タイにおける債権回収と倒産対応の実務(第5回)について
タイにおける債権回収と倒産の対応の実務(第5回)について報告いたします。
タイにおける債権回収と倒産対応の実務 第5回
2020年12月23日
One Asia Lawyersタイ事務所
第5回 タイの裁判制度について –その2–
第4回で述べた通り、タイにおける債権回収に関連して法的手段を取る際には、タイ国内にておいて訴訟が一般的に利用されている。手続きの流れは、下表の通りだが、今回は各事項について、解説を行う。
<タイにおける民事訴訟の流れ>※図はPDFをご覧ください。
1 訴状/答弁書の提出
タイ王国民事訴訟法(以下、「民訴法」)において、原告が裁判所に訴状を提出し、受理され次第、裁判所から被告に訴状の送達が行われる(民訴条第70条、173条)。なお、訴状は当然タイ語で作成される必要がある。
訴状は、企業の場合は、基本的に事業所に送達され、受け取った被告は、原則として受け取りから15日以内に答弁書を裁判所に提出する必要がある(同法第177条)。民訴法第177条3項によれば、答弁書の提出の際に、反訴を行うことができる仕組みとなっており、反訴を提起する場合は、反訴状が原告に送達され、原告も上記期限中に、答弁書を提出する必要がある。弁護士等の代理人への委任者やその署名権者が海外にいる場合は、その委任状について居住国の公証人による認証と外務省認証が求められているので、留意が必要である(同法第47条)。
なお、訴状が送達される際に、訴状の受け取りができない場合には、事業所の入り口等に訴状が添付されるケースがあり、その場合は、答弁書の提出期限は30日となる。
答弁書の提出期限は、裁判所が妥当と認める範囲にて、延長が認められる(同法第23条)。過去の経験を踏まえると、実務的には、1〜2回程度であれば、比較的、容易に延長が認められている。
2 和解期日の設定
民訴法第20条によれば、裁判所はいつでも和解勧奨を行うことが認められており、一般的に答弁書の提出後に、和解期日が設定される。前回述べたように、裁判所と裁判官は積極的に当事者の和解を促進する仕組みとなっており、和解可能性があれば、数度和解期日が設定されるのが通例となっている。当事者間での和解可能性がないと判断されれば、争点整理のための手続き/証拠調べ手続きに進むこととなる。なお、タイでは日本と異なり、欠席裁判制度(擬制自白)はなく、当事者が期日を欠席しても単に各期日に出席しなかったというだけの意味合いしかもたず、各種手続きはそのまま進められる点に、留意が必要である。
3 争点整理手続き/証拠調べ手続き
民訴法第182条に基づく、争点整理手続きがなされた後、証拠調べ手続きが進められる。このタイミングにて、各種証拠の提出や証人尋問が実施される。証拠は基本的に原本であり、外国語の場合は、翻訳が必要となる。証人尋問手続きについては、外国人の出廷も可能であるが、通訳者の同席が必要となる。なお、Covid-19の影響により、居住国の領事館職員が同席する等の一定の要件を満たす場合は、オンラインでの証人尋問が認められるケースもある。
4 最終弁論/最終弁論書の提出と判決
民訴法第186条によれば、上記手続き終了後に、裁判所に直接口頭で最終的な意見陳述又は最終弁論書の提出が認められている。その後、裁判所から判決日が指定され、口頭での判決の言い渡しと判決文書が発出される(同法第141条)。なお、判決言渡しの日から1か月以内に控訴することが認められている(同法第229条)。
以上がタイにおける裁判手続きの流れであり、判決取得後の強制執行手続きについては、改めて解説する予定である。
なお、上記のようにタイにおいては、訴状の提出から判決の取得まで一定程度の期間を要することから、2020年9月28日に民事訴訟法が一部改正されており、11月7日より施行している。大きなポイントは、今までは調停手続きが上記の争点整理手続きのあとに制限されていたが、今回の改正により訴訟提起をしなくとも、調停手続きが利用できるようになっており、より迅速な紛争解決が実現できる可能性が高まったといえ、今後弊所でも活用していきたいと考える。
以 上
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