オーストラリアにおけるフランチャイズ法の概要および改正点について
オーストラリアにおけるフランチャイズ法の概要および改正点についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。
オーストラリア:フランチャイズ法の概要および改正点
2021年10月 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers Group <style=”text-align: right;”>オーストラリア・ニュージーランド事務所
1.はじめに
オーストラリアでフランチャイズ事業を行う場合、または車両の販売代理店契約を締結する場合は、Franchising Code of Conduct[1](以下「Code」という)を遵守しなければなりません。
Codeは競争消費者法(Competition and Consumer Act 2010 (Cth))に基づいて規定される強制業界規則という位置づけであり、法律と同様の効果を有しています。フランチャイジーとフランチャイザーの両者の行動を規制することが目的とされているものの、主にフランチャイジー保護の内容であり、2021年7月1日に施行された改正法[2]によりフランチャイザーの義務が更に厳格化されています。また、2021年9月には罰則の強化を図る改正法[3]も施行されています。かようにオーストラリアは他の法域と比較しても、フランチャイジーの保護が求められており、フランチャイズ方式、代理店方式などで進出を検討している日本企業は特に注意が必要です。
本ニュースレターでは、かようなオーストラリアにおけるフランチャイズ法の概要およびその最近の法改正を踏まえたCodeの概要をご紹介します。
2.適用対象
Codeは、「フランチャイズ契約」に関連する行為に適用されます。フランチャイズ契約とは、主に、①フランチャイザーのシステムやマーケティング計画に基づいて商品や役務を提供する事業の実施を許諾し、②事業の運営がフランチャイザーの指定する商標等と実質的に関連し、または③フランチャイジーに事業の初期費用・ロイヤリティ等の支払いを求める契約のことを指します。書面の契約だけでなく、口頭または暗示的な契約であっても、上記のいずれかに該当する場合はフランチャイズ契約とみなされます。そのため、仮に「Franchise Agreement」と題された契約が締結されていなくとも、実質的なフランチャイズ契約の関係にある場合は、Codeの適用を受けることに注意が必要です。
車両の販売店契約および代理店契約(Motor Vehicle Dealership)の関係もフランチャイズとしてCodeにより規制される可能性があります。これに加えて、新車の乗用車または軽貨物車が主要な取引対象である場合は、2020 年6月に導入された別途の規制(Code第5部)の適用を受ける可能性があります。
ただし、他の強制業界規則が適用される場合、または、いわゆる”Fractional Franchise”の場合は、例外としてCodeの適用を受けません。”Fractional Franchise”とは、米国でも存在する免除規定ですが、フランチャイジーの売上全体に対してフランチャイズ契約の対象となる商品または役務の売上の占める割合が一定以下の場合に、規制適用が除外されるという概念です。
オーストラリアでは、フランチャイズ契約を締結する前にフランチャイジーが2年間以上提供していた商品または役務と実質的に同じ商品または役務を提供するフランチャイズ契約を締結する場合であって、かつ、当該フランチャイズ契約に基づく初年度の売上が、フランチャイジーの提供する同類の商品または役務の売上全体に対して20%を超えない可能性が高い場合に、Codeの適用が免除されます。
他方、当該免除規定の運用には不明確な点が多く、例えば、規模の大きいフランチャイジーはブランド毎に子会社を設立し、子会社が実質的なフランチャイジーとなることが一般的ですが、その場合に、仮に親会社がFractional Franchiseの要件を満たすとしても、新設された子会社が契約上のフランチャイジーであってFractional Franchiseの要件を満たさない場合は、免除規定の適用を受けずフランチャイザーはCodeを遵守しなければならないと解釈できます。また、何をもって「実質的に同じ」商品または役務と言えるかについても明確なガイドラインがなく、当該免除規定に判然に依拠できる場合は限定されるのが現状と言えます。
3.誠意を持って行動する義務(Obligation to Act in Good Faith)
Codeの適用を受けるフランチャイズ関係においては、フランチャイザーおよびフランチャイジーの両者がお互いに対し誠意を持って行動する義務を負います。本義務は、フランチャイジー候補との契約交渉から始まり、契約の履行、紛争解決、契約終了、そして契約終了後の残存義務の履行に至るまでの全ての行為について包括的に適用されます。フランチャイザーに対し商業上の利権の放棄や契約更新等を強制するものではありませんが、フランチャイザーとしては、フランチャイジーによる権利行使に誠実に対応する、合理的な理由に基づいた決定を下す、といったような姿勢が求められます。一方で、虚偽の情報を提供する、根拠なく契約終了を強要する、エリア独占権の侵害行為を黙認する等の行為は、不誠実とみなされる可能性が高いと解釈されます。
4.事前開示義務
Codeには、様々な資料をフランチャイジーへ事前に開示する義務が規定されています。まず、フランチャイザーは、フランチャイジー候補が正式にフランチャイズ権取得の意思を示した段階で速やかに、Information Statementをフランチャイジーへ提供しなければなりません。Information Statementはオーストラリア競争消費者委員会(ACCC:Australian Competition and Consumer Commission)の発行するフランチャイズ権取得前の検討事項等の一般的な情報をまとめたパンフレットで、ACCCのウェブサイトからPDFの入手が可能です[4]。
次に、フランチャイザーは、フランチャイズ契約締結または返金不可の支払いを受ける14日前までに、開示書類(Disclosure Document)をフランチャイジーへ提供する必要があります。Disclosure DocumentはCodeの別紙1に記載の内容をカバーしなければならず、フォーマットについても細則が存在します。その内容は多岐に渡り、例えば、フランチャイザーの詳細(事業実績、財務情報、係属中の訴訟、過去の違反等)、フランチャイズの詳細(現行のフランチャイズ事業、過去のフランチャイズ終了の経緯等を含む)、知的財産権、サプライヤー関連情報(リベート情報を含む)、各種費用の詳細等が挙げられます。
2021年11月1日からは、Disclosure Documentに記載が求められる内容に変更が加わります。例えば、フランチャイジーがサプライヤーから受領するリベート、物件賃貸、ADRによる紛争処理、設備投資(Capital Expenditure)等に関わる情報について、追加詳細の記載が求められます。この点に関連して、2021年7月1日以降に締結される契約においては、法令で求められる場合を除き、Disclosure Documentに記載がされていない重大な設備投資(Significant Capital Expenditure)をフランチャイジーへ強制することはできません。
この他に、フランチャイザーは、以下の資料も事前開示しなければなりません。
・フランチャイズ契約 ・Key Facts Sheet[5] ・Code ・物件賃貸関連資料 ・その他フランチャイズに関し締結が予定される契約
Disclosure Documentおよび上述の資料は、新たなフランチャイズ契約締結時のみでなく、フランチャイズ契約の更新時、および契約の重大な変更がある場合にも事前に開示する必要があります。開示後は、フランチャイジーより各種声明書を受領しなければなりません。
なお、Disclosure DocumentおよびKey Facts Sheetは1年に1度、フランチャイザーの会計年度終了の4か月以内にアップデートすることが求められます。
5.フランチャイズ契約
フランチャイズ契約の内容については、Codeにより各種制限が存在します。例えば、契約終了権、フランチャイジーによる契約譲渡権、販促費用の積立て、弁護士費用の負担、紛争解決方法、競業避止義務の効力、クーリングオフ期間等多岐に渡ります。
2021年7月1日に施行された法改正により、主に以下の規制が変更となっており、今後締結されるフランチャイズ契約(契約の更新・重大な変更を含む)はこれらを反映することが求められます。
・フランチャイジーは契約期間中いつでも契約終了を提案することが可能となり、提案を受けたフランチャイザーは、28日以内に書面により実質的な回答をしなければなりません。 ・フランチャイザーは従前の通りフランチャイジーの倒産・違法行為など特別な事情がある場合に契約終了権を持ちますが、その場合も7日間の通知をし、フランチャイジーが異議を申立てた場合は当該期間が28日間延長されます。 ・クーリングオフ期間が、フランチャイズ契約締結日から起算して14日間に延長されます。更に、クーリングオフ期間は、物件賃貸に関する資料が提供されるまで開始しません。 ・紛争解決方法にConciliation(調停)が追加されます。なお当事者は紛争時にオーストラリアでのADR手続きを踏まなければならず、契約にも所定のADR手続きの記載が必要です。 ・フランチャイズ契約の準備にかかる弁護士費用について、一定の条件を満たさない限り、原則としてフランチャイジーに支払いを求めることはできません。 ・フランチャイザーが一方的に契約内容を修正することは明確に禁止されます。
6.罰則
違反毎の罰金は、現行では最高300ペナルティ・ユニット(およそ6.7万豪ドル)ですが、2021年9月に施行された法改正により、競争消費者法における最高額と同等(1000万豪ドル、違反から得た利益の3倍、または年間連結売上の10%)の設定が可能となっています。ただし、当該設定がなされない場合は、最高600ペナルティ・ユニット(およそ13万豪ドル)まで科料が可能とされています。
7.おわりに
フランチャイズ法には上述の他にも細かな規定が存在するため、フランチャイズ候補または販売代理店候補との交渉の段階から専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。また、フランチャイズ法は近年立て続けに改正がなされており、今後はフランチャイザーの開示登記制度(Franchise Disclosure Register)の制定の法改正[6]が見込まれていることから、フランチャイザーの立場の企業としては今後の動向が注目されます。
以 上
[1] Competition and Consumer (Industry Codes – Franchising) Regulation 2014, Schedule 1
[2] Competition and Consumer (Industry Codes–Franchising) Amendment (Fairness in Franchising) Regulations 2021
[3] Treasury Laws Amendment (2021 Measures No 6) Act 2021 (Cth), Schedule 2
[4] https://www.accc.gov.au/system/files/Information%20statement%20for%20prospective%20franchisees_0.pdf
[5]フランチャイズ事業の重要事項をまとめた書面を指す。以下ACCCの提供するSmartFormにて作成可能。
https://forms.business.gov.au/smartforms/servlet/SmartForm.html?formCode=franchisor-key-fact
[6] 新たにフランチャイズの登記制度を確立し、フランチャイザーにDisclosure Documentの内容(ただし個人情報やセンシティブな情報は除く)を登記させて一般に公開するという内容の改正法案が検討されている。政府は2021年10月29日まで、本法案のパブリックコメントを受付けている。https://treasury.gov.au/consultation/c2021-210402