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 コロナ禍におけるオーストラリア会社法改正 – 簡易再生手続き及び簡易清算手続きについて –

2021年01月13日(水)

コロナ禍におけるオーストラリア会社法改正- 簡易再生手続き及び簡易清算手続きについて - ニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

オーストラリアの簡易再生手続き及び簡易清算手続きについて

 

 

コロナ禍におけるオーストラリア会社法改正

– 簡易再生手続き及び簡易清算手続きについて –

2021年1月13日

One Asia Lawyers オーストラリア・ニュージーランド事務所

  • 1.小規模事業者の臨時救済措置

オーストラリアでは、昨年3月より、コロナ禍において企業の倒産を防ぐための臨時救済措置(Temporary Restructuring Relief)が施行されています[1]。これにより、負債額が100万豪ドル以下であり一定の要件[2]を満たす会社の場合に、法定請求(Statutory Demand)の発行対象となる債務の基準額が、通常の2000豪ドルから20000豪ドルに増額され、法定請求に回答する期限が通常の21日から6か月に延長されています。また、オーストラリアでは、破産取引阻止の義務が取締役に課され、違反行為について取締役が個人的に責任を負う法制度となっていますが[3]、救済措置の発効期間中につき、通常の業務過程で発生した債務については、取締役に対し個人的な責任を追及しないというセーフハーバーが適用されます[4]。なお、これらの救済措置を利用するためには、2021年3月31日までに、当局ASICに対し、救済措置の適用資格があることの宣誓書を提出し、ASICのウェブサイトで広告する必要があります。救済措置の適用は、かかる宣誓書の提出日から、事情の変更がない限り3か月間受けることができます。

救済措置の適用期間経過後は倒産件数の増加が予測されていますが、従前の事業再生・清算等の外部管理(External Administration)制度は、経営難に陥った中小企業にとって利用コストが企業の資産価値を上回ることが多く、その結果事業再生できないまま清算に入り、また、清算時の債権者への分配が見込めないといった懸念があります。これに対応するため、柔軟かつ費用対効果の高い制度を設け中小企業の事業再生を図ることを目的として、債務が100万豪ドル以下の場合に簡易再生手続き及び簡易清算手続きの利用が可能となる法改正がなされました。改正法[5]は今月1日より施行されており、その内容は会社法(Corporations Act 2001 (Cth))に反映されています。以下に、新たに導入された簡易破産制度についてご紹介いたします。

  • 2.簡易再生手続き

オーストラリアの会社が支払い不能となった場合、事業の再生が可能であるかを調査する目的で、管財人(Administrator)が選任され、会社の事業の管理が行われることがあります(これを「任意管理」と言います。)。任意管理においては、会社の経営は経営陣に代わって管理人が掌握することとなります。管理人は、会社の活動や取締役を調査し、債権者が(i)任意管理を終了すべきか、(ii)会社調整契約(DOCA)という債権者との和解合意を締結すべきか、(iii)会社を清算すべきか、についての決議を下すサポートをするため、会社の活動や取締役を調査する役割を持ちます。

これに対し、今回に改正法によって、会社の負債総額(偶発債務を除く。)が100万豪ドルを超えていない場合に[6]、会社は、管財人ではなく小規模事業再生人(Small Business Restructuring Practitioner。以下、「再生人」という。)を選任し、任意管理に比べてより簡易な手続きをとることが可能となります。具体的には、会社は、再生人を選任後、20日以内に事業再編計画(Debt Restructuring Plan)を作成し、再生人の認定を得て最終的に債権者の承認を得ることとなります[7]。この場合、再生人は債権者集会を開催する必要はなく[8]、オンラインによる決議が可能です。その間、任意清算と大きく異なる点として、経営陣が一定の業務を続けることが可能となり、いわゆる、Debtor in Possessionの形が採用されます。原則会社の資産に影響する取引を開始することは禁止されていますが、その例外として、既存の負債額の支払い、事業売却、株式に関する変更、配当といった事項を除く、会社の通常の業務の範囲内であれば実行可能であり[9]、その場合は破産取引阻止義務の違反とはなりません[10]。また、事業再生計画の承認後は、再生人の監督の下、計画に従って経営陣が会社を運営することとなります。

簡易再生手続きは、清算人や管財人が既に選任されている場合など、何かしらの外部管理が開始されいる場合は使用することができませんが、債権者等により裁判所へ提出された清算申請については、債権者の利益となると裁判所が判断した場合、清算申請手続きは一時停止され、簡易再生手続きが優先して実行されることとなります[11]

簡易再生手続き開始後の債権者の権利行使については、担保権の実行、訴訟提起、会社の取締役やその親族に対する保証の執行を含め、再生人の同意又は裁判所の許可がない限り、禁止されます[12]。ただし、担保権については、会社の全て又は大部分の資産に担保権を有する者はかかる担保権を行使することができ、また、占有による担保権の実行、銀行先取特権、保存のきかない物品(Perishable Products)の担保権についても行使が可能です。これらは、任意管理に類似した規定となります。

  • 3.簡易清算手続き

簡易清算手続きは、負債額(偶発債務を除く。)が100万豪ドル以下の破産会社の債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Winding Up)であり、手続きを簡素化することで費用を抑え、債権者が良い配当を得られるようにすることを目的として新たに導入されました。ただし、株主による任意清算(Members’ Voluntary Winding Up)や裁判所の命令による清算には適用されません。

通常、債権者による任意清算は、支払い不能に陥った会社の株主が会社を清算することを決議したとき、又は任意管理の最後に債権者が清算の決議を行ったとき(以下、「発動事由」という。)に開始されますが、この時に選任された清算人の判断で、債権者による任意清算中の会社が上述の負債額及び一定の要件を満たす場合に、簡易清算手続きを採用することができます[13]。まず、債権者の決議による清算の場合等を除き、取締役は、発動事由が発生した5日以内に、簡易清算の利用資格があることの宣誓書を清算人に提出しなければなりません。この時、宣誓書には、無効となるような不当取引等がなされていないことも宣誓する必要があります[14]。また、簡易再生手続きと同様、過去7年間の簡易制度を利用していないこと[15]や、税務申告等も実施済みであることなども要件となります。簡易清算手続きは、発動事由が発生してから20日以内に開始されなければならず、債権者に対しては、簡易清算手続き開始の10営業日前に通知する必要があり、25%以上の債権者が反対する場合は簡易清算手続きを開始することはできません。なお、会社が簡易制度の利用資格がなくなった場合や、不正行為等が発覚した場合は、簡易制度は終了し、通常の任意清算に移行されます[16]

簡易清算手続きにおいては、通常の清算手続きに比べ、清算人による経営陣の不正行為等の調査及びASICへの報告、債権者会議の招集、清算人の行為を監督する審査委員会の設置、債権債務の証明手続きのといった、清算人の役割が簡易化又は免除されます[17]。また、通常、任意管理/清算が開始された日(リレーションバック日)より6か月前までに行われた不当取引等は無効となるところ、簡易清算の場合は、かかる取引が簡易清算手続きを有効とするために行われ、債権者が関係会社ではなく、かつ①リレーションバック日より3か月前までに行われたか、又は②それ以降に行われたが債権者の受領額の合計が3万ドルを超えない場合は、無効とされません[18]

 

  • 4.おわりに

新たに導入される簡易再生手続き及び簡易清算手続きは、導入後もコロナ禍における不安定な経済情勢などから、要件や基準額等が変更となる可能性があるため、留意が必要となります。また、簡易制度の対象となる企業のみならず、債権者側の企業としても、新制度における債権者としての権利義務を正しく把握することが必要となります。

[1] Coronavirus Economic Response Package Omnibus Act 2020 (No. 22, 2020) Schedule 2

[2] 後述する簡易再生手続きの利用が可能であるにもかかわらず、再生人が見つからない場合を指す。詳細は、ASICのウェブサイトにて随時発表・更新されている。https://asic.gov.au/regulatory-resources/insolvency/insolvency-for-directors/temporary-restructuring-relief/

[3] s.588G Corporations Act 2001

[4] 従前よりセーフハーバー規定は存在するが、かかる規定による保護の対象となる破産取引は、取締役が会社の支払不能の疑いをもった時点で、任意管理や清算よりも会社にとってよい結果を合理的にもたらす措置である必要があるなど、現行の救済措置と比べて、より厳格な基準が設けられている。

[5] Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020、Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020、及びInsolvency Practice Rules (Corporations) Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Rules 2020

[6] この他、いずれの取締役(過去12か月以内に退任した元取締役を含む。)も他事業において過去7年間に簡易再生手続き・簡易清算手続きを利用しておらず、会社自体も過去7年間に利用していないこと等が条件となります(s.453C Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020、r.5.3B.03 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020)。

[7] 事業再編計画の詳細は、会社法規則(Corporate Regulations 2001)5.3B条に規定される。

[8] s.75-21 Schedule 2 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[9] ss.453K, 453L Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

r.5.3B.04 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020

[10] s.588GAAB Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[11] s.453Q Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[12] ss.453R, 453S, 453T, 453W Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[13] ss.500A 500AA 500AB 500AD Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[14] r.5.5.02 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020

[15] 債務再編手続き終了後20日以内に簡易清算手続きを利用した場合、又は関連会社が同時に簡易手続きを利用した場合は例外となる(r.5.5.03(4)(5))。

[16] s.500AC Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[17] s.500AE Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Act 2020

[18] r.5.5.04 Corporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020

 

 

以 上

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