インドネシアにおける大統領規則2021年5号について
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インドネシア 大統領規則2021年5号 <style=”text-align: center;”>〜リスクベースのライセンス取得要件の導入〜
2021年5月 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers Indonesia office 代表 <style=”text-align: right;”>日本法弁護士 <style=”text-align: right;”>馬居 光二
1 最初に
インドネシアにおいては2020年11月2日に雇用創出に関する法律 2020年11号(オムニバス法)が施行されました。同法は投資に関係する様々な法令を改正するもので、国内外の投資活動を誘致し、インドネシアでのビジネスを容易にすることで雇用を創出することを目的としております。同法の制定を受けて、政府は「リスクベースのビジネスライセンスの実施に関する政府規則2021年第5号」を発行しました。
本件規則は、これまでビジネスライセンスの取得手続きを規定していた政府規則2018年24号を廃止し、新たな手続きを導入することで、手続の合理化、効率化を目的としています。
2 主な変更点
(1)リスクのレベルに応じたライセンスの取得要件
本規則では、4つのリスクレベルが規定されており、それぞれのレベルごとに異なる取得要件が定められています。事業のリスクレベルは、各事業活動について、健康、安全、環境、資源の利用に基づいて決定されます(規則第9条)。
オムニバス法では、3つのリスクレベル(高、中、低)が規定されていましたが、今回制定された政府規則No.5/2021では、以下のようにリスクレベルが4つに分類されております(オムニバス法第7条7項、規則第10条)。
a. 低リスク
低リスクに分類された事業者は、商品やサービスの生産、流通、販売などの事業活動や商業活動を開始するために、事業者識別番号(Nomor Induk Berusaha、以下「NIB」)を取得するだけでよいとされております(規則第12条1項)。
このNIBは、上記事業者識別のための番号の他に、輸入者識別番号(Angka Pengenal Impor)、税関アクセス権(Hak Akses Kepabeanan)、ハラール保証書(低リスクの中小企業向け)、環境管理・監視能力証明書(Surat Pernyataan Kesanggupan Pengelolaan dan Pemantauan Lingkungan Hidup)(低リスクの企業のみ)等としての役割も果たすため、低リスクに分類された企業は、事業開始の際に大幅な緩和を受けることができることになります(規則第12条2項等)。
b. 中・低リスク
中・低リスクの活動を行う企業は、事業を開始する前にNIBとスタンダード証明書(Sertifikat Standar)を取得しなければならないとされております(規則第13条1項)。
このスタンダード証明書とは、特定の事業実施基準を満たしていることを示す声明および/または証明を意味しており、(規則第13条2項)。スタンダード証明書は中・低リスク事業、中・高リスク事業の双方で必要とされていますが、中・低リスク事業の場合は事業者自ら作成すればよいとされております(規則第13条2項)。
c. 中・高リスク
中・高リスク活動を行う事業者は、NIBを取得した上で、事業の準備活動をを経てスタンダード証明書を取得する必要があります(規則第14条6項)。
この場合のスタンダード証明書は、関連する政府機関が、当該事業者が特定の事業の実施基準(スタンダード)に適合しているかどうかを検証した上で、これを満たしていると判断した場合のみ発行される証明書を意味します。
各事業者は、NIB及び検証を受けていない形でのスタンダード証明書を取得した上で準備活動を開始し、各省庁の検証を経た上で有効なスタンダード証明書が発行されます。
この場合の準備活動とは、土地の調達、建物の建設、設備の購入、従業員の雇用、事業基準の充足、実現可能性調査の実施など のことを指します(規則第14条7項)。
事業者が定められた基準にしたがってスタンダード証明書を取得せず、NIBを取得してから1年以内に準備活動を行わない場合、OSSはNIBを取消すとされております(規則第14条6項)。
d. 高リスク
高リスクに分類されたビジネスは、リスクベースの最上位に位置します。この場合、事業者はNIBに加え、あらゆる事業を開始する前に、当該事業活動を行うための中央政府または地方政府による承認という形での事業許可を取得する必要がございます。また、事業によっては中央政府または地方政府が、それぞれの権限に基づいて、各基準の充足を検証した上で発行する製品および/または事業活動に関するスタンダード証明書を取得する必要がございます。
(2)対象となるビジネスセクター
本規則においてはリスクベースのビジネスライセンスの実施は、以下のセクターを対象としています(規則4条1項)
1 |
海洋および漁業 |
9 |
交通手段; |
2 |
農業 |
10 |
健康、薬、食品 |
3 |
環境と林業 |
11 |
教育と文化 |
4 |
エネルギーおよび鉱物資源 |
12 |
観光 |
5 |
原子力 |
13 |
宗教 |
6 |
製造業 |
14 |
郵便、電気通信、放送、および電子システム及び電子取引。 |
7 |
貿易 |
15 |
防衛とセキュリティ |
8 |
公共事業および公営住宅; |
16 |
労働力 |
また、各事業にリスクベースのビジネスライセンスには以下が含まれるとされております(規則4条2項)。
a 参照KBLI / KBLIコード、KBLIタイトル、活動の範囲、リスクパラメータ、リスクレベル、ビジネスライセンス、期間、有効期間、およびビジネスライセンス権限 b リスクベースのビジネスライセンスの要件および/または義務 c リスクベースのビジネスライセンスガイドライン。そして d 事業活動および/または製品に関するスタンダード証明書
上記aは本規則別表1に、bは別表Ⅱに、cは別表Ⅲに記載されております(規則4条3,4,5項)。dについては各省庁が制定する規則において規定されるとされております(規則4条6項)。各省から発行される規則について、 現在までのところ、①農業、②貿易、③公共事業及び公営住宅、④観光、⑤郵便、電気通信、放送、および電子システム及び電子取引、⑥労働力の6分野において既に施行規則が公布されております。
したがって、今後インドネシアへの投資を検討する企業は、想定する事業内容をもとに、上記の各表からリスクレベル、各要件等を確認の上OSSを通じて申請を行うことになると考えられます。なお、想定する事業が何に該当するかは非常に細かく規定されているところ、省庁への確認も含め、現地法律事務所による調査を推奨致します。
(3)監査手段の強化
本規則では、リスクベースのライセンスを実施するために、監督手段についても段階的に設定がなされております。同規則では、(ⅰ)定期的な投資実現報告書(laporan kegiatan penanaman modal)及び(ⅱ)関連政府機関による監査後の監督に加えて、事業者に対する監視の一環として現地検査を導入しております(規則220条)。
関連する政府機関による現地検査の実施として、管理的検査、物理的検査、試験、指導、カウンセリングが規定されております(規則222条2項)。各事業者は、事業所ごとに少なくとも年1回の実地検査を受けることになりますが、中・高リスクの事業者は年2回の実地検査を受けることになります(規則222条4項)。また、事業者が、検査官から基準に準拠していると評価された場合、当該事業者は次年度の実地検査を免除、削減される可能性があるとされております(規則222条5項)。
また、本規則では、従来のライセンス制度における報告義務が見直されており、事業者は以下を提出する必要があります。
1. 投資と人材の実現に関する四半期報告書(221条2項a) 2. 生産、企業の社会的責任、パートナーシップ、トレーニング、技術移転の実現に関する年次報告書(221条2項a)
上記の監督措置の結果は、関連する政府機関が事業のリスクレベルを見直し、評価するために使用されます。
3 最後に
本規則は公布日に施行され、これによりこれまでビジネスライセンスの取得手続きを規定していた政府規則2018年24号は廃止されます(規則565条)。
本規則においては、施行から2ヶ月以内にさらなる施行規則が規定されるべき旨定められており、前述のように既に6分野について施行規則が公布されています(規則566条a)。また、OSSを介したリスクベースのビジネスライセンス取得手続きは本規則制定から4ヶ月以内に実装されると規定されています(規則566条b)。
本規則制定後も、それ以前に有効なビジネスライセンスを取得していた事業者(コミットメントを充足している事業者)は影響を受けないとされています(規則562条a)。他方で、既にコミットメント付きのビジネスライセンスを取得しているものの、当該コミットメントを充足していない事業者は、本政府規則に基づいて申請が処理されると規定されております(規則562条b)。その結果、現時点で有効なビジネスライセンスの取得をしていない事業者は、本規則に合わせた形で調整を図る必要がある可能性があります。
上記のように、本規則制定後2ヶ月以内にさらなる施行規則が発行され、4ヶ月以内にあらたなOSSのプラットフォームの導入が予定されるているところ、同OSSプラットフォームとの関係や、ライセンスの取得システムの詳細については今後もBKPMを中心とした政府、省庁が発する情報に注意する必要があります。