タイにおける債権回収と倒産対応の実務(第3回)について

2020年10月25日(日)

タイにおける債権回収と倒産の対応の実務(第3回)について報告いたします。

債権回収と倒産対応の実務(第3回)について

 

タイにおける債権回収と倒産対応の実務 第3回

2020年10月25日

One Asia Lawyersタイ事務所

 

第3回 債権回収に関する契約上のポイント その1

第1回で述べた通り、タイにおける債権回収のポイントは、①契約内容、②証拠の有無、③資産の有無となる。前回は、③の資産の有無について述べたが、今回は①契約内容について述べる。まず、相談を受ける際によく聞かれるのは「契約書が存在しないのだが、問題ないか」という質問だが、結論として、契約とは「当事者同士の意思表示が合致することで成立する法律行為」であり、一部の契約類型を除いて、契約書等の書面がなくとも、当事者間の意思表示の内容が合致していれば契約は成立する。そのため、訴訟上は、発注書(Purchase Order)や電子メール等でも当事者間の意思が合致していることが十分に立証できれば、必ずしも契約書は必要がないといえる。ただ、当然ながら、契約書はあったほうがいい(例えば、売買契約であれば、最低でも①代金支払期限、②所有権の移転時期、③保証期間、④準拠法、⑤紛争解決方法等を定めておくべきである)。そのため、可能な限り、契約書は作成し、当事者間で十分に理解がなされた上で、締結されることが推奨される。

契約書が存在する場合において、私達が契約書をレヴューする際には、基本的に最終ページから読むことが多い。契約書の紛争解決方法の規定が最終ページにあることが多く、後述する通りどの紛争解決方法を採用するかによって、債権回収に法的に有利になったり、著しく不利になったりすることがあり、その点をまず確認するためだ。

一般的に、タイにおける紛争解決方法は、①訴訟、②調停、③仲裁等があるが、メリットとデメリットは以下の表のとおりである。なお、調停と仲裁を利用するにあたっては、当事者間の合意が必要であり、契約書等でその合意がない場合、タイ法人同士でタイ国内での取引であれば、一般的にはタイ国内の裁判所で紛争解決がなされることとなる。

<一般的な紛争解決方法に関するメリットとデメリット>

※図はPDFをご覧ください。

タイにおいては、第1回で述べた通り、かなり一般的に訴訟が利用されており、特に政治的な関係当事者がいるケースやクロスボーダーでの取引等一部のケースを除いて、タイ国内の裁判所での処理で問題ないと考える。契約書の相談を受ける中で、誤った理解をされているケースが多いのが裁判管轄である。契約書で紛争を解決する裁判所をとにかく日本の裁判所にしておいたほうが安全だと勘違いされているケースが多くあるが、実は、取引の相手方の資産がタイにある可能性が高い場合、これが一番やってはいけないことだ。訴訟による場合、原則として裁判所の判決については、その裁判所の所在国でしか効力を生じないため、例えば、日本国内で判決を獲得しても、(ハーグ条約を批准している場合を除いて)他の国で強制執行することができない。日本国内の裁判所を管轄裁判所とする場合、タイはハーグ条約を批准していないため、日本で裁判を行った上、その後、タイで再度裁判を行い、強制執行手続きを行う必要が生じ、債権回収の相手方との交渉において、交渉力が著しく低下するようなケースがある。

<タイにおける紛争解決手段のポイント>

※図はPDFをご覧ください。

他方、仲裁の場合は、外国仲裁判断の承認及び執行に関するニューヨーク条約に批准している国であれば、仲裁判断は国境を超えてその効力が及ぶため、国外の裁判所で承認を得れば仲裁判断に基づいて国外の財産に強制執行することも可能である(日本やタイ等は、本条約に加盟している。)。

以上のとおり、相手方の資産の所在地を踏まえて、慎重かつ戦略的に、契約上で紛争解決方法を設定することが重要だ。この点を誤ると、どんなに有利な状況であっても、余計な手間やコストが生じたり、交渉力を失ってしまったりするので、十分に留意が必要である。

以 上

 

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