オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態について

2021年03月15日(月)

オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態についてニュースレターを発行いたしました。
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オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態について

 

オーストラリア・ニュージーランドへの進出形態

2021年3月12日

One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランド事務所
加藤 美紀

1.はじめに

 オーストラリア・ニュージーランドでの事業展開を検討する多くの企業にとって、法務・税務およびコストの面で一番効率の良い進出形態を選定することが課題の一つとなる。進出形態は事業内容や規模により様々であり、オフショアから現地企業への業務委託が可能な場合もあれば、直接現地にて各種ライセンス取得や拠点設立が必要となる場合もある。本ニュースレターでは、特に直接現地で事業を行うにあたり一般的に採用されている進出形態を、そのメリット・デメリットと共に解説する。

2.駐在員事務所とCarry On Businessの問題

 オーストラリアまたはニュージーランドにて事業を行う(以下、「Carry On Business」)外国企業は、各国の会社法上、当局(オーストラリアでは証券投資委員会(ASIC)、ニュージーランドでは会社局(NZCO))への登録が必要と規定されており、かかる登録には外国企業の支店(Branch Office)または子会社を設立し行うこととなる。

 Carry On Businessの明確な法定定義はないが、会社法上、非営利活動も含み、拠点をもつ場合や、他者を代理して現地での資産を扱う場合も該当するとされている。他方で、株主総会の開催、銀行口座の開設、資産の保有、担保の設定行使、31日以内に完結する単発の取引など一定の行為については、その行為のみ行う場合はCarry On Businessに該当はしないとされている。利益を上げる目的で組織的かつ定期的に何かしらの商業を行う場合(conducting some form of commercial enterprise, systematically and regularly with a view to profit)は、Carry On Businessであるとする判例も存在する[1]。一般的に、継続する事業活動であるか否か、営利目的であるか、繰り返し行われる活動か、帳簿の記録があるか否か、などの事情が勘案される。

 進出に際し駐在員事務所(Representative Office)を構えることを検討している日系企業も多いと思われるが、何かしらの拠点を構えて営利活動を行う事はCarry On Businessとみなされる可能性が高く、仮に駐在員事務所の活動がCarry On Businessとみなされた場合、支店または子会社として会社法上の登録が必要となる(登録していない場合は、会社法違反となる)。なお、会社法上はCarry On Businessとみなされず登記要件等の規制を受けない活動についても、会社法以外の法令(例えば、税法、金融サービス業の規制、個人情報保護法など)の適用を受ける可能性があるため、留意が必要となる。

3.会社の種類

 オーストラリアで投資に一般的に利用される会社は、資金の調達がしやすく株主の責任が限定されるCompanies Limited by Sharesであり、非公開会社(Proprietary Company、「Pty Ltd」と略される。)と公開会社(Public Company、「Ltd」と略される。)に分けられる。

 非公開会社は株主が50名を超えてはならず資金調達の公募ができない一方、会社法上の縛りが公開会社よりも緩いため運営コストを低く抑えることができる。資産・従業員数等に応じて小規模非公開会社・大規模非公開会社に分けられ、特に財務報告義務に差があるが、小規模非公開会社であっても外国企業に支配される場合は原則として財務報告義務が課せられ、更に2019年7月からは、海外親会社の連結売上が10億豪ドル以上など一定の要件を満たす企業[2]は追加の報告義務が課されている。 

 一方、公開会社は、株主の人数の制限がなく、主に資金調達を公募する場合(公開市場含む)に利用されるが、株主総会の開催義務、情報開示義務などが課され、ガバナンスコストの負担が大きい。なお、現地子会社ではなく外国企業の支店(Branch Office)として登録し活動を行う場合は、会社法上の義務は現地子会社の場合と大差はないものの、支店閉鎖後などに日本本社が債権回収の督促を受けるリスクがある。以上の他に、有限責任保証会社(Companies Limited by Guarantee)、無限責任会社(Limited Companies)などが存在するが、一般的な投資には利用されない。

 ニュージーランドでは、有限責任会社(Limited Companies)、協同組合会社(Co-Operative Companies)、無限責任会社(Unlimited Companies)の3つの会社形態が存在するが、このうちLimited Companiesが最も一般的である。オーストラリアとは異なり、非公開・公開といった表現による区別はない(全て「Limited」または「Ltd」と表記される)が、規模等により会社法上の義務に違いがある。 なお、外国企業の支店および現地子会社は、外国企業の連結資産が2000万NZドルを上回る場合、または連結売上が1000万NZドルを上回る場合に財務報告が必要となる。

4.Joint Venture

 Joint Venture(以下、「JV」)の方法は大きく分けて、JVパートナー間で出資して法人を設立するIncorporated JVと、法人を設立しないUnincorporated JVの方法が存在する。

 Incorporated JVの場合、出資者間で株主間契約を締結し、各JVパートナーの権利義務を規定する。法人格を有するため、JV事業の負債に関する各JVパートナーの責任は、その出資額に限定される。税はJV会社の所得に直接課され、課税後の利益から払われる配当はTax Offsetが可能となる(オーストラリアでは「Franking Credit」、ニュージーランドでは「Imputation Credit」と呼ばれる税額控除が給付される)。外国投資家への配当はFranking Credit/Imputation Creditは付与されないものの、課税後の利益から支払われる場合は、一定の例外を除き、オーストラリア/ニュージーランドの所得税および源泉徴収の対象とはならない。

 一方、Unincorporated JVの場合、法人格を有さないためJV事業の負債は各JVパートナーが無制限に負担するというデメリットはあるが、各JVパートナーが直接課税対象となるため、損失を自身の他の事業からの所得と損益通算することができるという税務上のメリットがある。JV自体は会社法の適用を受けず自由度は増すが、その分、JV契約に権利義務関係、意思決定方法などが詳細に規定されることが一般的である。

 なお出口戦略の観点では、個々の資産を譲渡する必要があるUnincorporated JVと比べ、株式売却で完結するIncorporated JVの方が一般的に容易である。

5.ユニットトラスト(Unit Trust)

 ユニットトラスト(Unit Trust)とは投資信託の一種であり、オーストラリアにおいて事業投資に頻繁に利用される形態である。ユニットトラスト自体に法人格はないものの、出資者間でTrustee(受託者)であるシェルカンパニーを設立し、信託財産(出資額)の運用(信託財産を使った事業運営)を委託するという形をとる。信託の受益者(Unit単位の持分を保有するため「Unit Holders」と呼ばれる。)とTrusteeは、Trust Deed(信託証書)を締結し、持分、事業運営方法などの詳細を取り決める。負債や法令上の責任は全てTrusteeが負担するが、信託の資産に対し求償することが可能である。

 税務面では、信託の利益は信託レベルでは課税されず、各受益者に直接自己の税率にて課せられる一方、損失については各受益者に分配されないため他の事業の所得との収益通算はできない。

 日本やその他のASEAN諸国ではめったに用いられることのない進出形態であるが、オーストラリア・ニュージーランドでは頻繁にみられる進出形態であり、日本企業は注意が必要であるといえよう。

6.パートナーシップ

 パートナーシップとは、複数の個人または法人が契約に基づき共通の事業目的のもと事業を行う形態である。原則としてパートナーシップはパートナー間の契約により成立する関係であり法人格がなく、パートナー個人(または法人)が事業の全債務の責任を負う。パートナー契約において各パートナーの責任を限定することが可能(この場合、「リミティッド・パートナーシップ」という。)だが、このうち一当事者はジェネラルパートナーとして無限に責任を負う必要がある。リミティッド・パートナーシップは、法務と税務においてその扱いが異なり、複雑なルールが存在する。オーストラリアでは、一部のベンチャーキャピタル用に設立されるIncorporated Limited Partnership(ILP)を除きリミティッド・パートナーシップに法人格があることの明確な規定はないが[3]、ニュージーランドでは、リミティッド・パートナーシップは法人格をもつと規定される[4]。いずれの法域(オーストラリアでは州・準州ごと)においても、リミティッド・パートナーシップは登録が必要である。

 税務面では、原則として、パートナーシップ自体には所得税はかからず、各パートナーの取り分につき当該パートナーの個人税率が適用され、パートナーシップの損失も各パートナーの他の所得と損益通算が可能である。ただし、オーストラリアではリミティッド・パートナーシップの場合、税法上、法人と同様の扱いを受ける可能性があるため注意が必要である[5]。なお前述のベンチャーキャピタルILPの場合、法人税は課されず、優遇税制が適用される。

7.おわりに

 以上オーストラリア・ニュージーランドにおいて最も一般的な進出形態の基礎を記述したが、最適な投資ビークルの選定は多角面からの評価が必要となる。本稿で紹介した他にも複雑なルール・税務上のメリット・デメリットなどがあるため、個々の事業に応じて専門家のアドバイスを受けることが推奨される。

以 上

[1] Gebo Investments (Labuan) Limited & 2 Ors v Signatory Investments Pty Limited & 2 Ors; Application of John Campbell & 3 Ors [2005] NSWSC 544

[2] Significant Global Entitiesと呼ばれる。

https://www.ato.gov.au/Business/Public-business-and-international/Significant-global-entities/

[3] オーストラリアでは、パートナーシップは州・準州の法令に規制される。

[4] Limited Partnership Act 2008

[5] Division 5A, Part III, the Income Tax Assessment Act 1936 (Cth)