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タイにおける債権回収と倒産対応の実務について

2020年09月22日(火)

タイにおける債権回収と倒産の対応の実務について報告いたします。

債権回収と倒産対応の実務について

 

タイにおける債権回収と倒産対応の実務

2020年7月28日

One Asia Lawyersタイ事務所

 

1回 執筆の背景

タイにおけるCovid-19の影響は甚大だ。本年度に入り債権回収や倒産関連業務が激増している。先日、「タイにおける債権回収と倒産の実務」というセミナーを実施させて頂いたが、思いの外、反響が大きかった。

特に、最近は、代金回収を目的とした代理交渉や訴訟対応、例えば、食品を卸していたレストランから代金が払われないので困っているというようなものから、不動産開発プロジェクトに対して数億円規模で融資を行っていたが元本及び利子の返済がなく、どのように対応すればいいか、といった相談。また、その他建設関連訴訟も増加の一途を辿っている、例えば、起用しているサブコントラクターの資金繰りが悪化しているためか、工事が延々に進まないので、発注者としては契約解除して、既に支払っている工事代金を取り返したい、他方、発注者側の資金繰りが悪化しており、発注者側から工事に対する様々な難癖をつけられており、代金を払ってもらえない等、多種多様なご相談を受けている。さらには、最近では、取引先が他の債権者から破産申立や会社更生の申立を受けたようだが、どのように対応したらよいのかという相談も増加している。

まず、導入として、よく聞かれるのは「タイでは日本と同じような感覚で債権回収が可能なのか」という問いだ。答えは、「半分Yes、半分No」とでもいっておこう。タイにおいては、一定の期間を定めて支払督促の書面を相手方に送付し(場合によっては、弁護士事務所等から日本でいうところの内容証明郵便を送付し)、交渉を行い、話し合いで解決できなければ訴訟等の紛争解決機関に申し立てを行い、債務名義を取得した後、強制執行等を行っていくような手続きの流れは、基本的に日本と同様である。

タイの裁判についても質問を受けることが多くなってきたが、年間190万件程度(2018年度)とかなり一般的に利用されている。汚職等の件もよく質問を受けるが、筆者が過去40件近く、タイにおける訴訟対応を行ってきた中では、そのような汚職の問題に直面したことはなく、周辺国と比較して、公平に処理されている印象を受ける。

また、法体系は、日本と同様に大陸法系の法体系といわれており、裁判手続上は、職権主義的な要素が強く(簡単にいうと、裁判所や裁判官の権限が強く、裁判所が主導的かつ積極的に紛争解決を導いてくれる要素が強い。和解期日では、和解勧奨役として裁判官がかなり頑張ってくれる)、また三審制を採用している点からも、大きく日本と変わらないといえる。

他方、もちろん日本と異なる点も色々あり、上記問いについて「No」といえそうな部分もある。例えば、「タイに、日本でいう少額訴訟制度のようなものはないのか」、また、「日本でいういわゆる公正証書(簡単にいうと、債務者が義務を履行しない場合、債務者が事前に書面にて許諾していれば、訴訟を経ずして、強制執行を申立、競売を実施することを)はないのか」と聞かれることがあるが、残念ながら、タイには、そのような制度は存在していない状態である。

その他、「タイには欠席裁判がないのは本当か」、「タイでは自己破産制度がないと聞いたが本当か」、「タイでは連帯保証制度がないと聞いたが本当か」、「タイでは小切手の不渡が生じた場合に刑事告訴が可能と聞いたが本当か」等、日本とは異なる独自の制度があるので、今後、本寄稿で紹介していきたい。

また、債権回収に共通していえることは、①契約内容、②証拠の有無、③相手方の資産有無が極めて重要な要素になるので、これらの点については以下の通り、詳しく述べていくつもりだ。

<連載予定一覧 ※状況によって変更となる可能性がある。>

1 はじめに

2 債権回収に向けた初動対応のポイント

3 資産調査のポイント

4 債権回収に関する契約上のポイント その1

5 債権回収に関する契約上のポイント その2

6 裁判制度のポイント

7 仲裁制度のポイント

8 保全手続、強制執行手続のポイント

9 取引先の破産、会社更生等の倒産時の対応方法

以上

〈注記〉
本資料に関し、以下の点ご了解ください。
・ 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
・ 本資料の使用によって生じたいかなる損害についても当社は責任を負いません。


本記事やご相談に関するご照会は以下までお願い致します。
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)