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オーストラリアの消費者保護法について

2021年09月08日(水)

オーストラリアの消費者保護法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアの消費者保護法

 

オーストラリアの消費者保護法

2021年9月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 オーストラリアの消費者保護に関する主な法令は、2010年競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010)の別紙2(Schedule 2)として規定されるオーストラリア消費者法(ACL:Australian Consumer Law)です。昨今のVolkswagen[1]およびLorna Jane[2]の違反事例にみられる通り莫大な罰金が科される可能性があり、かつレピュテーションリスクも大きいことから、オーストラリアをターゲットとして商品や役務を提供する企業にとって注意が必要な法令の一つと言えます。

 金融サービスの提供および消費者信用貸付については、オーストラリア証券投資委員会法(ASIC Act:Australian Securities and Investments Commission Act 2001)に規定の消費者保護規定が別途適用されますが、その内容の多くはACLと類似する規定となっています。

 ACLおよびASIC Actの消費者保護規定においては、一般個人のみでなく、事業者も消費者(Consumer)とみなされる場合がありますが、2021年7月1日より、消費者の定義が改正され、オーストラリア消費者法の適用範囲が更に拡大しました。

 また、2021年8月23日には、財務大臣より、不公正な契約条項(Unfair Contract Term)に関する大幅な改正法案が発表され、2021年9月20日まで意見が公募されています(公募ページ:https://treasury.gov.au/consultation/c2021-201582)。

 本ニュースレターでは、これらの法改正および最近の事例を交えて、オーストラリア消費者保護法(ACL)の概要をご紹介いたします。

2.オーストラリア消費者法(ACL)の枠組み

 オーストラリア消費者法(ACL)は、主に、(1)誤解を招く行為または欺瞞行為(Misleading or Deceptive Conduct)、(2)不当行為(Unconscionable Conduct)、(3)不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)、(4) 消費者保証(Consumer Guarantees)、(5)不公正な取引(Unfair Practices)、特に不当表示(False or Misleading Representations)、(6) 不招請勧誘による消費者契約(Unsolicited Consumer Agreements)、および(7)消費財の安全性(Safety of Consumer Goods)に関する規制に大別され、その多くが、契約で除外・変更ができない法定規則です。

 この中でも、昨今の法改正(または改正法案)で注目されているのが(3) 不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)、および(4)消費者保証(Consumer Guarantees)の規制です。これらは後記3、4にてそれぞれ解説いたします。その他の規制の概要は以下の通りです。

誤解を招く行為または欺瞞行為(Misleading or Deceptive Conduct)(ACL第18条)

 誤解を招く行為または欺瞞行為を一般的に禁止する規制であり、後記の不当表示(False or Misleading Representations)と併せて執行される場合が多くなっています。

不当行為(Unconscionable Conduct)(ACL第20条)

 不当な行為(Unconscionable Conduct)を一般的に禁止する規制であり、不当行為の定義はされておらず、判例に基づく意味を持つとされます。一般的には、交渉力の違いや、消費者の理解能力、契約内容の合理性など様々な事情を考慮し、取引交渉の域を超え良心(Good Conscience)に反するような過酷な行為がされた場合にこれに反すると広義に解釈されるが、最近の判例では、これに加えて、消費者や小規模事業者の脆弱性を悪用したことを証明する必要はないことが明確にされており[3]、不当行為とみなされる行為の範囲について更に広義に解釈される傾向にあります。

 最近の不当行為に関す課徴金事例では、オーストラリアの最大手電気通信企業Telstraが、100人を超える先住民族系の消費者に対し、契約の理解力および経済力が十分でないにも関わらず携帯契約を売りつけたとして、2021年5月13日に5000万豪ドルの罰金が科せられています[4]

不公正な取引(Unfair Practices)(ACL第29条~)

 不当表示(False or Misleading Representations)、不招請勧誘による供給(Unsolicited Supplies)、ピラミッドスキーム、紹介販売(Referral Selling)等が規制されます。

 不当表示(False or Misleading Representations)とは、商品または役務の提供および販促に関し、一定の事項について虚偽または誤解を招く表示または行為をすることを指します。例えば、以下の事項が挙げられます。

・商品/役務の基準、品質、等級等
・推薦(Testimonial)
・価格
・修理・予備部品の入手可能性
・原産地
・特定の事業活動の収益性、リスク等

 更に、法定の保証・救済等の存在や効果について誤解を招くような記述し、または消費者の法定の権利の行使に対し支払いを求めることも明確に禁止されています。

 この他に、リベート・景品等に関する表示、おとり広告、価格の表示方法等は別途規定が存在します。また、土地の購入についても一定の表示規制が存在します。

 商品の原産地(Country of Origin)については、「Grown In/Product of/Made in 〇〇」といった表記を使用するに、それぞれ一定の基準を満たしていることが求められます。主に、生産や加工の過程の程度によって判断されます。

 なお、冒頭で言及したVolkswagenおよびLorna Janeの違反事例は、いずれも主に不当表示(False or Misleading Representation)に関連する事件ですが、2021年4月にACCCが勝訴し現在罰則に関する審問手続きが行われているGoogleの事件[5]でも不当表示が問題となっており、最近の動向として、不当表示について執行が強化されていると推察されます。

不招請勧誘による消費者契約(Unsolicited Consumer Agreements)(ACL第69条~)

 消費者が招請しないにもかかわらず、事業者の敷地外または電話にて合計価格が100豪ドル以上の商品や役務の勧誘・交渉をする行為が規制される。交渉の時間帯や交渉開始時の消費者への通知事項、契約書の作成義務、クーリングオフ等、詳細の規定が存在する。電話での勧誘については、これに加えて、電話勧誘拒否登録法(Do No Call Register Act 2006)の規制を遵守する必要があります。

 その他の特定の消費者取引として、豪州特有の分割払い契約(Lay-by Agreement)、ギフトカード、インボイス発行等に関する規制が存在します。

消費財の安全性(Safety of Consumer Goods)

 消費財(Consumer Goods)および、その設置・配送等のサービスについては、所定の安全に関する基準および通達に準拠することが求められる。例えば、安全基準(Safety Standards[6])、情報提供の基準(Information Standards)、製造販売禁止令(Permanent/Interim Ban[7])、安全警告通達(Safety Warning Notice)等が政府から発行されている。その他、欠陥に関する保証をする場合は、保証書に一定の事項を記載しなければならない等の義務が課されます。

 安全性に問題がある場合のリコールにつても規制されており、別途当局ACCCよりガイドラインも発行されています。また、製品の安全性が原因で事故が発生した場合は、事故を認識してから2日以内に政府へ所定事項を報告する義務を負います。

3.不公正な契約条項(Unfair Contract Terms)(ACL第23条~)

 一般消費者または小規模事業者との売買契約において、標準型契約(Standard Form Contract)とみなされる契約に、不公正(Unfair)な条項が含まれる場合、無効とみなされる可能性があります。

 標準型契約(Standard Form Contract)とは、いわゆる標準約款だけでなく、通常の契約であっても、交渉力の違いや、相手方が文言の変更を要請できるか否か等の様々な事情を考慮して、これに該当すると判断される可能性があります。

条項が不公正(Unfair)か否かは、契約内容全体を鑑みて、当事者間に重大な不均衡をもたらすか否か、適正な利益の保護に合理的に必要な条項か否か等の判断が求められます。

 特筆すべきは、一般個人との売買契約に限らず、小規模事業者との契約においても、当該規制が適用される点です。現在のところ、従業員数が20人未満の場合が小規模事業者に該当します。なお、小規模事業者との契約であっても、対価が30万豪ドル(ただし契約期間が12か月を超える場合は100万豪ドル)を超える場合は、Unfair Contract Termの規制は適用しません。

 本規制の違反には、現状、罰金等は科されないのですが、2021年8月23日に改正法案が発表されており、これが可決されれば、他の規制の最高罰則と同等の罰則が科せられるようになりますし、その他の救済措置(差止命令、契約内容の変更の命令等)の対象にもなります。

更に、上述の小規模事業者の規模上限も従業員数100人または年間売上高1000万豪ドルに拡大され、対価の上限が廃止されることが予測されます。

 この他にも細かな規定の改正があり、全体的にUnfair Contract Termに関して規制が強化されることになります。現行の契約にも適用が認められることが予想されるため、企業としては、改正法施行前の段階から、現在使用している契約フォーマットの見直し等の対応を取ることが推奨されます。

4.消費者保証(Consumer Guarantees)(ACL第51条~)

 消費者(Consumer)へ提供する商品または役務については、法定の保証が組み込まれており、これを契約等で除外または変更することは、一部の例外を除き禁止されています。この法定の保証は、消費者保証(Consumer Guarantees)と呼称されます。

 ここで問題となるのは「消費者(Consumer)」の定義ですが、一般的に、①対価が10万豪ドル以下の場合、または②個人もしくは家庭用途の目的で通常取得される商品または役務である場合に、買主は消費者(Consumer)として取得したとみなされるため、一般個人に限らず、企業や事業主がこれらに該当する商品または役務を購入した場合も、売主は、買主である企業または事業主に対し消費者保証(Consumer Guarantees)の義務を負うことになります。なお、冒頭に言及した通り、2021年7月1日施行の法改正[8]により、①の対価の上限が4万豪ドルから10万豪ドルに引き上げられ、消費者保証の適用範囲が拡大されました。

 消費者保証(Consumer Guarantees)の代表的な例として、以下が挙げられます。

・商品を第三者に害されることなく保有できること
・商品が許容できる品質(Acceptable Quality)であること
・事前に通知された目的に適合すること
・商品の説明やサンプルと一致すること
・修理・予備部品の入手が可能であること

 この中でも、特に許容できる品質(Acceptable Quality)については、①通常想定される目的への適合性、②外見・仕上がり、③欠陥がないこと、④安全性、および⑤耐久性について、全てをクリアすると合理的に判断できる場合がこれに該当します。

5.罰則

 刑事罰・民事制裁ともに、最高で①1000万豪ドル、②直接的もしくは間接的に違反行為から得た連結利益の3倍、または③連結年間売上の10%のうち、最も大きい額の罰金が企業に科されます。個人には最高50万豪ドルの罰金が科されます。刑事罰は、行為者の故意や過失という心理的要素のない場合にも犯罪が成立し得るStrict Liability (厳格責任)です。

6.おわりに

 オーストラリアの消費者保護法はその対象となる行為が広範囲にわたり、詳細な規制が存在するため、例えば他国で使用している表示や契約、販売方法を用いることで、意図せずとも違反となる可能性が考えられます。当局による執行活動の活発さ、および法改正による規制の厳格化の傾向を鑑みると、オーストラリア向けに商品や役務を提供する企業にとっては、特に注意が必要な分野と言えます。

以 上

 

[1] Volkswagenの自動車に搭載されていたソフトウェアに、窒素酸化物(NOx)排出量の異なる2つの設定があったにも関わらず、オーストラリアの排出基準を満たす排出量の少ない方の設定のみを公表していたことが問題となった事件。2019年12月20日の判決では、ACCCが当初Volkswagenと合意していた7500万豪ドルから更に上乗せした、ACL史上最高額となる1億2500万豪ドルの民事制裁が科せられた。2021年4月9日には、Volkswagenによるこの民事制裁額に対する不服申し立てを棄却する判決が下されている。

(Australian Competition and Consumer Commission v Volkswagen Aktiengesellschaft [2019] FCA 2166、

Volkswagen Aktiengesellschaft v Australian Competition and Consumer Commission [2021] FCAFC 49)

[2] スポーツアパレルメーカーLorna Janeが、2020年7月2日から23日の間に、一部の商品についてCOVID-19を含むウイルスを滅失し着用者を保護する等という虚偽の効果を謳っていたことが問題となった事件。2021年7月23日の判決で、500万豪ドルの民事制裁が科せられた。(Australian Competition and Consumer Commission v Lorna Jane Pty Ltd [2021] FCA 852)

[3] ACCC v Quantum Housing Group Pty Ltd [2021] FCAFC 40

[4] Australian Competition and Consumer Commission v Telstra Corporation Limited [2021] FCA 502

[5] Google LLCおよびGoogle Australia Pty Ltdが、Androidのデバイス上で個人情報である位置情報の収集等に関する設定について、他にもデフォルトでこれを有効とする設定(Web & App Activity)が存在したにも関わらず、Location Historyの設定のみをオフにすることで無効にできると消費者の誤解を招き、これにより消費者の位置情報を収集し続けていたことが問題となった事件。

(Australian Competition and Consumer Commission v Google LLC (No 2) [2021] FCA 367)

[6] https://www.productsafety.gov.au/product-safety-laws/safety-standards-bans/mandatory-standards

[7] https://www.productsafety.gov.au/product-safety-laws/safety-standards-bans/product-bans

[8] Treasury Laws Amendment (Acquisition as Consumer – Financial Thresholds) Regulations 2020