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タイにおける電子署名について

2021年05月30日(日)

タイにおける電子署名について報告いたします。

電子署名について

 

タイにおける電子署名について

2021年5月28日

One Asia Lawyersタイ事務所

  • 1.はじめに
  • 新型コロナウイルスの流行に伴い電子取引が進む中で、電子署名についてのお問合せを非常に多く受けています。タイにおける電子署名の要件及び留意点を以下の通り解説致します。
  • 2.タイ法上求められる要件
  • タイでは、2001年電子取引法[1]第26条1項で定める「信頼できる電子署名」の要件を満たした電子署名であれば、タイ法上有効であると解されています。
  • 同法第26条1項
  • (1) 作成された署名データが、使用される文脈の中で、署名者と紐づけられていること。

(2) 作成された署名データが、電子署名の作成時に、署名者の管理下にあったこと。

(3) 電子署名の作成後に行われた変更が検出可能であること。

(4) 情報の完全性を保証することが電子署名に求められる法的要件である場合、署名時以降にその情報に加えられた変更が検出可能であること。

上記の要件をどのように充足すれば良いのかは同法上、明文化されていませんが、電子取引開発機構(Electronic Transactions Development Agency, 以下「ETDA」)は別途ガイドライン23-2563号4.2.1条[2]において、電子署名を利用する場合の本人確認には、AAL2レベルを要するとされ、AAL2レベルについては、ガイドライン20-2561号2.2条[3]で以下の通り規定されています。

(1)Multi-factor authenticatorを利用する方法

例:銀行から配布されるOTP (ワンタイムパスワード) デバイスのようなものを利用し、適宜認証コードをデバイスから取得し、それをシステム内に入力する方法

(2)Single-factor authenticatorを利用する方法(2段階認証を要する)

例:ログイン画面でパスワードを入力し、さらに携帯電話に送信されたOTPを入力する方法

また、電子取引法では明文化されていませんが、ガイドライン23-2563号4.2.2条では「署名者が自身の署名行為について明確に意思を表示していることを認めるプロセスまたはその証拠を有していること」または「署名者自身が意思を表明した内容に対して電子署名を付すこと」と記されており、利用する電子署名がこれを満たす機能を有しているかについてご確認頂く必要があると考えます。

3.利用上の留意点

 電子署名を用いた電子契約を利用するにあたっては、以下について留意頂く必要があります。

(1)共同署名の可否

タイの会社の場合、複数の署名権限取締役の共同署名が必要であると登記されている場合には、複数の署名権限取締役による電子署名が必要となります。利用する電子署名サービスがこのような場合に対応できるかを確認頂く必要があります。

(2)会社印(カンパニーシール)の押印

タイでは、会社登記上、署名権限を有する取締役の署名だけでなく会社印も必要であると定められているケースが多く、その場合には、電子署名に加え会社印の押印も必要となります。

電子取引法上、会社印にも9条1項の規定が準用されるとの規定(9条3項)が存在するため、電子的な会社印の押印も有効となり得ると考えます。具体的には、会社印の印影データを電子文書に貼り付けることといった方法が考えられますが、利用する電子契約サービスがこのような場合に対応できるかを確認頂く必要があります。

(3)電子署名の信頼性と契約書の真正性

万が一電子契約の真正が争われた場合(例えば、売買契約の相手方企業がそのような契約をしてないと争ってきた場合)、契約が有効であると主張する者(つまり、御社)が、その契約書に付された双方当事者の電子署名が電子取引法26条に基づく「信頼できる電子署名」であることを立証できれば、 契約書に付された双方当事者の電子署名が有効であるものと推認され、その契約書が真正なものであることを強く裏付けることができます。 この場合、電子署名の真正についての立証責任が転換され、電子署名が無効であることを主張する相手方企業がその立証をすることとなります。

タイの裁判所で電子契約書の署名の真正について争いになった場合、裁判所に対し、利用した電子署名について技術的に説明を行う必要がありますが、電子署名の利用が進んでいないタイの現状に於いて、裁判所にその説明を行うことは骨が折れる作業になることが想定されます。

  • 4.電子署名を利用できないケース
  • 以下のケースにおいては、書面上に手書きの署名が求められており、電子署名の利用は認められていませんのでご留意下さい。
  • 不動産売買契約(民商法第456条)
  • 3年を超える不動産の賃貸借契約(民商法第538条)
  • 抵当権設定契約(民商法第714条)
  • 家族及び相続に関する取引(2006年電子取引法が適用されない民事および商取引の種類を定めた勅令)
  • 5.さいごに
  • 結論として、電子取引法第26条1項で定める要件を全て満たした電子署名はタイ法上真正なものと推認されますが、これらの要件のいずれかを満たせない場合でも、直ちに署名が無効と判断されるわけではありません。
  • しかしながら、タイ企業と電子署名サービスを利用して電子署名を用いた電子契約を利用するにあたっては日本国内で日本企業同士で行う場合よりもハードルが高いため、非常に重要な契約であり無効となるリスクも負いたくないと考える場合は、これまでどおり通常の書面での契約の締結を推奨致します。

[1] http://web.krisdika.go.th/data/outsitedata/outsite21/file/ELECTRONIC_TRANSACTIONS_ACT,B.E._2544.pdf

[2] ETDA Recommendation on ICT standard for Electronic Transactions:https://standard.etda.or.th/wp-content/uploads/2020/06/20200529-ER-E-Signature-Guideline-V08-36F.pdf

[3] https://standard.etda.or.th/wp-content/uploads/2019/02/20171204-ER-DigitalID-Authentication-V08-21F.pdf

 

以上 

〈注記〉
本資料に関し、以下の点ご了解ください。
・ 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
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