海外インフラプロジェクトの法的留意点ーオーストラリアのPPP制度ーについて

2020年12月11日(金)

 海外インフラプロジェクトの法的留意点ーオーストラリアのPPP制度ーについてニュースレターを発行しました。

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オーストラリアのPPP制度について

 

海外インフラプロジェクトの法的留意点について
-オーストラリアのPPP制度-
                                                                                                                                   2020 年12月12日
                                                                                                                                One Asia Lawyers
                                                                                                                          オーストラリア事務所
                                                                                           インフラ輸出リーガルプラクティスチーム

 

1 オーストラリアのインフラ需要

オーストラリア政府は 、1980 年代からPublic Private Partnership (以下、「 PPP」)を活用し、主に道路、鉄道等のインフラ整備を進めてきたが、過去 10 年間で、道路、鉄道、エネルギーといった経済的インフラ(Economic Infrastructure)のみならず、病院、刑務所、水処理設備、その他の社会的インフラ(Social Infrastructure)を対象とした PPP プロジェクトの投資額が急増している[1]。オーストラリアにおいて、PPPは、全インフラ事業の約10-15%にとどまる[2]が、これは、厳格な審査に基づき、政府出資の場合に比べより良い費用対効果(Value for Money)が得られるとみなされた場合にのみPPPを利用する仕組みとなっているからである。オーストラリア政府の信用格付けは高く、また、安定した政治、堅調な経済を背景に、外国投資家によるPPPプロジェクトへの出資や参加意欲は高いと言える。COVID-19 の影響で経済が落ち込んでいるにもかかわらず、2021 年以降も多くのプロジェクトが計画されているが、中でも注目すべきプロジェクトの一つが、現在進行中のシドニー西部インフラ計画(Western Sydney Infrastructure Plan)[3]であり、日系企業のオーストラリアのインフラ需要の獲得に関する相談も増えている。

2 オーストラリアのPPP法制の概要

オーストラリアのPPPプロジェクトに適用される規制は、従来の調達方法にも適用される調達関連法令[4]がある。他のコモン・ロー系の国々と同様に、PPPにかかる法制度や規制は限定的であり、原則として当事者間の契約に基づき実行される。ただし、PPPの契約及び実施は、連邦政府の諮問機関であるInfrastructure Australiaの発行するNational Public Private Partnership Policy Framework[5]に定めるガイドライン(以下、「National PPP Policy」という。)に従うこととなる。National PPP Policyは、各州・準州が別途定めるガイドラインと矛盾する場合を除き、オーストラリア全土のプロジェクトに適用されるが、各州・準州のガイドラインも、基本的にはNational PPP Policyに倣うものである。

なお、National PPP Policyの他、外資規制法(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975)に基づき、一定の基準値を満たすプロジェクト、及び、国家安全保障上のリスク又は国益上の懸念がある場合には、外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board)の承認が必要となっている。また、競争法(Competition and Consumer Act 2020)に基づき、競争上の懸念がある場合には、公正取引員会(Australian Competition and Consumer Commission)の承認を得る必要があるので、留意が必要である。オーストラリアのインフラ投資を計画する際には、これら各種承認を取得するための期間を考慮する必要がある。

National PPP Policyにおいては、プロジェクトの価値が5,000万豪ドルを超える場合、政府はPPPモデルの利用を検討することとなっている。PPPを採用するか否かの政府の意思決定においては、国民の最善の利益、及び、定量的・定性的評価を踏まえた費用対効果(Value for Money)が重要な判断基準となる。大規模なプロジェクトにおいては、政府資金の不足もPPPの利用を検討する要因の一つとなる場合もあるが、近年では、財政能力を十分に確保するために、資本コストが予算化された後にプロジェクトにコミットする傾向がみられている。

PPP のストラクチャーについては、他国と同様に、一般的にはコンソーシアムが結成される。SPV(Special Purpose Vehicle)が設立され政府との間でプロジェクト契約を締結し、専門事業者がD&C(設計・建築) や M&O(維持/管理・運営) の業務を下請けする一方、金融機関や投資家によってプロジェクト資金が提供されるのが一般的である。対価の支払い方法には、コンソーシアムがインフラのエンドユーザーから使用料を徴収する権利を持つユーザー・チャージ方式、運営段階で政府より定期的なサービス料の支払いを受けるサービス・ペイメント方式、及びそれを組み合わせたハイブリッド方式が採用されている。

National PPP Policyは、オーストラリアの過去の成功事例などを基に策定されているが、 成功事例の一つとして、当時オーストラリア最大の都市道路プロジェクトの一つであったM7自動車道があげられる。M7自動車道は、もともと交通量の多い既存の自動車道を接続する重要なプロジェクトであったが、予測を上回る環境効果と交通量の増加に加え、地域社会への大きな利益(モビリティー、貨物輸送の時間短縮、雇用と経済成長、住宅地の大気質改善など)をもたらした。このプロジェクトの成功は、以下の要因によるものであると解析されている[6]

政府間の連携

連邦政府・州政府間の協力により、円滑なプロジェクト実行と資金調達が可能であった。

評価プロセス

需要、リスク、収益予測等について、詳細かつ正確な評価が実施された。

商業性

シドニー西部の成長が見込まれたため、商業的事業としてプロジェクトを維持でき、長期的にみて道路使用料による収益実現が可能であった。

適切なPPPモデルの採用とリスク配分

プロジェクトに適切なPPPモデル[7]を採用し、民間からの資金調達及びリスク配分を可能にすると同時に、運営コストを最小限に抑えるための設計と品質を促し、費用対効果(Value for Money)を実現した。

D&C段階の遅れをなくし、収益を生み出す運営段階を早期に開始するために、早期完了に伴うパフォーマンスボーナスが約束されていた。

プロジェクト契約

当事者の役割と義務を明確にする詳細なプロジェクト契約が締結された。

公益の実現

グループ会議体・説明会などを通じた地域住民との連携による市民のニーズのくみ取り、ユーザー志向のサービスの導入[8]など。

3 手続き

個々のプロジェクトは、プロジェクトを管轄する権限を与えられた各政府機関によって入札が実施され、選定される。例えば、WestConnex自動車道はTfNSW(ニューサウスウェールズ州交通局)が管轄しており、CBDとメルボルン空港とを結ぶトンネルプロジェクトはMelbourne Metro Rail Authorityが管轄して対応している。

入札プロセスは、National PPP Policyにおいて、透明性を高めるためのガイドラインが規定されており、各州/準州は基本的にそれを遵守することとなっている。入札プロセスは、まずExpression of Interest(EOI)の公募から始まる[9]。入札に参加するためには、事前資格審査[10]に合格し、関連する州/準州の機関に登録しなければならない。EOIの段階で選定された入札者は政府機関から通知をうけ、政府の技術的要件、商業的要件、法的要件、契約書類、提案書の評価基準などの詳細な情報が提供された上で、それに基づき提案書の提出が依頼される(Request for Proposal)。次に、データルームが設置され、政府機関と1対1で議論するワークショップを含む、対話方式での選定が実施される。落札前の段階で、政府側の意向により、各入札者との契約条件及び提案内容について明確にしておく傾向があるため、オーストラリアの入札コストは、他国と比較して高いと言われている。なお、入札プロセス開始から契約締結までの期間は、一般的に、12ヶ月~18ヶ月とされている。

4 リスクマネジメント

PPPの成功は、政府による積極的な評価・審査プロセスだけでなく、適切なリスク配分によるところも大きいと言える。National PPP Policyは、潜在的なリスクの特定及びリスク配分の指針を示しているが[11]、実務上では個々の案件に応じた詳細のリスク評価が実施され、リスク配分について当事者間で調整されることとなる。プロジェクト契約を締結する前に、当事者が適切なリスク評価、デューデリジェンス、及びリスクの移転を達成できるようにすることが重要となる。

加えて、オーストラリアのPPP契約には、予想される不測の事態が発生した場合に、期間の延長、コスト、影響等を評価し、調整するための詳細な調整条項が設けられることが多い。これにより、不測の事態でもプロジェクト契約の変更を必要としないため、スムーズなプロジェクトの推進が実現できる。大規模な鉄道プロジェクトの延長は、このような制度を利用したものである。

この他、コンソーシアムによる債務不履行に対応するため、サービスが一定の水準で提供されなかった場合に、政府が事前に取り決めた金額で支払いを減額できる規定(Abatement Clause)を契約に盛り込むことが多い。また、債務不履行によるプロジェクト契約の終了を避けるために、融資機関が、政府と直接契約を結び、他の当事者よりもより広範の治癒権をもつことが一般的である。

 

[1] https://infrastructure.org.au/chart-group/public-private-partnerships/

[2] http://infrastructure.org.au/wp-content/uploads/2016/12/IPA_PPP_FINAL.pdf

各州/準州の年別インフラ事業出資額:https://infrastructure.org.au/chart-group/government-infrastructure-investment/

各州/準州の年別PPPプロジェクト総額:https://infrastructure.org.au/chart-group/public-private-partnerships/

[3] 2026年に開港予定のシドニー西部空港(Western Sydney Airport)を繋ぐM12モーターウェイを含む道路開発・改修計画

https://investment.infrastructure.gov.au/key_projects/road_and_rail_delivery/western_sydney_infrastructure_plan.aspx

[4] Public Governance, Performance and Accountability Act 2013 (Cth) 及びそれに基づくRegulations、各州/準州の法令、

Black Economy Procurement Connected Policyなど。

[5] https://www.infrastructure.gov.au/infrastructure/ngpd/index.aspx

[6] https://www.infrastructure.gov.au/infrastructure/publications/files/Best_Practice_Guide.pdf

http://nswtreasury.prod.acquia-sites.com/sites/default/files/2017-02/Westlink_M7_contr.pdf

[7] 本プロジェクトでは、BOOT モデル(Build, Own, Operate, Transfer)が採用された。

[8] 最新の電子料金システム、及び、当時は珍しかった距離ベースの料金システムが導入された。

[9] EOI募集中のプロジェクトは各州/準州のウェブサイトで一般に公開されている。

[10] 事前資格審査の基準及びガイドラインは、各州・準州政府のウェブサイトにて公開されている。

[11] 需要リスク、土地取得、及び法改正などの不可抗力事象を除いて、主にコンソーシアム側の負担となっている。

 

 

 

以 上

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