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インドネシアにおける投資事業活動に関する大統領規則について

2021年03月15日(月)

インドネシアにおける投資事業活動に関する大統領規則についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

インドネシアにおける投資事業活動に関する大統領規則〜ネガティブリストの削減等による外資規制の緩和〜

 

インドネシア 投資事業活動に関する大統領規則202110
〜ネガティブリストの削減等による外資規制の緩和〜

2021年3月
One Asia Lawyers Indonesia office 代表
日本法弁護士
馬居 光二 

1 最初に

 インドネシアにおいては2020年11月2日に雇用創出に関する法律 2020年11号(オムニバス法)が施行されました。同法は投資に関する法律2007年25号(投資法)を含む、投資に関係する様々な法令を改正するもので、国内外の投資活動を誘致し、インドネシアでのビジネスを容易にすることで雇用を創出することを目的としております。

インドネシアにおける外国投資を語る際、ネガティブリストと呼ばれる外国企業に閉鎖、または条件付きで開放されている分野が必ず話題に上ります。同ネガティブリストは、大統領規則2016年44号で規定されており、インドネシアに対する外国企業の投資に対する高い障壁となっておりました。

このネガティブリストについて、2021 年2月2日付で投資事業活動に関する大統領規則2021年10号が成立し、成立から30日の経過後の3月4日に施行されました。同法はオムニバス法の施行規則に位置づけられるもので、ネガティブリストに規定されていた分野の実に約86%をリストから削除すると共に、あらたに優先的事業分野を記載したポジティブリストを規定しております。これらはこれまで存在していた外資規制の大幅な緩和が期待されるものであるところ、以下概要を記載致します。

2 主な変更点

(1)投資禁止と宣言された事業活動

大統領規則2021年10号では、(1)投資の禁止が宣言されている事業分野及び(2)中央政府のみが行うことができる事業分野を除き、すべての事業分野が投資活動に開放される旨規定されております(2条1項)。この点、昨年施行されたオムニバス法において投資の禁止が宣言される分野は従前の21分野から下記6分野のみに縮減されております。

1.大麻の栽培
2.あらゆる形態のギャンブル及びカジノ活動
3.ワシントン条約付属書Iに記載されている魚類の捕獲
4.珊瑚の利用または採取
5.化学兵器の製造
6.オゾン層破壊の可能性のある化学原料製造

(2)投資対象となる事業分野

上記投資が禁止されている分野を除く投資に開放された分野について、大統領規則2021年10号第3条は、以下のように4種類の事業分野を規定しています。

1.優先事業分野
2.協同組合や中小企業(Usaha Mikro, Kecil, dan Menengah / UMKM)に割当てられた、または協同組合や中小企業とのパートナーシップが必要な事業分野
3.特定の条件を持つ事業分野
4.上記a、b、cに含まれていない事業​​分野

.   特定の条件の下で開放される事業分野

従前大統領規則2016年44号においては、様々な事業において、株式所有を内資に限る、または外資の株式所有割合に限度を設けるという制限がなされておりました。外資企業が株式をインドネシアの企業と共同して所有する場合、会社の意思決定を掌握することはもちろん、国内の事情に長けたインドネシア企業との関係を調整すること自体が困難な場合も多く、この点が外資企業がインドネシアへ投資をする大きな障壁となっておりました。

この点につき、今回施行された大統領規則2021年10号によって、従前大統領規則2016年44号で規定されていたいわゆるネガティブリスト(外国人株主の株式所有割合に対する規制)は従前の350分野から、わずか46分野へと大きく縮減されました。

同規則別紙3では、株式所有割合に関する規制及びその他の条件が付された事業分野のリストが規定されております。同リストに規定されていない事業に関しては、基本的に外資100%の所有が許されることになります[1]

上記により、これまで外資規制の対象となっていた広告代理業、建設業(高技術、高リスク、高価値の工事に限る)や卸売業(生産に関連しないもの)等について株式所有制限の規制が撤廃されることになります。

運用について不透明な部分はあるものの、上記の点は外国企業にとって極めて大きなチャンスとなることが見込まれます。

.   優先事業分野

大統領規則2021年10号4条1項では、以下の基準を満たす事業分野を優先事業分野としています。

1.国家戦略プログラム/プロジェクトであること
2.資本集約的であること
3.労働集約的であること
4.ハイテクであること
5.パイオニア産業であること
6.輸出志向的であること
7.研究、開発、イノベーション活動を志向するものであること

上記優先事業分野に投資する投資家(国内外の投資家が対象)には、財政的インセンティブや非財政的インセンティブが与えられると規定されています(4条4項)。

財政的インセンティブとは、税制上の優遇措置のことで、課税控除、免税、投資控除などがあります。また、産業の発展や投資のために輸入される機械、物品、材料の輸入関税が免除されるという形の関税優遇措置もあるとされております(4条5項)。

非財政的なインセンティブとしては、法律や施行規則の規定に従った簡易な形でのビジネスライセンスの取得その他の便宜が図られるとされております(4条6項)。

このような優先事業分野について、本大統領規則は、その別紙1において、合計245分野を以下の分類で規定しております。

1.税制上の優遇措置を受けることができる183の事業分野
2.免税措置が受けられる18分野
3.投資控除を受けられる44の事業分野

.   協同組合及びUMKM

大統領規則2021年10号によると、協同組合及びUMKMに割り当られた分野及び協同組合やUMKMとのパートナーシップが必要な分野が規定されております。従前外資規制について定めていた大統領規則2016年44号では、これらの事業分野について明確な基準を定めていなかったところ、大統領規則2021年10号では、この点を規定しております。

ここで、協同組合やUMKMに割り当られた事業分野とは、協同組合及びUMKMのみが行うことが許される事業分野を意味します。

他方で、協同組合やUMKMとのパートナーシップが必要な分野とは、大規模事業者(Usaha Besar)が投資をする場合に、協同組合及びUMKMとのパートナーシップを必要とする事業分野を意味します。

協同組合及びUMKMに割り当てられた事業分野は、以下の基準をに基づいて決定されます。

1.技術を使用しない、または簡易な技術を使用する事業活動
2.特別なプロセスを持ち、労働集約的で、特別で代々受継がれてきた文化遺産を有する事業活動
3.資本金が、土地と建物の価値を除いて、Rp10,000,000,000ルピア(100億ルピア)を超えない事業活動

上記cについて、本大統領規則7条1項は、外国人投資家は土地・建物を除いた投資額がRp10,000,000,000(100億ルピア)を超える大規模事業でのみ事業活動を行うことができると規定しています。

そうすると、上記cの基準が満たされることはありえないため、外国人投資家が協同組合やUMKMとして事業を行うことはありえないことになります。

したがって、外国人投資家は協同組合及びUMKMとパートナーシップを要する事業にのみ投資が可能となります。このような事業分野は、以下の2つの基準に基づいて決定されます。

1.主に協同組合及びUMKMによって行われる事業分野
2.大企業のサプライチェーンへの参入が奨励されている事業分野

大規模事業とは、オムニバス法87条で改正されたUMKMに関する法律2008年20号で定義されているように、純資産または年間売上高が中規模企業を上回る事業体によって行われる生産的な経済事業であり、インドネシアで経済活動を行っている国有・私有企業、合弁企業、外国企業などが含まれます。

上記定義によれば、上記a及びbの基準の一方が満たされていれば、国内外の投資家が協同組合及びUMKMとパートナーシップを締結することができることになります。

協同組合及びUMKMに割り当てられた事業分野や協同組合及びUMKMとのパートナーシップを要する事業分野は様々で、前者の例としては面積が25ヘクタール未満の農作物などが挙げられます。後者の例としては電気工事分野のコンサルティングなどが挙げられます。

.   経済特区に関する例外

前述のネガティブリストに規定された制限を受ける事業分野について、経済特区(kawasan ekonomi khusus)でこれらに対する投資活動が行われる場合には、規制は適用されないとされております(8条1項)。これにより、経済特区における投資の促進が企図されております。

他方で、前述のように、大統領規則2021年10号は外国人投資家に対して、事業所の土地・建物を除く最低投資額が100億ルピア(約7500万円)以上の大規模事業でのみ事業活動を行うことができるという制限を規定しております(7条1項)。当該制限は、上記特定の条件について例外とされた経済特区(kawasan ekonomi khusus)における事業に対しても適用されることに注意する必要があります。

3 最後に

上記で述べたように、大統領規則2021年10号においては、これまでインドネシアへの投資の障壁となっていた外資規制が大幅に変更され、新たな投資制度(特に優先事業分野へのインセンティブ)が導入されております。これらの変更には、インドネシアにおける現在の投資環境を改善し、ポジティブな影響をもたらすことが期待されます。

[1] 上記リストに載っていない分野でも、金融業や銀行業等個別の法律で外資規制が規定されている分野がございます。