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タイにおける債権回収と倒産対応の実務(第4回)について

2020年11月12日(木)

タイにおける債権回収と倒産の対応の実務(第4回)について報告いたします。

債権回収と倒産対応の実務(第4回)について

 

タイにおける債権回収と倒産対応の実務 第4回

2020年11月4日

One Asia Lawyersタイ事務所

 

4回 タイの裁判制度について その1-

第3回で述べた通り、タイにおける債権回収について法的手段を取る際には、タイ国内またはタイ国外の①訴訟、②調停、③仲裁の選択肢があり、この選択を誤ると著しく交渉力の低下を招いたり、債権回収の見込みが低下することをお伝えした。今回は、タイの実務において、もっともよく使われるタイの裁判制度について概説する。

タイの裁判制度は、第1回で述べた通り、いわゆる大陸法(シビル・ロー)系の影響を受けており、日本と同様に三審制であり、裁判所や裁判官の権限が比較的強く、和解手続き等では裁判官から積極的に和解勧奨を受ける。民事訴訟法は、1934年に制定され、同法がタイにおける民事訴訟の手続き全般を規定している。裁判所には、司法裁判所に加えて、憲法裁判所、行政裁判所、軍事裁判所といわれる特別裁判所が存在する。司法裁判所には、知的財産、労働、税務、破産、少年家庭等の専門裁判所が存在する。また、言語は全てタイ語で行われ、提出する訴状、答弁書や証拠は全てタイ語でなければならず、証拠が外国語で作成されている場合はすべてタイ語に翻訳される必要がある点に留意が必要である。

案件の取り扱い件数は、下表の通り、年々増加しており、年間の取扱案件数は、190万件を越えており、かなり一般的に活用されているといえる。また、汚職についてもよく相談を受ける。確かに、トランスペアレンシー・インターナショナルが年次で発表している腐敗認識指数ランキングでは、101位と好ましい順位ではないが、過去、著者がタイにおいて訴訟案件を対応してきた中では、周辺国の新興国等での実務と異なり、賄賂要求等を受けたり、そのような相談があったことは一度もなく、裁判所はある程度清廉であり、信頼されているのではないかと感じる。

<タイの訴訟件数2017年度/2018年度(Court of Justice情報より著者作成)>

※図はPDFをご覧ください。

裁判手続きの流れについては、下表の通りであるが、詳細は次号にて説明する。

訴訟手続の所要期間については、多く相談を受けるが、日本での裁判のように主張書面を原告被告双方が数度にわたり主張書面を提出し争点について主張を重ねていくことはなく、訴状と答弁書が裁判所に提出され、下表④和解期日において合意に至れば3か月から半年程度で決着することもある。上述のとおり、日本での裁判と異なり、主張書面を提出できる機会は限られているので、訴状または答弁書で、できるだけ主張を尽くしておくべきである。

日本の場合は、約1か月毎に期日設定がなされることが多いが、タイの場合、期日設定については期間の間隔が空くことが多く(特に、証人尋問のための期日の際は、2か月後〜半年後などと間隔が空くケースが多い)、判決までに最低でも約1年〜1年半程度を見込んでおいたほうがよい。なお、日本だと主張書面を複数回双方が出し合うので、欠席裁判やすぐに和解できる場合は除き、裁判は最低でも1年以上を要することが多く、タイの裁判は日本に比べて意外と早く終わるという印象を受けることもある。

また、上訴された場合は、上訴裁判所にて審理がなされるが、過去の経験上、こちらも最速で半年、場合によっては1年強を要するようなケースがあった。

<タイにおける民事訴訟の流れ>※図はPDFをご覧ください。

最後に、訴訟費用に関する相談も多い、裁判所に訴えを提起する場合には、裁判費用を裁判所に支払う必要がある。①訴額が5,000万バーツ以下の場合、訴額の2%(上限20万バーツ)、②訴額が5,000万バーツ以上の場合、20万バーツ+訴額の0.1%となっている。④の和解が成立する場合等においては、裁判費用の一部が返金されることもある。また、弁護士費用については、裁判所の判断により敗訴者に対して、弁護士費用も含めた裁判費用の負担が認められることがある。ただし、弁護士費用については裁判所が算定する費用であり、実際に弁護士に支払った金額より、かなり低く設定されることが多く、弁護士費用の負担については予め期待しないほうがよいといえる。

 

以 上

 

〈注記〉
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yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)