を二つ創造する構想が示されている。また、2017年6月15日「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムの首脳会議にて「スリランカは戦略的なロケーションを活用しながら、インド洋のハブとなるべく地域を連結する能力を高めていく」と述べており、インド洋のハブとしての機能をさらに強化していく予定だ。なお、最近の日系企業の動向とぢては、2017年6月に三井物産が10年ぶりに事務所を再開している。

<スリランカの概要>

正式国名 スリランカ民主社会主義共和国
(Democratic Socialist Republic of Sri Lanka)
人口 2,120 万人(2016 年、スリランカ中央銀行)
国土面積 6.6 万平方キロメートル(日本の約 0.17 倍)
首都 スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ(人口 10.7 万人)
主要都市 コロンボ(人口 56.1 万人)
時差 日本とは-3.5 時間の時差
民族 シンハラ人 74.9%
スリランカ・タミル人 11.1%
スリランカ・ムーア人 9.3%
インド・タミル人 4.1%
言語 公用語:シンハラ人語、タミル語
連結語:英語
宗教 仏教 70.1%、ヒンドゥー教 12.6%、イスラム教 9.7%、キリスト教 7.6%
通貨 スリランカルピー
在留邦人 1,238 人(2016 年 10 月時点、外務省)
日系企業数 130 社(2016 年 7 月時点)

 

 スリランカとインドの間では FTA が締結されており、スリランカは、インドプラスワンとして
活用されるケースが多いが、筆者としては、今後ASEAN プラスワンとして、ASEAN からスリラ
ンカへの企業進出が増加し、日系企業を含むASEAN 企業のインド、中東、アフリカに向けた
中継地(ハブ)として機能することを期待している。

(1)ASEAN とアフリカ等を繋ぐ中継地点
 その理由の一つは、ASEAN をはじめ、インド、中東、アフリカ等の新興国や欧州に近く地理的優位性があり輸送ハブ拠点として活用できる可能性がある。既にスリランカのコンテナ取扱量は、インド洋に面した主要港湾の中で、インド最大のジャワハルラルネール港に次いで第 2 位であるが、インド洋の輸送ハブ機能を強化するため、コロンボでは港湾の開発が急ピッチで進んでいる。さらに、インドの港は、場所によって浅く、大型船が着港できないことがある。その点、コロンボ港の水深は 17〜18メートルもあり、スリランカで小型船に積み替えることも可能である。スリランカは、21世紀と 22 世紀に勃興するであろう ASEAN とアフリカ諸国の中間に位置しており、今後、さらに港湾が強化されていけば、スリランカの重要性はさらに増していくことが想定される。 

(2)スリランカ人材の魅力

 二つ目の理由は、スリランカの人的な魅力である。筆者がスリランカの人々と接して驚いたのが、彼らが基本的に信仰深い仏教徒であることである。筆者の駐在経験が長いタイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー等の ASEAN 諸国との親和性が高いと感じている。また、スリランカは、日本と同様に、島国の小国で、歴史的に灌漑農業で発展してきた農耕民族の国であり、共存・共栄していく共同体の精神はかつての日本に類似しているところがあり、日本人にとっては親しみあると感じられる。
 さらに、一般的に高い教育水準(例えば、高い識字率等)と高い英語能力を備えており、この点に着目した日系 IT 企業がスリランカでソフトウェア開発を行っているケースもある。
 また、筆者が現地弁護士事務所や会計事務所等を訪問し、業務を行っている限りでは、専門職業人のレベルは、比較的高いと感じた。
 最後に、人件費についてであるが、工員の給与は、月額 160 米ドル程度であり、バンコクやマニラの半分程度であり、カンボジアやミャンマー等とほぼ同水準である点も注目に値する。
 以上、スリランカは、人口が 2,100 万人と少なく、消費市場や製造拠点としての魅力は限定的だと考えられるが、人口が少ない国であっても、シンガポール(ASEAN 地域統括拠点として活用)やチリ(南米地域統括拠点として活用)等のように統括拠点として、成功している事例は多く存在する。前述したインド洋の海上交通の要所という地理的長所とスリランカ人の人的魅力を活かして、筆者としては、将来的にスリランカが ASEAN とアフリカ、中東等を繋ぐ統括ハブ、輸送ハブ国家として発展することを期待するばかりである。

2.スリランカの外資規制
 本章では、スリランカの外資規制の概要について解説を行う。スリランカでは、以下で説明する業種を除いて、原則的に外国資本が自由に投資できる設計となっている。
スリランカは、外国資本の投資を禁止する事業活動及び政府の承認が必要となる事業をリスト化している。
<禁止業種>

  禁止業種
貸金業(Money Lending、但し、一部例外有り)
質屋業(Pawn Broking)
100 万ドル未満の資本金での小売業(Retail Trade with a capital of less than One Million US Dollars )
沿岸漁業(Costal Fishing)
セキュリティサービス(Provision of Security Services)

<出資比率に関する制限業種>
 スリランカ投資委員会(Board of Investment、BOI)での承認がない限り、下表の業種
に対しては、外国資本の出資比率は 40%迄しか認められない。なお、出資比率が 40%を超
える場合については、BOI から案件毎に承認を得る必要がある。

  出資制限業種

スリランカからの輸出について輸出割当制限対象である物品製造

(Production of Goods where Sri Lanka’s exports are subject to internationally determined quota restrictions )

茶、ゴム、ココナッツ、ココア、米、砂糖、香辛料の栽培及び第一次加工
(Growing and Primary Processing of Tea, Rubber, Coconut, Cocoa, Rice, Sugar and Spices )
鉱業及び再生不可能な天然資源の採掘及び第一次加工
(Mining and Primary Processing of Non Renewable National Resources)
スリランカの木材を利用した林業(Timber Based Industries using Local Timber)
遠洋漁業(Deep Sea Fishing)
マスコミ(Mass Communications)
教育(Education)
貨物運送業(Freight Forwarding)
旅行代理店(Travel Agencies)
10 海運代理業(Shipping Agencies)

<当局の承認が必要な業種>
 以下の業種は、BOI 又は監督当局による承認が必要となっている。

  禁止業種
航空運送業(Air Transportation)
沿岸海運業(Coastal Shipping)
武器、弾薬、軍事車両等の生産、毒物、麻薬、危険薬物等の生産、通貨、硬貨等の生産(Industry Promotion Act の附属書に記載される業務)
宝石の大規模、機械化採掘業(Large Scale Mechanized Mining of Gems)
宝くじ(Lotteries)

 なお、上記以外にも実務的に規制される業種が存在している可能性があり、実際の投資検討の際には、BOI、監督当局や現地法律事務所に確認の上、慎重に規制を検討することが推奨される。

 次号では、スリランカの投資インセンティブと進出方法について解説する。

以 上