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インドネシアにおける電子署名の法的有効性について

2021年08月16日(月)

インドネシアにおける電子署名の法的有効性についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

インドネシアにおける電子署名の法的有効性について

 

インドネシアにおける電子署名の法的有効性について

2021年8月
One Asia Lawyers; Indonesia Office
日本法弁護士 馬居 光二
インドネシア法弁護士 Prisilia Sitompul

法的根拠

–       インドネシア民法(ICC)
–       電子情報と取引に関する法律2016年19号で改正された法律2008年11号(Law 19/2019)
–       電子取引システムの導入に関する政府規則2019年71号(GR 71/2019)

1.はじめ

 コロナウイルスの蔓延により、多くの企業はビジネスにおいてオンラインでの対応を余儀なくされております。世界各国では、渡航禁止やロックダウンなどの措置がとられており、インドネシアにおいても政府による大規模な社会的制限により、多くの企業が営業停止や、会社での業務を制限されております。

 在インドネシア日系企業の多くも、現在はリモートワークで業務を行っているところ、契約書の作成や省庁への申請手続きに困難を感じる場面も多いかと思います。このような状況において、オンライン上で行うことができる電子署名の有効性は、多くの企業の関心事となっております。本ニュースレターではインドネシアにおける電子署名の有効性に関する法制度および実務の状況をご説明致します。

2.   インドネシアにおける電子署名と契約

(1)電子契約

 電子システム上で作成された契約(電子契約)の有効性について、インドネシア民法は、意思の合致による契約の成立を認めているところ、有効な契約の成立に直筆の署名は要件とされておりません。これを前提に、Law 19/2016は、電子契約が有効であることを規定しています。

(2)電子署名の要件

 Law 19/2016において、「電子署名」は、「他の電子情報に添付、関連付け、または関連づけられた電子情報で構成される署名であり、検証および認証ツールとして使用されるもの」と定義されています(1条17号)。

 また、以下の要件を満たす限りにおいて、電子署名は法的効力を有する旨規定しています(Law 19/2016第11条、GR 71/2019第59条3項)。

・電子署名作成の際に使用されるデータが署名者のみに関連していること
・署名手続において電子署名作成に使用されるデータが署名者のみの権限の下にあること
・署名時以降に発生した電子署名の変更を把握可能であること
・署名時以降に電子署名に関する電子情報に変更があった場合にこれを把握可能であること
・署名者を特定するための一定の方法があること
・署名者が関連する電子情報に同意を与えたことを示す方法があること

 また、GR 71/2019は、電子署名を「認証された電子署名」と「認証されていない電子署名」の2種類に分けて規定しいます(60条2項)。両者の主な違いは、認証された電子署名がより強力な証拠価値、すなわち、裁判の際に当事者が電子署名が本物であることを証明する力が強い点にあるとされています。

 a. 認証された電子署名

 認証された電子署名は、それ自体が偽造等のリスクが低く、安全かつ真正であるとの推定が働きます。GR 71/2019第60条3項は「認証された電子署名」の要件として前述の有効な電子署名の要件に加え、インドネシアの電子証明書プロバイダーが作成した電子証明書によって証明されることを規定しています。

 この電子証明書プロバイダーはインドネシア通信情報省がこれを管理しており現在、インドネシアでは下記6つの期間が電子証明書プロバイダーとして登録されています。

 (i) 技術評価応用庁(BPPT)
 (ii) State Code and Cyber Agency (BSSN)
 (iii) インドネシア公共貨幣印刷会社 (Perum Peruri)
 (iv) PrivyID
 (v) Vida; and
 (vi) Digisign

※ 電子証明書プロバイダーの利用方法は各機関のウェブサイトに掲載されております。

 b. 認証されていない電子署名

 認証されない電子署名の例としては、直筆の署名をスキャンしたもの、オンラインでのクリック形式の同意、電子メールによる署名などが考えられます。

 また、インドネシアで登録されていない外国のプロバイダーが開発した電子署名も、認証されていない電子署名とみなされます。

このような認証されていない電子署名の場合、裁判の当事者は、証拠となる契約書の電子署名が有効かつ真正なものであることを自ら立証する必要があります。

 もっとも、認証されていない電子署名も法的に有効な署名となりますので、厳密な契約内容の有効性や署名の真正が争いにならない契約書等に利用することができます。一般的な使用例としては、企業間の商業契約(NDA、調達文書、販売契約など)、消費者契約(小売店の新規口座開設文書など)、リース契約などが挙げられます。

物理的な署名を必要とする活用事例

 上記のように、インドネシアにおいては電子署名の利用が認められており、実務上も、一定の契約についてはこれらが使用されいます。もっとも、法令上、下記のような一定の官公庁に提出する契約書については直筆の署名が必要とされています。

・雇用関係の文書
・定款、公正証書に記載する必要のある株主決議、株式・資産の譲渡契約書
・知的財産権の移転契約書
・不動産譲渡契約書
・公証、認証、捺印が法的に要求されている文書や契約書

(3)     クロスボーダー取引における電子署名

 インドネシアの規制では、クロスボーダーの電子署名に関する具体的な内容は定められていません。しかし、政府は現在、電子取引システムを利用したクロスボーダーの取引行為を規制するための政府規制案を作成中であるとされています。

(4)      インドネシアにおける実務の取扱い

 上記のように、インドネシアにおいては電子署名に関する法令及び規則が規定されており、複数の電子証明書プロバイダーも登録されています。もっとも、実務において電子署名を使用する際には依然として様々な問題があります。大きな問題の一つは、電子署名を利用するためのインフラが不足していることと、一部の政府機関の電子署名利用に対する関心の低さです。実際に、インドネシアの実務で多く利用される公正証書等、特定の分野や特定のサービスでは電子署名は利用できない形となっています。

 また、中央ジャカルタ地方裁判所の職員によると、裁判所は未だに電子署名の受け入れに消極的で、訴訟当事者に対して直筆の署名がされた書面をスキャンして電子メールや裁判所の電子プラットフォームを介して提出することを要求しているということです。

3.    総 論

 以上のように、インドネシアにおいては電子署名に関する規定が存在しており、その有効性が認められています。

 多くの企業が在宅勤務を余儀なくされている中で、電子署名の活用は、日々のビジネスを円滑に進める上で非常に有用なものです。

 他方で、紛争の可能性のある契約や、一定の官公庁に提出する書面に関しては直筆での署名が要求されています。

 したがって、電子署名を利用する書面と、そうでない書面の違いを理解したうえで、前者に関して署名の真正が争われる可能性があるような書面に関してはインドネシアの電子証明書プロバイダーを利用する等の対応が必要になります。