ネパールの会社法について
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ネパールの会社法について
2021年3月31日
One Asia Lawyers
南アジアプラクティスチーム
ネパールでは、2020年に産業企業法成立、2019年に外国投資法改正、2017年に会社法改正と、ビジネスに関する規制が変化しています。世界銀行による「ビジネスのしやすさ指数2020」においては、南アジア8か国中では、インド、ブータンに次ぐ3位、全世界190か国中94位と、課題は残るものの前年の110位から16位ランクを上げています[1]。
ネパール投資の際に参照すべき2つの法律を解説した、2020年12月18日付「ネパールの投資環境と2020年産業企業法投資規制について」に続き、今回は、実際に現地法人等の設立手続きや運営の際の準拠法となる2017年会社法について解説します。
1 2017年会社法改正の概要
2017年の改正においては、企業の参入と撤退を容易にすること等を目的として、約60の条項が改正または新設されています。例えば、第9条(ka)では、非公開株式会社の最大株主数を従来の50人から101人に引き上げられており、これにより、非公開の形態をとりたい会社もより多くの株主からの投資を得られることとなりました。その他、2017年改正法では、以下のように、ネパールにおける企業運営上の重要な変更がなされています。
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旧規定 |
改正規定 |
非公開会社の定時株主総会 (76条5項) |
該当なし (76条1項から4項で公開会社の定時株主総会開催を規定) |
公開会社のみ義務であった定時株主総会開催が、非公開会社にも適用拡大。 |
公開会社への強制転換。 (13条1項(b)) |
非公開会社の株式の25%以上が1社以上の公開会社によって引き受けられた場合、当該非公開会社は公開会社に強制転換される。 |
削除 |
非公開会社の株主数(9条(ka)) |
50人以下 |
101人以下 |
株主総会のテレビ会議開催 (68、80条) |
該当なし |
テレビ会議(video conference)等が開催方法として追加 |
公開会社の取締役(86条2項) |
性別の規定なし |
女性株主のいる公開会社に対する、1名以上の女性取締役選任義務付け。 |
2 拠点設立手続き
日本企業がネパールでの事業を検討する場合、現地法人、外国法人の支店(Branch Office)、駐在員事務所(Liaison Office)のいずれかを設置することが一般的です。
- (1)現地法人
現地法人は、ネパール会社法に基づき設立される、非公開会社(Private Limited Company)又は公開会社(Public Limited Company)を指し、外資規制上許可されている分野において事業活動を行うことができます。最低資本金は、公開会社の場合は1,000万ネパール・ルピー(NPR)(約940万円)と定められ(11条)、非公開会社には最低資本金の定めはありません。
ただし、公開・非公開にかかわらず、外国投資法に基づき、外国企業は最低投資額として5,000万NPR(約4,700万円)が必要となります。
日本企業が現地法人を設立する際は、非公開会社の形態をとることが一般的です。
会社設立手続き
会社設立には、投資額や事業費に応じ、産業省産業局(DOI)又はネパール投資委員会(IBN)での外国投資許可を取得した上で、登記事務所(Office of the Company Registrar)への登記を行います。また、歳入局(Inland Revenue Department)への税務登録を行い、永続会計番号(Permanent Account Number、PANナンバー)の取得も必要となります。
年間売上高が500万NPR以上の会社は、付加価値税(VAT)登録も行います。
- (2)支店
支店は、外国企業のネパール国内拠点であり、当該外国籍のままとなります。原則としてネパール国内で許可されている事業活動を行うことができますが、その内容は、親会社の設立国における事業内容と類似した内容の範囲に限定されます。
支店を運営するための投資は外国投資とはみなされないため、外国投資認可は不要ですが、投資予定額に応じた支店登録手数料が定められています。
- (3)駐在員事務所
駐在員事務所は、外国企業のネパール国内連絡拠点としての機能であり、当該外国籍のままとなります。収入を得るものを含むビジネス活動は認められません。設立には、会社登録事務所において、支店と同様の登録手続きを行います(154条3項)。
支店・駐在員事務所の設立手続き
ネパールで支店又は駐在員事務所を登録するには、管轄する政府当局から承認を取得する、又は関係機関と合意書を締結することが必要となります(154条2項)。この合意書締結の相手方機関に関し、会社登録事務所は、政府機関である必要があるとの見方をしてきました。しかしながら、この見解は管轄登録事務所により異なることがあり、政府機関ではなく民間企業との合意書提出に基づき、支店の登録が完了している事例も見受けられます。そのため、確実に且つ無駄なく手続きを行うために、想定する合意締結相手方に関し、管轄登録事務所において事前の確認をすることが肝要です。
登録時の手数料は投資予定額に応じて定められており、例えば投資額1千万NPR(約940万円)以下の場合は登録料1万5千NPR(約1万4千円)、2億NPR超3億NPR以下の場合は10万NPR等。投資額が未定の外国企業には一律で10万NPRの登録料が適用されます。
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現地法人 |
支店 |
駐在員事務所 |
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非公開会社 |
公開会社 |
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株主数 |
上限101名 |
最低7名(上限なし) |
― |
― |
株式の一般公募 |
不可 |
可能 |
― |
― |
取締役数 |
上限11名 |
3名以上11名以下。女性株主がいる場合は、1名以上の女性取締役設置が必要。 |
― |
― |
法人格 |
内国法人 |
内国法人 |
外国法人 |
外国法人 |
活動範囲 |
原則制限なし |
原則制限なし |
許可された範囲での事業又は取引が可能 |
収入を生じさせる活動(income earning activity)は不可 |
最低資本金 |
最低資本金の定めなし。 |
1,000万NPR |
規定なし |
規定なし |
最低投資額 |
5,000万NPR |
5,000千万NPR |
規定なし (支店は外国投資とみなされない) |
規定なし (駐在員事務所は外国投資とみなされない) |
- 外国人とネパール人の従業員雇用比率
ネパールでは、WTO協定を受諾しており、技術職及び管理職における外国人の雇用比率は15%まで認められています[2]。従業員を雇用する際は、ネパール人の人数が85%以上となるよう調整が必要となります。
3 会社の運営と機関
- (1)株式
- ①株式の割当
公開会社は株式の引受を公募する場合、株式発行終了日から3か月以内に株式を割り当てるものとされますが、少なくとも50%が売却されない場合には、割当は行えないと定められています(28条)。
- ②株式の額面価額
株式の額面価額は、非公開会社の場合は定款に定めるものとし、公開会社の場合は1株当たり50NPR、または定款に定めるそれ以上の金額(10で割り切れる金額)とします(27条)。
- ③配当金
配当は、配当実施の決定から原則として45日以内に株主に分配されなければならないとされます(182条)。
- (2)機関
- ①株主
非公開会社の株主数は最大101名(9条1項)、公開会社は最低7名(上限の定めなし)の株主数を必要とします(9条2項)。
- ②株主総会
会社は、会社法に基づく定時株主総会(annual general meeting)の開催が義務付けられ、また必要に応じて臨時株主総会(extra-ordinary general meeting)を開催します。
定時株主総会
原則として毎年、会計年度終了後6か月以内に開催、設立後の第一回定時総会は事業開始許可日から1年以内に開催する必要があります。
(定足数)
株主総会の定足数(quorum)は、非公開会社の場合は定款の定めに従い、公開会社の場合は割当株式総数の50%以上を占める3名以上の株主の出席が必要です(73条)。
(招集)
招集通知は、非公開会社の場合は定款の定めに従い、公開会社の場合は原則として21日前までに送付することとされます(67条)。
(総会までに提出する報告書)
定時株主総会開催の少なくとも21日前までに、会社の株式や財務状況等の所定の事項を記載した報告書を作成し、監査を受けた上で、登記事務所に提出することが義務付けられています(78条)。
(議事録)
総会の議事録は、開催後30日以内に株主に送付するか、又は全国日刊紙への掲載が義務付けられます(75条)。
臨時株主総会
臨時株主総会は、取締役(会)が必要と判断した場合、監査役が要求した場合、または、払込資本の10%以上の株式を保有する株主もしくは総株主数の25%以上の株主が要求した場合に、開催されます(82条)。
定足数、議事録については定時株主総会と同様の規定が適用されますが、招集通知は、非公開会社の場合は定款の定めに従い、公開会社の場合は15日前までの送付が必要となります(67条)。
普通決議の決議事項及び決議要件:
普通決議(Ordinary resolution)の主な決議事項は、取締役らの選解任、決算報告、授権資本範囲内での増資、決議要件は、出席株主の議決権の過半数と定められます(74条3項)。
特別決議の決議事項及び決議要件
特別決議(Special resolution)の主な決議事項は、減資、会社の商号・事業目的の変更、合併等(83条)、決議要件は、出席株主の75%以上と定められます(74条3項但書)。
- ③取締役
(取締役の要件・義務)
取締役の国籍や居住地について規定はなく、日本に居住する日本人のみが取締役に就任することも可能です。
ただし、前述のとおり、公開会社で株主に女性が含まれる場合は、女性の取締役を少なくとも1名任命することが義務付けられます(86条2項)。
また、会社の定款に取締役就任にあたり保有すべき株式数が記載されている場合は当該数の株式を、明記する規定がない場合は、少なくとも100株を保有することが義務付けられます(88条)。
(選任・解任・任期)
取締役は、株主総会により任命され(87条)、任期は、非公開会社の場合は定款の定めに従い、公開会社の場合は4年を超えないものとされます(90条)。
株主総会において解任された取締役は、取締役会において再任することができず、また、解任された取締役の後任として選任された者の任期は、解任された者の本来の任期をもって満了となります(90条)。
他方、任期満了により退任した者は、取締役に再任する資格を有します(90条3項)。
- ④取締役会
取締役会(Meeting of Board)は、非公開会社の場合は定款の定めに従い、公開会社の場合は、1年に少なくとも6回開催しなければならず、且つ会議の間隔は3か月を超えないものとされています(97条)。
取締役会の定足数は全取締役の51%以上とされ、また、代理人の出席は認められません(同条)。
すべての取締役会において、議事録を作成し、出席した取締役の51%以上が署名した上で、保管する必要があります。
- ⑤監査役
すべての会社は、監査役を選任することが義務付けられます(110条)。
監査役は株主総会で任命され、次の総会までしか在任できません(111条)。
また、公開会社の場合、監査役は連続3期を超えて選任されてはならないとされます。
- (3)会計書類作の成及び報告
公開会社の取締役会は、毎年定時総会開催の30日前までに、非公開会社の場合は会計年度の終了後6か月以内に、貸借対照表、損益計算書、及びキャッシュフロー計算書を作成し、取締役会の承認及び監査を受けたものを、少なくとも5年間保管する義務を負います(109条)。
また、資本金が1,000万NPR以上または年間売上高が1億NPR以上の非公開会社、及びすべての公開会社は、上記の財務諸表に加え、事業の状況、準備金組入金、配当支払額、その他定められた財務状況に関する事項を記載した報告書を別途作成する必要があります(同条)。
以上
[1] 世界銀行 Doing Business: https://www.doingbusiness.org/en/reports/global-reports/doing-business-2020
[2] https://www.wto.org/english/tratop_e/tpr_e/s381_e.pdf
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