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タイにおける不動産担保型ICOの概要について

2021年05月14日(金)

タイにおける不動産担保型ICOの概要について報告いたします。

不動産型ICOについて

 

タイにおける不動産担保型ICOの概要について

2021年5月14日

One Asia Lawyersタイ事務所

1.はじめに

2021年2月11日にThe Securities and Exchange Commission of Thailand(以下、「SEC」)からInitial Coin Offering (以下、「ICO」)に関する告示第5号[1](以下、(「本告示」)が発行され、3月1日から施行されています。

本告示の主な改正点として、不動産担保型ICOに関する新規則の追加が挙げられます。不動産担保型ICOは、不動産を担保としてICOを行い、その不動産を貸し出すことにより賃料収入などの収益を得ることを目的としています。タイの不動産担保型ICOは、資金調達方法及び利益分配方法の点で不動産投資信託(以下、「REIT」)に類似していますが、投資家保護の仕組みの点においてはREITと比べて十分に規制されていなかったことが改正の背景にあります。

本ニュースレターでは、不動産担保型トークン発行による資金調達の方法及び条件等の概要について解説致します。

[1] http://www.ratchakitcha.soc.go.th/DATA/PDF/2564/E/046/T_0036.PDF

2.不動産担保型ICOプロジェクトの要件

不動産担保型トークンの発行により資金調達を行う場合、対象となる不動産の要件として、施工が完了し、活用できる準備が整っている不動産で、差押または紛争等の対象物件となっていないこと[1]、プロジェクトの数や投資額の80%以上を占めるか、投資額合計で5億バーツ以上であること[2]等が定められています。

つまり、一棟のマンションや一軒家であってはならず、プロジェクト内のヴィラやコンドミニアムの総戸数の80%以上、またはプロジェクト投資額の80%以上もしくはプロジェクト投資額が合計5億バーツ以上でなければなりません。

[1] 本告示第32/2条(1)

[2] 本告示第32/2条(2)

 3.デジタルトークン発行者(以下、「発行者」)に求められる資格

発行者はSECのICOに関する2018年告示第1号[1](以下、「告示1号」)が定める以下の主な資格を満たす者でなければなりません。

  • ・タイ法に基づき設立された公開会社または非公開会社であること[2]
  • ・破産会社、破産法に基づき会社更生を申請中、または会社更生中の会社ではないこと[3]
  • ・取締役及び幹部がSECの規定する禁止事項及び告示1号第20条で規定する禁止事項に該当しないこと[4]
  • ・最新の財務諸表について、SECから承認を得た会計監査人による監査を受けていること[5]

これらに加え、不動産担保型トークンの発行者は、オペレーション体制、人事体制(資産管理責任者の設置を含む)、資産管理体制、利益相反防止体制の整備も要件に挙げられています[6]

[1] https://publish.sec.or.th/nrs/7695s.pdf

[2] 告示1号第号17条(1)

[3] 告示1号第号17条(2)

[4] 告示1号第号18条(2)及び第20条

[5] 告示1号第号18条(3)

[6] 本告示第32/2条(10)

 4.申請から許可取得までの流れ

ICOによる資金調達を希望する申請者は、まずICOポータルにプロジェクトの提案を行います。ICOポータルは、告示1号第16条~21条で定める規則に基づき当該プロジェクト及び申請者の1次審査を行います[1]。ICOポータルは、発行者とトークン化されるとされる不動産の両方についてデューデリジェンスを行います。

ICOポータルによる審査通過後、申請者は申請書等一式をSECに提出し[2]、全書類が揃ったと確認された時点で申請料金をSECに支払います[3]。ICOの申請料金は、IPOの場合の規定に準じると定められており[4]、30万バーツとなっています[5]

申請料金の受領後、SECは書類一式を確認し、気づいた点や疑問点について申請者に書面を発行します。申請者は指定された期間内に書面で回答します。当該プロセスは、SECが書類一式を受領してから60日以内に完了させなければなりません[6]。SECは、申請者からの回答受領後30日以内に、審査の結果を通知します[7]

[1] 告示1号第17条(7)

[2] 告示1号第22条

[3] 告示1号第23条

[4] 告示1号第54条

[5] SEC告示 Kor Mor 21/2560号

[6] 告示1号第24条(1)

[7] 告示1号第24条(2)

 5.許可取得後の主な実施事項

SECより発行許可を取得した者は、許可取得日から6ヵ月以内に、ICOポータルを通じてデジタルトークンを販売します(期限の30日以上前に延長申請することも可能)[1]。この6ヵ月以内に、文書または電子データ等で、ホワイトペーパーを公開します。ホワイトペーパーには、発行者の情報、資金調達目的、事業計画、リスク、及び販売方法等について記載し[2]、タイ語で作成する必要があります[3]

また、発行者は、信託開設契約を、遅くとも受託者(Trustee)への信託財産譲渡日までに締結します。受託者への信託財産の譲渡は、デジタルトークン販売終了後15日以内に実施する必要があります[4]

さらに、発行者はデジタルトークンの販売結果について、販売終了後15日以内にSECに報告する義務も有しています[5]

[1] 告示1号第25条及び27条

[2] 告示1号第36条

[3] 告示1号第38(1)条

[4] 本告示第32/6条

[5] 告示1号第32条

 6.信託の開設と受託者の役割

不動産担保型ICOの発行者は、これまで不動産所有権を保有するか、不動産所有権を保有するSpecific Purpose Vehicle(以下、「SPV」)の発行済み株式数の75%以上及び議決権総数の75%以上を保有する信託の開設を義務付けられていましたが、今回新たに不動産借地権が追加されています[1]

REITの場合、受託者は不動産を保有し、かつREITマネージャーにより当該不動産の管理も行います。他方、不動産担保型ICOの場合、受託者はREIT同様不動産を保有しますが、当該不動産の管理は行いません。不動産管理は発行者の役割[2]となっており、受託者は当該行為を監視する役割等を担っています[3]

[1] SEC告示 Kor Ror 4/2564号第2条

[2] 本告示第32/2 (10)条

[3] SEC告示5/2564号第8条

 7.ICOへの投資が認められる者

REITが制限なく小口投資家から資金調達が可能である一方、ICOは不動産担保型か否かに限らず、小口投資家からの投資額に上限が設定されています。SECによりデジタルトークンの購入が認められている投資家は以下の通りです[1]

  • 1)機関投資家
  • 2)大口投資家[2]
  • 例:純資産7千万バーツ以上(住居用の不動産を除く)、年収7百万バーツ以上(夫婦合わせて1千万バーツ以上)、または投資額2千5百万バーツ以上(預金を合わせて5千万バーツ以上)のいずれかに該当する個人。
  • 3)ベンチャーキャピタル、またはプライベートエクイティ
  • 4)上記以外の投資家(小口投資家)1件のICO当たりの投資額上限は30万バーツ以下、かつデジタルトークン発行者の資本金の4倍もしくは1件のICO当たりの調達額合計の70%のいずれか高い方を超えてはならない。

[1] 告示1号17条(3)

[2] SEC告示Kor Jor 4/2560号第5条(2)

8.さいごに

不動産担保型ICOによる不動産管理は発行者に義務付けられていることから、最も適した発行者は、必然的に、不動産管理経験を持つ不動産開発業者であると考えられます。実際、タイの不動産開発会社であるSCアセット、サンシリ、またアナンダ・デベロップメントがICOを検討し始めたという情報が3月3日付のバンコクポスト[1]で報じられています。実現すればタイのみならず、アジア発のICOによる資金調達になるため、今後の動向に注視して参ります。

[1] https://www.bangkokpost.com/business/2077219/developers-among-the-first-to-proffer-initial-coin-offerings

 

以上 

〈注記〉
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