ネパールの投資環境と2020年産業企業法について

2020年12月18日(金)

ネパールの投資環境と2020年産業企業法についてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

ネパールの投資環境と2020年産業企業法について

 

 

ネパールの投資環境と2020年産業企業法投資規制について

2020年12月18日

One Asia Lawyers

南アジアプラクティスチーム

1 はじめに ネパールの基礎知識

 

ネパールでは 1996 年から 2006 年まで紛争が続いていましたが、その後の民主化運動を経て、政府は 2013 年からインフラ整備などの計画を進めています。しかしながら、このような状況の中、2015 年 4 月に起きた ネパール大地震の影響は甚大でした。ネパール政府は地震からの復興をめざし、外国企業による投資を誘致する活動を積極的に行っており、投資関連規制等の改定を行っています。

 

ネパールは、急成長している経済大国インドと中国の間に位置し、地理的に重要な拠点となっています。また、ネパールは北側の山岳と南側の平野地帯で構成されており、豊富な水資源に恵まれており、水力発電のポテンシャルが非常に高いといわれています。ヒマラヤ、湖、河川、 生物多様性などの自然遺産が豊富で、観光、トレッキング、エコツーリズム等の可能性もあります。ネパールの人口は約 3,000万人、労働人口(15 歳から 65 歳)が 6 割以上を占めており、首都圏や都市部を中心に英語が話せる人の割合が高く、人件費は近隣国と比較して廉価であり、今後のネパールの発展が期待されています。

 

1  地理について

ネパール連邦民主共和国は,国土面積14.7万平方キロメートル(北海道の約1.8倍)の内陸国です。地理的には東西に長く南北に狭いです。世界最高峰のエベレスト(標高8,848m)擁するヒマラヤ山脈から標高100mにも満たないタライ平原まで急激に高度が変わるのが特徴です。首都のカトマンドゥは、この落差激しい南北の中間の丘陵エリアにあり,標高はおよそ1,400mです。北はヒマラヤ山脈に沿って中国と,南は肥沃な平野部でインドと長い国境を接しており,急成長する両大国の大規模な市場へのアクセスが容易となっています。また、ヒマラヤ山脈に代表される世界的な観光資源に恵まれているほか,その豊富な水量・急峻な地形を利用した水力発電の高いポテンシャルが見込まれています。

 

2  人口・民族・言語について

 

人口約3,000万人を擁し,その57%が労働人口となっており、安価で豊富な労働力があるのが強みとなっています。

 

<人口動態[1](人)>

1990

1995

2000

2005

2010

2015

2018

18,905,478

21,576,071

23,941,110

25,744,500

27,013,212

27,015,031

28,087,871

100以上の民族が暮らし,言語も90を超えるとされますが,公用語はネパール語です。英語教育が実施されており,ビジネス関係者は英語話者が多いです。

 

3  宗教・暦について

 

ヒンドゥー教徒が最も多く(81.3%),仏教徒(9.0%),イスラム教徒(4.4%)と続いています。正式な暦としてビクラム暦が使われています。西暦と同じく1年は365日で12の月に分かれていますが,各月の日数は流動的であり,西暦とは新年も年度の区切りも異なる[2]ため、申請手続等の際には、スケジュールについて留意する必要があります。

 

4 国家・政治体制について

 

1996年から約10年間続いた内戦の末,2008年に王政が廃止されました。現在は複数政党による連邦民主共和制です。国家元首は大統領とされますが,議会に選出された首相が行政の長として議会に責任を負っています。連邦議会は上下院からなります。国土は7つの州に分割されており,各州に州議会が置かれています。

 

行政区分[3]

Provinces[4]

州都

Districts

人口(2011

GDP寄与率(2018/19)[5]

第1州

Biratnagar

14

4,534,943

15%

第2州

Janakpur

8

5,404,145

13%

Bagmati州(旧第3州)

Hetauda[6]

13

5,529,452

41%

Gandaki州

Pokhara

11

2,403,757

8%

Lumbini州

Bhalubang

12

4,499,272

13%

Karnali州

Birendranagar

10

1,570,418

4%

Sudurpaschim州

Dhangadhi

9

2,552,517

6%

 

5  通貨・経済状況について

 

通貨はネパール・ルピー(NRs)となっており、1ネパール・ルピー=約0.88円(2020年12月現在)です。

 

主な経済指標と推移[7]

 

2014/15

2015/16

2016/17

2017/18

2018/19

名目GDP(100万NRs)

2,130,150

2,253,163

2,674,493

3,031,034

3,464,319

〃 (100万US$)

21,410

21,186

25,181

29,041

30,501

1人あたりGDP(NRs)

76,201

79,528

93,141

104,152

117,455

〃       (US$)

766

748

877

998

1,034

経済成長率(%)

3.3

0.6[8]

7.9

6.3

6.5

インフレ率(%)

7.2

9.9

4.5

4.2

4.9

US$為替レート

99.49

106.35

106.21

104.37

113.58

 

6  産業について

 

産業別GDP割合は,多い方から農林業が26.50%,卸売業が14.37%,不動産業が11.53%,建設業が7.77%,運送業が7.23%となっています。農業の占める割合はやや減少傾向にある一方で,金融業や不動産業の割合が緩やかに増加しています。

 

産業別GDP割合(%)[9]

 

2014/15

2015/16

2016/17

2017/18

2018/19

農林業

31.27

31.08

29.14

27.58

26.50

水産業

0.47

0.53

0.51

0.49

0.48

鉱業

0.60

0.56

0.58

0.61

0.60

製造業

6.03

5.82

5.48

5.54

5.59

エネルギー業

1.12

1.02

1.25

1.23

1.25

建設業

7.06

6.80

7.18

7.55

7.77

卸売業

14.69

14.11

13.55

13.95

14.37

ホテル・レストラン業

2.05

2.00

1.95

2.04

2.05

運送業

8.37

8.06

7.55

7.23

7.23

金融業

4.64

5.19

5.54

6.31

6.32

不動産業

8.47

9.21

10.95

11.32

11.53

社会サービス業

2.61

2.54

2.84

2.66

2.71

教育業

6.56

6.82

7.11

7.12

7.06

医療・社会福祉業

1.67

1.62

1.74

1.68

1.75

その他

4.39

4.65

4.63

4.71

4.78

 

2019年3月中旬時点での累計登録企業は210,165社,うち非公開株式会社が206,066社とほとんどを占めています。なお、外国企業は243社に留まっています。

 

形態別登録企業[10]

 

2014/15

2015/16

2016/17

2017/18

2018/19

合計

公開株式会社

1,292

55

89

72

44

1,552

非公開株式会社

134,652

14,455

18,139

21,715

17,105

206,066

非営利会社

783

286

396

442

397

2,304

外国企業

100

22

39

49

33

243

 

210,165

 

7 外国投資について

 

2011年にネパール投資委員会(the Office of Investment Board)を設置し,海外向けの投資推奨政策を実施する等[11],外国投資を誘引する姿勢を明確にしています。

 

過去10年の外国投資額推移 ※グラフはPDFをご覧ください。

 

累積投資額ベースで見る主要な投資分野は,1件あたりの投資額が大きなエネルギー業(42.16%)がトップであり,これに投資件数の多いサービス業(18.72%),製造業(18.60%),観光業(14.10%)が続いています。農業は国内主力産業ですが,累積投資額は2.25%にとどまっています。

 

産業別外国投資(2018/19までの累積)

 

件数

外国投資額(100NRs

割合()

農林業

284

6,611.82

2.25

建設業

46

2,983.01

1.02

エネルギー業

81

123,822.97

42.16

IT

59

1,281.02

0.44

製造業

1,167

54,628.47

18.60

鉱業

72

7,981.01

2.72

サービス業

1,610

54,985.00

18.72

観光業

1,503

41,413.38

14.10

合計

4,822

293,706.68

100

 

2018/19年度の時点までの累積投資額で見る対ネパール投資国は,中国(香港,台湾含む)(42%),インド(32.04%)の2か国が他国を大きく引き離し,イギリス(4.61%),韓国(4. 61%),アメリカ(3.09%)と続きます。日本は第8位(1.05%)となっており、投資の多国籍化、多角化が必要となっています。

 

2018/19までの上位投資国(累積額)[12]

順位

国名

件数

投資額(100NRs

割合()

1

中国(香港,台湾含む)

1,556

123,363.00

42.00

2

インド

781

94,111.04

32.04

3

イギリス

196

13,549.11

4.61

4

韓国

354

12,323.75

4.20

5

アメリカ

413

9,063.07

3.09

6

シンガポール

51

4,517.39

1.54

7

モーリシャス

11

3,434.70

1.17

8

日本

272

3,076.21

1.05

9

アラブ首長国連邦

20

2,984.51

1.02

10

スイス

60

2,920.01

0.99

 

その他

1,108

24,363.54

8.30

 

合計

4,822

293,706.68

100

 

 

2 外国企業の投資規制について

 

(1) 投資関連規制の概要について

 

ネパール政府は、2020年2月に2016年産業法を廃止し、2020年産業企業法(Industrial Enterprises Act 2020、以下「産業法」)を成立させています。同法は、現在、ネパールにおける産業の登録、設立、運営、規制を規律する最も重要な法律です。産業法第2条において、透明性の高い投資、競争力強化、雇用創出等が目的として記載されています。一部例外を除き、登記権限等を地方に移管することにより、地域分権を推し進める内容となっている点が改正の一つのポイントです。その他、申請期間の短縮化や円滑化等の規定も盛り込まれています。

 

また、外国投資に関連して,2019年外国投資・技術移転法(Foreign Investment and Technology Transfer Act 2019、以下「外国投資法」)によって、外国投資家の制限や義務等が規定されています。したがって、外国投資の際には、この2つの法律を参照した上で,現地会社の設立や運営については、2017年改正会社法(Companies Act 2006および2017年改正)に則って設立および運営を行うことになります。

 

なお、同法の改正により、法令違反行為に対する罰則が強化されており、留意が必要です(産業法第27条)。

 

2) 外資規制について

 

外国投資家が現地法人を設立するためには,その事業活動が,(ⅰ)産業法の「産業」(「ポジティブリスト」)の分類に含まれること,(ⅱ)外国投資法のネガティブリストに該当しないという要件を満たす必要があります。なお、ネパール政府のみが実施できる業務として、原子力関連産業、放射性物質を取り扱う産業等が存在しています(産業法第2条)。

 

(ⅰ)産業法上のポジティブリスト

外資に限らず,ネパールで事業を行うためには産業法に基づく、産業省産業局(DOI)での登録が必要となります。登録申請から5日以内に証明書が発行され(2020年改正により15日から5日に短縮、産業法第6条1項),この証明書に記載された日から事業を開始することになり,事業開始を報告する義務があります。

 

ただし,爆発物や武器関係,貨幣の生産に関連する産業,タバコやアルコールに関連する産業,鉱石類の生産や石油掘削に関連する産業,無線通信機器を製造する産業は,産業大臣が議長を務める産業投資促進委員会(Industry and Investment Promotion Board)の許可が必要となります(産業法第7条1項)。

 

なお,投資家は証明書記載通りに事業を開始しなければならず(一般的には、登録日から1年以内となっている。),事業開始から30日以内に、事業開始について、当局に通知しなければなりません(産業法第8条1項)。これを怠る場合は、登録解除となっていましたが、2020年の改正により、当該期間内に開始ができない理由を付した申請書を当局に提出すれば例外が認められる可能性が言及されています(同法第8条2項)。なお、登録場所や住所を変更する際には、当局の事前承認が必要となった点も今回の改正により規定されています(同法第11条)。

 

また、産業法の列挙する「産業」の分類は下記の通りです。以下をいわゆる「ポジティブリスト」といいます。一部2020年の改正により修正されていますので、留意が必要です。

 

① 資産額/取引額による分類(産業法第19条1項)

まず、固定資産による分類がなされており、次の通り、定められています。

 

1

零細産業

(Micro Industry)

200万ルピー未満の固定資産(土地、建物を除く)

事業オーナーが運営管理に従事している

最大9名の労働者(事業オーナーを含む)

1000万ルピー未満の年間取引

なお、機械を利用している場合は、消費エネルギーは20キロワット迄

2

家内産業

(Cottage Industry)

伝統的技術を使用していること

その他産業法の附属書2記載事項

なお、機械を利用している場合は、消費エネルギーは50キロワット迄

3

小規模産業

(Small Industry)

零細産業および家内産業以外の産業であり、

固定資産が1億5000万ルピー未満であること(改正前は、1億ルピー未満)

4

中規模産業

(Medium Industry)

固定資産1億5000万ルピーから5億ルピー未満の固定資産

(改正前は、1億ルピーから2億5,000万ルピー未満)

5

大規模産業

(Large Industry)

固定資産が5億ルピー以上の固定資産

(改正前は、2億5,000万ルピー以上)

 

② 産業別の分類(第19条2項)

また、産業別の分類がなされており、一部2020年の産業法の改正により、分類が追加されています。

 

1

エネルギー産業(Energy based Industry、附属書3に記載)

水力,風力,太陽光熱,石炭,天然ガス,燃料またはガス,バイオマス,および類似のエネルギー生産産業でエネルギーを生成する産業、エネルギー輸送

2

製造業

(Manufacturing industry)

原材料,補助原材料,半加工原材料の利用または加工産業

3

農業・林業

(Agro and Forest based industry、附属書4に記載)

養蚕・絹の生産,園芸,果物の加工,鳥を含む畜産,酪農,養鶏業,茶/コーヒーの栽培と加工,ハーブ加工,野菜の種苗の育成,野菜の栽培と加工,組織培養,温室,養蜂,蜂蜜生産,ゴム栽培,園芸および生産,冷蔵・農産物市場,農林業、木製品に基づく産業

 

<2020年改正において追加された内容>

食品の製造及び保管、鶏のふ化に関連する産業、乳製品の製造及び加工、動物鳥類用の飼料穀物を製造する産業、冷蔵店舗の運営管理、農業市場の運営、農林業、天然繊維製品の製造、家具などの木材産業、調味料、複合材、ボードなどの木材関連産業、紙、樹脂などの非木材林産物に関連する産業、きのこ生産、綿花栽培、綿花・綿花種子の生産・加工

 

4

鉱業

(Minerals based industry)

鉱物の発掘またはその加工に基づく産業

5

建設産業

(Construction

based industry、附属書5)

道路,橋,トンネル、ロープウェイ,鉄道,路面電車,トロリーバス,ケーブルカー,モノレール,スライディングカー、空港、廃棄物管理、給水・配水、灌漑、駐車場と駐車施設、輸出加工区、カーゴ・コンプレックス;経済特区;電波塔,光ファイバーネットワーク,衛星,衛星伝送センター;家屋・団地、映画館、商業ビル など

 

<2020年において追加、削除された産業>

追加:排水処理場、倉庫、燃料・ガス供給のためのパイプラインのインフラ工事・手配・設置工事の運営、エネルギーハウス、エネルギー送電線のインフラ構築運用 など

削除:コンベンションセンター、上下水道事業

 

6

旅行産業

(Tourism based industry、附属書6)

ツーリストハウス,モーテル,ホテル,リゾート,レストラン; 旅行代理店,ツアーオペレーター,ヒーリングセンター,カジノ,マッサージ,スパ、 アドベンチャーツーリズム; ゴルフコース,ポロ,ポニートレッキング,ハイキング、村落観光、エコツーリズム; 文化・宗教・会議・スポーツ旅行、エンターテインメント、自然保護活動、マウンテンフライト など

 

<2020年の改正において追加された産業>

トレッキング、パラグライダー、ジップフライヤー、スカイウォーキング、スカイダイビングなどのアドベンチャー事業、ケーブルカーの施設及び運行、農業観光に関連する産業、ウォーターパーク、ミュージアム など

 

7

情報通信産業

(Information, transmission and

communication

 based industry、附属書7)

テクノロジーパーク,ITパーク,バイオテクノロジーパーク,ソフトウェア開発,コンピューターおよび関連サービス,データ処理,サイバーカフェ,デジタルマッピング,BPO,データマイニング,クラウドコンピューティングなどのIT産業、インターネット,電気通信,衛星設置と運用,衛星伝送センター,ブロードバンド,光ネットワーク,衛星ネットワークなどの通信産業、FMラジオ,デジタルラジオサービス,デジタルテレビ,衛星テレビ,ケーブルテレビ,IPTVおよびオンラインサービス,デジタルケーブルテレビ,ネットワーク,録音スタジオ,印刷メディア,エンターテイメントサービスなどの伝送産業 など

 

<2020年改正において追加された産業>

ナレッジプロセスアウトソーシング、データセンター、電子署名の認証機関、ウェブポータル、ウェブデザインサービス、ウェブホスティング、オンライン広告サービス など

 

8

サービス業

(Service based industry、附属書8)

ワークショップ,印刷メディア,コンサルティングサービス,映画撮影,建設ビジネス,公共交通ビジネス,写真業,病院,養護施設,教育および訓練機関,図書館および博物館サービス,実験室,航空サービス,スポーツサービス,家の電気配線,電気設備およびメンテナンス,廃棄物管理サービス,貨物および宅配便サービス,広告サービス,包装および補充サービス,外国人雇用サービス など

 

<2020年改正において追加された産業>

クリニック、ポリクリニック、リハビリテーションハウスの運営、理学療法院、アーユルヴェーダなどの代替病院の運営、運動・ヨガ・瞑想・トレーニングセンターに関する業種、スイミングプール、保冷庫の運用、運送・貨物サービス、カスタムエージェントサービス、一般的な情報発信サービスに関連する業種、浄水サービス、映画館(マルチプレックスシネマを含む)、マルチプレックスを含む劇場、電子商取引に関連する産業、電子ポータル(オンラインまたはソフトウェアまたはアプリケーションまたは類似の性質の他の媒体)を介して一般の人々にサービスを提供する産業ビジネス、小売業、卸売業のサービス、機械設備のリースサービスに関連する業種、裁断シート、写真フィルム、スリット、完成品の一括輸入、再梱包などのサービス業に関連する業種、衣料品及び繊維のデザイン、繊維のサイジング、衣料品へのプリントに関する事業(織物業が独自に行うものを除く)、獣医療サービスに関連する業種、サービスアパート、フードコート、ケータリング、設備の修理・施工に関するサービス、技術発明センター など

 

9

<新設>

国家重点産業

インフラ産業、靴製造関連産業、糸製造業、畜産業、養魚業、養鶏業、養蜂業、地域原料をベースにしたゴム製品の初期加工・製造業、治療薬の製造業、情報技術に関連する業界、経済特区、民間企業が建設・運営する工業地域内に設置された産業、ネパール貿易統合戦略(NTIS)で指定された物品・サービス生産産業、映画制作 など

 

 

(ⅱ) 外国投資法上のネガティブリスト

ネパールにおいては、次の9分野の投資については、外国企業の参入が制限、禁止されています(外国投資法の附属書)。

 

1

養鶏,漁業,養蜂,果物,野菜,油糧種子,豆類,乳業,その他の主要な農業生産部門

2

家内産業および小規模産業

3

個人サービス事業(ヘアカット,仕立て,運転など)

4

武器,弾薬,弾丸および砲弾,火薬または爆発物,および核兵器,生物兵器,化学兵器(N.B.C.)を製造する産業,原子力および放射性物質を生産する産業

5

不動産事業(建設業を除く),小売業,宅配便,地元のケータリングサービス,両替商,送金サービス

6

旅行代理店,観光に携わるガイド,トレッキングと登山ガイド,ホームステイを含む農村観光

7

マスコミュニケーションメディア(新聞,ラジオ,テレビ,オンラインニュース)およびネパール言語の映画産業

8

経営,会計,エンジニアリング,法律相談サービスおよび語学トレーニング,音楽トレーニング,コンピュータートレーニング事業

9

外国投資が51%を超えるコンサルティングサービス

 

(ⅲ)申請手続きについて

 

外国投資法の規定によれば,外国投資を行うためには,前述した産業法に基づく登録に加えて、以下の承認を取得する必要があります。

 

① 外国投資法第15条に基づく産業省産業局(Department of Industry、以下「DOI」)の承認(「DOI承認」)

 

② 外国投資法第16条では,外国投資家は,DOI承認を受け次第,正規の資金源からネパールに送金されることを明記した申告書をネパール中央銀行(NRB)に提出しなければならないと規定されています。したがって,外国投資法によればNRB承認は別途必要ではなく通知で足りると考えられます。

 

ただし,承認権限者は,投資額やプロジェクト費用によって異なります。固定資産60億ルピー未満の産業への外国投資の提案は,DOIによって承認される一方,60億ルピー以上の外国投資またはプロジェクト費用の提案は,ネパール投資委員会(Investment Board Nepal、以下「IBN」 ) (首相を長とするハイレベルの理事会)によって承認されます。外国投資に関する承認制度は,下表の通りです(外国投資法第17条)。

 

外国投資額または事業費

申請先

承認者

事前通知

固定資産が60億ルピー未満の業種

DOI

DOI

NRB

固定資産が60億ルピー以上の業種

DOI

IBN

NRB

 

手続については、外国投資の承認および現地法人の設立に関する一般的な流れは,以下の通りです。※図はPDFをご覧ください。なお,ネパール政府はワンストップサービスセンターを設置しており,現地法人の外国投資登録申請はすべて同センターを経由して処理されます。

所要期間については、新会社・新産業の承認・登録にかかる時間は,上記1〜5について一般的に、約60日となっています。ただし,IBNの承認が必要な場合には,最長90日まで延長が認められる可能性があります(産業法第5条2項)。

 

最低資本金規制については、ネパール政府は,通達によって外国投資の最低額を5,000万ルピーとしています。ただし,この金額は一括で払い込む必要はなく,一般にNRBへの通知日から2年以内に段階的に払い込めばよいことになっています。また,この2年の制約は厳格なものではありません。DOI/NRB等の機関の承認・条件により,そのビジネスにおける資本金の必要性が考慮されます。なお、現地法人設立ではなく、外国法人の支店を設置する場合には、運用上5,000万ルピーが免除されます(2020年9月末日現在)。

 

 

3) 外国投資奨励制度について

 

産業法において,これらの投資する産業の種類や特性ごとの税制等について定めています(産業法第26条)。改正前は、免税期間は5年となっていましたが、個別の定めがなければ、期間の制限が削除されています。なお、その他改正により外国人労働者ビザの許可(最大5年間、産業法第17条)、土地のコンセッション、利用権等の許可承認(産業法第18条)が認められています。また、付加価値税の還付(同法第26条2項)、関税の免除(同法第26条3項)、女性起業家への恩典(同法26条5項)等が定められています。

 

<産業別優遇税制>

産業

税制恩典

製造業

法人所得税20%減免

輸出所得については、5%の追加法人税減免があります

道路,橋,トンネル,ロープウェイ,路面電車,トロリーバス,空港,工業団地,インフラ複合体を開発している建設産業

法人所得税40%減免

未開発地域(附属書10記載)で規定される果実ベースのサイダー、ブランデー、ワインを生産する製造業

法人所得税70%〜90%減免(事業開始後、10年間)

未開発地域で規定される果実ベースのサイダー、ブランデー、ワインを生産する製造業

法人所得税25%減免(事業開始後、10年間)

地場産茶製品を生産加工する製造業、乳製品を生産する乳業、衣料品を生産する工業

法人所得税50%減免

10億ルピーを投資して設立され、年間500人以上の直接雇用を提供するサービス産業

法人所得税100%免除(事業開始後、5年間)

法人所得税50%減免(5年経過後の3年間)

天然ガスや燃料の研究や掘削を商業的に行っている産業

法人所得税100%免除(事業開始後、7年間)

法人所得税50%減免(7年経過後の3年間)

 

20億ルピー以上の投資で設立された観光関連産業

 

法人所得税100%免除(事業開始後、5年間)

法人所得税50%減免(5年経過後の3年間)

 

テクノロジーパーク、バイオパークの運営に関連する産業

 

法人所得税50%減免

 

 

その他製造業や通信関連事業者において雇用創出に貢献する企業に対する税制恩典(15%、50%減税)、インターン生を多く採用する製造業、小規模産業等についても恩典が与えられます。

 

なお、未開発地域については、Dailekh、Parbat、Lamjung、Gulmi、Gorkha、Dolakha、Sindhuli、Dhankuta、Sankhuwasabha、Terhathum 等の地域について、産業法の附属書において定義されています。

 

 

4) 経済特区(Special Economic Zone (SEZ))について

 

ネパールにおける外資誘致や輸出業事業者の誘致のため、経済特区(Special Economic Zone、以下「SEZ」)制度が導入されています。SEZについては、2016 年に成立した経済特区法(Special Economic Zone Act, 2073)2017年に成立した経済特区規則(Special Economic Zone Regulation, 2074)により規律されています。

 

Bhairahawa地区でSEZ登録許可がなされたことを皮切りに,Simara地区,Panchkhal地区,Biratnagar地区,Kaspilvastu地区,Jumla地区,Dhangadi地区,Nuwakot地区,Nepalgunj地区,Jhapa地区,Dhanusha地区,Rautahat地区,Siraha地区,Gorkha地区の14地区が対象となっており、順次整備が進められています。ただし、先行して整備が行われているBhairahawa 地区を除けば,現時点では多くの地区において受け入れが可能な状態ではないと理解しています。なお、SEZに関するマスタープランや進捗状況については、経済特区委員会のウェブサイト(https://www.seznepal.gov.np/)において情報がアップデートされています。

 

SEZでは、税制上の恩典は、地区に応じて法人税の免除または減免,VAT免除等が規定されています。また、生産品のうち一定割合(基本的に75%)の輸出が義務付けられています。なお、経済特区内での会社設立は許認可制となっており、許認の最長期間は30年となっています。一定の要件を満たす場合、例外的に、追加で10年の期間延長が可能となっています。

 

恩典

恩典内容

法人税免税

法人税については、最初の5年間の所得税を100%免除としています。その後、国内原材料を60%使用している会社については、以後10年間の所得税を50%減免、これに当てはまらない会社については以後5年間50%減免となっています。

配当所得税免除

配当課税については、経済特区内に設立された会社の配当金は、最初の5年間は配当所得税100%免除、その後の3年間は50%の免税となります。

付加価値税免除

付加価値税については、経済特区内に設立された会社が、a. 製品またはサービスを輸出する場合、b. 製品または原材料を経済特区内に設立された他社に販売する場合、については、VATは免除されます。

 

関税免除又は還付

税の減免措置: a. 原材料および副材料やパッケージ材料その他の材料の輸入に課される関税や、プラント・機械・機材、工具やスペアパーツへの関税の支払いを猶予されます。また会社の規模と業務内容により、車両に課される関税について、最大3台までの猶予を受けることができます。b. 経済特区内に設立された他社に対して輸入品を販売する会社は、関税の還付を受けることができます。

ビザに関する特例

ビザに関する特例措置 については、経済特区への投資のために調査やフィージビリティスタディを行う投資者には、6ヶ月のノンツーリストビザが発給されます。投資者とその外国人スタッフおよびそれぞれの扶養者については、実際の投資が行われるまでの間は商用ビザ(Commercial visa)が発給されます。

 

ストライキの禁止

ストライキおよび抗議行動は、経済特区内では厳しく制限されています。

 

経済特区一覧[13]

経済特区名

所在地

面積(ha

Bhairahawa

Rupandehi district, Bagaha V.D.C

36.8

Simara

Bara district, Simara

564

Panchkhal

Hokse V.D.C, Panchkhal

50

Biratnagar

Amaduwa V.D.C of district Sunsari and Biratnagar Sub-Metropoli!an city, Morang

200

Kapilvastu

Sauraha V.D.C, Kapilvastu

64

Jumla

Pandugupha V.D.C, Jumla

47

Dhangadi

Shreepur V.D.C, Haraiya

180

Nuwakot

Ratmate, Jilling

70

Nepalgunj

Naubasta V.D.C

348

Jhapa

Ratuwamai Forestry Land,Topganchhi V.C.D Ward no. 5, district Jhapa

300

Dhanusha

Umaprempur V.D.C

55

Rautahat

Jhunkhunwa V.D.C

106

Siraha

Gobindapur V.D.C

106

Gorkha

Deurali V.D.C

60

 

 

5) 進出形態について

 

ネパールでの進出として最も一般的なのは有限責任会社(Limited liability Company)の設立です。2017年の改正会社法に従い、外国人起業家は,以下の非公開会社,支店,駐在員事務所を設立することができます。

 

(ⅰ) 駐在員事務所(Liaison Office)

 

ネパール産業局登録事務所にて駐在事務所登録を行う必要があり(会社法第154条1項)、開設認可料は,5万ルピーです。親会社と同人格であり,親会社は無限責任を負わなければなりません。

 

ネパール駐在員事務所は外資系企業であることが認められていますが,ネパール国内で営業行為等の収入を得る活動を行うことができません。駐在員事務所の経費はすべて対内外貨送金で賄う必要があります。そのため,この法人は,市場調査と親会社の宣伝活動,連絡業務のみに従事することができます(会社法第154条6項但書)。

 

(ⅱ)支店(Branch Office)

 

駐在事務所同様に工業局会社登録事務所にて支店登録を行うことができます(会社法第154条1項)。開設認可料は10万ルピーとなっています。ネパールの支店は100%外資系企業とすることができ,支店の業務範囲は,親会社によって定義されます。また,支店はネパールに登記された事務所を有している必要があり,召喚状や通知などを受け取るために会社が任命した駐在員を設置する必要があります(会社法第154条6項)。

 

(ⅲ)非公開会社(Private Limited liability Company)

 

ネパールの非公開私的有限責任会社(Nepal Private Limited Liability Company、会社法第10条(b))は,もっとも一般的に使用されています。ネパールの非公開会社は,英語またはネパール語での年次財務諸表を作成し,監査報告書を毎年提出しなければならない等の義務があるが、これらは会社法のパートにて詳述します。

 

(ⅳ)パートナーシップ(Partnership Enterprise)

 

ネパールにおいて、パートナシップを利用可能ですが、外資系企業での利用は限定的です。パートナー契約(カブリヤート)に基づいて、共同事業の利益を単一の名前で共有することに合意することにより、登録が可能となっています(会社法第54条)。

 

パートナシップ会社の登録については、パートナーがパートナーシップ契約を締結した日から6か月以内に関係省庁にて、登録しなければなりません。会社を登録するためには、以下の内容を記載した所定のフォーマットの申請書を関係省庁に提出する必要があります。

  • 会社名
    (b) 会社の主たる事業所
    (c) 会社の目的
    (d) パートナーの氏名、本籍地
    (e) 相手方の力に制限を課している事項
    (f) パートナーシップの種類、各パートナーが出資する資本金額
    (g) 会社を代表するパートナーまたはパートナーの名称
    (h) パートナー間で利益と損失を共有するための方法
    (i) 企業の利益を計算するための方法

 

(ⅴ)公開会社(Public Company)

 

公開会社(Public Company、会社法第2条(c))は,最低資本金 1,000万ルピーが必要となり(会社法第11条),少なくとも7人の株主と3人以上の取締役を任命しなければなりません(会社法第3条)。

 

法人設立後 1 年以内に最初の年次総会を開催し,その後,会計年度終了後 6ヶ月以内に毎年開催する必要があります。取締役会は,少なくとも年6回開催しなければなりません(会社法第14条)。なお、非公開会社と同様に,毎年,年次財務諸表と監査報告書の提出を義務付けられています。

[1] 世界銀行人口動態予測より

[2] 新年は4月中旬に,行政年度は7月中旬に始まる。

[3] Central Bureau of Statics(SBC): Provincial Statistic,Ministry of Finance (MoF): Economic Survey 2018/19より

[4] 7州に分割後,東から第1~7州の順に番号が割り振られ,順次州名が決められる。

[5] 2018/19のデータは推定値。以下同様。

[6]首都カトマンドゥは第3州に位置する。

[7] MoF: Economic Survey 2018/19,CBS: National Accounts of Nepal 2018/19より

[8] 2015/2016に起きた大地震とインド国境封鎖の影響で一旦滞ったものの,翌年から高い成長率をみせている。

[9] CBS: National Accounts of Nepal 2018/19より

[10] MoF: Economic Survey 2018/19

[11] 近年は2017年,2019年に「ネパール投資サミット」が開催されている。

[12] Department of Industry: Industrial Statistics(2018/19)より

[13] Special Economic Zone Development Committee資料より

以 上

 

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